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怠惰で傲慢だった貴族がやり直しで世界を救う  作者: 雅
第十二章 王都出会い編

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第189話 来年までの一日一日

 十三歳として考えれば、二人の力は明らかに規格外だ。四種の耐性もそろっている。だが、《鑑定眼》に並ぶ文字だけでは、迫る攻撃にどう動き、いつ退くかまでは分からない。


 セレスは、この一年、グランベル領で魔物との実戦を重ねてきた。一昨日の模擬戦でも、最後には俺の予想をわずかに上回る剣を放った。


 ただ、《限界突破》と《無敵時間》を使った様子はなかった。隠していたのか、発動に条件があるのか。自在に使えるかどうかは、本人に確かめる必要がある。


 リシアも、救護院で多くの者を治療し、昨日は呪いを抑えて人質たちの命をつないだ。次に必要なのは、敵がいる中で誰を先に救い、どこへ結界を張るかを判断する経験だ。


 二人には、すでに優れた力がある。その力をさらに伸ばしながら、危険な場でも使いこなし、生きて帰るための備えを重ねていかなければならない。


 来年の滞在は、そのためにも生かせるはずだ。ただし、まずは二人の意思を聞きたい。


「セレス様、リシア様」


 二人がそろって俺を見る。


「お二人に、お尋ねしたいことがあります」


「何?」


「何でしょうか?」


「お二人は、今より強くなりたいと望まれますか?」


 一瞬の沈黙。最初に答えたのは、セレスだった。


「望むよ」


 迷いはなかった。


「今より、ずっと強くなりたい」


「勇者だからですか?」


「それだけじゃない」


 セレスの青い瞳が、真っ直ぐに俺をとらえる。


「一昨日、アレス君と戦って分かったの。私は、自分が思っていたよりずっと弱い。でも、戦いながら、自分が強くなっていくのも分かった」


 負けた悔しさではなく、その先にあるものを見ている目だった。


「もっと戦える。もっと強くなれる。次にアレス君と戦う時は、あの時より驚かせたい。それに――」


 セレスが一度、言葉を切る。


「守ってもらうだけではなく、私もアレス君の隣で戦いたい」


 真っ直ぐすぎる言葉だった。


「リシア様は?」


「わたくしも、強くなりたいです」


 リシアの答えも、静かだが迷いはなかった。


「昨日、わたくしの力で救えた命がありました。ですが、アレス様とセレスがいてくださらなければ、わたくし一人では、あの方々のもとへたどり着くことさえできなかったでしょう」


 膝の上で重ねた両手へ、わずかに力が入る。


「誰かを癒やす力だけではなく、その方のもとへたどり着き、救い終えるまで立ち続けられる力が欲しいのです」


「訓練は、楽なものではありません」


「承知しております」


「これまでより、厳しくなるかもしれません」


「それでも、お願いいたします」


 リシアは、少しも目をそらさなかった。セレスも、待ちきれないように身を乗り出す。


「アレス君が教えてくれるの?」


「国王陛下、レオナルド辺境伯、父上の許可を頂ければ」


「私からも、お父様にお願いする」


「わたくしも、お父様へお願いいたします」


 二人の意思は、十分に分かった。


「でしたら、来年、お二人がアークハルト領へいらした際、私が徹底的に鍛えます」


 二人の顔が、同時に明るくなる。


「本当に?」


「はい」


「一か月、ずっと?」


「はい。三人で集まれる貴重な一か月です。共に動く訓練にも、時間を使いたいと考えています」


 二人が顔を見合わせ、うれしそうに頬を緩めた。


「一か月、毎日アレス君と一緒に……」


「楽しみですね」


 リシアも、小さな声で応じる。厳しい訓練になると伝えたばかりなのに、二人とも来年を心待ちにしているようだ。少なくとも、訓練への意欲を心配する必要はなさそうだ。


「来年になってから、いきなり始めるわけではありません」


「今から何かするの?」


「はい。まずは来年まで、それぞれの場所で今の訓練と経験を積み重ねてください。アークハルト領での訓練は、その時のお二人の力と、周囲の状況を見て決めます」


「分かった。今より強くなって、アレス君を驚かせる」


「わたくしも、救護院で学べることを一つでも多く身につけてまいります」


 領には訓練場があり、騎士団やルナたちの力も借りられる。魔の森での実戦も、許可を得たうえで、俺が付き添い段階を踏めばよい。


 ただし、お告げの意味はまだ分からない。異変があれば安全の確保を優先し、訓練の内容も変える。そのためにも、備えは今から始める必要がある。


「アレス君は?」


 セレスが尋ねた。


「私、ですか?」


「私たちへ強くなれと言うのだから、アレス君も、もちろん鍛えるんだよね?」


「当然です」


 迷うまでもない。


「今の強さで満足するつもりはありません。私も、さらに強くなります」


「今より、もっと?」


「はい。お二人へ強さを求めながら、私だけが立ち止まるつもりはありません」


「なら、競争だね」


 セレスが楽しそうに笑う。


「来年、誰が一番強くなっているか」


「戦闘力では、わたくしが不利ではありませんか?」


「リシア様は、救える命を増やしてください。比べる物差しは同じでなくとも、三人とも今より成長することはできます」


「はい。負けません」


 二人の顔から、先ほどまでの緊張は消えていた。話を終え、三人で立ち上がる。俺は扉へ向かう前に、壁際の女神像を見た。女神ルミエラ。滅びた世界の最後で、俺へもう一度だけ機会を与えた女神。その女神が、今度は三人で共にあれと告げた。


「アレス様」


 リシアに呼ばれ、女神像から目を離す。


「来年、必ず参ります」


「私も行くよ」


「はい。アークハルト領で、お待ちしています」


 二人の少女が並び、こちらへほほえむ。来年への決意が伝わってくる、真っ直ぐな笑顔だった。勇者と聖女は、アレス・アークハルトと共にあれ。女神が定めた一か月は、まだ一年以上先にある。だが、そこへ至る道は、もう今夜から始まっている。


 来年九月十五日までの一日一日を、すべて俺たちの力へ変える。あの秋に何が待とうと、三人で生きて越えるために。お

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