第25話「凛に、話した」
お読みいただきありがとうございます。機密扱いの資料を、蓮は凛に話します。「あなたには話してよいと思います」——凛の三年間の理由が、ここで明かされます。そして翌朝、御堂から緊急の電話。アパートが監視されていました。アルケミアが動いています。今夜、剣聖会の施設へ移動します。
夕方、凛に連絡した。
「今日、早川さんから資料を受け取りました。話したいことがあります。来られますか」
「はい。今日行きます」と凛はすぐに返した。
一時間後、凛がアパートに来た。コーヒーを淹れた。二人分だった。テーブルの上に今日受け取った冊子を置いた。
「機密扱いの資料です。本来、無断で他者に開示してはいけない内容です。ただ、凛さんには話してよいと思っています」
「信頼しているから、ということですか」
「それもありますが——昨日、あなたがいなければ私は帰れていなかった可能性があります。この内容はあなたに関係があります。あなたは知っておくべきだと思います」
凛が少し頷いた。「聞きます」
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蓮は今日読んだ内容を、順番に話した。ダンジョンが生命体の器官である可能性。測定不能スキルが同調能力の表れであること。根源が保持者を取り込もうとする反応。過去三例が消えた理由。世界中のダンジョンの魔力反応が増加し続けていること。
凛は黙って聞いていた。コーヒーを持ったまま、途中で口を挟まなかった。
話し終えて、少し間を置いた。
「どう思いますか」
凛がコーヒーをテーブルに置いた。少し考えてから口を開いた。
「私の補助魔法が、取り込みを防いだかもしれない、ということですか」
「一つの仮説として、早川さんはそう言っていました」
凛がカップを両手で包んだ。考えているときの動作だった。しばらく何も言わなかった。
「……昨日、核の感知値が落ちた瞬間に安堵の感覚があったと言いましたよね。あれは、もしかすると私の側の感覚ではなく、向こうの感覚が流れてきたのかもしれません」
「補助魔法が媒介したかもしれない、ということですか」
「わかりません。ただ、昨日はあなたが核と繋がっていた。その繋がりを通じて、私も何かを感じ取っていたのかもしれないということです」
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「一点確認させてください」と蓮は言った。「昨日、核に触れていた間、私の側で何か気づいたことはありましたか」
「魔力の流れが変わりました。あなたの魔力が、核の方向に引っ張られるような感覚がありました。その時、私は補助魔法の出力を上げました。体が先に動いていました」
「引っ張られるのを押し返した、ということですか」
「押し返した、というより——繋ぎ止めた、という感じでした。うまく言えないですが」
「いえ、わかります」と蓮は言った。「暗闇の中から手を離す直前に、外から何かが引き戻してくれているような感覚がありました。それが凛さんの補助魔法だったのかもしれない」
凛が少し目を細めた。「そうだったのかもしれませんね」
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少し間があった。外の風の音だけがあった。秋が深くなっていた。
「わかりました。一緒に考えます」と凛は言った。
「なぜ、第三支部にいたんですか」と蓮は聞いた。
凛が少し止まった。それから少し顔が変わった。頬が、わずかに赤くなっていた。
「あなたのためです」と凛は言った。静かに、はっきりと言った。「第三支部に留まっていたのは、あなたが覚醒する前から、あなたから何かを感じていたからです。その人が退職した後も、どこに行くかわからなかったから、近くにいました」
「三年間、ですか」
「はい。三年間です」
蓮はしばらく何も言わなかった。
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三年間、隣にいた。退職を引き止めなかった。退職が覚醒の条件だと感じていたから。それが凛の三年間の答えだった。笹岡の職場で同じ部署に三年いた人間として、毎日どういう気持ちでその場所にいたかは、蓮には少しわかる気がした。蓮の三年は消耗だった。同じ時間を、凛は別の目的を持って過ごしていた。
「ありがとうございます」と蓮は言った。
「どういたしまして」と凛は言った。「それだけのことです」
凛が言う「それだけのこと」の重さは、毎回違った。今日のそれは、今まで一番重かった。
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凛が帰った後、手帳を開いた。「凛に話した。一緒に考えることになった。凛の三年間の理由を聞いた。理解した、と思う」
書いてから、少し止まった。コーヒーカップが二つ、テーブルに残っていた。片方が凛のだった。洗う前に、少しその場に置いておいた。特に理由はなかった。ただ、そうしたかった。
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翌朝、御堂から電話が来た。
「少し緊急の件があります。今日、時間を取れますか」
「はい」
「施設でお会いしましょう。午前十時に」
電話を切った。御堂が「緊急」という言葉を使ったのは初めてだった。計算された言葉を使う人間が「緊急」と言ったのだから、それなりのことだと思った。
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施設に着くと、御堂がすでにいた。音無も来ていた。テーブルに紙が一枚置いてあった。手書きで住所と停車位置が書かれていた。
「昨日の昼過ぎから、あなたのアパートの周辺に同じ車が繰り返し停車しています。三回、同じ場所に来ています」
「監視されているということですか」
「そう判断しています。車のナンバーはダミーでした。ただ行動パターンから、アルケミアの関与が疑われます」
蓮は手帳に書いた。「アルケミア:監視が始まった。昨日の接触と繋がっている」
「向こうが接触してきたら、断ります」と蓮は言った。
「今夜、移動してください」と御堂は言った。「剣聖会の施設に来てもらえれば、安全を確保できます。凛さんも一緒に」
「わかりました。荷物は最小限で」
「手帳は持ってきてください」と御堂は言った。「あなたの記録は、あなた自身が持っている方がいい」
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施設を出て、凛に電話した。「今夜、動く必要があります。御堂さんの施設に移ります。凛さんにも来てほしいです」
「わかりました。荷物を用意します。何を持っていけばいいですか」
「最小限でいいです。手帳は持ってきてください」
少し間があった。「あなたが言うんですね」と凛は言った。少し笑っているような声だった。「わかりました。夜に合流します」
アパートに戻って、荷物を確認した。着替えを三日分。充電器。財布と鍵。そして手帳。それだけだった。これだけで動けることを確認すると、少し落ち着いた。笹岡の職場を辞めた時も、身一つで出た。その時は何も持っていくものがなかった。今は手帳がある。それで十分だった。
夜を待った。
次話:第26話「三ヶ月という期限」
剣聖会の施設に移った蓮に、早川から観測データが届きます。「次の大規模異常は三ヶ月以内」——そして深夜、施設内に工作員が侵入します。
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