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第31話「余震」

お読みいただきありがとうございます。「終わっていなかった」——廃ダンジョンが七か所同時に再活性化します。埼玉の林では四十一匹が散って包囲形成を試みますが、蓮は林全体を八秒で白く光らせて全滅させます。全七か所がアルケミアの調査記録と一致。まだ全国に二十四か所の候補が残っていました。


覚醒から七十八日目。五核安定化から四日が経っていた。


 施設の空気が変わっていた。以前は廊下に出るたびに誰かが走っていた。今は歩いている。食堂で笑い声が聞こえた。訓練場の声が明るかった。同じ施設に同じ人間がいるのに、これほど変わるものかと思った。


 ただ蓮だけは、落ち着いていなかった。根源接触の時の感覚が、まだ頭に残っていた。力の流れの中に、外から押しているものがあった。根源自身ではなかった。あれが何なのか、まだわかっていなかった。前の三人が帰れなかった理由が「訓練なしで分散できなかった」だけだとしたら、自分は今日でそれに答えた。ただ、前の三人の時にはなかった「外からの干渉」が今回はあった。それが気になっていた。


「全地点で観測値が下がっています」と凛が言った。昼食のトレーを持ったまま窓の外を見ていた。「ただ、下がり方が前回より遅いです。早川さんも気にしていました」


「根源が完全に静まっていない、ということですか」


「そうかもしれません。まだ何かある、という感じです」


---


 翌朝、早川から緊急連絡が来た。


「七か所で同時に数値が上がっています」


 観測室に走った。凛がすでにそこにいた。モニターの前で立っていた。


 観測室に走ると、モニターに七本のラインが表示されていた。どれも急角度だった。ただ、五核の時と違った。五核は五本が連動して動いていた。今回は七本がそれぞれ別々のペースで上昇していた。バラバラだった。


「連動していません」と早川は言った。「それぞれ独立した核です。一か所の規模はA級二名で対応できる程度です。ただ、七か所が同時です。しかも三時間で七か所」


「発生間隔が短すぎる」


「はい。それと、もう一点。七か所全部、廃ダンジョンです。活動停止した記録があるダンジョンが、今朝から一斉に動き始めています」


 御堂が地図を広げた。関東に三か所、東海に二か所、近畿と九州に一か所ずつ。どれも都市近郊だった。


「一番近いところに俺が行きます」と蓮は言った。


---


 現地は埼玉郊外の林だった。三年前に活動停止の記録がある場所だった。林の奥から重い音が地面を伝わってきた。住民の避難は完了していた。林の外に管理局の担当者が一人立っていた。「……来るとは思っていませんでした。こちらからは手が出せない規模です」と言った。


「わかりました」と蓮は言った。それだけだった。林に向かった。


「感知できますか」と蓮は凛に言った。


「やっています。正面に二十三匹。密集してから突っ込んでくるつもりです。集まりきる前に動けます」


「いつでも」


 蓮は手を伸ばした。


 林全体が一瞬、白く光った。木の間から光が広がった。散らばっていた遠い場所まで、同時だった。音はなかった。熱気だけが林の奥から一気に押し出されてきた。焦げた土と木の匂いが広がった。


 光点が全部消えた。木が揺れるのが止まった。


「全部消えました」と凛が言った。「二十三匹、三分以内です」


 管理局の担当者が黙って林を見ていた。蓮を見た。林を見た。また蓮を見た。何も言わなかった。口が少し開いていた。言葉が出てこない顔だった。


 三年間活動停止していた廃ダンジョンが、三分で片付いていた。


---


 施設に戻ると、早川が「七か所の共通点が出ました」と言った。資料をまとめていた。「全部アルケミアの調査記録があります。全部、調査後二年から三年以内に廃ダンジョン化しています」


「核の一部を採取した」


「そう考えると辻褄が合います。採取によって核が不安定になり廃ダンジョン化した。そして今朝、何らかの外部刺激によって不安定な核が一斉に再活性化した」


「外部刺激は何ですか」


「まだわかりません。ただ、一点あります。今朝七か所が動く直前、同じ周波数のパルスが全地点で観測されています。人工的な信号です」


 御堂が「アルケミアが引き金を引いた」と言った。


「それと」と早川は画面を操作した。「今日の七か所以外にも、アルケミアの調査記録がある廃ダンジョンが全国に三十一か所確認されています」


 部屋が静かになった。


「三十一か所」と御堂が繰り返した。


「はい。今日動いたのはそのうちの七か所です。残り二十四か所がまだ動いていない。ただ、条件が揃えば全部が同時に再活性化する可能性があります」


 蓮は少し考えた。それだけではなかった。根源に触れた時の感覚を思い出した。外から押しているものがあった。廃ダンジョンを外部刺激で動かすことができるなら——根源そのものにも、外部から干渉できる可能性がある。


「早川さん」と蓮は言った。「今日の七か所の再活性化、遠隔で信号を送った可能性はありますか」


 早川がデータを見た。少し間を置いた。「……あります。七か所が動いたタイミングに、特定の周波数のパルスが観測されています。同じ周波数です。人工的な信号です」


 御堂が「クロウが引き金を引いた」と言った。


「テストだったんです」と蓮は言った。「俺が七か所全部対応できるかどうかを確認した。対応できた。だから次は数を増やす。三十一か所を同時に動かす可能性がある。ただ——それだけが目的ではないかもしれない」


「最悪の場合はそうです」と御堂は言った。「A級探索者を全員出しても足りない。地理的な距離に間に合わない場所がある。それを相手はわかっている。こちらの戦力を完全に分散させて、その間に何かをする」


「その間に何をするかです」と蓮は言った。


「わかりません」と早川が言った。「ただ、一点だけ。今日の七か所が動いた時間帯に、根源の観測値にも微細な変動がありました。廃ダンジョンの再活性化と、根源の反応が連動しています。これまで確認されたことがないパターンです」


 部屋が静かになった。


 蓮は根源に触れた時の感覚を思い出した。外から押しているものがあった。廃ダンジョンに信号を送る技術がある。同じ技術で、根源そのものに干渉できるなら——


「早川さん。廃ダンジョンの核に外部から信号を送れるなら、根源に対しても同じことができると思いますか」


 早川が静止した。しばらく何も言わなかった。「……理論上は」と言った。「核の欠片は根源と接続を持っています。十分な数の欠片から同時に信号を送れれば、根源を強制的に刺激できる可能性があります。ただ、それは」


「それは何ですか」


「根源が強制的に解放されます。全国のダンジョンが同時に崩壊します。どれだけのエネルギーが放出されるか、計算できません」


 誰も何も言わなかった。


 蓮は手帳を出した。「廃ダンジョンが七か所同時に再活性化。テストだった。人工的な信号が引き金。全国にまだ三十一か所候補がある。根源に外部から干渉できる可能性がある。覚醒から七十八日目」


 書き終えてから、もう一行書いた。「これは廃ダンジョンの話ではなかった」

次話:第32話「アルケミアの採取現場」

廃ダンジョン再活性化の仕組みを追って、群馬の山中施設へ夜間侵入します。そこで見つけたのは、光り続ける核の欠片でした。続きが気になった方は、ぜひブックマークや【☆☆☆☆☆】評価で応援いただけると嬉しいです!

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