空っぽの器、理想郷を作る
「こ、これは……!?」
愕然とした様子でプルプルと震えているゲルドのもとへ、涼しい顔をしたアルマが歩み寄ってきた。
「やっと来たかえ、バカゲルド。奏多殿は本当にすごいお人じゃ。この城はまさに天国よのう」
「な、なんじゃここは……。外から見た塔も大きいが、中がなぜこんなに広いんじゃ。これなら集落ごとここに移してもお釣りが来そうじゃぞ……!」
ゲルドは驚きを隠せず、尻尾を激しく振りながら興奮気味にまくしたてる。そこへ、ボンドがさらに早口で割って入った。
「ゲルドよ、この建造物、見たこともない素材でできておる! しかもこの耐久度はどういうことじゃ……まるで伝説のオリハルコンを見ているようじゃわい!」
三人が和気藹々と塔の凄さを語り合っていると、突如、頭上から声が降ってきた。
「おーい! ここじゃ、三人とも!」
見上げると、遥か上方の窓のような場所からクルスが顔を出していた。
「クルスよ! どうやってそこへ行ったのじゃ!」
「ここはどうにもマナの力が強く作用するようでな、上に行こうと魔力を込めたらふわっといけたんじゃよ〜!」
いつもの落ち着きはどこへやら、倍以上のテンションで燥ぐクルス。そこへ「あー! クルスおばあちゃんずるいですっ!」と、息を切らしたアリスが走ってきた。
「随分と楽しそうだな」
その後ろから、オウを連れた奏多が苦笑いしながら現れる。主役の登場に、四人の長たちは一斉に奏多のもとへ詰め寄った。
「「「「これは一体どういうことじゃーー!!!!」」」」
揃いも揃った絶叫に、奏多はたじろぎながらも一つずつ説明を始めた。
この塔はスキルで建設し、内部は四種族のマナを複合させた特殊な空間であること。大きさは外見に縛られず、住む者の意思で変容すること。そして、襲撃に備えて世界で一番の硬さを願って作ったこと(素材の名前は奏多にも分からない)。
話を聞き終えたゲルドはただただ感心し、ボンドは建設方法を根掘り葉掘り聞き(奏多は「分からない」と逃げた)、アルマはなぜか「我が一族にこい」と謎の勧誘を始める。
そして意外にも、一番テンションが高かったのはクルスだった。
「伝え聞いた先代魔王様のようじゃ……」
目をキラキラさせて語る彼女の姿は、まるでアイドルに憧れる少女のようで、奏多は(イメージ崩壊だな……)と思わず遠い目をした。
その後、アリスは嫌がるオウを強引に連れて塔の探検へと消えていった。
異変に気づいた島民たちも続々と集まってくる。状況を把握したクルスは、島民たちを前に拳を突き上げた。
「じゃあ皆の衆……宴じゃあぁぁぁぁぁぁ!!!!」
島は二日連続となる大宴会に突入した。
【場面転換:アインシア王国・王謁見の間】
「勇者たちよ、緊急の招集すまなかったな」
アインシア王が、重々しく口を開いた。
「昨日、魔王のものと思しき強大な魔力を観測した。場所は王国より東の海……奇しくも、あの無能を島流しにした方角じゃ。因果関係は不明だが、魔力反応があったのは事実」
その言葉に、聖女・夢野愛多が敏感に反応した。
(空井くん……お願いだから無事でいて……)
胸の前で手をぎゅっと握りしめ、祈るように目を閉じる。
「空井はきっと無事だよ、愛多」
甲斐が優しく声をかけるが、椎名萌は不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「はあ……空井のことは正直どうでもいいけど、愛多を泣かせたら絶対殺すから」
「別に方角が同じなだけで、偶然だろ? 第一、空井のステータスじゃ……」
桐生太一が言いかけたところで、甲斐が「やめろ、太一」と鋭く一喝し、場は静まり返る。
「ふむ、まあ関係はないだろうな。勇者たちよ、まだ正確な位置は分かっておらぬが、近いうちに必ず女神イリスの神託が降るはずだ。それまで各自、力を蓄えておくのじゃ」
王の言葉を背に、甲斐広臣は拳を強く握りしめた。
「魔王……」
その呟きには、友への懸念と、勇者としての使命感が入り混じっていた。




