禁術
「あんたら! 早く鉱山のほうに避難するんだ!」
アルマが空から滑空しながら、必死の形相で住民や観光客たちに呼びかける。
「こっちだ! 早く来い!」
高台の鉱山入り口では、ボンドが声を枯らして誘導し、地上ではゲルドが「俺たちについてくるんだ!」と叫びながら、逃げ遅れた者たちを引き連れて走っていた。
避難の様子を見届けていたクルスは、傍らに立つリリスと共に覚悟を決めたように前を見据えた。
「よし……! 戦闘部隊と、戦える住民たちは私と一緒に来るんだ!」
だが、集まった顔ぶれを見てクルスは苦渋の表情を浮かべる。
この島の防衛戦力の大半は竜人族が担っていた。その彼らが反旗を翻した今、残った戦力はあまりに心もとない。
「これだけか……。最悪の場合、島を捨てるしかなさそうだね」
クルスの絞り出すような言葉に、リリスがポツリと、だが力強く応えた。
「クルスお姉ちゃん……私に考えがある」
その瞳に宿る光を見た瞬間、クルスは目を見開いた。
「リリス……まさか……」
リリスはただ、悲しげに、それでいて慈愛に満ちた笑顔で頷いた。
「……ふぅ。わかったよ」
大きなため息をついたクルスは、再び部隊に向き直り、喉が張り裂けんばかりの声を張り上げた。
「戦闘部隊よ! 私と共に人間の船を全力で止めるんだ! とにかく、一秒でも長く時間を稼ぐよ!」
港に向かって走り出すクルスたちの背中を、リリスはその場に座り込んだまま見送った。
「ごめんね……みんな……」
その呟きは、押し寄せる軍靴の音にかき消されていった。
港へと向かう道中、戦闘部隊の一人が走りながらクルスに問いかけた。
「クルス様! リリス様は一体、何をなさるおつもりで!?」
「リリスは……先代魔王様が使ったという『禁術』を使う気なんだ」
クルスの声が悔しさに震える。
「あれを使えば、この島は完全に下界から隔離される。二度と外に出ることはできなくなるだろう。術が発動すれば、攻め込んできた人間たちはおろか、今ここにいる住民以外の種族すらも海に投げ出される。……だけど、それしか住民を救う方法がないんだ」
その凄まじい代償に、兵士たちは言葉を失った。
港に到着すると、もはや水平線は見えなかった。視界を覆い尽くさんばかりの黒い軍艦が、死神の列のように接岸しようとしていた。
「さあ、リリスの準備が整うまで……死んでもここを守り抜くよ!」
クルスの怒声が、侵略者の砲撃音を切り裂いて響き渡った。




