第32話「アルケミアの採取現場」
お読みいただきありがとうございます。群馬の山中、深夜零時。巡回を無音で封じ、金属の錠を焼き切って施設に侵入します。技術者たちは傷つけず全員退避させ、奥の部屋で見つけた光る容器は十三個。さらに別室にはもう十二個。凛の補助を受けながら、全部持ち帰りました。クロウが直前まで来ていたことも判明します。
御堂が現場を特定したのは翌日の夕方だった。
「群馬県北部の山中です」と御堂は言った。「廃工場を改装した施設です。ダミー会社の名義になっていますが、電力使用量と人の出入りから判断して、ここで何かをやっています」
衛星写真が広げられた。山の斜面に建物が二棟あった。周囲に車が六台停まっていた。
「護衛がいますね」と凛が言った。
「外に三人は確認できます。建物内は不明です」と御堂は言った。「今夜行きますか」
「行きます」と蓮は言った。「施設内の人間を傷つけるつもりはありません。ただ、何があるかを確認したい。廃ダンジョンに信号を送る仕組みと、根源への干渉装置。どちらかがあると思っています」
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深夜、山道を徒歩で進んだ。月がなかった。凛が先頭で補助具を操作しながら木の根や段差を声で教えた。「右に根が出ています」「三歩先に段差があります」。その声があれば全員が止まらずに進めた。
「前方百メートルに二人います」と凛が言った。「巡回です。五十メートル間隔で動いています」
「同時に止めます」
前方で懐中電灯の光が二か所動いていた。一人が建物の角に向かって歩いていた。もう一人は反対方向を向いて立っていた。二人が背中を向け合う瞬間があった。
蓮は右手を伸ばした。
二か所が同時に焦げた。地面に黒い線が走った。音はなかった。
一人が振り返った。足元を見た。黒い線を見た。蓮を見た。固まった。もう一人も足元を見た。懐中電灯が揺れた。
「動かないでください。武器を地面に置いてください」と蓮は声を低く言った。
二人が顔を見合わせた。一人が腰の武器に手をかけた。その手の甲のすぐ上の空気が焦げた。男が手を引いた。
「次は距離を縮めます」
二人が武器を地面に置いた。御堂の部下が前に出た。
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建物の入口で凛が「中に六人。二人が入口に近い。残り四人は奥の部屋です」と言った。
扉のロック部分に手を向けた。金属が焼けた匂いがした。扉が開いた。
入ると、すぐに二人が振り向いた。机の上に機器が並んでいた。モニターが青く光っていた。研究施設の雰囲気だった。
「アルケミアの施設ですか」と蓮は聞いた。二人が黙った。一人が机の上の機器に手を伸ばした。緊急通報かデータ消去か。
蓮は手を伸ばした。机の上の機器の前面が焦げた。機器が動かなくなった。男の手が止まった。
「もう動きません。外への連絡もできません。ここにいてください」
奥の部屋から残り四人が出てきた。全員が技術者の服装だった。御堂が誘導した。技術者たちは抵抗しなかった。一人が「出ていいですか」と日本語で聞いた。おそらく下請けだった。
「出てください。こちらに害はありません」
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奥の部屋に進んだ。
扉を開けると、部屋の中央に台があった。台の上に直径三十センチほどの容器が置かれていた。容器の中に光っているものがあった。淡い光だった。蓮にはわかった。この光の種類を体が知っていた。
「核の欠片です」と凛が言った。「生きています。採取されているのに、まだ反応しています」
蓮は近づいた。引っ張られる感覚があった。前回根源に触れた時と同じ種類の感覚だった。
「廃ダンジョンを再活性化させる引き金、ここですか」と蓮は言った。
「可能性があります」と御堂は言った。「この容器を遠隔から操作して信号を送ると、同じ欠片を持つ廃ダンジョンの核を刺激できる。七か所同時に動かせた理由はこれかもしれません」
もう一か所、扉があった。凛が「この先にも反応があります」と言った。
扉を開けた。棚が並んでいた。棚の上に容器が十二個あった。全部が光っていた。部屋全体が薄く明るかった。
蓮は一歩入った。引っ張られる感覚が強くなった。十二か所から同時に来た。凛が補助具を素早く出した。「引き戻します」
「大丈夫です。全部持ち帰ります」
容器を一つずつ手に取った。光が揺れた。そして棚の奥、一番暗い場所に、容器とは別の機器があった。
「これは何ですか」と蓮は凛に言った。
凛が近づいた。少し間を置いた。「……核の欠片とは別の反応です。欠片に信号を送る装置ではない。逆です。欠片から信号を受け取って、それを増幅して別の方向に送る装置です」
「どこに送る」
「計算中です」と凛は補助具を操作した。数秒後、凛の手が止まった。「……根源の方向です。欠片を通して、根源に直接信号を送れる装置です」
部屋が静かになった。十三個の欠片の光が揺れていた。
「完成していますか」と蓮は聞いた。
「していません。部品が足りない。設計図があります」と凛は機器の傍らに置かれた書類を見た。「完成まで、あと二か所分の欠片が必要です。この施設だけでは足りない」
蓮は設計図を見た。複雑な回路図だった。核の欠片からエネルギーを集約して増幅し、根源の周波数に合わせて一点に集中させる仕組みだった。根源を狙い撃ちにする装置だった。
「これを完成させたら何が起きますか」
「根源が強制的に解放されます」と凛は言った。声が低かった。「根源は今まで自然に流れているだけだった。これを使えば人工的に爆発させられる。全国のダンジョンが同時崩壊します。どれだけのエネルギーが放出されるか——早川さんに計算してもらわないとわかりません。ただ」
「ただ」
「五核安定化の時に根源から受け取った力の規模を思い出してください。それが全国に同時に放出されます」
部屋が静かになった。
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施設を出た時、来た時にはなかった車が一台あった。
「後から来た人間がいます」と凛が言った。「もう出ていきました。五分前くらいです」
御堂がナンバーを確認した。「アルケミアの車両です。クロウが来ていた可能性があります。こちらが入ったのを見て、引き揚げた」
「向こうも知っている」と蓮は言った。「この施設が割れたことを。そして俺たちが設計図を見たことも」
「別の施設があります」と御堂は言った。「あと二か所分の欠片、それを手に入れようとする前に動く必要があります。早急に特定します」
「ただ」と蓮は言った。「クロウが今夜来ていた。俺たちが設計図を持ち出したことを見ている。相手も急ぐはずです」
「こちらも急ぎます」
山道を下り始めた。空が少し明るくなりかけていた。夜明けが近かった。凛が横に並んで歩いた。
「五核安定化の時に根源から感じた、外からの干渉」と蓮は言った。「あれは、この装置の試作段階だったかもしれません」
「そうだと思います」と凛は言った。「あの時まだ完成していなかった。テストしていた。それが今夜見つかった」
「先手を取れました」
「取れました」と凛は言った。「次もそうするように動きます」
蓮は手帳を出した。「採取現場を確認。核の欠片が十三個。根源への強制干渉装置の設計図を発見。完成にあと二か所分の欠片が必要。クロウが直前まで来ていた。根源を強制解放すれば全国のダンジョンが崩壊する。それを誰かが作ろうとしている。覚醒から七十九日目」
次話:第33話「クロウの告白」
欠片を持ち帰った翌日、クロウが二十三人の武装部隊を率いて正面から来ます。続きが気になった方は、ぜひブックマークや【☆☆☆☆☆】評価で応援いただけると嬉しいです!




