第29話『まだまだイジりたい!』
「ただいまー」
「ただいまー!」
文音と明が家に帰り、靴を脱いで揃えてる時、すぐ後ろにいた美紀が何か思い出した。
「家がデカイ!!」
「前に来た事があるでしょ…?」
随分前の事だが。
文音の部屋に入って、すぐにクッションに腰かけた美紀と文音。明は天海宅の明の部屋のベッドで寝てもらっている。
美紀は軽くムズムズしてから口を開いた。
「さて、今日最後の文音イジりを始めよう。ん〜と、まず何からしようっかなぁ〜……」
美紀は立ち上がって部屋中をウロウロし、話のネタになりそうな物がないかどうか探した。
「ねぇ。文音ってさ… それ地毛なんでしょ?」
文音は自分の金髪ツインテを触りながら、
「うん、そうだよ。私の髪は地毛だよ」
「じゃあ私と一緒だね! 私の髪も地毛なんだよ!」
美紀の腰下まで伸びた立派な濃い紫髪が、美紀の動きに合わせて動いた。
「まぁ、確かに日本人との初対面で地毛が黒髪じゃなかったら、染めたのかと思っちゃうよね… 小麦肌の日本人は受け入れられているのに、黒髪じゃない日本人はすぐに受け入れられないのは日本人としての容姿のイメージがよほど限定的になってるんだよ…」
「そうだよ! 日本は狭いんだよ! 世界のどっかには校則が意図的に緩くされている学校があるって聞いたよ! 確か、染髪とかが自由な学校!」
「あぁ、その人の個性などの尊重の為にそういうものに手を出しても良いとしてる学校があるのは聞いた事があるよ。何も知らない日本人からしたら、驚くのが最初のリアクションだろうね…」
「うんうん!」
すると美紀は立ち上がり、
「だからもし生徒会選挙とかが始まったら、私も名乗り出ようかなぁ〜!」
人差し指を真上に突き刺した。
「校則を緩くするの?」
「ううん。いきなり校則を緩く出来るワケないから、まずは恋愛の自由化からだね! 第三者から割り込まれる事も無く、口出しも束縛も陰口もない、誰を愛しても怒られない学校から始めようかと!」
美紀は懐から沢山の物を取り出し、文音に突きつけた。
「はい! 女性用!」
「ありがたいけど、もう持ってるから…」
美紀は突然顔を赤くして文音の肩を軽く叩いた。
「ちょっ… 文音ったら、学校の模範的生徒なのにもうしてるの? エッチ〜!」
「持ってるだけだから!!」
文音と明の家の庭に移動して、アイロンを用意した美紀。文音はただ黙って見ている…
「見ててね文音! 今から塀の上でアイロンがけをするから!」
美紀は業務用の延長コードを使って何とか電源が入る様になったアイロンを片手に、制服をアイロンがけし始めた。
「これが出来れば、スゴイ人になれるはず…!」
美紀は緊張で足が震え、アイロンをただ持ってるだけになっている…
文音は美紀のそばでただ見守っている…
「ふっふっふっ… これで私は超人だね!」
「周りの人達は美紀を変人扱いで見ているよ」
美紀はふと外を見ると、通行人が変な目で見ていた。自分が変な事をしているとやっと理解した美紀は顔を赤らめながら、
「変人じゃないよー!」
美紀は塀から飛び降りた。
「と、言われてもねぇ〜…」
誰もがコレをスポーツだとは思わないだろう。
ただ危ない場所でアイロンがけをする人に見えるからだ。
「ねぇ、文音って気になってた人はいたの?」
「うん。気になってる人ならいたよ」
「はいリア充出たぁ〜!」
「今はめっきり会ってないから!」
美紀は立て続けに捲し立てた。
「そんなのはフラグの如く崩れ去っていくんだよ! もう少し時間が経ったら、きっと何かしらの事情で文音の通う学校に転校して、ふとした事で文音と再会してまた恋が始まって、その日を境に純愛か報われない愛が始まるんだよ! 文音には男と一生を共にする覚悟があるのかー!?」
美紀があまりにも勢いよく話すので、途中途中聞き取れなかった。聞き直そうとしたが、それをやめて話を進める事にした。
「今は自信が無いけど、花嫁修行を毎日して大切な人と一緒にいつまでもいられる様な生活を目指しているよ」
美紀は何故か耳を塞いで聞いていた。文音は美紀の行動の理由を考えてみた。
“耳を塞いでいるから、美紀が花嫁になる事にまだ抵抗があるから聞きたくないのか、ただ単純に私の話をわざと聞いてないのか…”
文音は美紀の手をそっと離してみた。
美紀は文音をじっと見ながら、
「文音が結婚したら、嫌がらせに行くからね!」
「すごく困るんだけど!!」
「ねぇねぇ文音〜」
文音の部屋に明が入って来て、文音に背後から抱き付いた。文音は明の頭をナデナデしながら、
「分かったよ。そろそろ夕方だからおやつだね」
「待ってるよー」
文音はおやつを取りに部屋を出て階段を降りて行った。美紀と明は向かい合って座っている…
しばらくして文音がバナナを一房持ってやって来た。おぼんの上にバナナを置いて、三人でいただきますをした。
「美味しい〜」
美紀はバナナを意外とまともに食べている。
文音は明の口にバナナを一口分入る様に入れて、自分も食べようとした。
「はい、文音も。あーん」
「うぅ… あ、あ〜ん…」
明はそーっとバナナを文音の口に近付けて、文音の口の中に入った事を確認してから明は手を止めた。
文音がバナナをかじろうとした時、隣から視線を感じた。
「…何?」
美紀がヘンな目で文音を見ていた。美紀は目つきを変えずに口を開いた。
「文音がバナナを美味しそうに食べている…」
文音はバナナを見ながらバナナを差し出してくれた明を見て、
「明… バナナはもう良いよ」
「なんだとー、これが食べられないとはもったいないぞー。もっと美味しそうに頬張るのだー」
何故か明はバナナを戻す事はなく、そのまま食べ続ける様にバナナを押し込んだ。
文音は少し息苦しくなったが、それでも何とか食べ進んだ。
文音がむせる姿を見た美紀はただ一言…
「無理矢理って、犯罪だね」
「美紀ー、文音はたぶん分かってないよ〜」
「いや、私は分かってるよ…」
これ以上長居すると文音と明の親と小夜に迷惑がさらにかかるのを考え、美紀はそろそろ神社に帰る事にした。
「じゃあ私は帰るね。じゃあねー文音! 明!」
「ばいばい美紀ー!」
明は手をブンブン振って別れた。
「文音はもう宿題かな?」
美紀がわざと悲しそうな雰囲気を漂わせて喋ると、文音は駆け足で階段を降りて来た。
「ごめんね、バナナの皮の片付けで遅れちゃった」
文音は明の手をしっかり握って美紀を見送った。
「またね、美紀。また明日の学校でね」
「うん! 明日の学校でね! じゃあねー!」
「じゃあねー!」
「またね、美紀」
文音と明の家を出て、六歩程歩いてから振り向き、家を見た。
「…………」
美紀は家の門をくぐって路地を歩きながら、
「早く帰って小夜ちゃんとお風呂に入りたいなぁ…」
小夜がいる神社に向かって歩いて行った…
次回掲載日 2019年12月8日 午後2時




