最後の戦い
「はぁぁぁぁぁッ!!!!」
気迫の一喝と共に、奏多が凄まじい速度で大地を蹴った。超神速の踏み込みから繰り出された抜刀の一撃は、彼のマナが注ぎ込まれた刀から目も眩むほどの黄金の輝きを放つ。
カアンッ!!!!
激しい金属音が戦場に響き渡る。しかし、カオスはその必殺の刃を、顔色一つ変えずに片手の邪剣だけでピタリと受け止めていた。
奴は驚くべきことに、目の前の奏多を見ようともせず、空いたもう片方の手を不気味に動かし、はるか後ろにいる広臣に向けて「こいよ」と挑発するように手招きしてみせた。
「舐めるなァッ!!!!」
広臣が激昂の声を上げる。勇者としての神力を極限まで解放し、光の粒子から失ったはずの聖剣の姿を強引に再現。それを両手で硬く握り締め、上空からカオスを目がけて肉薄した。
猛然と振り下ろされる光の聖剣。カオスは迫る広臣に向けて、ただ静かに左手を伸ばす。
ドガァンッ!
「くっ……!?」
広臣の渾身の斬撃は、カオスの肉体に届く直前、目に見えない圧倒的な魔力障壁に阻まれて火花を散らした。
その隙を突くように、奏多が苛烈な連続斬りをカオスに叩き込む。神速の連撃が容赦なく襲いかかるが、カオスはやはり不気味なほど涼しげな表情のまま、片手の邪剣だけでそのすべてを完璧に弾き返していった。
「ドラコ、今だッ!」
後ろで機を伺っていた竜神が鋭く叫ぶ。
「おうッ!!」
二頭の巨影が同時に地を蹴り、まばゆい光と共に巨大な竜へとその姿を変貌させた。純白の古竜と、赤黒き新生竜。二体の始祖たる竜が、同時にその巨大な顎を開く。
「「ウオオオオオオオオオッ!!!!」」
空間を焼き尽くすほどの極大のブレスが、交差するようにカオスへと放たれた。
「下がれ、甲斐!」
奏多の声に反応し、広臣と奏多は寸前で上空へと跳躍。直後、カオスのいた場所へ直撃した二条のブレスが、天を衝くほどの巨大な火柱を巻き上げた。
しかし――。
「あっつ〜い」
炎の嵐の奥から、心底退屈そうなカオスの声が響く。それと同時に、あれほど激しかった火柱が、まるでただの蝋燭の火を消すかのように一瞬で霧散させられた。無傷の少女が、そこに立っている。
「愛多さん!」
アリスが叫んだ。
「はいっ、アリスさん!」
愛多が力強く応じ、神聖なマナをアリスの持つ細身のレイピアへと一気に注ぎ込む。愛多の聖なる力と、アリス自身の神力が混ざり合い、剣身が青白く、神々しく発光を始めた。
「行きます……っ!」
アリスが地を這うような速度で突進する。走りながら、さらに己の魂のすべてをレイピアへと込めていく。
「――神魔王剣ッ!!」
アリスの叫びに呼応し、彼女の背後に巨大な青白い女神の化身が顕現した。その化身が構える、同じく巨大な白銀のレイピア。それがアリスの動きと同調し、カオスに向けて目にも留まらぬ超高速の刺突を繰り出した。
ヒュン! ヒュンヒュンヒュンッ!!!!
猛烈な風切り音と共に、空間に無数の光の線を刻む高速の突き。だが、カオスは小さくあくびを噛み殺しながら、迫る光の刃を邪剣の腹でパチパチと軽がると叩き落としていく。
――だが、その時だった。
カオスが何かの「凶悪な気配」を察知し、初めて表情を変えて背後を振り返った。
そこには、片手を静かに天へと掲げ、虚空に不敵に浮かんでいるオウの姿があった。
オウの手のひらの上には、世界の終わりを予感させるほど巨大な、まるで『太陽』そのもののような超高密度のマナの塊が、不気味に自転しながら輝いていた。
「終わりだ。消え失せろ」
オウが冷酷に告げ、そのマナの太陽をカオス目がけて容赦なく投げ落とした。逃げるスペースなど存在しないほどの圧倒的な質量と質量。カオスはその巨大な光球に真っ向から押し潰され、大地ごと大爆発の光の中に呑み込まれていった。
シュタッ、と静かに着地するオウ。
光が収まりかける中、全員がオウの元へと一斉に集まった。
「やったか……!?」
広臣が息を呑んで爆煙を見つめる。
「いや……まだだ。構えろ!」
竜神が苦々しく唸った。
その言葉通り、カオスを押し潰していたはずのマナの太陽の真ん中に、ピシッと一本の綺麗な「亀裂」が入った。
シュン……。
次の瞬間、オウの放った最大火力の魔法は綺麗に真っ二つに裂かれ、光の塵となって消え去っていく。その後に立っていたのは――衣服の裾一枚すら汚れていない、完全無傷のカオスだった。
「全員で来て、そんなもん? それじゃあ、一生かかっても私には勝てないわよ?」
カオスが小首を傾げてクスリと笑う。
「まじかよ……っ」
流失する冷や汗を拭うこともできず、ドラコが呆然と呟いた。あれだけの波状攻撃が、傷一つ付けられない。
だが、その絶望の中で、一人の男が静かに前へと歩み出た。
「出し惜しみはなしだ。――俺がやる」
奏多のその目が、静かに、しかし絶対的な決意を持ってカオスを射抜く。
「主よ。……あれを、使うのだな?」
オウがすべてを察したように問いかける。
「ああ……。俺が俺であるためのスキル。――もう、俺の空きスロットは、空っぽなんかじゃない……!」
奏多の魂の言葉と同時に、彼の身体から、これまでの神力をも遥かに凌駕する、神々しくも圧倒的な『黄金のオーラ』が爆発的に放出された。世界の狭間の空間そのものが、そのプレッシャーに耐えかねて悲鳴を上げる。
「へえ……」
カオスが初めて楽しそうに目を細め、その笑みを深くした。
やがて、吹き荒れていた黄金の光が奏多の肉体へと収束していく。彼の額からは気高く輝く黄金の角がまっすぐに生え、背中からは、神の象徴たる純白の羽が力強く広がった。
「これが……奏多……」
アリスがその美しくも圧倒的な姿に、憧憬の念を抱いて見つめる。
「ふむ……。神すらを超越した存在、というべきか」
オウが満足そうに、その新たなる王の姿を称賛した。
奏多は一歩、また一歩と、静かにカオスのほうに向かって歩いていく。
「奏多っ!」
「空井くんっ!」
後ろから、アリスと愛多の声が完全に重なって響いた。
「はっ!」として、お互いに顔を見合わせるアリスと愛多。二人は一瞬だけ驚いたように目を見開いたが、すぐにどこか通じ合ったように「ふふっ」と優しく笑い合った。
そして、再び前を向き、背中を向けて歩く奏多の背中に、声を揃えて精一杯の叫びを届ける。
「「勝って、絶対に帰ってきてください!」」
「……ああ」
奏多は歩みを止めず、少しだけ照れくさそうに、いつものように背中で片手をひょいと挙げてみせた。
「青春は終わったかしら? ――じゃあ、始めましょうか」
カオスが邪剣の鋒を、まっすぐに奏多へと向けた。
「これで、すべてを終わらせる」
奏多もまた、黄金に揺らめく刀の鋒をカオスへと真っ直ぐに突きつける。
邪神と神を超越した奏多との一騎打ちが幕を開ける。
次回、おそらく最終回です!よろしくお願いします!




