第31話『冬を楽しみにしていた』
「起きた! 早速冬着に着替えてっと!」
ベッドから起きるなり素早くパジャマのボタンを外し、下着がハッキリ見えない程の素早い着替えで冬着をまとった。
「小夜ちゃん! おはよう!」
「おはよう、美紀」
小夜が廊下を見た頃にはもう、美紀の姿は玄関にあった。
靴は防寒仕様、マフラーにニット帽で寒さ対策もバッチリ決めた。
「小夜ちゃん! 雪遊びしに行ってくる!」
「行ってらっしゃい。気をつけてね」
「分かってるって!」
玄関の扉を勢いよく開け、目の前に広がる世界をワクワクしながら見つめた。
そこに広がるのは、冬景色。
雪が積もってない冬の世界。
美紀はしばらく姿勢を崩さず、ゆっくり姿勢を崩して神社に戻った。
靴を脱ぎながら美紀は小夜を見て、
「朝ご飯は?」
小夜は体を倒しながら美紀を覗き込む様に見ながら、
「出来てるよ」
シンプルに答えた。
「はぁ〜… 昨日テレビで『雪が降る』って言ってたのに〜」
白い息を吐きながら寒空の下で焼き芋を食べる事にした美紀と小夜は、店で購入した芋を落ち葉の中に隠して火を点けた。
「あれ? 点かない…」
焚き付けを取り出し、もう一度火を点けると、すぐに着火した。
「小夜ちゃん! 見て見て! すぐ点いたよ!」
「うん、すごいよ美紀。美紀は火の扱いが上手だね」
「まぁね!」
美紀は少し気分が良くなり、他の物を燃やしたいのかウズウズしだした。
「あっ、確かお札を燃やすと聖なる煙が出るって聞いたけど… そこで本家巫女さんの小夜ちゃんから一言! このハナシは本当ですか!?」
小夜はお札を二枚取り出し、美紀に手渡した。
「本当だよ。でも、墨で書いた札や霊力を持った人が作らないとただの紙切れになっちゃうから、そこは覚えていてね」
「なるほど! 札を燃やすと聖なる煙が出るのはあながちウソではないと証明するため、たった今頂いた札を燃やしてみましょう!」
美紀はリポーター風の喋りを続けながら、小夜から貰った札を火に近付けた。
札は特に非日常的な燃え方をせず、赤い火が札を少しずつ燃やし尽くしていった。
美紀は札が燃える様子を一言も喋らずに見つめ、札が燃え尽きてもしばらく動かなかった。
「…美紀?」
小夜の声でやっと美紀が動き出した。
「なんかスゴかった」
「何か見えたの?」
「いや、見えなかったけど感じた」
「さっきの札はね、実は私が作ったんじゃなくて美紀が作った札だよ」
「えっ… アレ私が作ったの!?」
すると美紀は火に近付いて、煙を胸の辺りに当て始めた。
小夜は美紀の奇行をやや引きながら、
「えっと… 何やってるの?」
美紀は首だけを小夜に向け、煙を当てながら口を開いた。
「悪い所を治そうかと思ってさ。札の煙で代用出来ないかと」
「そういうのは、浅草寺で浴びた方が効果があると思うんだけど…」
「そろそろ焼けたかな?」
美紀は太めの木の棒を片手に落ち葉を突いて、焼き芋を取り出した。
「あつつ…」
思ってたよりも熱かったが、手袋をはめておけば熱さは感じなかった。
「はい、小夜ちゃん!」
「ありがとう美紀」
お互いに一つずつ、焼き芋が手元にある。神社の縁側に座ってアルミホイルを取った。
『いただきます!』
二人で焼きたての芋を一口食べた。
「あっつ!!」
舌を出してヒーヒーしながら火傷を冷ますのは美紀。
もぐもぐ食べ続ける小夜は美紀を見て、少し呆れている。
「そろそろ猫舌を直そうよ。熱い食べ物を冷ますまで暇でしょ?」
すると美紀は焼き芋を口に近付け、プルプルしながら喋った。
「いっ、いや… ずっと食べても直らないからさ… もうこうするしか…」
“ドMだなぁ…”
小夜が見た美紀の姿は、口に入れて熱がる美紀が、もうそんな風にしか見えなかった。
「あぁ〜、美味し〜」
やっと食べられる様になり、芋を一口食べてはまた一口食べて頬張る。
そしてそのまま喉を詰まらせるのだが、小夜はそんな事が読めている。水を欲しがる美紀に水を差し出しておかわりも用意した。
美紀は呼吸を整えながら水を飲み、深呼吸で何とか落ち着いた。
「一気に飲み込むと息が詰まるから、水を飲みながら食べると良いよ」
「うん、そうしとくよ。そうか… お餅でノドを詰まらせる事故って、こんな感じになるんだね」
「そうだよ。だから正月にお餅をわざわざ詰まらせるのだけはやめてね」
「はーい…」
美紀は苦しいのが嫌だったのか、素直に聞き入れてくれた。
小夜は不完全燃焼状態の落ち葉にもう一度火を点け、もう一つ芋を入れた。
「ちょっとおかわりをしたいから、美紀は焼き芋をゆっくり食べててね」
「うん、分かった」
芋が焼けたかどうか確かめる為に落ち葉を少しどかし、焼き芋になってるか確かめてから戻してしばらく待った。
待っている間にも、美紀は焼き芋を美味しく頂いている。
少し時間が経って、ようやく焼き色が付いた芋を取り出して一口食べた。
「うぅ〜ん、美味しい」
小夜はアツアツの焼き芋をいとも簡単に口にし、美味しそうに食べている。
美紀はそんな小夜を羨ましそうに見ている…
「……」
美紀がずっと見つめている事に気付いていた小夜は、しばらく無視を決め込んだ。
しかし、ずっと無視はしていられない。
何故なら、美紀は小夜の内面を知っているからだ。「どう動いたら反応してくれるか」を知っている。
まずは小夜をひたすら見つめる。睨まずに一点を見つめるだけ…
最初は無視されるが、小夜は視線を人一倍感じるのを知ってる美紀は、邪な感情をたっぷり込めて見つめた。
小夜は三分程美紀を無視していたが、今度はボディタッチをして来そうなので、される前に無視を止める事にした。
仕方なく。
「…何? どうしたの?」
美紀は小夜が気付いてくれて嬉しいのか、嬉しそうに答えた。
「あーんして」
「いや… まだ熱いよ? 食べたいの?」
美紀は既に口を開けて待機していた。
「いいよ! ばっちこーい!」
「じゃあ、あーん…」
「あーん…」
小夜はそーっと芋を美紀の口に近付け、噛みやすいサイズで噛める様にゆっくり口に入れた。
「あむっ。んむんむ…」
美紀は小夜が焼いた芋をじっくり味わい、ほっぺを抑えた。
「美味しい?」
美紀は水を飲み干し、舌を出してヒーヒーしている。
「熱い…」
「だから言ったのに…」
東京の夜空を見上げながら、夕食後のアイスで一息吐く美紀。小夜は片付けしながら美紀に話しかけた。
「あのさー、寒いのにアイス食べて平気なの?」
美紀はアイスを咥えながら振り向き、
「平気だよ! 私は寒くてもアイス食べられるからね!」
「丈夫なお腹だね…」
「うん、丈夫だよ!」
美紀は急に小夜の隣にある冷凍庫の中にあるアイスを取り出し、袋を開けてアイスを口に入れた。
「…ねぇ、それで何本目?」
「えっ? …一二本目だよ?」
小夜はバッと冷凍庫に入っているアイスの箱を確認すると、「カラーン」と効果音が鳴るかもしれない程に空だった。
「食べ過ぎ!!」
「大丈夫だって! 私はこれでも太らないから!」
「いや、そういう事じゃなくて!!」
小夜は跪き、涙目になった。
「私も食べたかった…」
「えっ…? あぁっゴメン!! 全部食べちゃった!!」
「ううん、大丈夫だよ…」
小夜はフラッと立ち上がり、外へ出ようとした。
「今から買いに行けばいいんだから…」
「ちょっ… もう夜遅いよ!? せめて明日にしようよ!!」
美紀は必死に小夜を抑えて、アイスを買いに行かない様食い止めた。
「私が買いに行くから待っててね!」
「うん、そうしてるよ…」
数十分後…
「はい! 買ってきた!」
小夜にアイスを手渡し、口に入れて味わった。
「美味しい…」
「喜んでくれて嬉しいよ〜」
美紀はほんわかする小夜を見ながら、自分の財布に手を入れた。
“もうお金がないよ〜……”
美紀は自分のさっきの行動を思い出し、とても後悔した。
次回掲載日 2019年12月22日 午後2時




