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第30話「世界の根源と、俺の答え」

お読みいただきありがとうございます。覚醒から七十四日目、本番の朝です。五つの核を連動させながら根源に触れる。凛が「帰ってきてください」と言い、蓮が進みます。力を分散させる——その体験を積み重ねた七十四日間が、この場面に全部繋がっています。A級探索者たちが言葉を失う後日談も、蓮本人はほとんど気にしていない様子です。

覚醒から七十四日目、午前五時、蓮はアパートを出た。


 前回と同じ時間だった。凛が「準備できています」と言った。前回と同じ言葉だった。外は暗かった。前回より空気が冷たかった。季節が進んでいた。


---


 現地に着いた時点で、周囲はすでに戦闘状態だった。


 五か所の核が連動して動いていた。御堂のチームと国防省のサポートチームが展開していた。空気が重かった。木と土と焦げた匂いが混じっていた。前回と同じ匂いだったが、今回の方が濃かった。


 御堂が「今日の配置を確認します」と言った。地図を広げた。A級探索者十二名が外周を押さえる。国防省のサポートチームが後方で待機する。蓮と凛が核へのルートを進む。アルケミアが来た場合は、御堂が対応する。


「通信が途絶えたら」と蓮は確認した。


「待機します」と御堂は答えた。「こちらから入りません。あなたたちが出てくるまで待ちます」


「わかりました。では行きます」


 凛が補助具を確認した。今日の補助具は、前回より少し大きかった。「感知範囲を広げました」と凛は言った。「ノイズが多い環境でも、拾える精度を上げています」


「本番に合わせて改良したんですか」


「昨日の昼間にやりました。間に合ってよかったです」


---


 蓮と凛は核への道を進み始めた。


 三十メートルで最初の群れが出た。正面から走ってくる塊と、右後ろから回り込む集団が同時だった。


 凛が「正面十二匹、右後ろ五匹、左七匹」と言った。間を置かなかった。


 蓮は三方向に向けて手を伸ばした。三か所が同時に光った。走ってきた群れがそのまま消えた。次の一歩を踏み出す姿勢のまま、消えた。焦げた匂いが三か所から広がった。二十四匹、一秒以内だった。


 周囲のA級探索者が一瞬止まった。三方向を見た。何も言わなかった。また前に向かった。


 また来た。前後から挟む形だった。凛が「後ろ、八匹」と言った。蓮は後ろを向かずに手を伸ばした。消えた。前進した。


 さらに五十メートル、左の茂みが揺れた。揺れが大きかった。中に密集している数だった。


「左に十五匹。速い」と凛が言った。


 蓮は左に手を向けた。茂みが一瞬白く光った。揺れが止まった。十五匹が消えた。茂みの奥が、焦げた匂いだけになった。


 隣のA級探索者が「……本番でここまでできるとは聞いていなかった」と小声で言った。誰に向けたわけでもなかった。


 七十メートルのところで、正面から人間が出てきた。クロウだった。護衛が六人いた。前回より多かった。


「最後にもう一度だけ」とクロウは言った。


「断ります」と蓮は言った。止まらなかった。歩き続けた。


 護衛が前に出た。六人が横一列に広がった。道を完全に塞いだ。それぞれ武器に手をかけていた。


 蓮は手を伸ばした。


 六人の足元に黒い線が走った。横一直線、同時だった。六人が同時に後ろに跳んだ。武器に手をかけたまま後退した。着地してから、六人全員が自分の足元を見た。黒い線を見た。蓮を見た。前回の護衛と同じ動きだった。本能が意識より速く動いていた。


「御堂さん」と蓮は言った。


 御堂が後ろから来た。「こちらで対応します」と言った。


 クロウが何か言おうとしていた。蓮は聞かなかった。前に進んだ。


---


 核まで二十メートル。


 前回と同じ空気の重さがあった。一歩ごとに胸に圧力がかかった。今回の方が重かった。前回は歩けたが、今回は足を踏み出すたびに、見えない何かを押し分けているような感覚があった。


「感知がぼやけてきました」と凛が言った。「前回と同じですが、強い。タイムラグが出るかもしれません」


「出たら声に出してください。それに合わせます」


「わかりました。でも、補助は維持します」


 岩盤の前に着いた。岩盤の表面が光っていた。前回よりずっと強い光だった。見ている方向が定まらない光だった。蓮はしゃがんで、手を当てた。


 繋がった。


---


 暗闇だった。


 今回は、すぐそこにいた。目の前に、大きな何かがいた。目が開いていた。前回より近かった。近すぎて、大きさが測れなかった。


 意味が流れてきた。「来た」


「はい」と蓮は問いかけた。「前回の続きです。力が流れると言っていた。今、感じています」


「止められない」


「俺が止めます。受け取って、分散させます」


 手のひらに圧力が来た。前回の倍以上だった。川ではなく、濁流だった。凛の補助魔法が引き戻してくれていた。ただ、今回は補助魔法も揺れていた。


「壊れる」という意味が来た。


「俺が壊れますか」


「わからない。三人は壊れた。お前は違うかもしれない」


「違います」と蓮は問いかけた。「止める方法を知っています。訓練しました」


 流れが少し変わった。向こうが試しているような感覚があった。蓮は力を入れた。流れを受け取った。止めるのではなく、分けた。一か所に集中させない。どこにも貯めない。流して逃がす。出力の制御と同じ考え方だった。


 二方向に分けた。圧力が落ちた。三方向にした。さらに落ちた。川を細い水路に分けるような感覚だった。溜まらなければ、溢れない。


 凛の補助魔法が安定した。引き戻す力が強くなった。


 向こうが少し緩んだ感覚があった。押してくる力が整った。蓮はそのまま続けた。少しずつ圧力が落ちていった。


 核が静止した。


 圧力が一気に落ちた。


---


 手を離した。


 凛が「止まりました」と言っていた。声が少し震えていた。「感知値が一気に落ちています。五か所、全部です」


 五か所が連動していた。一番大きい核が止まったことで、残りが連鎖して落ちた。


 御堂から無線が入った。「数が急速に減っています。全地点」という声がした。少し間があって、「……止まった。全部止まった」という別の声がした。無線の向こうの誰かが、独り言のように言った。


 蓮は立ち上がった。空気が軽くなっていた。岩盤の光が、穏やかになっていた。前回の終わりの時と同じ光だった。


 凛が「立てますか」と言った。


「はい」


「手足に感覚はありますか」


「あります。大丈夫です」


「全身が震えていますよ」と凛は言った。「少し待ちましょう」


 蓮は岩盤の前にそのまま座った。凛が隣に座った。岩が冷たかった。少し時間が経つと、震えが収まってきた。


 凛が手を伸ばしてきた。蓮の手を握った。


「帰れます」と言った。


 前回と同じ言葉だった。ただ今回は、手を離さなかった。


 蓮も離さなかった。


 手帳を出した。凛に手を握られたまま、もう片方の手で書いた。「根源は取り込もうとしたのではなかった。力が流れただけだった。分散させて止めた。五核全部安定した。前の三人と違ったのは、止める方法を知っていたことと、凛がいたことだ。覚醒から七十四日目」


 書き終えた。ペンを置いた。凛がまだ手を握っていた。蓮も握り返したままだった。岩の上だった。外から御堂の声が遠くに聞こえた。


---


 外に出た時、御堂が走ってきた。「戻ってきた」と言った。それだけだった。声が少し違った。普段の御堂の声と、少し違った。感情を出さない人間が、感情を出した時の声だった。


 A級探索者たちが集まってきた。誰も何も言わなかった。全員が、蓮と凛を見ていた。


 音無が少し離れた場所から近づいてきた。「……本当に止まったんですか」と言った。事務的な口調ではなかった。


「はい」と蓮は言った。「五か所、全部です」


 音無が頷いた。それ以上何も言わなかった。


---


 後日、早川が報告書をまとめた。「五核連動安定化:史上初の事例。根源との双方向的な接続が確認された。測定不能スキル保持者の帰還:四例目にして初の生還。以降の記録は柏木蓮の手帳を参照」


 御堂は師匠のファイルに、短い追記をした。「師匠の頼みを果たしました。次の人間は一人ではありませんでした」


 凛は補助具の記録を整理した。「根源接続中の補助魔力消費量:前回比二百十七パーセント。接続時間:四分三十二秒。帰還後のスキル保持者の状態:軽度の筋収縮、体温上昇あり。翌日中に回復」と書いた。それから一行追加した。「帰ってきた」


 世界のダンジョンの魔力反応は、まだ上がり続けている。根源はまだ眠っていない。蓮の手帳に書かれた記録が、五例目のために残っている。


 一つだけ、施設に戻ってから蓮が凛に話したことがあった。


「根源に触れた時、途中で何かがおかしかった」


「おかしいとは」


「力が流れてきた。いつもと同じだった。ただ、その流れの中に——外から押しているものがあった。根源自身の流れではなかった。根源の外側から、何かが干渉していた」


 凛が少し間を置いた。「自然なものではない、ということですか」


「わかりません。ただ、前回はなかった感覚でした」


 二人はその夜、それについて結論を出さなかった。

次話:第31話「余震」

五核安定化から四日。落ち着いたかに見えた空気が、翌朝に一変します。全国七か所の廃ダンジョンが同時に動き始めました。続きが気になった方は、ぜひブックマークや【☆☆☆☆☆】評価で応援いただけると嬉しいです!

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