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降る星に読む物語  作者: 紫木
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黒き少年と殺人鬼

さて、ここは何処でこの物語は何だ?

どうやら殺人鬼を目指した少女が本物の殺人鬼に返り討ちに遭ったところまでは認識しているんだが、

残念ながらこれはオレの知らない物語だ。

いままでの物語については、展開も結末も知識として俺に根付いていた物だから何とかなった部分が大きい。

彼等のソレを改変するのにそれ程の労力はかからなかった。

しかし、これ以上先の物語についてはオレにとっても未知の領域だ。

さて、何から手をつければ良いものやら。


「そこのお前はどう思うよ?殺人鬼くん」


そう、今まさに件の物語の殺人鬼が目の前に立ってこちらを見ていた。

彼の手には大振りのナイフが握られており、足元には真っ赤な血溜まりが広がっている。

倒れているのはどこにでもいそうな女子高生。


「どう思うも何も君は誰だい?僕はそれ程優秀な出来ではないけれど、この距離に存在する人間を見落とす程の劣等生でもないつもりなんだけどな」


少年は緊張感の欠片も感じさせない様でいて、その目はオレの一挙一投足を縛り上げる様に観察している。


「確かにオマエの言う事は正しい。オレがこの場所に現れたのはオマエにとってはいまこの瞬間だし、オマエがその娘を殺すところも直接目にした訳じゃない」


「成程、じゃあ君は瞬間移動が使える様な異能者か、もしくはこの世界の神様的な存在だとしよう。まぁ君の口振りからすると後者の方がしっくりくるのかな。それでも君がどうしてこの場所に来たのかが理解出来ない。よもやまさか神様ともあろう者が一介の殺人者に直接罰を下しにきたとでも言うのかい?」


少年は嘲る訳でもなく、単純な事実確認としての意味合いでオレに問いかける。


「まさか、オレは確かにお前達にとっては神様的な存在だろうけど、神様なんて下らない存在と一緒にしてくれるなよ」


もしもそんな奴が存在するなら八裂きにしても気が済まない。

それはこんな物語を作らなければ成らなかった不幸の元凶だ。

あの時、もしも**に**など落ちてこなければ


「少しは理解できたよ。君は奇特な存在の割に随分感情的に物事を考える質のようだ。理解できないかい?今の君は随分酷い顔をしている」


少年の言は恐らく正しいのだろう。挑発でもない言葉に随分ムキになってしまった。


「悪いな、オレも思ったよりも余裕が無かったみたいだ。それにしてもオマエは随分と平然としているんだな。殺人鬼とはいえ、得体の知れないモノと対峙してよくそこまで口が廻るもんだ」


「生憎と友人に恵まれていてね。奇特な存在については耐性がついてるんだよ。まぁ彼女に言わせれば、科学が発展した現代社会で、いまだにアナログな手法で殺人を犯す僕も他人の事をどうこう言えないらしいけどね」


少年はコロコロと笑いながら答え、手に持ったナイフをオレに向けて言葉を続ける。


「それで?君が一体どういう理由でここに居るのかは知らないが、殺人鬼が殺人現場を目撃されて黙って見逃すとでも思っているのかい?」


肌を刺すような殺気がオレに向けられる。

くそっ、未だにオレにはこの物語を紐解くピースが見当たらない。

何でもいい、思い出せ。オレの読んだ物語に必ず未来への道があるはずなんだ。


少年は少し体を沈ませたかと思ったら、その反動を利用して一足飛びで距離を縮めてくる。

オレは物語を再生するように迫り来るナイフを体を捻る事でいなし、無防備な延髄に一撃を入れようとするが、恐ろしい程の反応速度で足を止め体を反転させて肘打ちを放ってくる。その場でしゃがんで何とか二擊目も回避する。しかし少年の攻撃は止まらない。肘打ちを放った勢いを殺さずに回転し、またしても逆手に持ったナイフでオレの眉間を狙う。オレは足場が砕ける程の踏み込みで後ろに跳躍しその一撃を回避し、殺人鬼との距離を取る。


「しゃがんだ状態での体制で後方に跳躍するか。しかもコンクリを蹴り砕くほどの膂力。どうやら本当に唯の人間じゃ無さそうだね」


殺人鬼の少年はそう言って再度、正面からオレに相対する。

正直な話、オレの力を以ってすれば殺人鬼を何とかする事は可能だろう。

でもそれではこの物語が救えない。それでは何の意味も成さない。

焦る気持ちを抑え、必死で考えを巡らせているその時にふと彼の言葉が思い浮かぶ。


『なんだ、やっぱり無理じゃないか』


そうだ。少年は確かに彼女を殺す前にそう言った。

その意味は何だ?

少年は恋人が欲しかった?下駄箱に入れられた手紙が偽物だと思って落胆した?

違う、きっとコイツは


「オマエ、ひょっとして殺人鬼を辞めたいのか?」


きっとコイツは普通の生活に憧れていた。

周りの学生がそうしている様に、平穏で平凡な生活に憧れていた。

だから、あの手紙を受け取った時に期待してしまった。

自分が平穏な世界に足を踏み入れる第一歩として。


少年は俺の言葉に虚をつかれたように殺気を霧散させる。


「君は面白い事を言うね。殺人を犯してこその殺人鬼だよ。それは僕が僕であり続ける上で決して消えない物だ。辞めようとして辞めれるものでもない。僕の友人曰く、これは『天与』というモノらしい。生まれ持っての業というやつだよ」


少年の言葉にオレはやっと理解する。

それでも、


「それでも、、、願う事は自由だ」


例え叶わない願いがあったとして、それを願う事が罪だとするならば

今のオレの存在こそが罪だという事に他ならない。


少年は手に持ったナイフを投げ捨てて、諦めた様に話す。


「残念だよ。君が本物の神様とやらなら、ここで殺してしまえば僕の『天与』も消し去る事が出来るかも知れないと思ったんだが。どうやら思った以上に君は人間臭い。そんな奴を殺したところでどうなる訳でもないだろう。久しぶりに無駄に体を動かした」


そう言って少年はオレに興味を失くした様子で背を向ける。

その背中にオレは何となしに声を掛ける。


「どうやらオレと君は少し似ているようだな」

「殺人鬼と似ているようじゃ、君の末路も知れている」

「本当に願ったものは、絶対に手が届かない」

「だからこそ、自分の中で折合いを付ける必要がある」


「「在るのもは在るままに、消せる物だけを完全に消し去る」」


オレはそう言って少年に背を向け、次の世界を見据える。


「もうすぐだ。待っていろよ」


そして世界は動き出す。

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