第30話『セリフはまず雰囲気作りから』
「小夜ちゃん。私ね、ずっと考えてる事があるんだけど聞いてくれるかな?」
境内を掃除してた小夜のもとに美紀が走ってやって来た。
「何を考えているの、美紀?」
「今すぐそこを離れろ! ここには幽霊がいる!」
それを聞いた小夜はスゥッと青ざめ、竹箒を持ったまま後退りして、美紀に言われた通りに離れた。
「あっ、違うんだよ! セリフだから! セリフだから!!」
美紀も掃除を手伝いながら、小夜にさっきのセリフの意味を伝えた。
「セリフだったんだ…」
「そうだよ小夜ちゃん。神社なんだからいるのは当たり前でしよ?」
「いるのは困るんだけど…」
美紀は突然スマホを取り出して、小夜を撮った。
「夜の神社の鳥居の前で撮影すると〜… 画面いっぱいに顔認証が〜…」
小夜は恐怖のあまり、美紀の後ろに隠れてしっかり抱き付いた。
美紀は小夜の手を撫でながら慰めた。
「ここの話じゃないから安心して! それに私は見えないんだから」
小夜は美紀の背中に顔をうずくめながら、
「…見えないの?」
小夜の事を少し可愛いと思いながら、
「うん、全部は見えないよ」
すると小夜は美紀の後ろ姿を見ながら、
「美紀の背後霊は美紀の母親だよ」
美紀は一瞬だけ黙って、また掃除を再開した。
「美紀、嘘じゃないよ。あのさ、そうやって無理をするのは美紀らしくないよ?」
美紀の掃除の手は止まらず、無視をしている…
「いつまでも無視を続けて、お互いに本当に伝えたかった事があったとして、それを本当に伝えられないまま別れたら、それこそ後味が悪いでしよ? ねぇ美紀、いつでも良いから過去の傷を癒して欲しいの。嫌な思い出なのは分かってる。でもあの時、何も言わないで出て行ったんでしょ? だったら、決別でも良いから別れを言いに行こうよ? ね?」
何故か美紀は笑いを堪えている…
小夜は美紀の考えが分かったが、ワンテンポ遅かった。
「騙された!」
小夜は美紀の異変を真に受けていた。
美紀はとうとう我慢出来ず、その場で大笑いした。
「小夜ちゃん、何その長いセリフは! アドリブにしてはすごくよく出来てるんだけど!」
小夜は悔しいのか、すぐ考えてすぐ美紀に仕掛けた。
「でも、美紀はセリフを考えてる時は『どこか薄くなっちゃうな〜』って思ってるでしょ?」
美紀はまだ笑いながら反応した。
「うん、だってセリフってそういう欠点があるでしょ? 欠点があるから人間の感情がこもったセリフになるんだよ」
美紀はやっと笑いが収まって、少し安心した。とりあえず深呼吸で落ち着いている時に小夜が口を開いた。
「じゃあ、私が軽く設定を作るから美紀はセリフを作ってね」
「それはナイスアイデア! じゃあ… 『はっ、これはまさか詰んだのか…!?』さぁどうかな小夜ちゃん!」
「この状況だと、ボードゲームか何かで調子に乗った人がある一手を見て言いそうなセリフだね」
美紀はその場面を想像して、思わず「おー」と言ってしまった。
「流石アドリブに強い小夜ちゃんだね! じゃあ次は… 『つまんねぇんだよ! 脳入ってるのか!?』はどうかな?」
「その状況は動画とかである人がボケを言ったんだけど全くウケず、しかも言った本人はウケると確信して言ってたから周りはドン引きして、相方が言ったセリフみたいだね」
「相方が毒舌過ぎない!?」
小夜の想像した場面も恐ろしいが、小夜の想像力の凄さにも恐ろしさを感じた。
美紀は夕食を食べてる間、特に何も喋らず何かを考えている様子だった。小夜は美紀をチラッと見ては自分の食事を口に入れた。
「う〜ん…」
夕食が終わっても、しばらく口を開かなかった。小夜は美紀の考えを何となく察して、美紀を一人にしてあげた。
“あっ、部屋に入って行った…”
小夜は美紀が自分の部屋に入って行くのを確認しながら家事を進めた。
一方で美紀はというと…
“小夜ちゃんがドキドキしちゃう様なセリフを言ってみようかなぁ〜…”
何か良からぬ事を考えていた。数秒経って、ベッドから降りて小夜がいる居間に戻った。
「あ、美紀もこたつに入る?」
「うん、入る」
美紀はこたつに入って小夜と向かい合った。
美紀は小夜をジッと見つめて、小夜に目で何かを伝えた。
すると小夜が、
「…で? 何を考えてるの?」
「ううん、別に何も?」
「そう…?」
小夜と一緒に静かにこたつでほっこりする…
小夜も美紀も、沈黙の空気に何分も耐える…
小夜は美紀を見たが、美紀は小夜をジッと見つめたまま動かない…
小夜は美紀に対して何か思う様になってきた。
「……」
しかし、美紀の表情を見る限り、何か考えているのは間違いない。
小夜は聞いてみる事にした。
「…ねぇ美紀、何を考えてるの?」
美紀は小夜の目を見つめながら答えた。
「あのね、小夜ちゃんはカワイイなぁ〜って」
「可愛い… あ、あんまり何度も言わないでほしいんだけど… 恥ずかしいよ…」
「フフ… ねぇ小夜ちゃん。私にも好きな人が出来るかな?」
ムードを意識したのかと普段通りの返事をしようとしたが、小夜は美紀の目を見て、言おうとしたセリフを変えた。
「…きっと出来るよ。美紀にはもう、守りたいと思う人がいるんだから」
美紀はこたつに顔を伏せ、嬉しそうな表情を浮かべて、
「…うん。そうだね」
何秒か間を空け、美紀の気持ちが少しずつ良くなってきたのを確信した小夜は自信をもって口を開けた。
「美紀の周りにも、大切な人は––––」
ふと美紀を見ると、寝息を立てる音が聞こえた。
「……」
小夜は喋っていた時の姿勢を崩さないまま、
「…寝てる」
美紀の部屋にお邪魔して、毛布を借りて居間に戻って美紀の背中にそっとかけた。
「…おやすみ」
反応はしなかったが、きっと美紀の事なので夢の中で答えた気がした…
「おっはよー! 明、文音!」
「おはよー美紀!」
「おはよう、美紀」
いつもの教室に登校した美紀は、明と文音を見つけるとすぐに挨拶をした。
明が最初に挨拶して、文音が数秒遅れて挨拶した。
「いや〜、私最近セリフに凝っててさぁ〜… 文音は何か言える?」
「いきなり言われても… う〜ん…」
文音はしばらく考えて、動かなくなった。そこへ明が、
「文音って、カンペキだよねー。勉強と運動も出来るしさー」
立て続けに美紀も割り込んだ。
「文武両道の文音だけど、一つだけ弱点があるよね〜…」
「分かったー、胸だー!」
「そう! 文音は胸が無いんだよー! まぁでも、私は胸が無くても抱きつけるよ!」
「やめんかっ、超ド級HENTAIが!!」
「きゃー! 文音が怒ったー!」
「怒るよ!」
でも文音の怒りは弱く、可愛く怒っている様にしか見えない。
金髪ツインテも見事に逆立っていて、本当に可愛い。
「うん、やっぱり文音はイジりやすいや!」
「うん、ボクも文音をイジるの楽しー」
「明まで!?」
いつの間にか文音と美紀の対決は二対一になっていた。
「じゃあ次! 明!」
「うーんとねー… 『待て〜、るぱ〜ん!』とか?」
「字が違うよ、明…」
「えー? じゃあ『持て〜、るぱ〜ん!』逮捕だー!」
「直す字が違うよ!!」
美紀は隣で座って文音と明のコントを楽しんでいると、美紀は文音を呼んだ。
「ちょっと、もう授業が始まるよ?」
「あっ、ほら明、もう終わり」
「はーい」
席に座ると、嘘の様に静かになった。
明がちゃんと静かになったのは、美紀のおかげである。
次回掲載日 2019年12月15日 午後2時




