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勇者たちのそばに偶然居合わせて異世界召喚されたら、無能はいらぬと島流しに。流刑地で覚醒した俺は島おこしで世界征服をする  作者: ほさ


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空井奏多

「奏多ァ……最高だなぁ!!」

ドラコが全身から血を流しながら、獰猛に歓喜の声を上げた。

竜化して完全に理性を失った奏多と、世界の狭間で数時間にわたって拳とブレスを交わし、力ずくで殴り合っていたのだ。

だが、ピシッ……と不穏な割れ音が響き、ドラコの強固な鱗がボロボロと剥がれ落ちていく。

「くっ……。さすがに、再生もしなくなってきたか……っ」

限界を迎えたドラコが膝をつきかけた、その時だった。

「これは……一体……!?」

その場に駆け込んできたのは、一足先に修行を終えた広臣、そして愛多と竜神だった。麓の地獄から這い上がり、さらなる強さを手に入れた彼らが見たのは、血を流して対峙する二頭の巨大な竜の姿だった。

「おお! そっちの修行は無事に終わったみてえだな。こっちはご覧の通りだ……」

ドラコが荒い息の隙間から、彼らの合流に気づいて声を絞り出す。

「どうやら、俺様が想定していた『最悪の事態』になってしまったようだな」

竜神が険しい表情で黄金の竜を見上げた。

「空井くん……どうしちゃったの……っ」

愛多が悲痛な声を上げる。

「ウオオオオオオオオオッ!!!!」

巨大な黄金の竜となった奏多は、仲間たちの声に反応することなく、ただ破壊衝動のままに凶暴な咆哮を轟かせる。

「僕の新しい力で、彼を止めます!」

広臣が聖なるオーラを纏い、奏多を救うべく前に出ようとした。だが、

「待て……」

竜神がその大きな手で広臣を静止した。

「竜神様……!?」

「あいつが自分自身で、一人で乗り越えなきゃ意味がない試練だ。他人が力を貸して従わせても、それはただの怪物のままだ」

「くそっ……! おい、奏多!!」

ドラコが再び肉体を奮い立たせ、叫んだ。

「俺様はそろそろ限界が近いみてえだ! もし俺様がここで力尽きて死んだら、そっちの本物になった勇者サマがお前を殺さなきゃならなくなる! だから……早く正気を取り戻せ、奏多ぁ!!!!」

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!」

その悲痛な叫びをかき消すように、黄金の竜が再び狂ったように吠えた。

――その咆哮の嵐の奥深く、深い精神の底で。

――キーンコーンカーンコーン。

どこか懐かしい、乾いた放課後のチャイムの音が響いていた。

夕暮れ時の教室。文武両道でクラスの誰もが憧れる超優等生の甲斐広臣。誰にでも優しく微笑みかけるお嬢様のクラス委員長、夢野愛多。運動神経抜群で、一本気な剣道部のエース、桐生太一。そして、カリスマモデルとして男女問わず絶大な人気を誇る椎名萌。

クラスカーストの最上層に位置する、眩しすぎるほどの4人組が楽しそうに話に花を咲かせている。

そんな彼らを遠い世界の住人のように横目で見ながら、空井奏多はただ一人、窓際の机に突っ伏して、スマホの画面をぽちぽちと無気力にいじっていた。

「……ははは! それでよ、椎名のやつ、何て言ったと思う?」

太一が大きな声で笑う。

「ちょっと、あんたうっさいわよ。……あれ? 空井、まだ残ってたんだ」

机に突っ伏していた奏多に気づき、萌がひょいと覗き込むように話しかけてきた。

「ああ。家帰ってもなんもないしな」

奏多は振り返ることすら、顔を上げることすらおっくうで、画面を見つめたままぶっきらぼうに答えた。

「それなら、これから駅前のカフェに行きませんか? みんなで行こうって話してたんです」

愛多が、いつもの優しい笑顔で奏多を誘ってくれる。

「どうだい、空井。愛多もこう言ってるし、一緒に行こうよ」

広臣も爽やかに言葉を重ねた。

「あー……すまん。パスするわ」

奏多は短く拒絶した。

「なによ、せっかく誘ってあげたのに。いこ、愛多」

萌が少し気分を害したように愛多の手を引く。

「しゃーねえだろ、空井もなんか用事があるんだろうしな。じゃあな!」

太一が萌を宥めながら、二人で先に教室を出ていく。

「そうだな。じゃあまた明日、学校で」

広臣も愛多を促しながら後に続く。

「空井くん……また明日ね」

愛多が最後に、名残惜しそうに振り返って言った。

奏多は最後まで顔を上げず、ただ背中で小さく手を挙げて返すだけだった。

シングルマザーでほとんど家に帰ってこない親を持つ奏多は、誰もいない冷え切った家に帰るのが嫌で、放課後のほとんどをこうしてだらだらと過ごす、退屈な毎日を繰り返していた。友達がいないわけではなかったが、彼らの眩しい輪の中に自ら入っていくような気力もなかった。

この時の奏多は、自分の人生がこれからどうなるのかなんて、これっぽっちも考えたことがなかった。ただ、流されるまま、なるように生きていくだけ。自分の人生に、劇的な変化や、胸を焦がすような感動なんてものは、絶対に存在しないと思い込んでいた。

だが、あの日は違った。あの日、すべてが変わった。

手を挙げて愛多の言葉に適当な返事をした次の瞬間、気がつくと奏多は、アニメやゲームでしか見たことのないような、厳かで巨大な城の玉座の間に立っていた。

その瞬間、退屈だったはずの自分の胸の奥から、経験したことのないような熱いワクワクが止まらなくなるのを感じた。

(俺の人生も、ここから変わるのか――?)

だが、そんな期待は一瞬で打ち砕かれる。

そこにいたのは奏多だけではなかった。さっき教室を出ていったはずの、あの優等生4人組が並んでいたのだ。

(ああ……やっぱり、俺の人生にワクワクすることなんて、最初から用意されてなかったんだ)

直感的に、諦めが頭をよぎった。

アインシア王に言い渡されるままステータスを確認し、提示された称号。それは【無職】。

他の4人が『勇者』『剣聖』『大賢者』『聖女』という、この上ない最強の職業を手に入れていく中で、奏多だけが何も持たない『無職』だった。

そうして、役立たずとして冷酷に言い渡された、最果ての地への島流し。

(なにも持っていない俺には、お似合いの最後だ……)

「奏多っ!」

不意に、すぐ近くで自分を呼ぶ愛おしい声が聞こえた。

「んん……アリス……? まだ寝かせてくれよ……」

奏多はまだ夢の中にいるような心地で呟いた。

「何言ってるんですか! 今日は朝から大宴会ですよ! ほら、もうみんな待ってるんですから、早く起きてください!」

アリスの、あの元気で少し呆れたような声が耳に届く。

「あ、ああ! 分かった、今起きる!」

奏多は慌てて飛び起きた。

しかし――目の前に広がったのは、アリスティアののどかな風景ではなかった。

「あれ……ここは……っ」

奏多の視界に映っていたのは、全身の鱗をボロボロに剥がし、血を流して倒れかけている竜化したドラコの姿だった。

そして、自分の手が――視界の下に映る肉体が、人間のものではない巨大な黄金の腕と、鋭く長い爪に変わっている。

(これは……俺……なのか……!?)

視界は間違いなく自分のものなのに、肉体が全く言うことを聞かない。

「やめろ……おい! 止まれ!!」

奏多は自身の精神の奥底から必死に叫んだ。しかし、黄金の肉体は奏多の意志を完全に無視し、牙を剥き、ボロボロのドラコを容赦なく引き裂こうと爪を振り下ろす。

引き裂かれながら、ドラコが何かを必死に叫んでいる。

だが、その声は暴走する竜の咆哮にかき消され、奏多には何も聞こえなかった。

(なんだ? 何を言ってるんだ、ドラコ!? ていうか、これは何なんだよ……!)

あまりの異常事態に、状況が何一つ理解できず、奏多は精神の闇の中で激しい混沌に陥った。

「――主は本当に、最後まで手間のかかる男だな」

突如として、その混沌の闇に一筋の光が差し込むように、声が響いた。

どこまでも傲慢で、しかし、どうしようもないほどの温かみを孕んだ、聞き馴染みのある少年の声。

「オウ……!?」

奏多が驚愕して叫んだ。

「うむ。そうだ」

闇の中から、オウが静かに答える。

「オウ!! 無事だったのか! 俺はてっきりあいつに……あれ……? オウがどうしたんだ……? ていうか、オウって……ダレだ……?」

あまりに強大な記憶の混濁と呪縛に、奏多の意識が再びかすれそうになる。

「時間がないな……。主よ、手短に言うぞ」

オウの声が、どこか切なげに、しかし強く響く。

「我も、アリスも生きている。なんなら、カオスに魂を奪われて死んだアリスティアの仲間たちも、まだ全員助かる。だから諦めるな。主は、主自身の道をただ信じるのだ」

オウの姿が、奏多の精神の奥底で優しく微笑んだ気がした。

「主のステータスにある空きスロットは、これまで過ごしてきた『無駄な人生』を嵌めるためのものではない。――『空井奏多』という、世界を統べる王の、無限の人生を刻むためのものだ。それを忘れるでない……ぞ……」

「オウ……?」

その言葉を最後に、オウの声はふっと途絶えた。

脳裏に仲間たちの顔が、アリスの笑顔が、みんなの声が次々と蘇り、激流となって奏多の心を叩く。

(俺の人生……? オウ……アリス……アリスティアのみんな……。俺は、俺はッ!!!!)

奏多の魂が、心の底から叫び声を上げた。

その瞬間、彼の世界のすべてを司るシステムが、頭の中でポツンと、しかし決定的な音を響かせた。

『――ステータスを更新しました』

『――スキル【空井奏多】を獲得しました。空きスロットにセットします』

『――スキル【空井奏多】の発動により、既存の「スキル空きスロット」という概念そのものを完全消去オーバーライトします』

世界のルールを、彼自身の存在そのものが完全に塗り替えた。

――世界の狭間。

「も、もう……さすがに……限界だぜ……っ」

ドラコが血の泡を吐きながら呟き、ドサリと巨体を横たえ、巨大な竜から力なく竜人の姿へと戻っていった。

「はあ……はあ……くそっ……。じゃあ、あとはよろしく頼むぜ、勇者サマ……」

ドラコは薄れゆく意識の中で、広臣にすべてを託した。

「すまない……空井……っ」

広臣は悲痛に顔を歪め、涙を堪えながら、親友を止めるために腰の聖剣の柄にカチリと手をかけた。

――その、まさに直後だった。

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!」

これまで放たれたどの咆哮よりも、遥かに激しく、神聖で、天をも突き破らんばかりの凄まじい咆哮が黄金の竜の口から放たれた。

「な、なんだ……!?」

広臣がその圧倒的なプレッシャーに思わず腕で顔を覆う。

「これは……っ!」

竜神がその光景を見て、不敵にニヤリと口元を吊り上げた。

「空井……くん……っ」

愛多は祈るように、胸の前で両手をぎゅっと握りしめる。

奏多は咆哮を上げ続けながら、その巨大な竜の身体から、世界の狭間の闇を丸ごと消し飛ばすほどの眩い光を爆発的に放ち始めた。あまりの光量に、広臣たちも視界を奪われる。

やがて――激しい咆哮がピタリと止み、空間を包んでいた圧倒的な光も徐々に収まっていった。

そこにはもう、理性を失って暴れていた巨大な黄金の竜の姿はなかった。

代わりに、一人の『男』が静かに地に足を止めて立っていた。

その男の額からは、竜人族のような気高き黄金の角が生えている。しかし、その身体は引き締まったしなやかな人間のそれであり、背中から生える巨大な翼は、竜の皮膜ではなく、まるで神の使いかのような純白の美しい羽で形成されていた。

理性を失った怪物でも、ただの人間でもない。自身の人生のすべてを統べ、竜の力を完全に掌握した究極の姿。

男はゆっくりと、いつもの静かで鋭い、しかしどこか温かい瞳で仲間たちを見つめ、小さく呟いた。

「……ごめん。みんな……待たせた」

その声は間違いなく、彼らの信じた本物の「空井奏多」のものだった。

いろいろ忙しいけど、クライマックスに向けて頑張って書き切ります!

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