空っぽの器、魔王になる
「起きてくださいっ! 奏多!」
またしてもアリスの元気な声と揺さぶりによって、奏多の平穏な眠りは破られた。
「アリス……今日はさすがに……」
「朝はちゃんと起きないとダメですよ! 健康に悪いです!」
眠たい目をこすりながら反論を試みる奏多だったが、宴会で誰よりもはしゃいでいたはずのアリスがなぜこうも朝から元気なのか、不思議でならなかった。
「今日は塔の中にみんなを移住させる話でしたでしょう!」
「あー……そういえば、昨日そんな話をしたな……」
まだ半分夢の中にいる奏多の部屋に、別の来客が現れた。
「邪魔するぞ、奏多殿。もうみんな塔に集まっておるのじゃ。いちゃついてないで早くこんかえ」
「おー、アルマ……ん? お前、その格好は……」
現れたアルマの姿に、奏多の目が一気に覚めた。いつもの着物風の装いではなく、なぜか肌も露わな薄いランジェリーのようなものを纏っている。
「流石は奏多殿、めざといのう。昨日も言った通り、わっちらの一族に迎え入れたいからのう。どうじゃ……?」
妖艶に微笑むアルマ。実年齢は不明だが、族長を務めるからには相当な時を重ねているはずだ。しかし、それを微塵も感じさせない完成された美貌。
(良い……とても……良い……)
鼻の下を伸ばして見惚れる奏多だったが、直後、真横からアリスの鋭い鉄拳が飛んできた。
「ちょっと! 奏多! 何に見惚れてるんですか!」
「ごふっ!?」
「くふふ、若いのう」
そんな騒がしい朝を経て、奏多はアリス、アルマ、そして横で爆睡していたオウを叩き起こして「白い塔」へと向かった。
塔の前に着くと、すでに家財道具を手にした全種族の住民たちが今か今かと待ち構えていた。
「奏多殿、やっと来ましたか」
クルスが歩み寄ってくる。
「おう、おはようクルス。全員集まってるようだな」
「はい、どの種族もここへの移住を楽しみにしておりますのじゃ」
期待の眼差しを向ける住民たちの前で、奏多は宣言した。
「じゃあ、これからみんなの要望に合わせて中を完成させる。見てろよ。――【創造都市】!」
地響きと共に塔が微かに震え、内部の構造が再定義されていく。揺れが収まると、奏多は一同を促して中へと足を踏み入れた。
「まずは1階。ここは共有スペースだ。宴会や会議、ゆくゆくは店も出せるようにしてある。今はそこまでの広さはないが、要望があれば広げるぞ」
「いや……今でも住民全員が入って余裕なんですけどー!!」
アリスとクルスの息の合ったツッコミが響く。
「次は地下だ。ここはドワーフの住宅スペース。鉱山の中のような作りで、鍛冶場も完備してある」
「こ、この建設技術……神じゃ……。お前ら! ここなら好きなだけ、好きなものが作れるぞ!」
ボンドが狂喜乱舞し、ドワーフたちが歓声を上げる。
「次は2階。エルフと獣人のスペースだ。室内だが外と同じように森を作った。天井は木の成長に合わせていくらでも高くなる。それと、獣人が走り回れる広い丘も用意してある。今の場所より広いはずだ」
「す、すごい……これなら森の民の私たちも楽しく暮らせます!」
「こんなことが……」
ゲルドは言葉を詰まらせ、感極まったように尻尾を激しく振っていた。
「最後は3階、最上部だ。2階と繋がった吹き抜けになっていて、鳥人族も外と同じように飛び回れるだろ?」
アルマは最初に出会った時のように、深く、丁寧に頭を下げた。
「わっちは本当に奏多殿に頭が上がりませんわ。鳥人族を代表して、感謝申し上げます」
それに合わせ、他の部族も、一般の住民たちも一斉に奏多へ深く頭を下げた。
「おいおい、急にやめろって。俺はこの島とみんなに感謝してるんだ。自分の居場所をくれたんだから、当然のことをしたまでだよ」
「我が主は本当に規格外であるな」
オウが誇らしげに呟く中、アリスが奏多の正面に立った。
「奏多。私は、おばあちゃんが死んでからずっと、ここをまたみんなの居場所にしたいと願っていました。それを奏多が叶えてくれた。本当にありがとう」
アリスは晴れやかな笑顔で、だがどこか厳かに続けた。
「私にとって、いえ、みんなにとっては……もう奏多は、この島の新たな王。――新たな『魔王』ですよ」
「魔王!? 俺が……?」
寝耳に水の言葉に、奏多の思考が停止した。しかし、周りを見渡せば住民たちは皆、深く頷いている。オウに至っては「当然だな」と平然としている。
「え? え? 俺が魔王?」
皆が「うんうん」と肯定の意を示す。
「ええ? ええええええ!!!!」
流刑に処された【無職】の少年は、いつの間にか異種族を束ねる王としての座に押し上げられていた。奏多の絶叫が、新しい都の空に高く響き渡った。
【奏多のステータス更新】
• 称号: 【新たな魔王】




