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巫女さんメモリーズ  作者: 華永夢倶楽部
第37話〜第48話
47/85

第43話『風邪に負けるな』

 「来宮(きのみや)、卒業おめでとう」

 「(しゅう)も卒業おめでとう」

下級生から見送られる三年生。下級生のアーチをくぐって体育館を出るのが、この学校の卒業式の締め。

秀と来宮がアーチをくぐっている最中に、別れを惜しみながら握手を求める人も。

当然、美紀(みき)もその一人だ。来宮を見つけるなり両手を差し出し、握手を求める。

 「来宮〜! 卒業おめでと〜!」

 「美紀、あと二年間頑張るんだぞ」

 「はいっ! 頑張ります!」

敬礼で返事する。

ここにいる生徒のほとんどが別れを告げるが、あまりにも騒がしいので叫ばないと卒業生には届かない。

 「ばいばーいメグー!」

来宮の気配を感じ、(あきら)が近寄って抱き付く。

 「ちょっ… 明っ、その人違うよ!」

そんな明に来宮が近寄り、優しく抱き寄せる。

 「天海、来週から我はここに来る事は二度とない。しかし、もしこの街の何処かで会えたなら…… その時はまた会おう」

「アデュー」とポーズを送り、明と文音(あやね)から離れて行く。

 「ばいばーい!」

明が大きな声で叫ぶ。

そして、卒業式が終わって帰宅する。

この瞬間、来宮と秀は高校生ではなくなった。

 「ふふふ… これから我が人生は新たなステージに向かう。幾多(いくた)の試練を乗り越えた我が身に敵などない!!」

次の日。

 「ゴホッ、ゲホッ、ゲホッッ!!!!」

…………。

新たなステージへと続く第一歩。

来宮はその第一歩を、出鼻を(くじ)くスタートで始めたのだった。


 「ふふふ…… まさか初日がこんなスタートになるとはな…… どうやら私は今日一日不幸になりそうだ……」

日本中を襲う新型コロナウイルス対策として外出自体を制限された為、秀の看病に頼る事は出来ない。

来宮の母は水枕とおかゆを用意してくれた。来宮はおかゆをありがたく頂き、治療に専念する。

 「身体が重い… まるで重力が倍になった様だ…」

一人でただ寝ているのは予想以上に暇で、辛い。

何もする事がない。

 「あぁ〜、マスクしてると口が蒸れる!!」

マスクを引っ張ってゴミ箱に投げ捨てる。

そして、拾い上げてまた装着する。

 「……マスクはしないとな」

来宮は大人しく休む事にする。

今の時刻は午後三時。卒業したばかりの皆は就職や進学に向けて準備をしているが、来宮だけは違う。

来宮は風邪で寝込み、一日中安静にしなければならない。

 「…………」

珍しく黙る来宮。

そろそろ喋る気力が無くなってきたのだろう。

では、しばらく私も黙るとしましょう…


 「……体が楽になってきたな」

起き上がって時刻を気にする来宮。現在の時刻は午後四時五十分。

昼食を食べてない来宮にとって、夕食も食べないのは正直おやつ抜きよりも避けたい。

 「冷蔵庫に何かないかな…」

おぼつかない足取りで一階に下り、力が入らない腕で冷蔵庫を開ける。

 「おっ、プリンがある!!」

目を輝かせてプリンを手に取る来宮。

しかもビックサイズだから尚更(なおさら)嬉しい。

 「はぁ〜、まさかこんなに大きなプリンに会えるとは…… ふっ、どうやらまだ私の運は尽きてない様だな」

フタを取ってミニスプーンを構える。

 「さぁプリンよ… 我が身体の一部になる事を光栄に思え!!」

と言って優しくプリンにスプーンを通し、小さな口に入れた。

 「ん〜……」

美味しい。とても美味しい。

口の中が甘味(あまみ)で満たされる。

 「流石だなぁプリン… 期待を裏切らない美味しさだ。さぁ、全て頂くからな」

一口、また一口と口に入れる。

まだ半分しか食べてないのが来宮にとって驚きの事実。

ここで、スプーンで出来る限り大きくすくってみる事に。

 「そ〜っとだ…… そ〜っとな……」

落ちない様にすくっていたが、流石に無理があった。

すぐに千切れて落ちてしまった。

 「うっ… 無理だったか」

落ちたプリンをすくって口に入れる。

 「うん、美味い」

カラメルを最後に食べて、最後の一口をじっくり味わった。

 「ごちそうさま」

軽く洗ってゴミ箱に捨てたので、歯磨きをしてさっさと自分の部屋に戻った。


夜になり、お風呂に入らないといけなくなった。

衛生面を考えて、来宮は最後に入る事に。

来宮が入る頃には、もう午後の九時半を少し過ぎている。若干だが眠気を感じているので、早く上がりたいと来宮は思っている。

 「うぅ〜……」

お風呂は気持ち良いが、今の来宮は体調不良。気持ち良い快感と気持ち悪い不快感が同時に体中に伝わる。

 「吐きそう……」

喉奥に違和感。これはもう吐き気だと来宮は確信を持っている。

 「のぼせない内に早く上がらないと…」

シャワーを軽く浴びて、普段よりずっと早くお風呂から上がる。

髪を乾かし、ふらふらする体に鞭打ち何とか二階に上がり部屋に入る。

布団の前で倒れ込み、そのまま眠りにつこうとする。


 「……いかん、布団に入らず眠ってしまった」

本当に眠ってしまい、夜中に目覚めてしまった来宮。もう一度眠りにつこうとするが、目が覚めてしまい眠れなくなっている。

 「マズい… 夜中はありとあらゆる力が渦巻く魔の時間だ。そういえば時刻は……」

午前二時。

 「う、丑三つ時だと……!? なんて事だ… 街中の人間に病原菌を撒き散らす奴が夜な夜な家に訪れてはウイルスを吸わせる、凶悪極まりない悪魔が来る時間ではないか…… しかも、奴と目が合えば最後、生存率ゼロのウイルスを嗅がされ最後は……」

来宮の口が止まる。

 「早く寝ないと……!!」

せめて目が合わない様、布団に潜り込んで眠気を呼び覚ます。

…が、すぐにはやって来ない。

 「はっ、音がする……!!」

誰かが階段を上る音。誰かが確実に近付いている。

もう来宮に逃げ場は無くなった。

 「……?」

しかし、部屋には来なかった。

 “私の存在に気付いてないのか…!?”

だとしたら、まだ助かる道はある。

 “今の内に寝ないと……”

目を閉じて眠気を呼ぶ。

そして夜中の時間に助けられ、眠気は突然やってきた。

来宮は気付かぬうちに眠りについた。


次の日、少しだけ体が楽になった来宮がまず最初にとった行動は……

 「おはよう秀。私は今、体の調子を取り戻しつつあるぞ」

 『治りかけだろ? だったらちゃんとベッドに潜って休めって…』

 「ずっと寝てたから暇なんだ! なぁ秀、せめて私に付き合ってくれないか!?」

 『分かった、分かったって。少し付き合ってやるよ』

 「ありがとう秀! 感謝するぞ!」

 『んで? 来宮は今何の話をしたいんだ?』

 「私の家は今、両親がいないんだ。なぁ秀、今からウチに来れるか?」

 『…………』

 『……やっぱ切るわ』

 「あぁ待て!! 冗談だ!! 私に励ましの言葉をあげるだけで十分だ!!」

 『……風邪をこじらせるなよ、来宮』

 「……うん、頑張る」

来宮「私以外にも、風邪を引いた者はいるのかも知れんな……」

秀「間宮さんは元気だし、他の皆も平気なんだが……」

来宮「突然『風邪』をテーマにするのは、いくら何でもおかしいのでは……?」

秀「いや、考え過ぎだろ……」

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