空っぽの器、極める
「よし。じゃあ、この島の壁を壊す前に、オウに世界の実情を教えてもらおうか」
奏多の問いに、オウは尊大に頷いた。
「うむ。我はこの世界の理そのものだからな。それくらいは造作もないことだ」
オウが語る現在の世界情勢は、想像以上に過酷なものだった。
百年前の「統合戦争」によって、人間至上主義を掲げるアインシア王国が勝利し、かつてあった異人と人間が共存する国々はことごとく滅ぼされたという。
「今現在、この世界に異人の国は、この島ともう一つを除いて存在しない」
「もう一つ……?」
奏多が聞き返すと、オウは静かに指を天に向けた。
「もう一つの国は、空にある。竜人族の国、天空国ドラゴニアだ」
その名を聞いた瞬間、会議室が激しくざわめいた。
「竜人族の国じゃと……」
「ああ、唯一人間が認めている異人の国なのだろうな。戦争をした記憶がない」
「ドラコ……ドラコは生きているのかい!?」
アルマが縋るように問うが、オウは「そこまでは分からぬ」と首を振った。
「そのドラコが裏切ったのって何百年も前の話だろ? さすがに寿命なんじゃないか?」
奏多の疑問に、ゲルドが重々しく答える。
「いや、竜人族はエルフたちと同じ長命種なんじゃ。生きていてもおかしくはない」
「もし、私たちが外の世界に知られたら、そのドラコさんも来るかもしれないですよね……」
不安そうに呟くアリスの横で、ボンドが拳を固める。
「そん時は、わしが一発ぶん殴ってやるわい!」
「年老いたあんたが適う相手じゃないよ」
アルマのツッコミに場が少し和む。奏多は皆を見渡し、力強く言い放った。
「大丈夫だ、みんな。もし何かあったら俺がいる。この島には魔王が二人、それに精霊王までいるんだ。何が来ても怖くないさ」
その言葉に、一同の顔に安堵の笑みが戻る。
「あ、そうだ。この島の名前を考えたんだ。『始源の都アリスティア』っていうのはどうだ?」
「おお! そりゃあいい。もう一人の魔王の名を冠するわけじゃな!」
ボンドが快活に笑い、アリスは顔を赤らめながら「……なかなか、いい名前ですね」とはにかんだ。
「うむ。この島の新しい名前で、新しいスタートを切るとしようかの」
クルスの言葉に頷き、奏多は瞳を閉じて集中を高める。
(結界を解くだけじゃダメだ。この島を完全に制御しなきゃいけない……!)
魔力操作のスキルを無理やり引き上げようと、奏多の精神が加速する。
《スキル【魔力操作・基礎】が【魔力操作・上級】へ進化しました》
「これじゃ足りない……もっとだ!」
《スキル【魔力操作・上級】が【魔力操作・超級】へ進化しました》
「まだだ……!!」
《スキル【魔力操作・超級】が【魔力操作・極級】へと至りました。これ以上の進化は不可能です》
脳内に響く無機質な声を合図に、奏多はカッと目を見開き、天に向けて腕を突き上げた。
「――魔力操作・極級!!!」
一瞬、世界から音が消えたような静寂が訪れる。
「せ、成功……ですか?」
アリスがおずおずと尋ねる。その答えは、横に立つ精霊王の口から告げられた。
「うむ。今、この島は世界と繋がったぞ」
何百年もの間、島を覆い隠していた「石化の檻」は今、静かに霧散した。
太陽の光が今までとは違う角度で差し込み、新しい風がアリスティアの都を吹き抜けていく。それは、世界への挑戦の始まりを告げる風だった。




