第41話『巫女さんだって恋がしたい』
北海道各地で雪が降り積もる中、八王子にある神社に住む二人は今日も境内から都内の風景を眺めている。
「ねぇ小夜ちゃん…」
いつもの様に美紀が小夜に話しかける。
「何、美紀?」
「もし私達がごく普通の高校生だったら、どんな生活をしてたのかなぁ…?」
小夜は高校生としての自分を想像してみる。
制服を着て学校へ通い、美紀の様な明るくてお喋りな女の子…
もしくは美紀本人と学校生活を送る毎日……
「…あんまり変わらない気がする」
「そう?」
美紀は小夜の顔を見ようと覗き込む。
「まぁ、今と変わらないのは私も薄々そう思う…」
昼休みになると、美紀は高校生の小夜とこんな感じで一緒になると思っている。小夜も美紀と同じ事を考えている。
「でも、会う場所が違うんだから何か違う事とかしてそうじゃない?」
「違う事…」
小夜は目を閉じて考える。
美紀に頬をつままれたり。
美紀に弁当のおかずを盗られたり。
美紀を追いかけたり。
「変わんない……」
美紀はまだ何も言わない。もしかしたら、まだ考える時間を与えてくれているのかもしれない。
小夜は美紀の気持ちをありがたく受け取り、また深く考えてみた。
“例えば、私が一人でいる時とか……”
放課後になっても、居残りの関係でまだ教室に残ってたりするかもしれない。
ふと窓からグラウンドを覗き込むと、外周を走って体力つくりに取り組む美紀の姿が目に入った。
“あれ? どうして美紀が……?”
もう一度。
今度は、昼休み中の時間を想像してみる事に。
自分の机で読書していると、男子から声をかけられた。色々と話していく内にその人と仲良くなり、ほぼ毎日会う様になるかもしれない。
それを陰から見ていた美紀が、小夜をからかいに話のネタにするかもしれない…
“また出てきた……”
一つ分かった事がある。
美紀はやっぱり女の子で、萌えで言う『ウザかわいい』に属するかもしれないと。
だとすると、結局どんな出会い方でも美紀は変わらない事になる。
たとえ大人になっても、少し丸くなった位しか変化がないのは目に見えている。
「やっぱり変わんない……」
「そっかぁ……」
美紀も薄々気付いていると言っていただけあって、特に驚いた様子は無かった。
「でも、小夜ちゃんは声で男子を釘付けにしそうだね。まさに、ザ・癒しボイスだし!」
「癒しボイス?」
その言い方が既に癒しボイスである。
「美少女の特権であるキレイな声……! 花澤さんかっ!」
「美紀も可愛い声だと思うけど…」
「それは認める!」
「認めるんだ…」
美紀が突然立ち上がった。
「でもね小夜ちゃん。私はロリボイスが良いの! 小夜ちゃんは美少女ボイスで私がロリボイス。バランスは半々になるからいい感じになるはずだよ」
美紀は数歩ほど歩いて小夜の真向かいに立つ。
「希望は小岩井さんだね!」
「あれ? これ声優の話?」
「そう! 願望だよ!」
美紀はフンと鼻を鳴らした。小夜はまた少し考えて、
「そう言えばだけど、美紀って確か魔法少女が好きだよね? 美紀って、やっぱりそういう女の子が好きなの?」
美紀の目つきが変わった。
「ちょっと違うけど… まぁだいたい合ってるね。けど、現実の女の子も好きだよ?」
美紀はその場で宙返りを披露して、見事にコケる。
「でね、いつかは現実の男の子と恋人同士になりたいなぁ〜って思ってるよ」
立ち上がって汚れをはらう。
「けど、そうしたら巫女としての資格を失う事になるね。結婚とか出産とかしたら……」
「出産……」
美紀の顔がほんのりと赤くなった気がした。
小夜は昔の美紀と今の美紀を比べて、美紀にバレない様に驚きながら歩み寄った。
「大丈夫だよ美紀。あなたが純潔を男子に捧げただけで、ここから追い出したりはしないから。むしろ『安産祈願』の御守りを授かりに来ても良いんだよ?」
「小夜ちゃん……」
美紀は小夜に抱き付く。
そして、
「……やっぱり育ってない」
小夜は美紀を追いかけた。
「小夜ちゃん。巫女ってさ、日本の魔法少女に見えない?」
美紀が突然の発言で、小夜は美紀の脳内に向けてハテナを浮かべた。
「ほら、よく巫女は漫画やアニメとかで戦う姿が描かれてるじゃん? あぁいうのって、私から見れば魔法少女と変わらないんじゃないかなぁ〜って」
言われてみれば、間違ってはない。
実際に、小夜も昔はよく悪い妖怪を退治していたのでよく分かる。
「でも私達、戦ってないよね…?」
「うん。今の私達はののと変わらないね」
「そのキャラの例えは、誰にも伝わらないと思うけど…」
美紀がハッとなる。
「もしかしたら、既に誰かが魔法少女になってるかもしれない…!」
いきなり変な事を言い出した。
「どういう事?」
美紀は自分の周りにそれっぽい人がいないか思い出した。
「…いた!」
小夜にはもう、美紀を追いかける事が出来なくなってしまった。
「ちょっと確かめてくる!」
「あっ、待って!」
走って行ってしまった。
ずっと待っていると、ようやく帰って来た。
「なってたかも……」
「かも…?」
美紀は息を切らしながら縁側に座り込んで、最後のどら焼きを手にとった。
「おいし〜」
“まさか、別世界線の話なのか……!?”
美紀が小夜を見つめる。小夜は負けじと美紀をジッと見つめ返す。
「うわっ… 小夜ちゃんってそんな人だったの…?」
「いきなり変な目で見られた!?」
小夜は慌てて少し目を逸らした。美紀は小夜を見つめるのをやめ、話を始めた。
「小夜ちゃんってさ、女の子の魅力をこれでもかと持ってると思うんだよ。だってさぁ、低身長に黒髪に巫女に花澤さん! 私も同じくらい特徴は持ってるけど、きっと小夜ちゃんが一番人気だよ!!」
悔しそうに言う美紀は、嘘泣きを始めた。
「くやしい! 私も年相応の女の子として見てほしいのに!」
小夜は一応、学校で美紀が人々から注目される日々を想像した。
神社で美紀と一緒に生活してきたおかげで、男子と仲良く会話する美紀の姿が簡単に想像出来た。
ふと現実の美紀を見ると、美紀は小夜の前に立ち、涙目で叫び始めた。
「もうっ! 小夜ちゃんの魅力チート! ロリ! 貧乳!」
と、悪口を言っているが…
顔が微かに笑っているのが、残念ながら見えてしまった。
「美紀、ちょっと落ち着いてよ」
「は〜い」
美紀の声に落ち着きが戻り、いつもの美紀に戻った。
「私達の事を『百合』だと言う人がいる」
最近は美紀や小夜などに対する誤解が絶えない。ついに美紀は百合関係を全面否定する事にした。
「百合と友情は違うのに、女子同士が会話するだけで『百合だ百合だ』と言われるんだよ? 女子同士イコール百合じゃないぞー!!」
「実際に、百合について調べた上での本作だからね。美紀とは仲良しだけど、恋愛感情とまでは、ねぇ…?」
百合は無いです。
本当です。
「私から見て、小夜ちゃんは男子に人気あると思うよ」
おやつの時間が終わり、食べた物の片付けをしながら美紀は言う。
「あ〜、よく男の子に話しかけられるけど… 気に入られてるんだね」
実際に小夜は、おやつ前に訪れた幼稚園の男児に群がられていた。
美紀にも男の子は寄って来たが、小夜と比べると女の子の方からの人気があった。
「やっぱり、小夜ちゃんの優しさを感じるんだね。男の子達は小夜ちゃんを『お姉さん』て思ってるんじゃない?」
「私が… お姉さん…」
数秒黙り込み、昼に会った幼児達を思い出した。
『お姉ちゃん、おまもりください!』
御守りを授けて、
『ありがとうございます!』
“悪くないかも……”
嬉しくなった。
「うぅ… 私だって男の子と遊んだもん……」
美紀と一緒になった男の子とした遊びを思い出した。
『お姉ちゃんはなんて言うの?』
『私はね、美紀って言うんだよ〜』
すると男の子が美紀の手を引っ張り、
『じゃあ美紀! 美紀が鬼だー! 逃げろー!』
男の子のある言葉にショックを受け、突然始まった鬼ごっこを本気で相手する事にした。
『こら〜! 私を呼び捨てするなー!!』
サッカー部で鍛えている瞬発力で、美紀から逃げる幼児を本気で追いかける。
小夜と他の幼児で御守りについてお話をしていると、近くではしゃぎ声が聞こえてきた。
“ずいぶんと楽しそうな声が……”
チラッとよそ見してみると、なんと美紀が怒りながら、逃げる幼児を情け容赦一切無しの実力完全解放で追いかけていたではありませんか。
『ちょっと美紀! 少しは手加減してよ!!』
美紀は小夜の声が聞こえたのか、立ち止まって小夜を見た。
『イヤだ!! だって私の事を呼び捨てにしたんだよ!? 断じて許すまじ!!』
美紀の声には嘘がなく、年下に呼び捨てされた事にショックを受けた事が分かった。
『あぁ〜……』
小夜はこれ以上何も言わなかった。
回想終わり。
「しかもあの男の子達がね、私に向かって『どこの小学校?』って聞いてきたんだよ…? 私は『小学生じゃないよ、背の小さい高校生だよ』って言ったら……」
「言ったら?」
美紀は小夜の肩をいきなり掴んで、驚いた顔で答えた。
「その子がね、『そっか。ウチのお姉ちゃんも背がちっちゃい高校生だよー』って」
案外近くに背が低い高校生がいた。
小夜はあまりにも意外なオチに、表情を少ししか変えられなかった。
「いやー、あっさり信じてくれたんだよー。その子のお姉ちゃんのおかげで」
ありがとう男の子のお姉さん。あなたの事はしばらく忘れません。
「でもさ〜、小夜ちゃんの方が私より背が低いのに〜」
ほっぺを膨らませて小夜を見る。
小夜は困り顔で、
「…多分、視点の問題じゃないかな…?」
美紀は納得したのか、
「うん、あり得るね」
理解した。
そして夜。お風呂から上がってタオルで濡れた体を拭いてる途中、美紀が小夜に話しかけてきた。
「ねぇねぇ小夜ちゃん、最近私とお風呂に入っても何とも思わなくなったね」
随分と前から一緒に入ってるのに、美紀は今さら小夜の変化を感じた。
「まぁ、うん…… もう慣れたし、ね?」
「じゃあさ、そんな小夜ちゃんに連絡なんだけどさ…」
小夜は美紀の顔で何となく分かってしまった。
「木曜日に学校で明がね、『神社で遊びたい!』って言ってたから、小夜ちゃんも明の御守り頑張ってね〜」
「待って……! 『頑張ってね』って、もう決まってるの!?」
予定だと二週間後からのいつか。それでもいつの間にか決まってた予定に小夜は驚いた。
「んじゃ、おやすみ〜」
美紀は被害を受ける前に着替えを終えて、立ち去って行った。
「あっ、待って…!」
小夜はこんな事で急がず、丁寧に着替えを済ませてから美紀の部屋に入った。
「あのさ、お泊まりとかあり得るかな?」
しかし美紀は既にPCゲームをして、小夜がとても近付きづらい環境になっている。
それでも勇気を出して美紀の背後に立ち、
「ねぇ美紀…」
美紀の肩を優しくトントンして、美紀に気付いてもらってからもう一度話しかけた。
「その、明って子はここにお泊まりしそう?」
ゲームのオートモードを解除して、イヤホンを両方外してから美紀は答える。
「うん、かもね。明は結構チャレンジャーだからね。もしかしたら、ここの御神体に会いたがるかもしれないし」
ここの御神体。
「七福神に会いたいのかぁ……」
会えないんだが、触れない訳ではない。
「……分かった。良いよ、泊めても」
「ありがとう小夜ちゃん! お礼に歯磨き粉をあげるよ!」
「あ、ありがとう…」
買ったばかりなのか、未開封で小夜がよく使う歯磨き粉だった。
「んじゃあ、せっかくだしさ… 一緒にする?」
ゲーム画面はもう一歩手前から。小夜はほんのりと顔を赤くしながら、
「い、いいよ…… 私には美紀の様に出来ないから…」
明「今度のお泊まり、楽しみ〜。美紀と一緒に色々遊ぶしさ〜」
文音「あんまり迷惑かけない様にね。巫女さんにも迷惑かけない様に。良い?」
明「はーい!」
文音「返事だけは良いんだよね〜……」




