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あやかし学園奇談  作者: 水瀬紫苑
★学校案内編★
13/16

栞ちゃんは、私が護る!!

大変お待たせ致しました

美雨は確固たる意志を以て男たちと対峙していた。


(栞ちゃんは、私が護る――!!)


――千歳さんの為に――!!


(千歳さん、私頑張るっ!!)


あはははは。頑張って下さいね。

千歳の笑い声が聞こえた気がした。


 ※ ※ ※


美雨は決意を新たに男たちに向き合う。しかし、圧倒的にこちら側に不利な状況だった。

ぎりと唇を噛みしめ、男たちを睨みつける。

1対3。この人数の差は大きい。更に美雨は全身に力が入らず、栞を護る為に、この場を動くこ


とが出来ない。対して男たちは、美雨1人に対して3人と、数で有利な状況である。そして、彼


等はダメージを受けていない。


――勝ち目は、ない。

――でも

――それでも


(よく頑張った。美雨。)


大好きな笑顔が浮かぶ。

よしよしと頭を撫でる、温かい手。

(ハネちゃん、私、頑張る!!)

この状況でもまだ失わない瞳の光を見て、男たちの表情が変わる。

「つっまんねぇ。少しは怯えろよ。」

「やっぱ痛い目見せてやんねーとわかんねぇみてぇだな……。」

男たちの間に、剣呑な雰囲気が流れる。

じり、と距離を詰められ、美雨の表情も険しくなる。

「俺がやる。」

そう言って進み出たのは、先程美雨に踏みつけられた男。

「さっきのカリを返してやんねーとなぁ……」

その表情は、怒りと屈辱で醜悪に歪んでいた。

「生意気なんだよ!!猫の分際で!!」

ぶんと風を切る音がする。振り上げられた拳が、美雨をめがけて振り下ろされる。

――危ないっ!!

思わず目を瞑った栞だったが、予想していた音も衝撃もこない。

不思議に思いそうっと目を開けると、真っ先に視界に飛び込んできたのは、小さな背中。

(―――美雨っ!!)

彼女は頭の上で腕を交差させ、渾身の一撃をしのいでいた。雨と男の力がぎりぎりとせめぎ合う


しかし男と女の力の差は歴然。いつまでもこうしているわけにはいかない。美雨は持前の柔軟性


を生かし、力をいなす。体全体のバネを使って、男の腕を中に浮かせた。

男は一瞬、バランスを崩す。その一瞬の隙をつき、男の腹に蹴りを叩きこむ。力の入らない足で


は大したダメージを与えることなど出来ない。故に足りない力を遠心力でカバーする。

しなやかに円を描いて放たれた美雨の回し蹴りは、綺麗に男の鳩尾に入った。

「……がは……っ!!」

小さな呻き声を残して、男は吹き飛ばされていった。男の背中が木に当たると、その衝撃に耐え


切れず、木はみしみしと音を立てて倒れる。

(―――凄い……。)

不調を訴える体で、美雨は男を1人倒してしまった。

ぜいぜいと肩で息をしながら、前を見据える。

(あと、2人……)

しかしもう意識がはっきりしない。今にも崩れ落ちそうな足を叱咤し、気力を振り絞る。

(……倒す必要はないっ!!もう少ししたら真紅ちゃんが来るんだもんっ!!)

それまでもてばいい。だが願い空しく、状況が変わることはなかった。

「……てめぇ……。」

地の底から響くような声がする。

そちらを振り返ると、先ほど倒したはずの男がゆらりと立ち上がっていた。

(……っ!!そんな……っ!!)

今、自分に出せる全ての力を振り絞った渾身の一撃。それでも大したダメージを与えることが出


来なかったなんて……。

「もう、遊びは止めだ。本気で潰してやる……。」

その眼は血走っており、額には青筋が浮かんでいた。

(……本気だ……。)

彼は、本気で怒っていた。

「あ~あ……本気で怒らせちゃった……。」

「俺、し~らね……。」

男は血を拭い、憎悪の視線を美雨に向ける。


(……来る……っ!!)

そう思った瞬間、男の顔が目の前にあった。

(―――っ速いっ!!)

栞には、男が移動する姿も、拳の軌道も見えなかった。

「くっ……!!」

しかし美雨には見えていたらしく、咄嗟に反応し、左手でガードしていた。が、いくら反応出来


ても、防げなければ意味はない。力を相殺できず、美雨はそのまま吹き飛ばされてしまった。

美雨の体は、木を3本ほどなぎ倒し、ようやく止まる。

男は栞には目もくれず、美雨を追う。

「~…っ美雨っ!!」

(どうしよう。美雨が死んでしまう……。)

咄嗟に叫んだ栞のもとに、今まで傍観していた男が1人立ち塞がる。

「オトモダチ心配している余裕なんてあるのぉ~?」

(……しまった……っ!)

男はにやにやと笑いながら、栞に手を伸ばしてくる。


(もう、駄目だ……)


栞は覚悟をして眼を瞑った。



ドォォォォーーーーン


大きな衝撃音が辺りに響く。



しかし、鼓膜に異常をきたしそうな大音響がしたにも拘らず、予想していた衝撃は来ない。衝撃


といえば、少々風圧を感じた程度だろうか。

おかしいと思いそっと目を開くと、今までそこに立っていた筈の男がいない。驚いて美雨の方を


見ると、彼女を追い詰めていた男もいなくなっていた。

「……なっ……なんだと?!」

慌てた声が聞こえてくる。思わず声のした方を向くと、真紅と呼ばれた少女が傍目にも分かるく


らい、目に見えて狼狽していた。その僅かに怯えを含んだ視線は一点に固定されており、つられ


て栞もその視線を追う。

その先にあったのは、長い髪をたなびかせている人影。その影が徐々に大きくなっていくにつれ


て、姿が鮮明になって行く。

彼女が歩を進めるたびに揺れるのは、艶やかな緑の黒髪。まるで、闇を固めたかの様な漆黒の中


に浮かぶ淡い白光は、透き通るような白磁の肌。その中は寸分の狂いもなく全てが完璧に配置さ


れており、喩え微塵でも動かしてしまったら、この最高級の美を損なってしまうだろう。

全てが激しい自己主張をし、目を引いてしまうにもかかわらず、その全てが互いを引き立て合っ


ており、相乗効果を生み出している。そして、何よりも眼をひいてしまうのは、白の中で光る、


血のように真っ赤な口唇。

こちらに向かって歩いてくるのは、見たこともないような美少女だった。

しかし栞は、この世に2人といないような完璧な美を誇る少女を、見たことがあった。最早凶器


といっても過言ではないほどの、絶対的な 美。

その、赤よりも赤い唇から紡がれるのは、麗しい容姿に相応しい、天上の 音色。

そう、自分は今さっきまで見ていた。このような完璧な美を。

――否

今現在も、見ている。

目の 前に

「~~~~~っ!!」

驚きのあまり、声も出ない。

今現れた少女の容姿は、自分の目の前にいる少女と寸分違わず。

(……双子……?)

そうとしか思えないほど、彼女たちの姿は酷似していた。

美人は3日で見飽きるというが、絶対嘘だと思う。この美貌を見飽きる事の出来る人がいるのなら


目の前まで連れてきて欲しいものだ。

「シンク」が2人並ぶ。

1人でも凶器に等しいのに、あの美しい顔が2つ並ぶと神々し過ぎて直視出来ない。

(……………なんかもう、産まれてきて御免なさい……。)

自分の顔を嫌った事なんてないけれど、流石にこの麗しい顔――しかも2つも――の目の前で平


然と「何か?」という顔はしていられない。

(ごめんなさいごめんなさい。産まれてきて御免なさい。猿から進化してなくてごめんなさい。


私なんてもう蟻ですミジンコですクリオネ……ああ格上げされちゃった。ごめんなさいごめんな


さい自分を天使なんて言ってごめんなさい。)

混乱してぐるぐると訳の分からない事を考えていると、1人の「真紅」が口を開いた。

「その不愉快な姿を改めなさい。」

後から来た「真紅」に、先に来た「真紅」は気圧されている。

「私への侮辱は緋村への侮辱……ひいてはお義姉様への侮辱と取れるのだけれど、宜しいのかし


ら……?」

静かな 言葉だった。しかしその言葉には、言うことを聞かざるを得ない何かがあった。

彼女は、この場を完全に支配していた。

悠然とした態度、気高きオーラ。その所作1つ1つに気品が漂い、まさに彼女は、この場を支配す


る王そのものだった。ただでさえ美しい顔が、更に美しさを増す。


――本物だ。


そう思った。



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