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勇者たちのそばに偶然居合わせて異世界召喚されたら、無能はいらぬと島流しに。流刑地で覚醒した俺は島おこしで世界征服をする  作者: ほさ


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闇の繭

ユグドラシルの揺れは徐々に、そして確実に凶悪なものへと変わっていく。

メリメリと悲鳴をあげる大樹の最上階で、奏多は足場を保つのがやっとだった。

「もう諦めろ。世界樹の核を失った今、貴様らはもう終わりなのだ」

ベノムは炎を揺らめかせながら冷酷に告げる。そして、その狂信的な瞳をギラつかせながら両手を高く掲げた。

「そして……! 我らが絶対の神、カオス様がここに完全復活なされるのだッ!!」

ベノムが崩れゆく足元の亀裂に向けて、一気に手を伸ばす。

キィィィィンッ!!!!

鼓膜を突き刺すような鋭い高音とともに、ベノムの足元の闇が、禍々しく、そして眩く光り輝いた。

「……ッ!? なんだ、何が起きようとしてる!」

奏多が刀を構え直した、その時だった。

あの大激震を見せていたユグドラシルの揺れが、ピタリと不自然に収まる。

しかし、安堵の時間はなかった。直後、ベノムが手を向けた世界樹の亀裂から、グジュグジュと濡れた不快な音を立てて、大量の『黒い触手』が這い出てきたのだ。

触手は大樹の幹を侵食するように、網の目のように広がっていく。

それを見た瞬間だった。奏多は、自分の右手に異変が起きていることに気づいた。黄金の神力を込めて刀を握る手が、カタカタと、自分の意志とは無関係に小刻みに震えているのだ。

「――っ。俺の手が、震えてる……? 恐怖、か……?」

それを見たセバスチャンが、細い目をさらに細め、にこやかに口を開いた。

「おやおや、さすがは魔王様……。まだお姿も見えぬというのに、カオス様の放つ圧倒的な素晴らしさに、肉体がもう畏怖の念を抱いているとは。素晴らしい感性をお持ちだ」

「……これが、カオス……。まだ復活すらしてねえってのに、この圧迫感かよ……!」

奏多は冷や汗を流しながら、奥歯を噛み締めた。

ベノムの足元から伸びた無数の黒い触手。その中心、へし折れて裂けた大樹の隙間の奥深くに、ドクドクと不気味な光を放つ『禍々しいまゆ』のようなものが視認できた。

その繭は、ユグドラシル全体、いや、このアインシアの大地そのものを揺るがすような重低音を響かせながら、心臓のように脈打っている。

「もうすぐだ……もうすぐ、我が主がお目覚めになるぞ……。この忌々しいユグドラシルが、完全に黒く腐り落ちたその時こそがな……!!」

ベノムが歓喜に震えながら勝ち誇った、その瞬間だった。

シュゥゥゥゥゥ……ッ!!

突如として、死に絶え、黒く腐り落ちかけていたユグドラシルの幹や枝葉が、一瞬にして元の、いや、それ以上の瑞々しい『深緑の輝き』を爆発的に吹き返した。

「――むっ!? 何事だ!」

ベノムの顔が驚愕に歪む。

「これは……」

横にいたセバスチャンも、いつもの余裕を崩し、白い髭に手を当てながら怪訝そうに足元を見下ろした。

「なんだ……? 急に、世界樹の生命力が戻った……?」

状況が掴めず、呆然とする奏多。

『――主よ。ユグドラシルは無事だ。安心しろ』

その時、奏多の脳裏に、直接響く重厚で聞き馴染みのある声があった。

「……! ……オウ、オウなのか!?」

『うむ。ユグドラシルの崩壊は、我の力を以て食い止めた。これにより、大樹の腐敗は止まり、カオスが世界樹のエネルギーを吸って完全復活することは不渡りとなった。――主よ、安心して、そこに残る二人の魔神を討ち倒すのだ』

その声を聞いた瞬間、奏多の顔に、確信に満ちた最高の笑顔が戻った。

「ああ……! わかった、あとは俺に任せろ!!」

奏多はカタカタと震えていた右手にグッと力を込め、黄金の刀を力強く構え直した。その瞳からは、先ほどまでの焦燥が完全に消え去っている。

「何が起きている……! 核は確かに我が手で砕いたはずだぞ! なぜユグドラシルが蘇る!?」

ベノムが激昂し、地響きのような声をあげる。

「なにそれ!? カオス様は!? カオス様は復活できないの!?」

ミリアの八つの頭が、パニックを起こしたように激しく蠢いた。

「残念ながら、お前らの崇拝する引きこもりの王様は、今日はお目覚めにならないみたいだぜ?」

奏多が不敵に言い放つ。

「……貴様ァァァ!! 地上で何を仕掛けたァ!!」

ベノムが怒り狂って叫ぶ。

「さあな? とにかく、お前らとの楽しい続きをやろうじゃねえか!」

「ミリアァァァッ!! 早くそのゴミを殺せェッ!!」

ベノムの怒号が響く。

『わかってるわよ! 死になさい、小癪な人間風情がぁぁぁ!!』

八岐大蛇のミリアは叫ぶと同時に、再びその巨大な複数の口から、すべてを消し飛ばす極太の魔力ビームをいっせいに吐き出した。

ドバァァァンッ!!

奏多は黄金のオーラを足元に爆発させ、弾丸のような速度で走りながらそれを紙一重で避けていく。背後で世界樹の枝が爆散するが、奏多は前だけを見据えて突っ込む。

「無駄な足掻きはやめなさい! 私の完璧な幻術を破れない限り、あなたがあたしを倒すことなんて、絶対に不可能なんだから!!」

ミリアの嘲笑が四方八方から木霊する。どこを見ても八岐大蛇の巨体があり、どこを見ても本物の気配がした。

(クソ、どこだ……。どこにいる……!)

奏多は走りながら、あえてその「目」を完全に閉じた。

(視覚に頼るな。あいつの術は、脳の認識そのものを狂わせてる……。心で感じるんだ……! どんなに精巧な幻術を使ってようが、攻撃を仕掛けてくるその瞬間、絶対に『あいつの本当のマナ』がどこか一箇所に集中するはずだ……!!)

「なあに? 目を閉じて、もう諦めたのかしら?」

バカにしたようにミリアが嗤う。

奏多はそれには一切答えず、目を瞑ったまま、直感だけを頼りに激しい猛攻の中を走り続けた。

「なによその態度は! さっさと死になさい!!」

ミリアの苛立ちが頂点に達する。八つの頭のうちの一本が、獲物を確実に仕留めるべく、猛烈な速度で地上を走る奏多へと目掛けて一直線に突っ込んできた。

ズギャァァァンッ!!!!

大樹の頂上に凄まじい砂煙が立ち込め、視界が遮られる。

「――そこだぁッ!!!!」

砂煙の奥から、奏多の鋭い咆哮が響き渡った。

ミリアがハッとした瞬間、何も無かったはずの遥か上空の虚空に、黄金のオーラを纏った奏多が忽然と姿を現していた。奏多は目にも止まらぬスピードでそこに移動したのだ。

奏多は手にした刀を、誰もいない、ただの空中へ向けてスパァン!! と一閃した。

バリィィンッ! と、まるでガラスの結界が割れるような音が響き渡る。

すると、切られた虚空から、透明だった何かがドクドクと真っ赤な血に染まり、徐々に空間に輪郭を現していった。

「なん……で……私の、場所が……分かったのよ……っ」

驚愕の声を漏らしながら空中から姿を現したのは、八岐大蛇ではなく、元の少女の姿に戻り、胸元を深く切り裂かれたミリアだった。

「お前が攻撃を仕掛けてきたその瞬間だけ、一瞬だけお前の本物のマナの動きを感知した。お前の攻撃の起点は、そこだったんだよ!」

奏多が冷徹に告げる。

「うっ……、あ……カオス、様……っ……」

ミリアは胸から血を流し、その生気のない目で空を見上げながら、そのまま力なく大樹の地上へと真っ逆さまに落ちていき、激突して動かなくなった。幻術の元凶、ここに完全沈没。

トッ、と華麗に地上へと着地した奏多は、残された二人の魔神へと刀を突きつける。

「よし……。次はお前らだ、覚悟しろ」

「貴様ァァァッ!! よくもミリアを……!!」

ベノムの全身から、アリスティアの空を赤黒く染めるほどの、悍ましい業火が爆発的に噴き上がった。

「セバスチャン! 我が先に出る! 貴様は後ろで控えていろ!」

「御意。お気をつけて、ベノム様」

ベノムは一歩前に踏み出し、大地を溶かすほどの熱量を帯びた巨大な拳を握りしめた。

魔神将最強の男――『炎柱』のベノムとの戦いが始まろうとしていた。

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