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怠惰で傲慢だった貴族がやり直しで世界を救う  作者: 雅
第十二章 王都出会い編

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第188話 乗り越える決意

第188話 交わらなかった三人の道

 女神ルミエラが勇者と聖女に、俺と共にあれと告げた。前の歴史で、俺たち三人の道は一度も交わらなかった。


 俺が勇者セレスティアについて知ったのは、帝国との戦いで挙げた戦果と、反逆者として処刑されたという報せだけ。聖女リシアについて知ったのも、多くの民を救ったという噂と、王都で暗殺されたという報せだけだった。


 同じ時代を生き、世界を救うために必要な力を持っていながら、三人が出会う前に勇者と聖女は失われた。世界樹は崩壊し、世界は滅んだ。だからこそ、女神は俺を過去へ戻した。二人を、最後の一撃を放てる場所まで生きてたどり着かせるために。


「アレス君」


 セレスが、少しだけ身を乗り出した。


「今度は、何を考えているの?」


「女神が、なぜ私の名まで告げたのかを」


「それは私も知りたいけど……」


 セレスが俺から目をそらす。


「一か月も『共にあれ』なんだよね」


「そうですね」


「本当に、分かっているの?」


「何がですか?」


「何でもない」


 なぜか、セレスまで頬を赤くした。リシアも俺と目が合うと、すぐ女神像へ顔を向ける。女神のお告げによって、一年以上先の行動を定められたのだ。戸惑うのも無理はない。


「最後に、女神様はこうおっしゃいました」


 リシアが気持ちを整えるように、一度呼吸する。


「『この言葉は、王、レオナルド、ガレス、アレス、セレスにのみ伝えよ』」


「リシア様を含めて、六人だけということですね」


「はい。お母様にも、ユリウスお兄様にも、クラウディウス王子とフィリップ王子にも、宰相にも明かすことは許されておりません」


「私たちの仲間にも?」


「女神様が御名を挙げた方以外には」


 ニーナにも、ルナにも、アイゼンにも、ガルムにも話せない。来年、二人をアークハルト領へ迎えるならば、あの者たちの力は必要になるだろう。だが、女神のお告げの存在を明かすことはできない。


「必要なことまで、何も伝えられないわけではありません」


 リシアが言った。


「女神のお告げには触れず、王家からの依頼として、護衛する相手と、目的地、期間だけはお話しできると思います」


「ですが、なぜその時期にお二人を迎えるのかは、説明できません。事情を伏せたまま、仲間に護衛を頼むことになります」


 理由も聞かず、力を貸してくれる仲間たちだ。だからこそ、その信頼に甘えてよいのか、迷いがあった。


「その時は、わたくしたちからもお願いいたします」


 リシアは、俺を見て答えた。


「お告げは明かせません。それでも、お守りいただくのはわたくしたちです。説明もお願いも、アレス様お一人には任せません」


「そうだよ」


 セレスも真っ直ぐに俺を見る。


「仲間にどう話すかも、私たちに相談してよ」


「ですが、お二人にご負担を――」


「ほら。また一人で引き受けようとしている」


 言葉が止まった。二人を守らなければと思うあまり、二人自身がどうしたいのかを、まだ聞いていなかった。


「女神様は、三人で共にあれとおっしゃいました」


 リシアの声は穏やかだった。


「すべてをアレス様お一人へ委ねるための御言葉ではないと、わたくしは思います」


「私も同じ」


 セレスがうなずく。


「何が起きるのか分からないなら、三人で考えればいい。アレス君だけが先に答えを決めないで」


 二人を安全な場所へ置き、俺だけで対処すればよい。まだ、そんな考えが頭のどこかにあった。


 だが、昨日の救出作戦では、二人もそれぞれの役目を果たして人質を救った。自分で考え、動き、誰かを守れる者たちだ。


「分かりました」


 俺は二人へうなずいた。


「話せることは、必ずお二人にもお伝えします」


「話せることだけ、なんだね」


「セレス」


 リシアが静かに名を呼ぶ。セレスは何かを言いかけたが、俺の顔を見た後、それ以上は追及しなかった。


「うん。それでいい」


「ありがとうございます」


 話せないものがあることに、二人は気づいているのかもしれない。それでも、今は何も尋ねないでいてくれた。その気遣いに甘えて、何も相談せずに決めてしまうことだけは、もうしたくない。


 来年の九月十五日から十月十五日。前の歴史で大規模スタンピードが起きた十月十日を含んでいる。真っ先に考えるべきは、同じ災厄が再び起きる可能性だ。


 だが、同じ日に、同じ規模の群れが現れるとは限らない。地竜を倒し、魔の森へ踏み込み、領地の防備を整えてきた。この一年の行動が、何に影響しているかは分からない。


 災厄が早まるかもしれない。魔王教が別の事件を重ねてくるかもしれない。反対に、今から備えることで、防げるものもあるはずだ。


 あの日の記憶だけを頼りに、備えを決めてはならない。


 そして、未来がどう変わろうと、倒さなければならない相手がいる。


 魔王ヴァルゼイン。世界樹を破壊し、世界を瘴気で覆った存在だ。


 前の俺は、六十年以上を鍛錬と戦いに費やした。何度、致命傷を負っても再生し、立ち上がった。その果てに放った《神穿(シンセン)》は、何重もの結界を砕き、十二魔将の身体さえ貫いた。


 それでも、あの魔王には一発も届かなかった。


 玉座に座ったまま、俺へ拍手を送る姿がよみがえる。たった一発でよかった。あの澄ました顔面へ、拳をたたき込みたかった。


 それさえ、できなかった。


 今の俺は、あの時よりずっと弱い。地竜を倒し、Aランク冒険者となっても、あの魔王へ届くには足りない。俺一人が二人の前に立ち、傷を引き受け続けるだけでは、いずれ同じ結末を迎える。


 俺も強くなる。そのうえで、二人にも、共に戦える力を身につけてもらわなければならない。


 前の歴史では、出会うことさえできなかった二人が、今は俺へ手を貸すと言ってくれている。その意思を信じることも、俺が変えなければならないことの一つなのだろう。


 三人で備え、三人で生きてたどり着く。今度こそ、最後の一撃を放てる場所まで。


「アレス様?」


 リシアの声が聞こえた。顔を上げると、二人が心配そうに俺を見つめている。


「やっぱり、さっきより怖い顔をしているよ」


「申し訳ありません。少し、考え込んでしまいました」


「何をお考えになったのですか?」


「来年、何が起きても、お二人と共に対処するための備えを」


 セレスが、少しだけ表情を緩めた。


「今度は、私たちも入っているんだね」


「はい。私一人で決めるつもりはありません」


 リシアも、静かにうなずく。


 共に戦うなら、まず今の二人の力を確かめたい。すでに身につけているものと、これから補うべきものを見極めるため、俺は右眼へ意識を集中させた。


 《鑑定眼》が開く。右眼の奥が熱を持ち、二人の周囲へ文字が浮かび上がった。


 二人に共通する《物理攻撃耐性》《魔法耐性》《精神誘導耐性》《毒耐性》。加えて、セレスには《限界突破》と《無敵時間》。リシアには《結界》と神聖魔法。


 並ぶのは、どれも強大な力だった。


 だが、力があることと、それを生死のかかった場で使いこなせることは違う。


 来年の秋を三人で越えるために、二人へ確かめたいことがあった。

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