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あやかし学園奇談  作者: 水瀬紫苑
★学校案内編★
12/16

主様ってば悪い顔……

狐大暴走回。千歳様本領発揮です。


それは今朝の事だった。


美雨は千歳に呼び出され、彼の住処へと足を運んだ。


薄暗い部屋の中、椅子に座っている影が1つ。


「……よく、来ましたね……。」


ぎいぃぃと軋む音と共に、ゆっくりと椅子を回転させ、振り返る。


その、質素ながらも高価で重厚な雰囲気を漂わせる机と椅子が、初めて見るものであることには頓着しない。


彼女にとって大切なのは、「大好きな千歳さん」の話だからだ。


だから、その一角以外が和室なのも、彼女にとってはどうでもいいことで。


喩え、美雨の後ろで彼のコが着物でお茶をたてていようとも、彼女は気にしないのだ。



「……さて、単刀直入に申し上げましょう。実は、貴女にお願いがあるのです。」


千歳は肘をつき手を組み合わせ、口元に持っていく。暗闇の中、彼の赤い瞳だけが妖しく光る。


「今日、新たな羊がこの学園へ来ることは知っていますね?」


「はいっ!」


「彼女の案内を、お願いしたいのです。」


その言葉に、美雨はきょとんとした。


「案内は、真紅ちゃんと千歳さんのコがするんじゃないの?」


彼は音も立てずに優雅に立ち上がると、コツコツと足音を響かせ、美雨に近づく。


「ええ。そのつもりでした。ですが、百花は所用で外へ出しておりますし、真紅も受け入れ準備で遅れます。

……広和の方々への対策としては、イチビだけでは弱いのです。」


――もう、貴女に頼るしか……


そう言って袂で目を覆い、よよよと泣き真似をする。


その姿を目にし、美雨の全身に衝撃が走る。


(千歳さんにこんな悲しい顔をさせてはいけない―――!!)


「わかりました!!任せて下さい!!羊ちゃんは、私が守ります!!」


「やってくれますか?」


「もちろんです!!」


その答えに千歳の顔に笑みが広がる。


「良かった。安心しました。……ああそれからもう1つ、羊の警護以外でお願いしたいこともあるのです。

……これは、貴女にしか出来ないことです。」


首を傾げて見上げてくる美雨を優しく見つめ、穏やかな声で続ける。


「羊は、今日初めてこの地を踏むのです。きっと、心細さでめぇめぇと泣いてしまうことでしょう。

……ですから、羊の心を癒して差し上げて欲しいのです。」


「それ、私に出来ることなんですか?」


不思議そうに問いかけてくる美雨に、千歳は力説する。


「ええ、貴女にしか出来ません。究極の癒し系で、萌え系である貴女にしか。

……他に適任者はいないのです……。」


千歳のいうことはよくわからなかったが、自分にしか出来ないという単語に意欲を燃やす。


「わかりました。頑張ります!!……でも、何をすればいいんですか?」


「簡単ですよ。お友達になればいいのです。」


美雨の顔が喜色に染まる。


「お友達!!やったぁ!!」


嬉しそうにぴょんぴょん跳ねている美雨の頭を優しく撫でてやる。


「貴女が任務を成功させれば、きっとミハネも喜びますよ。良くやったと褒めてくれるでしょう。こうやって頭も撫でてくれるかも知れません。」


気持よさげに撫でられていた美雨は、その言葉に反応する。


「ハネちゃんが!?」


「ええ。きっと。」


唐突に出た相棒の名前に、美雨の顔が輝く。


「千歳さんっ!!私、頑張るっ!!」


そう言ってくるりと振り返ると、元気よく走り去っていく。


「……期待していますよ。」


そう言って微笑んだ千歳の耳と尻尾が極悪に揺れていたが、走り去っていった美雨は気付かなかった。


 ※ ※ ※


回想から戻ってきた美雨は、ぎり、と歯を食いしばり、目の前の敵を見据える。


視界は霞み、足に力が入らない。


正直、戦えるような状態ではない。



――でも――



―――頑張って下さい―――



―――貴女にしか頼めません――



そう言って聖母の如く優しく微笑む千歳の顔が浮かぶ。


「……負けないっ!!栞ちゃんは絶対に守るっ!!」


その台詞に、栞はじぃんと感動する。


「美雨……。」


「千歳さんの為にっ!!」


「………へ?」


顎がかくんと外れそうになる。


……今、なんと?


そんな栞の状況にも気付かず、美雨は続ける。


「そして……っ

……ハネちゃんに撫でて貰うんだーーーーーっ!!」



(ええええええええぇぇぇぇ!!??)


最早栞のことは頭から抜け落ちている美雨だった。



美雨は使命感に燃えていた。


この、無力な羊を護るのだと。


「大好きな千歳さん」にお願いをされたから。


彼に、頼られたから。


そして、彼女の大好きな相棒に撫でて貰う為に……


彼女の頭はそれで占められていた。



だから、彼女は知らない。


彼女が去った後の、彼等の会話を……。



「まぁ、主様ってば悪い顔……。」


今まで無言でお茶をたてていた少女が、そう言って立ち上がる。


「そんなに変な顔をしていますか?」


「まさか。主様のお顔は世界一美しいですわ。」


そう言って、おかっぱの少女はころころと笑う。


短い黒髪をさらりと揺らしながら、千歳のもとへと歩んでいく。


着物を着て、音も立てずに優雅に歩む様はとても洗練されていて美しかった。


「せっかくお茶を入れましたのに、無駄になってしまいましたわ。」


そう言って悲しげに美雨の出て行った方を見やる。


「では後で一緒にお茶にしましょうか。」


「まあ、嬉しいですわ。」


そう言って、千歳の隣を通り過ぎる。


「美雨には人を和ませる力があります。俗にいう、癒し系ってやつですね。

イチビたちは少々表情に乏しいですから、美雨で和んで貰いましょう。」


千歳の後ろでがさごそと何かを漁っていた少女は、手に大きな段ボールを持って、戻ってくる。


そのダンボールには、『簡単☆ボスセット』と書かれていた。


「これも、無駄になりましたわね……」


そう言って、切なげに段ボールを見つめる少女。


「ええ。このために急遽取り寄せましたのに……無反応なんて……。

……矢張り、姫のように上手くはいかないようです……」


「靴も、いい音が出るものを探しましたのにね……。」


2人の間に、沈黙と共に悲しげな雰囲気が漂う。


「でも、今回は相手が悪かったのですわ。諦めてはなりません。次がありますわ。」


その言葉に勇気づけられ、ふわりと微笑む。


「ええ。そうですね。真紅と羊さんで試してみましょう……。」


「そうですわ。……その為に、その方を選ばれましたのでしょう?」


「ええ。彼女は天性の才を持っています。彼女を羊に選んだのも、その資質故……。

そのことに関しましては、姫とも意見が一致したのです。」


射抜くような瞳で前を見据える。


「お会いするのが、楽しみですわ……。」


うふふおほほとほほ笑み合う2人。


彼等に狐の耳と尻尾が見えたのも、その周りが黒く見えたのも、おそらくは気のせいであろう。




栞がこの学園へ入学出来た理由―――



その理由が本人に明かされる日は


来ないかもしれない。


……多分。



ツッコミ不在でご不満な千歳様でした。

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