感謝祭の異変
「みんな逃げてください!」
逃げ惑う人混みをかき分け、リリスは叫び続けた。しかし、爆発のあった凄惨な現場に辿り着いた彼女は、その光景に言葉を失った。
島を訪れていた観光客たちが、そこに立つ「何者か」によって無慈悲に惨殺されていたのだ。
「あなたたち、誰ですかっ!」
黒いフードとローブに身を包んだ者たちは5人以上。リリスの問いかけを無視し、捕らえていた客たちに再び刃を向けた。
「や、やめなさい! 海の精霊よ、我が願うことを叶えたまえ――『ウォーター・ジャベリン』!」
リリスの詠唱と共に、海面から巨大な水の槍がせり上がり、ローブの者たちを直撃した。衝撃でフードが脱げ、一人の顔があらわになる。
その顔を見たリリスは息を呑んだ。
額から突き出た二本の角、そして硬い鱗に覆われた肌。
「はっ……。なっ……あなた、竜人族……?」
それは、島の最強種族であるはずの仲間たちの姿だった。しかし、彼らは一言も発することなく、翼を広げるとその場から一斉に飛び去っていった。
「待ちなさい!」
逃げる背中に魔法を放とうとしたその時、今度は港に停泊していた「黒い船」から巨大な爆発が起きた。
「え!? ……っ、助けに行かなきゃ!」
リリスは逃げた竜人族を追うのを断念し、黒煙の上がる船の方へと走り出した。
「こっちです! クルス様!」
アルマは全力でクルスたちを先導していた。港の異変を伝えると、クルスは即座に戦闘部隊を編制し、ボンドやゲルドを連れて駆けつけた。
「爆発って、誰か酔っ払って暴れてるだけじゃないのか!?」
走りながらボンドが怒鳴るが、アルマは「ただの喧嘩であんな大きな音がしてたまるか!」と叫び返した。
「一体何が起きてるんだ……」
不安を漏らすゲルドに、クルスが険しい顔で応える。
「どっちにしろいい事じゃないだろうね。せっかくの感謝祭だってのに!」
港に着いた一行が目にしたのは、先ほどまでの一箇所だけでなく、不気味な黒い船からも立ち上る不穏な煙だった。
「おーい! クルスお姉ちゃーん!」
そこへ、前方からリリスが駆け寄ってくる。
「リリス様! ご無事でしたか!」
アルマの問いに、リリスは肩で息をしながら答えた。
「はい、私は無事です。ただ……爆発のあった場所で、竜人族が、観光客を襲っていたんです」
「客を……襲う!? 同じ島の住民が、そんなことをするわけが……」
クルスが驚愕に目を見開く。
「はい、魔法で応戦したんですけど逃げられてしまって。そうしたら今度は黒い船からも爆発が起きたので、今こちらに……」
「じゃあ、早く向かおうぜ!」
ボンドとゲルドの言葉に、クルスは力強く頷いた。
「戦闘部隊、突撃! あの船の周囲を制圧するよ!」
祭りの高揚感は完全に消え去り、港は血と火薬の匂いに満ちた戦場へと姿を変えていた。




