第27話「根源への、二度目の接触」
お読みいただきありがとうございます。訓練用ダンジョンへの道中、アルケミアの四人が立ちふさがります。「五分だけ」という言葉に、蓮は足元の地面を焦がして答えます。ダンジョン内では、凛の「左」「右前」「後ろ」という声に合わせて群れを処理し、核へ到達。根源との二度目の対話が始まります。
現地のダンジョンは、都内から電車で一時間の郊外にあった。
車を降りると、ダンジョン特有の匂いがした。石と土と、わずかに金属の匂いが混じったような感じだった。規模は小さかった。管理局が設置した標識が入口のそばに立っていた。「探索難易度:C級」と書かれていた。
「練習用ダンジョンです」と早川は言った。「ただ、核との接続は本物です。同じ周波数です」
御堂が車を降りながら「一つ報告があります」と言った。「アルケミアが、今日の予定を把握している可能性があります。昨夜の工作員が持っていた通信機を解析しました。施設内のどこかに別の盗聴器が仕込まれていた可能性があります。今朝全室確認しましたが、見つかったのは一個だけで、他にあるかどうかはわかりません」
「来ますか」と蓮は聞いた。
「来ると思っています」と御堂は言った。「その前提で動きます。先に進んでください。私が後ろを押さえます」
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ダンジョンの入口まで百メートルの道を進み始めた時、前方から四人が出てきた。
探索者の装備だったが、御堂のチームではなかった。先頭の男が手を上げた。止まれという合図だった。蓮は止まった。
「柏木蓮さんと少しお話ししたい。クロウからの伝言があります。五分だけ時間をいただけますか」
「今は用事があります」と蓮は言った。「どいてください」
「五分だけです」と男は繰り返した。動かなかった。残り三人も動かなかった。四人が横に広がって、道を塞いだ。
蓮は手を伸ばした。
四人の足元の一メートル手前、草地が横一列に焦げた。音はなかった。光もなかった。熱気だけが低い位置から一気に広がった。焦げた草の匂いが風に乗った。
四人全員が、同時に半歩引いた。意識より先に体が動いていた。先頭の男が足元を見た。黒く焦げた線が靴先の一メートル先にある。もう一歩前にいたら、自分の足元だった場所だった。
「次は距離を縮めます」と蓮は言った。声は静かだった。
先頭の男が後ろを振り返った。三人が無言だった。何も言えない顔だった。先頭の男が小さく頷いた。それだけで、四人が道を開けた。
「御堂さん、お願いします」と蓮は言って前に進んだ。
「こちらで対応します」と御堂が後ろで言った。
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ダンジョンの中は静かだった。
照明魔法のランタンを凛が持った。岩肌が続く通路を進んだ。前回の埼玉のダンジョンより、通路が狭かった。二人並んで歩けるくらいの幅だった。
二十メートルほど進んだところで、曲がり角から魔物が二匹飛び出してきた。胴体が犬ほどの大きさで、四肢が短く、走る速度が速かった。前の一匹がすでに距離を詰め始めていた。
「右に一匹、正面に一匹」と凛が言った。間を置かない声だった。
蓮は手を伸ばした。
二匹が同時に消えた。走っていた一匹が、次の瞬間そこにいなくなった。着地するはずだった場所に、焦げた跡だけ残った。岩の通路に焦げた匂いが広がった。声はなかった。
「全部消えました」と凛は言った。「魔力反応ゼロ。核まで、まっすぐです」
また進んだ。今度は天井から気配がした。ランタンの光が届かない暗い場所だった。
「上に三匹。密集しています」と凛が言った。「今動こうとしています」
蓮は天井に向けて手を伸ばした。三か所が同時に光った。岩のかけらが落ちてきた。それだけだった。気配が消えた。熱気が天井から降りて、広がって、消えた。
「消えました」と凛は言った。少し間を置いてから「これを本番でやるんですね」と付け加えた。
「本番は規模が違います。ただ、やることは同じです」
五分で核に着いた。
前回のものより、ずっと小さかった。岩盤の中心で、色のない光を静かに放っていた。弱い光だったが、同じ種類の光だった。蓮には分かった。この光が何であるかを、体が知っていた。
「触れてみます」と蓮は言った。
凛が補助具を出した。タイムラグを確認するように指先を動かしてから、「いつでも」と言った。
蓮はしゃがんで、岩盤に手を当てた。
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繋がった。
暗闇だった。前回と同じ暗闇だった。ただ、今回は近かった。前回は広大な空間の遠くに何かが見えた。今回は、目の前に何かがいた。
目が開いていた。
前回は閉じていた。今回は違った。じっとこちらを見ていた。大きかった。ただ、威圧的な感じはなかった。長い眠りから覚めた生き物が、目を開けて相手を確認するような、そういう静けさがあった。
意味が流れてきた。言葉ではなく、意味として頭に届いた。
「お前が、四人目か」
蓮は答えようとした。声が出る場所ではなかった。ただ問いかけた。「あなたは何ですか」
返答はすぐに来なかった。少し間があった。それから、また意味が流れてきた。
「帰れ」
「帰れ、というのはどういう意味ですか。追い返したいのか、危険を伝えているのか、どちらですか」
しばらく何もなかった。蓮は待った。
「壊れる」という意味が来た。
「俺が壊れる、ということですか」
「……わからない」
向こうも答えを持っていないのかもしれなかった。蓮は続けた。「前の三人を取り込んだのは、あなたですか」
「違う」という意味が流れてきた。はっきりとした、否定だった。
「取り込もうとしたのではなかった?」
「力が、流れた。止められなかった」
それが答えだった。根源が意図して取り込んだのではなかった。接触した時に、力が流れ込んで止められなかった。前の三人が消えたのは、その結果だった。
手のひらに何かが来た。引っ張られる感覚ではなかった。押し流されそうな感覚だった。増水した川に足を取られるような感じだった。凛の補助魔法が動いているのがわかった。こちら側に繋ぎ止めてくれていた。
「今回は止められますか。流れを、こちらで受け取って分散させることはできますか」と蓮は問いかけた。
しばらく何もなかった。それから「力が大きくなっている。お前が来るたびに、流れが強くなる」という意味が来た。
「わかりました。本番の時に、止めます」
返答はなかった。繋がりが、静かに切れた。
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手を離した。凛が「大丈夫ですか」と言っていた。
「はい」
「今回は一分半でした。前回より長かったです。途中、補助を強めました。引っ張られていた感覚がありました」
「感じていましたか。ありがとうございます」
蓮は立ち上がった。岩盤の光が少し弱くなっていた。「目が開いていました」と蓮は言った。「前回は閉じていた。今回は開いていて、いくつか言葉を受け取りました。向こうは取り込もうとしたのではなかった、力が流れただけだったと言っていました」
「取り込もうとしたのでは、なかった」と凛は繰り返した。「じゃあ前の三人は」
「流れに押し流されたんだと思います。止める方法がなかった。今回は俺が止めます」
凛が少し間を置いた。「止められますか」
「やってみないとわかりません。ただ、やる方法はわかっています。訓練でやっていた出力の制御と、同じ考え方です」
外に出ると、御堂が四人を別の場所に誘導していた。御堂がこちらを見た。
「どうでしたか」
「目が開いていました。対話できました。向こうは意図して取り込んだのではなかった、と言っていました」
御堂が少し目を細めた。「師匠の記録には、向こうから言葉があったという記述はありませんでした。今回が初めてです」
「師匠が行った時より、向こうの状態が変わっているのかもしれません」
「あるいは、あなたが向こうの言葉を受け取れる状態だったか」
御堂が「師匠の記録には、接触後に体の異常があったとあります。それは」と聞いた。
「ありました。ただ凛さんが引き戻してくれたので、今回は安定していました」
「途中から引き戻す力を倍にしました」と凛が言った。「手首が引っ張られる感覚が出たので。本番はもっと強くなると思います」
「補助の限界は」
「今回の倍まではいけます。それ以上は本番でわかります」
御堂が頷いた。それで話が終わった。
蓮は手帳を出した。「根源と対話した。取り込もうとしたのではなく、力が流れただけだったと言った。向こうの目が開いていた。本番の時に流れを止める。覚醒から五十四日目」
次話:第28話「笹岡さんが、来た」
アルケミアの動きが一時的に落ち着き、蓮は久しぶりに街を歩きます。コンビニの前で声をかけてきたのは、あの笹岡でした。
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タイトル:AIでよくね?と思って会社を辞めたら死に損ない扱いされ、女神に罵倒されながら「満足」するまで何度も転生させられる件
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