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怠惰で傲慢だった貴族がやり直しで世界を救う  作者:
第四章 冒険者登録編

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第43話 最初の元手

「最後に、報酬についてだ」


 俺は九人を見回した。


「契約で約束したとおり、働きに応じた給金は払う。ただし、食事と最低限の生活費を除いた一部は、被害者への償いに回してもらう」


「失礼ですが、その給金はどこからお出しになるのでしょうか?」


 ロイドが尋ねた。ベッツたちが奪った金品は、被害者へ返す物だ。俺が勝手に給金へ使うわけにはいかない。俺は持ってきた革袋を、ロイドの前へどさりと置いた。重い音とともに、袋の中で硬貨がぶつかり合う。これまでに貯めていた、俺自身の金だ。


「アレス様。それは、アレス様ご自身のお金ではありませんか」


「かまわん」


 ニーナの言葉を退け、革袋をロイドへ差し出す。


「十人分の当面の資金だ。ロイド、これを全員へ均等に分けろ。……いや、ロイド、ゲオルグ、セルジュの三人は、ほかの者の一・五倍にしろ」


「お、俺たちより多いんですかい?」


 ドランが思わず声を上げた。ラグとマークも、不満そうに顔を見合わせる。


「当たり前だ」


 俺は三人をぎろりとにらんだ。


「この三人には、貴様らより多く働いてもらう。仕事も責任も違うのに、給金だけ平等なわけがないだろう」


 声とともにわずかな《威圧》が漏れた。九人の背筋が一斉に伸び、顔から不満の色が消える。


「何か文句があるのか?」


「も、文句なんてありません!」


「へ、へい! 俺たちも、その方がいいと思ってました!」


「働いた者が多く受け取る。当然でございます!」


 口々に賛同する声が上がった。これで異論はないらしい。だが、この程度の金ではすぐに尽きる。十人を養い、給金を払い続けるには、自分たちで新たな金を生み出さなければならない。


「そのために、これからお前の店へ行く」


「私の店へ、ですか?」


「在庫は売れる物から手放したが、中古の武具と傷物はいくらか残っていると言っていたな」


「はい。ですが、まともな商品にはなりません」


「十分だ。残っている物をすべて見せろ」



 領都の外れにあるロイドの武器屋へ着いたころには、日はほとんど沈んでいた。表の扉には、閉店を知らせる札が掛かっている。ほかの者たちには、ゲオルグの指示で石切り場の修理を始めるよう命じた。俺はニーナとロイドだけを連れ、人目を避けて店の裏口から入る。


 灯りがついた売り場には、空いた棚が目立った。剣や、槍がわずかに並んでいるが、客が選べるほどの数はない。借金に上乗せされた金を払うため、売れる品から手放したという話は本当らしい。


「両親から継いだ店だったな」


「はい。父が武具を仕入れ、母が帳面をつけておりました」


 ロイドは空いた棚へ目を向けた。


「私の代で失うところでした。契約書を焼いていただいたことには、どれほど感謝しても足りません」


「礼は仕事で返せ。店を残したのは、使えると判断したからだ」


「承知しております。こちらでございます」


 ロイドは最初から変わらない丁寧な言葉で、店の奥にある倉へ案内した。壁際には、傷んだ武具が積まれている。刃こぼれした剣が五本。穂先の曲がった槍が三本。大きくへこんだ盾が二枚。革帯の切れた胸当てと、さびの浮いた金属の輪を編んだ鎧。全部で十二点だった。


「これで全部か?」


「はい」


「売れば、いくらになる?」


「このままでは、ほとんどがくず鉄の値段です」


 ロイドは申し訳なさそうに答えた。


「修理すれば使える物もございますが、職人へ支払う費用を考えると、新しい物を仕入れるのと大差がありません。正直に申し上げれば、十人分の給金どころか、ひと月分の食費にも届かないでしょう」


 できもしないことを、できるとは言わない。主となった俺の機嫌を取るより、商人として正しい数字を伝えた。やはり、ロイドを選んだのは間違いではなかったらしい。


「これは、元は悪くない剣だな」


 積まれた中から、一本の剣を取り出す。刀身の中央がわずかに曲がり、剣先近くには大きな欠けがあった。柄へ巻かれた革も、汗と油を吸って黒ずんでいる。


 剣を手に取った途端、身体がずしりと重くなる。《体術》スキルの影響だ。武器を持っている間は、身体の動きそのものが鈍くなる。だが、俺はそのことを口には出さず、何事もなかったように刀身を確かめた。


「お分かりになりますか?」


「重心は悪くない。使い手が手入れを怠り、最後に無理な受け方をしたのだろう」


「おっしゃるとおりです。元傭兵から買い取りました。作り自体はよいのですが、今の状態では売り物になりません」


「同じ鉄の端材はあるか?」


「ございます」


 ロイドが箱から小さな鉄片を取り出し、作業台へ並べた。俺は剣と鉄片へ手を触れる。生き物を治す時は、そこにある生命の形を読み取り、失われた箇所を再生する。物も同じだった。作られた時の形と、使われてきた間に受けた傷が、わずかな跡として残っている。《超再生》を極めた俺なら、その跡をたどることができた。


 ただし、無から材料を生み出せるわけではない。鉄の剣をミスリルの剣へ変えることも、同じ物を際限なく強くすることもできない。使えるのは、そこにある材料と、その構造が本来持つ可能性までだ。それで十分だった。


「《再生》」


 淡い光が、剣の表面を走る。浮いていたさびが消え、曲がった刀身がゆっくりと真っすぐに戻っていく。欠けた箇所へ鉄片が溶け込むように吸収され、滑らかな刃を形作った。黒ずんだ柄革も、柔らかさと張りを取り戻す。ここで止めれば、作られた直後と変わらない。


 俺はさらに細く魔力を流した。鉄の内部に残る小さなすき間を埋め、衝撃が一点へ集まらないよう組み直す。材料そのものは変えず、以前よりわずかに硬く、折れにくく、扱いやすい状態へ再生する。光が消えた。


 作業台の上には、新品と見紛う剣が横たわっていた。ロイドが息をする音さえ聞こえない。石切り場で、人の骨がつながるところを見たばかりだ。それでも、自分が最もよく知る武具を目の前で作り直された衝撃は、また別のものらしい。


「……あり得ません」


 ようやく、それだけを絞り出した。両手で剣を持ち上げ、灯りへ透かす。刃の両面を何度も確かめ、峰へ指を滑らせ、軽く振った。


「継いだ跡が、どこにもありません。重さの偏りも消えております。それどころか……」


 もう一度振り、動きを止める。


「新品だったころより、重心がよくなっています」


「強度もわずかに上げた」


「確かめてもよろしいでしょうか?」


「構わない」


 ロイドは試し斬りに使う硬い木を台へ置き、剣を振り下ろした。乾いた音と共に、太い木が一度で断ち切られる。刃には、小さな欠け一つない。さらに、店に残っていた同じ程度の鉄剣を持ち出し、刃の厚い根元同士を慎重に打ち合わせた。売り物の剣には小さなくぼみが生まれた。再生した剣には、跡すら残っていない。


「新品以上です……」


 ロイドの目が変わった。奇跡を目にして立ち尽くす者の目ではない。この剣の値段、売り先、その後に生まれる利益を考える、商人の目だ。


「アレス様。この品質を、ほかの武具でも再現できるのでしょうか?」


「材料が残っていればな。大きさと傷み方によって、使う魔力は変わる」


「でしたら、売れます。必ず売れます」


 ロイドは剣を作業台へ戻すと、すぐに帳面を開いた。


「お前なら、どう売る?」


「私なら、最初から高値は付けません。見たことのない再生品へ、説明だけで高い金を払う客はいないでしょう。まず数を絞り、信頼できる冒険者や傭兵へ使ってもらいます。実戦で壊れなかったという評判を作ります」


「使い古した物を新品と偽ることだけは許さない」


「もちろんです。再生品として売り、一本ごとに店の印を入れます。仕入れ、修理、売値、買った者の名を帳面へ残し、不具合があれば買い戻します」


 一本目が売れても、それだけでは足りない。問題は、その先だ。


 十人が自分たちの力で生き、被害を受けた者たちへの償いを続けるには、売った金を次の仕入れへつなぎ、途切れず回さなければならない。


 ロイドは、そこまで理解してくれているようだ。

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