第40話『来宮は一人でも通常運転なのか』
「それじゃあ、留守番頼むよ」
「いや待て、待ってくれ!」
しかし、母親は来宮の呼びかけに反応せずに買い物に行ってしまった。
「…くっ」
来宮は家で一人お留守番する事になってしまった様だ。
「…孤独な時間、だな」
玄関で倒れ込みゴロゴロ転がるが、体のあちこちが痛くなった。
「やめよう。自分から怪我するのはいけないからな」
リビングに戻って、ソファーにポスンと座って横になった。
「囚われの身ならばヒーローが助けに来るんだが… 場所からして、来るわけではなさそうだ」
分かってはいるが、本当に誰もいないのかどうか確かめたくなる。
大声で叫んで誰かいないか本当に確かめたり、部屋中を覗いて楽しんだりした。
そして一人を悲しんだ。
ソファーに座り込み、物鬱気な目で窓から見える風景をただ見つめて、
「……一人は、嫌だな」
嫌な事をかすかに思い出したが、すぐに忘れようと頑張った。
冷蔵庫の中を覗いてみると、かろうじて昼食が出来そうな感じのおかずと、来宮の大好きなメロンソーダが入っていた。
「うん、美味しいな」
いつも飲んでるから特に感動した訳ではないが、美味なのは変わらなかった。
やっぱりメロンソーダが好きだ。
「まずは一人の時間を楽しむ事、それがまず最初にすべき事だ。孤独は心をエグる遅効性の精神攻撃だからな」
二階に上がって自分の部屋に入り、学校から出された宿題に取り組む。
一秒も迷う事なく、出された問題を軽々と解いていく。
「うむ、これでよしと」
十分程で全て終わらせた。時間割を済ませ、制服の汚れを楽しそうに取り除いても、時間は沢山あった。
「…………」
階段を下りながら、来宮はふと前に母親が家にいなかった頃を思い出す…
「あの頃は辛かったなぁ…… 異常に大変な目に遭って、そこから逃げる為に助けを呼んでも誰も来なかった、あの日々は」
あの出来事を乗り越え、今では何不自由なく過ごしているが…
いつしか、一人でいる事が苦手になってしまった。
「…が!!」
そんな説明は過去を元に記載した語り文を否定しだした来宮。
「私は来宮 めぐみ!! 闇の過去があってこそ、光輝く未来を作る事が出来る!!」
一人なのを活かして、家中に響く演説主張を始めた。
「人は言う! 『未来は作るのではない。生み出すモノだ』と! では、未来を作るには何が必要なのか!? その答えは『過去』!! 事実無しで架空を生み出す事は不可能である!!」
階段の五段目で長々と語るが、誰も聞いていないのは言うまでもない。
「陰鬱かつ凄惨な過去を抱えた者は、必ず見返りとして幸福で最高の未来が待っているのだ!!」
数秒の沈黙。
「……とは言ったものの、やはり一人に恐怖を覚える私がいるな」
一人でいると、自由になるが何をしようか迷ってしまう。娯楽用品はあるが、ほとんどが対戦用の物。
来宮の母が子供の頃よく遊んでいたらしい、どう見ても古そうなテレビゲーム機があるが、本格的なパズルやアクションがいくつかある。
正直、初心者の来宮には一面クリアすら無理だろう。
「そうだな… とりあえず洗濯をしよう」
自分の服を洗濯機に入れ、開始ボタンを押した。
『じーーーーっ…』
何分か見つめる。
「おっと、また奴の姿に魅了されてしまった…」
急いで洗濯機から離れて、今度は掃除機を手にした。
部屋だけでなく、家中のゴミを吸い取って綺麗にした。
おやつタイム。
メロンソーダを一本。
「美味しい……」
まだ夕方前だが、お風呂に入る事にした。
浴室の電気を付けず、窓から入ってくる微かな日光で浴室を照らして入るお風呂は、まるで夕方に入る銭湯の感覚に近く感じる。
「なかなか良いな。明るい内のお風呂というのも」
深く息を吸って、大きく吐く。
心身共にリラックスしている。
「気持ち良い……」
目を閉じて湯船の温かみを感じる…
深く。
深く。
「…………っ!!」
顔が湯船に沈みかけて、来宮は浴室で溺れそうになった。
「はぁ〜…… 助かった……」
脱衣場で濡れた髪をバスタオルで拭き、次に体を拭いていく。
少しお湯を飲んだかもしれない。喉奥が少し変な感じなのは、そのせいかもしれない。
「やはり、どんな時も常に考える事で危機は乗り越えられるな…」
その時。
電話の呼び出し音が鳴り出した。
何回もコールして、誰かを待ってる様にも感じる…
“電話に出たいんだが… まだ裸だからなぁ〜……”
不意に人がいる事もあるから、不用意に電話に出る訳にはいかない。
“すまん、許せ……!”
しばらく鳴り続けて、音は止んだ。来宮は落ち着いて下着を穿いて、服を着た。
「今のは一体誰からのだったのだろう……」
着信経歴があればこっちからかけられるが、家電話なのでこっちからはかけられない。
ここで来宮の推理が始まる…
「まだ学校から帰って二時間も経ってない。もし私の事を知ってて、その私に用があって電話をかけに来る人となると……」
空のペットボトルを頭に乗せヨガっぽいポーズをとるが、すぐに落とす。
ペットボトルを拾い、ゴミ箱に入れてソファーに座り込む。
「誰だ?」
分からなかった。
「私に電話をかける人なんて、果たしてこの世に存在するのだろうか…?」
色々と考えてみたが、すぐには思い付かない。
「秀…」
その時、今度は玄関のインターホンが鳴り出した。
来宮は瞬時に警戒態勢に入り、玄関前で構えた。
“今度は直々にお出ましか… やる時が来た様だな”
念の為、玄関に鍵をかけて簡単に開けられない様にしてやった。
相手も焦っているのか、ガチャガチャさせて無理矢理開けようとしている。
「バカめ、そんな事で開けられると思うとでも思ったのか!!」
玄関の扉をドンドン叩いて、誰かを呼ぶ声が聞こえる。
『おい! 開けろよ!』
男の声だ。
若いぞ。
「騙されぬぞ!! 貴様は偽者なのだろう!! 名を名乗れ!!」
『俺だよ! 秀だよ!』
言い方に何処かボケを感じるが、来宮には伝わらない。
「そうか、ではお帰り頂こう」
『いや本者だって! あそうだ、今ここでお前のセリフを言ってやろうか?』
しばらくして、向こうの男が叫んだ。
『丑三つ時に集う悪霊達に告ぐ。ここにある結界はお前達の––––』
「うわぁぁぁぁ!! もういい!! お前は秀だ、入れ!」
玄関の扉を開けて相手を確認すると、秀が立ってた。
「や、やぁ秀… どうした?」
来宮はオドオドしながら質問する。秀は来宮の肩を掴んで、
「お前、一人で大丈夫か?」
秀が積極的に来る。来宮はいつもよりグイグイ来る秀に驚きながら、
「ま、まぁ… 大丈夫だが?」
「そうか、なら良かった」
秀は手を振ってから帰った。
「あぁ…」
帰ってしまった。
来宮は玄関前で立ち尽くしている。
「また一人だ……」
その場で座り込んだ。
来宮「……」
来宮「秀、また来てくれ……」




