第21話『ハッピーバースデー 美紀!』
十月五日の午後二時頃。
神社に一人、ジャージ姿の女の子がやって来た。
彼女は神社の横を走り抜け、裏口の玄関に入って行った。
「ただいまー!」
「おかえり美紀。部活もう終わったの?」
美紀は靴を丁寧に揃え、リビングに来るとすぐにジャージを脱ぎ始めた。
「あっちぃ〜… あぁー、今日は練習やってすぐに先生チームと試合したからすごく疲れちゃったよ〜… ねぇ小夜ちゃん、私これからお風呂入るからー!」
「分かったよ! おやつでも用意して待ってるからね!」
美紀は下着を脱ぎながら、
「はーい!」
脱衣室へ歩いて行った。
おやつを持って美紀が立っていた場所へ目を向けると、さっきまで美紀が着ていた服がきちんと畳んで床に置いていた。
小夜はさっきの会話を思い出した。
『お風呂入るから』…
「ここで脱がないでよ!!」
お風呂に入ってる美紀の様子を、これから五行で表現しよう。
「はぁ〜……」
目を閉じて湯船に浸かる美紀。そのままゆっくり沈んでいき…
美紀の鼻にお湯がかかった。
「沈む!!」
お風呂からあがり、髪をタオルで乾かしながら台所に入って冷凍庫の扉を開けた。
冷凍庫に入っているバニラアイスバーを手に取り、袋を開けて口に入れた。
「おいし〜」
ほんわかした表情で食べて、当たりかどうか確かめたが当たらなかった。
「当たんなかった!」
「簡単に当たったら、店からバニラアイスバーが無くなってしまうでしょ?」
「それは分かってるよ。でも私には別の当たり付きアイスがあるからね!」
既に美紀の左手には、別の当たり付きアイスがあった。
美紀は楽しげな歌を歌いながら口にした。
美味しくアイスを頂きながら、
「ふっふっふっ… 当たれ––––」
アイスの棒には何も書かれていない。
「ハズレ!!」
フラグを立てた美紀は、奇声を上げながらフラグ回収を完璧に行った。
夕方に近付き、段々と暗くなってきた東京。
美紀は境内を使ってリフティングの練習をしている時に、小夜が掃き掃除をしにやって来た。
「美紀、境内の掃除をするからね」
すると美紀はボールを高く蹴り上げ、小夜目掛けて強烈なキックをお見舞いした。
「だから効かないって言ってるでしょ?」
小夜は見向きもせずに避け、ボールはそのまま神社の下に潜っていった。
「待ってー!」
美紀はボールを助けに神社の下へ潜り、しばらくゴソゴソしていると、ボールを持って美紀が出て来た。
「やっと取れたぁ〜…」
少し土が付いた事に気付いた美紀は、すぐに土を払い落としてボールを片腕で抑えた。
「ねぇ小夜ちゃん、PKしてみない!?」
小夜は掃き掃除をしばらく続け、そばにあった木に立てかけた途端、小夜は自分の周りに何か見えそうなオーラを放った。
美紀にはそのオーラは全く見えないが、
「な、何かが見えそうな気がするよ…!?」
「当たり前よ、美紀は修行が足りないんだから」
「言葉の槍が見えた!!」
美紀は両手で胸を押さえて、苦しむ演技を始めた。
そのまま美紀は頭から倒れて、じっと動かなくなった。
小夜は歩き寄って美紀の体を起こした。
「起きた?」
「起きた…」
美紀はほっぺを抑えて、
「ん〜…」
気合いを入れて、小夜にボールを取られない様に狙いを定めて蹴り飛ばした。
不意打ちとして攻撃したはずのボールは小夜に当たりそうになったが、小夜が腕でガードしてボールの勢いを失くした。
そのままボールはその場で転がった。
「う〜ん、やっぱり効かないかぁ…」
「不意打ちが私に効く訳無いでしょ? もし私の背後を取れたとしても、反撃させてもらうから」
小夜はボールを蹴って、美紀に返した。
美紀はボールを手に取りながら、
「物の気配が視えるとか、強敵じゃん」
小夜は掃き掃除を再開しながら、
「私は巫女の素質を磨いているからね。美紀も修行を励む様になったら視える様になるわよ」
「私は普通の女の子なんでしょ? 例え目覚めたとしても、暗闇の中にいる人が視える位だよ」
小夜は美紀をちょっと見て一言。
「美紀は、もう十分に巫女としての能力が開花しかけてるんだけどね…」
残念ながら、美紀にはこの声が届かなかった。
夕方になり、辺りが暗くなってきた頃に美紀は誕生日ケーキを取り出した。
「ねぇ小夜ちゃん! 今日の誕生日パーティーなんだけど、文音達を呼んで良いかな!?」
小夜は美紀を見てから、
「うん、良いよ。それじゃあまずは電話してね」
「うん!」
美紀はスマホを起動して、文音に電話をかけた。
『rrr…』
小夜は美紀が文音達に誕生日パーティーのお誘いをしている間に、誕生日パーティーの準備を始めた。
美紀は耳からスマホを離すと、
「オッケーだって!!」
美紀はグーサインで小夜に伝えた。
「じゃあ、ケーキは四等分だね」
ケーキにナイフをゆっくり入れ、縦に横に切った。
「文音達の家はここに着くのにちょっと時間がかかるから、小夜ちゃんは待っててね!」
「うん、分かったよ」
小夜は周りのチェックを行い、やり残した事が無いか確認を始めた。美紀は外に出て文音達の姿をキョロキョロ探し始めた。
「どこかなー?」
まだ近くにはいない…
「流石にまだ着かないかぁ…」
振り返って神社へ歩き始めた途端、かすかに車の音がした。「まさか」と思いながらも階段の方を見てみると、車の後部座席のドアを開けて文音と明が降りて、石階段を上っていく姿があった。
それよりも美紀は他の場所に目が行っていた。
「高級車!!」
「こんばんは、巫女さん。美紀のクラスメイトの音無 文音と申します」
「ボクは天海 明だよ!」
「こんばんは、文音さん。そして明さん」
美紀は小夜の挨拶を邪魔するかの如く、文音達をさっさと上がらせた。
「ささっ! 早く食べよーよ!」
美紀は文音の手を引いて、ケーキのある食卓を囲んでいった…
「ちょっと! 転んじゃうよ!」
明はそのまま引っ張られていく。文音の手によって引っ張られながら、
「あれ〜」
今年は、明るい誕生日になりそうだ…
「文音はそこに座って! んで、明はそこに座ってね! そうすれば文音の隣にいられるから!」
美紀は文音のすぐ隣に椅子を用意して、明を椅子に誘導してゆっくり座らせた。
明は文音の手を握って、
「一緒!」
文音は明の笑顔を見ながら、
「うん、一緒だよ」
そこへ小夜がお皿とフォークを持って用意してくれた。文音と明はしっかりとお礼をしてから食べる準備を始めた。
「それじゃあ早速、ケーキを乗せていくよ!」
美紀はそーっとケーキの下にナイフを通し、落とさない様にゆっくりと運んで明の皿にのせた。
それから文音のお皿にのせ、次に小夜のお皿にのせて、最後に美紀のお皿にのせた。
明がイチゴに手を伸ばそうとしているので、文音が明の手を握った。
「明、まだ早いよ」
「文音、イチゴがあるよ」
「うん、それはイチゴだよ」
「おー」
小夜は会話が終わったところで口を開いた。
「では、これから美紀の誕生日パーティーを始めます。今回は明の事を考えて、蝋燭は外しておきました。では主役の美紀、立って」
「立つの? よいしょっと…」
美紀がその場で立つと、小夜は合図を送って歌を歌い始めた。
文音と明は、一瞬だけ出遅れたがすぐにハモり始めた。
「ハッピバースデートゥーユー、ハッピバースデートゥーユー… ハッピバースデー、ディア美紀ー… ハッピバ〜スデ〜、トゥーユ〜!」
歌い終わりと同時に小夜と文音と明の三人によるお祝いの拍手が送られた。
美紀はあまりの嬉しさに涙目になってきた。
「うぅ… ありがとう皆…」
「美紀、お誕生日おめでとう」
『おめでとう!』
小夜が最初にお祝いの言葉を送り、その次には明と文音が同時にお祝いの言葉を送った。
「ホントにありがとう… 私、嬉し過ぎて涙を流しちゃいそうだよ…」
「泣いても… 良いんだよ?」
小夜が優しく声をかけると、美紀はすぐに泣き始めた。
「よしよし」
小夜が頭を撫でる様子を見て、文音達はなんとなく『友情と絆』が頭に浮かんだ。
「それじゃあ気を取り直して、改めてパーティーを再開します。皆さん、フォークを持って下さい」
小夜の言葉通り、皆でフォークを手に取った。
「それでは美紀の誕生日を祝って、いただきます!」
『いただきます!』
皆で声を合わせ、一緒にケーキを食べ始めた。
「うん、美味しい!」
美紀はもう半分程食べていた。早過ぎる…
「久しぶりだね、ケーキを大勢で食べるのって。あの時以来かな?」
「うん、そうだね。今頃元気でやってるかな…」
明と文音は思い出話をしながらケーキを一緒に食べている。
「小夜ちゃん、ケーキおかわり!」
「無いから!!」
今夜の神社は、賑やかな音が夜遅くまで響いたらしい…
次回掲載日 2019年10月13日 午前10時




