表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あやかし学園奇談  作者: 水瀬紫苑
★学校案内編★
14/16

困った人……。

栞は目の前で起こっていることを、只見つめることしか出来なかった。


彼女が敵ではない事、守ってくれたことは何となく理解できる。しかし、だからと言って安心することは出来なかった。


味方だからと言って、この恐怖が薄れることはない。


この圧倒的力の前では自分はあまりにも無力で、何も出来やしないのだから。


真紅は僅かに眉を顰め、自分と同じ顔をした少女を見据える。


「それが媒介か……。」


冷たく言い放つと、すっと手を前に出す。


「この気配……サンビの仕業ね。……困った人……。」


ぽつりと呟くと、手を横一線に振る。


その白魚のような美しい繊手から風が放たれる。圧縮された風は刃となり、神速で少女に向かってゆく。


「がぁっ……!!」


呻き声と共に、「真紅」だった少女はその姿を変え、見たことのない青年へと姿を変えた。


ひらりと葉が舞い落ちる。


それはゆっくりと不規則な動きで落ちてゆき、地面に触れる瞬間、真っ2つに裂け、そのまま空気に溶けて消えていった。


真紅の放った力は、狙い違わず青年の姿を変えていた「媒介」のみを粉砕した。


しかし、そんなことは些事であるとでもいう様に、興味なさ気に視線を外す。それでも身体は青年の方を向き、油断なく構えてはいたが。


ただ無造作に立っているように見えるが、四肢の全てに神経が行きわたり、油断なく気配を探っている。青年が少しでも動けば、即座にその喉元を裂いてやることが出来ると、無言の圧力が語っていた。


現に青年は、逃げることすら出来ずに立ち尽くしている。



真紅はちらりと視線のみを移動させる。


――その、視線の先にあるのは――


ぎりと唇を噛み締める。


「……貴様ら……。」


その押し殺した声に、思わず背筋を凍らせる。


視線の外にいる自分でさえ恐ろしいのだ。睨まれた人間は、たまったものではない。


現に青年は、恐ろしさの余り足が震えていた。荒く息をし、体を小刻みに揺らしている。


ぐったりとして動かない親友を見た真紅は、その瞳を怒りで染める。


その怒気に反応したのか、美雨は混濁した意識の中、親友の名を呼んだ。


「真紅ちゃん……」


意識があることにほっとしつつも、立ち上がることさえ出来ない美雨を見て、静まりかけた炎が勢いを増して燃え上がる。


「その罪、自身で贖え……。」


そう 宣言した瞬間、ゆっくりと口を開く。


栞の眼には、真紅が何かを叫んだように見えた。しかしその形の良い唇から音が発せられることはなく、変わりに、別の方向から声が聞こえてきた。



「ぐわっ!!」


「ふにゃんっ!!」



ほぼ同時に聞こえてきたそれは、1つはすぐ近くから。



そしてもう一つは、離れたところから。



妙に聞き覚えのある声だったように思えるのは、自分の気の所為なのだろうか……。


栞は、視界の端に移ったものを脳内で再生する。


美雨は、口に出して言葉を発した事により、意識がはっきりとしたらしい。がばりと起き上がり、ぷるぷると頭を振った。


そして、なぜか身づくろいのようなことを始めた。あちこちを手早く確認すると袖で顔を拭い、そのまま上着を脱いで、ぽいと森の中に投げ捨てた。


そして、こちらへ来ようと駆け出し―――たところで、勢いよく転がった。


――悲鳴とともに。



――栞の目の前には、耳を押さえて呻いている男が1人。


遠方には、目を回して転がっている美雨がいて――



――悲鳴は 2つ。



これらの事実を組み合わせると――




――真紅に、やられた?



否、まさか。そんなはずはない。


真紅は、満身創痍な美雨の姿を見て激昂していたのだ。


――自ら止めを刺すようなことはしない……はず……?



思わず呆然としてしまった栞の耳に、当の本人――美雨の声が届いた。


「真紅ちゃん……酷い~~……。」


へろへろとこちらに向かって歩いて来る美雨。


「き……きゃあ!!ご……御免なさい、美雨。」


慌てて美雨のもとへ走りだす。


取り敢えず、自分も美雨のもとへ向かおうと腰を上げようとするが、足に力が入らない。


(……腰、抜けた……?)


立ち上がろうとするものの、足に力が入らない。


情けない、と自己嫌悪に陥っていると、いつの間にか美雨と真紅は直ぐ近くまで来ていた。


「ごめんなさい、美雨。射線上にいたのね。」


しゅんと項垂れる真紅。


「……あなたも……。」


そう言って、栞に視線を向けた。


「え……?」


「頭に血が昇ってしまって、力の調節が出来なかったみたい。近くにいた貴女にまで余波がいってしまったのね……。」


「???」


何を言っているのか分からず眼を丸くしている栞に、恥ずかしそうに微笑みながら話しかける。


「お恥ずかしいところをお見せしてしまって、申し訳御座いません。

初めまして。緑川栞さんですね。私の名は真紅。緋村真紅と申します。」


そう言って、彼女はふわりと微笑んだ。


「宜しくお願い致しますね。」



完璧な美貌。鈴の音のような美しい声……


そして、天使のような微笑み――


先程までの「真紅」とは違う。


王のような貫禄を出していた恐ろしさも消え――



――ああ、そうか。



――これが



――彼女が




――真紅――




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ