第33話「クロウの告白」
お読みいただきありがとうございます。「今日は少し人数を増やしました」——クロウが二十三人の戦闘員を連れて正門前に立ちます。左右に走り出した瞬間、地面が横一列に焦げました。「二十二人が二秒で止まった」——クロウが残留し、急進派リーダー「ギレン」の存在を明かします。測定不能スキル保持者が二人同時に根源に触れれば装置なしで強制解放できること、「五人目」の存在が急進派にも知られていること——クロウはこれを明かした上で、蓮の側に立つことを申し出ます。
群馬の施設から戻って二日が経った。早川が欠片と設計図の分析を進めていた。
「設計図は本物です」と早川は言った。「核の欠片三十一か所分のエネルギーを集約すれば、根源を強制解放できる規模の信号を生成できます。ただ、完成していない。あと二か所分の欠片が足りない。この装置なしでは動かせません」
「残りの欠片を持つ施設の特定は」と御堂が聞いた。
「調査中です。一か所は茨城の可能性があります。もう一か所はまだわかりません」
廊下に出ると凛が待っていた。「核の欠片を持った時の引っ張られる感覚は、今もありますか」
「ほとんどないです。昨夜寝てから落ち着きました」
「よかったです」と凛は言った。「昨夜、部屋の前を通ったら灯りが消えていたので、眠れているか確認したかったです」
「眠れていました」
「そうですか」と凛は言った。それだけだった。廊下を歩き始めた。
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午後、施設に警戒アラームが鳴った。
「正門の外に車両が七台います」と警備担当から無線が来た。「全員武装しています。数、二十名以上」
御堂が立ち上がった。「アルケミアです」
蓮はすでに廊下に出ていた。凛が補助具を持って隣にいた。
「出ます」と蓮は言った。
「待ってください」と御堂が止めようとした。「こちらの戦力を確認してから――」
「人数はわかっています。二十名以上。こちらで対応します。御堂さんは施設内の警備を固めてください」
御堂が一瞬止まった。「わかりました。施設内は任せます」
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正門を出た。
二十二人が門の外に横並びで立っていた。車両を背にしていた。全員が黒い装備だった。手に武器を持っていた。前回施設に侵入した工作員とは違った。本格的な戦闘員だった。体の幅が広く、立ち方に隙がなかった。
中央に一人が立っていた。クロウだった。白い髪が風に揺れていた。
「来てくれましたか」とクロウは言った。「今日は少し人数を増やしました」
「交渉に来たのではないですね」と蓮は言った。
「はい。今日は実力で判断したいと思います」
クロウが手を上げた。合図だった。
二十二人が同時に動いた。左右に分かれて走った。包囲する形だった。左右に十人ずつが広がり始めていた。速かった。訓練された動きだった。
「左に十人、右に十人、正面に二人。クロウを含めて二十三人です」と凛が言った。「全員の位置が見えています」
蓮は手を伸ばした。
左側の地面が一列に焦げた。走っていた十人が一斉に止まった。足元に黒い線が走っていた。着地しようとした足が空中で止まった。次の瞬間、右側の地面も焦げた。十人が止まった。正面の二人が後退した。
二秒かかっていなかった。
二十二人が全員、動けなくなっていた。走っていた勢いが残ったまま止まっている人間が何人もいた。倒れそうな姿勢で静止している者もいた。それでも足が動かなかった。足元の黒い線を見ていた。蓮を見ていた。何が起きたか理解できない顔をしていた。訓練された人間が、何もできないまま止まっていた。
静かになった。
クロウが正面で立っていた。表情が変わっていなかった。
「二秒ですか」とクロウは言った。
「二十二人を同時にやる必要がなかったので、少し遅かったです」と蓮は答えた。
クロウが少し間を置いた。初めて、わずかに表情が動いた。苦笑に近いものだった。「参りました」と静かに言った。
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武装した二十二人が地面に座らされていた。御堂の部下が対応していた。
クロウだけが蓮の前に残っていた。
「聞きたいことがあります」と蓮は言った。「群馬の施設で設計図を見ました。根源の強制解放装置です。あなたが作っているものですか」
クロウが少し目を細めた。「知っていましたか」
「あと二か所分の欠片が必要なはずです。それを手に入れようとしていますか」
「それは違います」とクロウは言った。「正直に話します。私はあれを止めようとしていました」
蓮は何も言わなかった。クロウが続けた。
「アルケミアの中に、私とは別の勢力があります。急進派と呼んでいます。根源を強制解放して、その爆発的なエネルギーを回収することを目的としています。ダンジョン崩壊による被害は計算に入れていない。自分たちが必要なエネルギーだけを得られればいいと思っている人間たちです」
「あなたは反対している」
「はい。根源の強制解放がどれだけの規模になるか、私は計算しています。全国の主要ダンジョンが同時崩壊すれば、東京だけで甚大な被害が出ます。急進派はそれを止める気がない。私が施設を動かせる範囲で、欠片を回収しようとしていました。ただ、間に合わなかった。あなたたちの方が早かった」
「五人目のことです」と蓮は言った。「クロウが最初に教えた。急進派も五人目を追っていますか」
クロウが少し間を置いた。「はい。急進派は測定不能スキルを持つ二人が同時に根源に接触すれば、強制解放の効率が大幅に上がると考えています。あなたと五人目を同時に根源に向けることができれば、欠片の装置が完成していなくても強制解放を引き起こせる可能性があると」
凛の表情が変わった。
「五人目を道具として使うつもりか」と蓮は言った。
「急進派はそのつもりです。私は違います。五人目が今どこにいるかを先に教えたのも、あなたに先手を取ってほしかったからです」
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しばらく誰も言わなかった。
「信用できますか」と凛が言った。
「確認する方法はありません」とクロウは言った。「ただ一つだけ言えます。今日、私が二十二人を連れてきたのは、実力行使のためではありませんでした。判断するためでした。あなたが二十二人を止められるなら、急進派を止めることもできる。できないなら、今日ここで話しても意味がない。あなたは止められた。だから話します」
「急進派のリーダーは誰ですか」と御堂が聞いた。
「名前はギレンといいます。アルケミア内の最高実力者です。残り二か所の欠片の在処も、彼が知っています」
「どこにいますか」
「今は動いています。施設を持たない。装置の完成に必要な欠片を手に入れるために、動き続けています。ただ、あなたが群馬の施設から設計図を回収したことは知っています。次の手を打ってくるはずです」
「どういう手ですか」
「わかりません。ただ、急進派にとって最も効率的な方法は」とクロウは言った。「装置を完成させることではなく、五人目を捕まえてあなたと強制的に根源に触れさせることです。装置が間に合わないなら、人間を使う。それがギレンの考え方です」
凛が「五人目が今一人でいるなら」と言った。「急進派が先に見つけたら——」
「そうです」とクロウは言った。「だから早く動いてください」
「あなたは協力する気はありますか」と蓮は聞いた。
「五人目の保護には協力します。急進派の阻止のためなら、私が持っている情報を渡します」とクロウは言った。「私には動かせる部隊がある。急進派と戦えます。ただ、実力行使でギレンを止める力は私にはない。それはあなたしかできない」
蓮は少し考えた。「わかりました。五人目を先に見つけます。その後、連絡を取る方法を教えてください」
蓮は手帳を出した。「クロウが二十三人で来た。二秒で全員止めた。急進派の存在が判明。目的は根源の強制解放とエネルギー回収。五人目を道具として使うつもり。リーダーはギレン。覚醒から八十一日目」
次話:第34話「五人目を探して」
渋谷の人混みの中に、覚醒直後の人間がいます。アルケミアも同じ人間を追っています。どちらが先に見つけるか。続きが気になった方は、ぜひブックマークや【☆☆☆☆☆】評価で応援いただけると嬉しいです!




