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第29話「最終決戦の前夜」

お読みいただきありがとうございます。五か所の観測値が同時上昇。「一か所でも英雄級の対応が必要な規模が、五か所同時」——早川の言葉が状況の深刻さを伝えます。夜の森でA級探索者が三体に追い詰められる場面に、蓮が現れます。二十六匹が「走ってきた姿勢のまま消えた」瞬間の、相手の反応も見どころです。


早川から電話が来たのは、覚醒から七十二日目の朝だった。


「緊急です。今すぐ来られますか」


---


 施設に着くと、モニターが並んでいた。


 観測値が五本、同時に右肩上がりになっていた。昨夜まで一定だったラインが、全部、今朝から急角度で上昇していた。五本のラインが重なるように動いていた。


「五か所同時です」と早川は言った。「これまでの記録にありません。一か所でも英雄級の対応が必要な規模です。それが五か所、同時に動き始めています」


「発生まで、どのくらいですか」


「早ければ三日。最長でも一週間です」


 御堂が地図を広げた。五か所の位置が示されていた。関東圏に三か所、東北に一か所、中部に一か所。蓮は地図を見た。一番大きいポイントは埼玉県北部だった。前回と同じ場所だった。


「五か所すべてに対応することはできますか」と蓮は聞いた。


「今いるA級探索者を全員出しても、一か所ずつが限界です。五か所を同時に押さえながら、核に接続できる人間が必要です」


「五つの核が連動している、ということですか」


「はい。一番大きい核が安定すれば、残りも連鎖して落ち着く可能性があります。前回の埼玉北部の核が中心にあります」


---


 会議が終わった後、音無が残った。


「一つ確認させてください」と音無は言った。「今回、国防省としてどこまで支援できるか、整理したいと思っています。前回は蓮さんと凛さんが現地に向かった後、外部は待機のプロトコルでした。今回も同じにしますか」


「同じにしてください」と蓮は言った。「通信が途絶えたら待機。こちらから止まれと言うまで動かない。それで」


「了解しました」と音無は言った。少し間を置いてから「記録は残してください」と続けた。「前回と同様に、手帳の記録を公式記録として認めます」


「はい。残します」


 音無が頷いた。「……うまくいくといいですね」と言った。事務的な口調ではなかった。普段の音無らしくない言い方だった。


「うまくいくかどうかはわかりません」と蓮は言った。「ただ、方法は知っています」


---


 その夜、最初の前哨戦が始まった。


 発生予測地点の一つ、近郊の公園で魔物が溢れ始めた。住民への避難連絡が入った。御堂のチームが対応に出た。蓮と凛も同行した。


 公園に着いた時点で、御堂のチームが四人で対応していた。ただ、数が多かった。倒しても次が来た。木立の影から、フェンスの裏から、次々と出てきた。端の一人が追い込まれかけていた。木の幹を背にして、三匹を正面に睨んでいた。後ろがなかった。


「支援します」と蓮は言った。


 凛が補助具を素早く出した。「全部見えます。正面に十七匹、左手に六匹、北東の茂みに三匹。計二十六匹」


 蓮は三か所に向けて手を伸ばした。


 公園に、三筋の光が走った。正面、左手、北東、同時だった。一秒かかっていなかった。音はなかった。焦げた草の匂いだけが公園全体に広がった。


 二十六匹が消えた。


 木の幹を背にしていた探索者の正面にいた三匹も、牙を向けたまま消えていた。次の瞬間、そこには何もなかった。


 御堂のチームが止まった。剣を構えたまま固まっていた。前にいた探索者が後ろを振り返った。


「……一撃ですか」と一人が言った。独り言だった。


「はい」と蓮は答えた。


 三十秒後、また来た。今度は北側からだった。木立の奥に無数の目が光った。数が数えられなかった。木が揺れていた。


「北側、四十匹以上います」と凛が言った。「密集しています。速い」


 蓮は北側に向けて手を伸ばした。


 木立の奥が一瞬、白く光った。広い範囲だった。揺れていた木が止まった。光が消えた。静かになった。光っていた目が、全部消えていた。


 公園の芝生の上に、焦げた線が何本も残っていた。広い範囲で草が黒くなっていた。探索者の一人が、その範囲を目で追っていた。


「俺たちが対応していた時と、全然違いますね」と一人が言った。


「あなたたちは押さえていました。それが今夜の前提でした」と蓮は言った。「来てもらっていなければ、ここはもっと酷いことになっていた」


 御堂のチームの一人が「……補助なしで全方位同時にできるんですか」と蓮に聞いた。


「凛さんに感知してもらっています。補助なしではここまでできません」


「でも、指示が来てから消えるまで、一秒もなかった」


「遅いと間に合わないので」と蓮は言った。「本番はもっと速くやります」


 探索者が何も言わなかった。御堂が「今夜はここまでにしましょう」と言った。「本番は別の日です。今夜消耗するべきではない」


---


 深夜、施設に戻って作戦を詰めた。


「前回と同じルートです」と御堂は言った。「今回は規模が違います。A級を十二名出します。ルートを確保し、蓮さんと凛さんが核に向かう道を作ります」


「アルケミアは動きますか」と蓮は聞いた。


「動きます。大規模異常の混乱に紛れてあなたに近づこうとする可能性があります。最大級の混乱の中が、彼らにとっての好機です。こちらも警戒します。ただ、戦力を分散させたくない」


「アルケミアが来た場合は、俺が対処します。後ろに回す余力はあります」


「わかりました」


「一つ確認させてください」と蓮は続けた。「根源と話した時、向こうは力が流れると言いました。前の三人は取り込まれたのではなく、流れに押し流されたと思っています。今回は、その流れを受け取って分散させようとします。成功するかどうかはわかりません。ただ、やる方法は訓練してきました」


 早川が「分散させるというのは具体的にどういうことですか」と聞いた。


「複数の方向に流して逃がします。出力制御と同じ考え方です。前回の接触で少し試せました。流れを二方向に分けた瞬間、圧力が落ちた」


「機能するかどうかは」


「本番でわかります」


 早川がタブレットに打ち込んだ。「記録します」


 御堂が少し間を置いた。「わかっています。それでも行くということは、師匠と同じです」


「師匠は帰れませんでした」


「あなたには凛さんがいます。師匠にはいなかった」


 部屋が静かになった。


 凛が「私も行きます」と言った。


 蓮は少し間を置いた。「危ないです」


「あなたの補助がなければ、核から引き戻せない可能性があります。前回、私の補助がなければどうなっていたか。今回は規模が前回の何倍かです。私が必要なはずです」


「……わかりました」と蓮は言った。


 凛が小さく頷いた。それで決まった。御堂も早川も何も言わなかった。異論はないということだった。蓮には、二人がその答えを最初から予測していたように見えた。


 凛が「わかりました」と言って部屋を出た後、蓮は一人でしばらく座っていた。


 前回の出発前の夜のことを思い出した。ソファに二人で座って、窓の外を見ていた。凛が「帰ってきてください」と言った。「努力します」と答えた。今回はまだそういう話をしていなかった。


 凛の部屋の前まで行って、ノックした。


「はい」と中から声がした。


「一つ聞きたいことがあります」


 扉が開いた。凛が出てきた。


「帰ってきてください、と言わなくていいですか」と蓮は言った。


 凛が少し目を細めた。「言っていいですか」


「はい。その方が、動きやすいので」


「そうですか」と凛は言った。「……帰ってきてください。前回と同じく、今回も努力でいいです」


「わかりました。努力します」


「今回は」と凛は続けた。「私も一緒に行くので。努力は二人分です」


 蓮はしばらく何も言わなかった。凛も何も言わなかった。廊下が静かだった。施設の奥でまだ動いている人間がいるらしく、遠くから足音が聞こえた。


「わかりました」と蓮は言った。「二人分、努力します」


 凛が部屋に戻った。扉が閉まった。


 部屋に戻った。廊下の外の警備担当がまだいた。「ご苦労様です」と声をかけると、「お気をつけください」と返ってきた。


 蓮は部屋に戻って、手帳を開いた。「五核同時不安定化。発生まで三日。前哨戦を一か所制圧した。根源との対話で聞いたことを、本番で使う。凛が来る。覚醒から七十二日目」


 書き終えてから、一行追加した。「凛がいる。それだけのことが、今は確かにある」

次話:第30話「世界の根源と、俺の答え」

いよいよ本番。五核への同時接触と、根源との対話。蓮が「帰れた理由」が明かされます。続きが気になった方は、ぜひブックマークや【☆☆☆☆☆】評価で応援いただけると嬉しいです!

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