第70話『だるまさんがころんだ』
「だるまさんが〜、ころんだ」
振り向いても、美紀はピクリとも動かない。小夜は念の為にジッと目を凝らすが美紀が動く気配はない。
「だるまさんが、ころんだ」
あと一歩で小夜の肩を叩かれる距離まで近付かれた。もちろん後ろを振り向いた直後に美紀は小夜の肩を叩いて勝負が付いた。
「いや〜、これだけハンデがあるとなかなか勝てないなぁ…… 視覚、聴覚の遮断縛りでやっと美紀が勝てるレベルだとは」
「そうでもしないと小夜ちゃんに勝てないんだから、仕方ないでしょ‼︎ でも、こんな理不尽な遊びに付き合ってくれてありがとう小夜ちゃん」
「べつに良いって。これはこれで修行になるし」
「アレッ、コレむしろ逆効果なんじゃないの……?」
美紀は視覚を遮断されてもなお平然と歩き回る小夜を見ながら、ある作戦を思い付いた。
「じゃあ、あと一回くらいでおしまいにするからね」
「待って、その前にちょっとトイレ」
と言いながら、トイレへ本当に向かうのと同時にスマホである人を半ば強引に呼び出した。電話の相手はそこまで嫌々来た訳じゃなく、それなりに楽しみに神社にやって来た。
「ごめんね、かなえ。私の遊びにわざわざ付き合ってくれて」
「ううん、私もちょうど美紀と久しぶりに遊びたかったから。それで作戦ってどんなのだっけ?」
そして、二人で小夜を驚かす作戦を細かく伝えると意気投合して作戦を実行した。
「ごめん小夜ちゃん、待たせたでしょ?」
「ううん、むしろもうちょっと待ってても良かったんだよ?」
美紀はさっきの発言に何かしらの含みを察したが、それはあえて小夜の作戦と考えこっちの作戦も実行した。
「それじゃあ始めるよ。だるまさんが……」
小夜の背後には美紀一人で近寄り、かなえは小夜の横から迫る簡単な作戦。カッコよく言えば奇襲作戦、ダサく言えば不意打ちである。
「……ころんだ」
小夜は目隠しと耳栓をされたまま振り向く。そこには当然美紀しかいない。小夜は辺りを見回す仕草一つせず、また元の姿勢に戻った。
「だるまさんが〜……」
小夜がこっちを見ていないのを確認したかなえが一気に迫った。横から小夜の肩目掛けて手を伸ばしていく。
“小夜さん、ごめんなさい……‼︎”
「ころ〜ん……」
小夜が突然左手を動かして、かなえの伸ばした腕を掴む。もちろん美紀達の方に視線を向けてなどいない。
「…………だ」
そしてたった今後ろを振り向いた。かなえは腕を掴まれているし、美紀は小夜に見られない様に動かないよう必死に身体を固定した。
「あのさ、美紀……」
“……………………”
口も動かせないので、黙って返事をする。
「もうこの手段いい加減にやめたら? 使い回し過ぎて、もはやコントなんだけど……」
目隠しと耳栓を外して、かなえを見る。
「いつも美紀の幼稚なお遊びに付き合ってくれて、ありがとうございます。かなえさんも毎度飽きずに美紀に付き合ってくれるのは嬉しいですが、流石にこうなるとは分かってましたよね……?」
「えっ、ま、まぁ…………」
かなえは苦い顔をしながら美紀を見て、
「……はい」
さらっと美紀をゆるく裏切った。
「ほら美紀、そろそろお務めに戻るよ。何か言いたかったら言っても良いから」
「……こ」
美紀は涙を堪えながら一言、叫んだ。
「これで勝ったと思うなよー‼︎‼︎」




