空っぽの器、創造する
「世界を……滅ぼす……」
オウの不吉な言葉が、アリスの胸に小さな刺のように引っかかった。彼女にとって奏多は、絶望の淵にいた自分を救い、島に色を取り戻してくれた唯一無二の恩人だ。そんな彼が持つ力の大きさに、あらためて畏怖を感じずにはいられなかった。
「……オウ、そんな物騒な言い方するなよ」
奏多は困ったように眉を下げてアリスの頭にそっと手を置いた。
「アリス、そんな顔すんなって。俺は世界を滅ぼすつもりなんてさらさらない。俺がこの力でやりたいのは、この島を……アリスが大切にしてるこの場所を、もっといい場所にすることだけだ」
その温かい手のひらの感覚に、アリスはハッとして顔を上げる。
「あ……はい。すみません、奏多なら大丈夫ですよね。変な心配しちゃいました」
「ああ。さて……と。オウ、お前の言う通り、俺はこのスキルを使って今の土地問題を解決しようと思ってる。だが、単に土地を四つに分けるだけじゃ、またいつか同じことの繰り返しになると思うんだ」
奏多は海を見つめながら、昼間聞いた部族長たちの話を反芻していた。
「エルフ、ドワーフ、獣人、鳥人。それぞれが自分たちの領土を主張し合うのは、仲間を守るために必死だからだ。でも、バラバラに壁を作って暮らすのが本当に正解なのかな。一昨日の宴会の時、あんなにみんな楽しそうに酒を酌み交わしてただろ?」
「……奏多殿、お主、まさか」
オウが面白そうに目を細める。
「ああ。俺が欲しいのは、ただの『土地』じゃない。種族の垣根を越えて、みんなが手を取り合って暮らせる『場所』だ。エルフの知恵とドワーフの技術、獣人の腕力と鳥人の機動力……それが合わされば、ここはただの島じゃなくなる」
奏多が強く、強く願う。
この島を、誰もが笑って暮らせる、世界で一番豊かな「国」にしたいと。
《個体名:空井 奏多の強い信念と創造への渇望を確認》
《スキル【創造都市】を獲得。空きスロット6にセットします》
《スキル【マナの再構築】を獲得。空きスロット7にセットします》
「……来た。これならいける」
奏多の瞳に、確信の光が宿る。
「奏多?」
「アリス、夜の会議が楽しみだ。みんなを驚かせてやるよ」
奏多は不敵に笑い、浜辺の砂をギュッと握りしめた。
アリスはその背中に、この島を作った魔王を重ねた。
夜の帳が下りる頃、広場には再び部族長たちが集まった。
昼間よりもさらに険悪な空気が漂う中、奏多は堂々とした歩みでテーブルの前に立った。
「奏多殿、考えはまとまったかの?」
クルスの問いに、奏多はゆっくりと全員を見渡した。
「ああ。結論を言おう。――あの新しい土地は、特定の部族のものにはしない」
「なんじゃと!?」
「救世主殿、我らを見捨てるというのか!」
ボンドやゲルドが椅子を蹴り飛ばさんばかりに立ち上がる。
「静かにしろ! そうじゃない!」
奏多の鋭い一喝に、広場が静まり返る。
「誰か一人のものにするんじゃなくて、全員の場所にしたいんだ。俺たちがこれから作るのは、部族の領地じゃない。……すべての種族が共に暮らし、共に守り合う、この島の『中心都市』だ!!」
その宣言と共に、奏多は【創造都市】のスキルを発動させた。




