第44話『小夜は大変な物を盗んでいきました』
ある日の出来事。
小夜が買い物から帰ると、テーブルに赤い液体が。
“もしかして、美紀が私の為に……?”
しかもいくつか小分けで用意されている。きっと味が違うのだろう。
“いただきます…”
一口で飲み干し、特に味がおかしい訳でも……
“…………ッッ!!!!”
なかった。
急いで洗面台に駆け込み、水を大量に飲む。
「ハァ…… ハァ……」
小夜が飲んだ液体の正体は、激辛商品の汁だった。
夕食の時間。
「あれ? 小夜ちゃん、夕食が進んでないけど大丈夫?」
あれから四時間。舌が受けた辛味は全く衰えを見せず、自分が作った料理全てが辛かった。
本殿の掃除をしている小夜。そろそろ春仕様にしようとこたつを仕舞おうと持ち上げると、中から小さな本が出て来た。
“あれ…? 何だろう……”
こたつを一度置いて本を拾い上げ表紙を見た。
“こっ、これは……!!”
小夜の顔が真っ赤になる。
表紙絵からして、これは……
“これ、絶対に美紀の本だ……!!”
沢山の女の子が表紙で幸せそうな表情を浮かべている。
そして…… まぁ、うん。
小夜は周りを見渡して、懐に隠した。
“…って、これじゃ盗んだみたいじゃん……!! 早く美紀の部屋の本棚に仕舞おうっと……”
と思ったが、何を思ったのか小夜は本を開いて読み始めた。
そして、あらすじを読んですぐに閉じた。
“読んでしまった……”
小夜はあらすじで中身を理解してしまった。
お色気漫画とかではない、完全にアウトの小説。
“まぁ、美紀なら持ってておかしくないけど…… 今、一瞬でもこの本に興味を持った私は変態なんじゃ……!?”
本から溢れるピンクオーラ。
著者の気持ちが勝手に小夜に伝わってしまう。
“はっ、早く元に––––”
「ただいまー!!」
美紀が帰って来てしまった。小夜は焦った勢いで美紀の小説を懐に隠してしまった。
「あっ、おかえり美紀。早かったね」
「うん! 予定より何日も早く終わったんだよね〜! 小夜ちゃんも参加すれば良かったのに…」
「ところで、何をやってたの?」
美紀は飾らずに答える。
「監獄実験だよ」
「危な過ぎるって! …で、大丈夫だったの?」
すると美紀が突然震え出した。
「怖かった……」
危険な実験と言われるだけあって、美紀はもう二度と参加しそうにはない様だ。
「誰とやったの?」
「やったって…… 文音、明… 後は監獄実験をしようと言い出した七海ちゃんの三人だよ。あ、七海ちゃんは文音と明の中学からの知り合いだって」
罪人役は美紀、文音。看守役は明。そして七海は進行役で行った様だ。
「それでね、明が文音を罵倒しだした事に疑問を持ったら明が文音を連れ出したんだよ。そしたら文音が次の日になって帰って来たと思ったら、文音が怯えてたんだよ」
「監獄実験に支配され始めてるね」
美紀は人形劇風にして続きを話した。
「それはいかんと思って明に抵抗したら、今度は私が明に連れて行かれちゃってさ〜」
その後、美紀は明から色々されたらしく、そこでトラウマになった様だ。
「アレは危険だよ! やんない方が良いよ!」
その通りです。
「さて、一通り話したところで…… ねぇ小夜ちゃん、私の本は何処かに無かった?」
「え… 見なかったけど?」
多分、小夜の懐にある小説の事だろう。小夜はバレない様に考える……
「そう? おっかしいなぁ〜、特徴的な表紙だから小夜ちゃんが見たらすぐ覚えるハズなんだけどなぁ……」
そう言いながら本を探す美紀。小夜が今、持っているとは知らずに……
いや、知らないフリもありえる。
そう考える小夜は、「本を見かけていない」事にして話を続ける事にした。
「ところで、表紙ってどんなデザインかな?」
「かなりエッチな絵だよ!」
堂々と言った美紀。
「そっ、そうなんだ〜…… 何処かで落としたりしたの…?」
落としたも何も、その本は今小夜が持っている。美紀の目をあまり見ない様に話を続ける。
「神社のどっかにあるんだよ。読み途中だから早く読みたいんだよねぇ〜」
辺りをキョロキョロして本を探す美紀。自分が持ってる事が美紀にバレたくない小夜。
今回は、小夜にメリットが一切無い駆け引きになりそうだ……
「その本ってまさか……」
「うん、自分で買ったよ」
「いや、美紀はまだ一八歳になってないよね…? その本は一体どうやって…」
美紀は誇らしげに答えてくれた。
「ふふ〜ん、聞いて驚くなよ…? なんと図書館の古本市で買いました!」
「図書館で!? 売ってたの!?」
古本市あるある(?)ですね。
小説コーナーに混じってPCゲーム原作の小説が売られている。
都会の本屋で、最近の小説が子供でも立ち入り出来る場所で売られてたり、なんて。
ありますか?
「買う時も年齢確認されなかったから驚きだよ。私、身長一五〇センチだよ? どう見ても子供に見られるハズなのに……」
「思わぬ所で買っちゃったんだね、美紀は……」
今思えば、美紀が持ってる小説の半分くらいに中古用の値札シールが貼られていた事を思い出す。
小夜はこれ以上深く考えるのをやめた。
「まぁ、今日読みたいワケじゃないから良いや。小夜ちゃん、見つけたら教えてね」
美紀は部屋に行こうと数歩歩いて、振り向いた。
「読みたかったら読んで良いからね!」
“いや、内容的に読むまでもない様な……”
美紀は部屋に今度こそ戻って行った。小夜は美紀に見られてない事を確認して、そっと本を取り出した。
“コレを読むの…?”
表紙を見て、苦い顔になる。
「読んでも良い」とは言われたが、小夜にとっては読みづらい。
“でもまぁ、読むだけなら……”
小夜は本に手をかけてページをめくった。
「…………」
やっぱり、美紀の好みには時々ついて行けない。
ド直球な描写が小夜の心に刺さっていく。
「無理だ〜… 私には読めない……」
本をパタンと閉じ、こたつに置こうとした時。
…人の視線を感じる。
「あ…………」
物陰から美紀がジーッと見つめているではないですか。
美紀の表情を例えるなら、「あの小夜がエッチな小説を読んだ」瞬間を見てしまってショックを受けた時の表情。
“あぁ…… 多分美紀はこう思ってるんだろうなぁ……”
『小夜ちゃん…………』
ただシンプルにショック。
これだけ。
「こっ、これ見つけたよ……」
もう無駄だとは思うけど、とりあえず平然を装う。
「ありがとう……」
ショックを受けた顔のまま本を受け取る美紀。
「読んでも良い」とは言ったが、まさか小夜がそれを真に受けて本当に読むとは思わなかったのだろう。
美紀は少しだけ、自分の発言に対して後悔した。
小夜「あ、あのさ…」
美紀「ゴメン小夜ちゃん…」
小夜「いや、大丈夫だよ?」
美紀「誘った私がバカだったよ…」
小夜「ううん、私だって人間だから…」
美紀「いや… その… ごめんなさい」




