↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
怠惰で傲慢だった貴族がやり直しで世界を救う  作者: 雅
第十章 初代アークハルトの遺産編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

134/176

第134話 仲間を信じる

新連載

『婚約破棄され、冒険者パーティも追放されたモブ貴族です~前世の知識と転生特典で借金を返して楽しく生きるつもりが、いつの間にか英雄になりそうです~』

https://ncode.syosetu.com/n9633mt/

もよろしくお願いします!

 地竜があごへさらに力を込める。わき腹へ刺さった牙が、肉を裂き、内臓へ届いた。


 この身体では、力が足りない。ならば、足りるだけ引き出す。


 全身へ闘気を巡らせようとした、その時だった。


「まだじゃ、アレス!」


 ルナの声が響いた。


「わらわたちを信じよ!」


 闘気を拳と脚だけへ留め、地竜のあごを押し返しながら周囲の気配を探った。


 アイゼンが右前脚へ雷を流している。ルナは血の鎖を操り、地竜の首をわずかに引いていた。そして、ガルムがひび割れた大盾を両手で構え、正面から走ってくる。


「ガルム! 止めるな!」


「分かっている」


 ガルムが俺の横へ踏み込む。狙うのは、地竜の頭ではない。地面に触れるほど下がった、下あごだ。


 大盾の下端を土へ差し込み、全身の力で押し上げた。


「土盾《不動城塞(フドウジョウサイ)》」


 大盾の下から分厚い土の壁がせり上がり、地竜の下あごを斜め上へ押し上げた。牙の間にすき間ができる。


 俺は地面を蹴り、口の外へ抜けた。


 直後、地竜のあごが閉じ、大盾の先端がかみ砕かれた。ガルムは残った盾を引き抜き、俺の前へ立つ。


「無事か?」


「ああ」


「なら、次だ」


 短い言葉だった。それで十分だった。


 牙に裂かれたわき腹では、すでに《超再生》が傷を塞ぎ始めている。


 引きずられていた地竜の右前脚から、残っていた力が抜ける。アイゼンの雷が、ようやく脚の奥まで届いた。


 ルナの血の鎖が、今度は地竜の左前脚と首へ巻きつく。


「アレス!」


 ルナが叫ぶ。


「右前脚は動かぬ! 次に突進させ、右へ倒すぞ!」


「分かった」


「今度こそ、わらわの指示を最後まで聞け!」


「聞いている」


「ならば勝手にかまれるでない!」


「あれは必要だった」


「後で説教じゃ!」


 地竜が血の鎖を引き千切った。巨木へつながっていた鎖が弾け、赤い霧となって消える。ルナの身体が大きく揺れた。


「姫様!」


 アイゼンが駆け寄ろうとする。


「来るでない! 持ち場へ戻れ!」


「しかし、お身体が!」


「わらわを誰だと思うておる!」


 ルナは口元の血を手の甲で拭い、もう一度両手を上げた。


 陽は、すでに森の木々の向こうへ沈みかけている。昼が終わり、夜が近づく。


 それに合わせるように、ルナの周囲へ集まる魔力が濃くなった。アイゼンとガルムの気配も、わずかずつ強くなっている。


 昼間の力が落ちた状態で、ここまで戦い続けた。ここからは、三人の時間だ。


 地竜がほえた。右前脚を引きずりながら、それでも俺たちへ向かって走り出す。大地が揺れる。


 右前脚が動かない分、突進の進む方向はわずかに右へ寄っていた。


「ガルム!」


「承知」


 ガルムが地竜の左前方へ出て、砕けかけた大盾を低く構えた。


「今度は、止めてよい」


 ルナが命じる。


「任せよ」


 地竜とガルムが衝突した。


 大盾が大きくへこみ、ガルムの両足が膝まで地面へ沈んだ。口から血があふれる。


 それでも、今度は下がらなかった。


 右前脚が利かず、突進の力はわずかに落ちている。


 ガルムは盾を正面ではなく、地竜の左肩へ押し当てていた。


「ぬおおおおおっ!」


 普段ほとんど声を上げないガルムが、初めてほえる。土魔法が両足から地面へ広がり、沈んだ身体を岩のように固定した。


 地竜の進行方向が、少しずつ右へ変わる。


「アイゼン!」


「はい、姫様!」


 アイゼンが走る。


 地竜の右側から回り込み、動かない右前脚の内側へ剣を差し込む。青白い雷が弾けた。


 残る力をすべて注ぎ込むように、剣を横へ振り抜いた。


 うろこのすき間から血が噴き出し、右前脚が完全に折れた。


 地竜の巨体が傾く。


「まだ足りぬ!」


 ルナが両手を握り締めた。


 地面やうろこへ飛び散っていた血が、一斉に浮かび上がる。アイゼンが傷つけた右前脚。俺がうろこを砕いたあご。さらに、わき腹へ牙が刺さった時に付着した俺の血。


「血術《緋縛》!」


 戦場に流れた血のすべてが赤黒い鎖へ変わり、地竜の四肢と首へ絡みつく。先ほどまでとは比べものにならない数だ。鎖は右側の巨木へ何重にも伸び、地竜の身体を右へ引いた。


 巨木がきしみ、根が持ち上がる。鎖が一本ずつ千切れていく。


 それでも、地竜の巨体は確かに傾いた。


「アレス! 今じゃ!」


 地竜の左前脚が地面から浮く。腹と首の間――岩のような背中より薄いうろこに覆われた場所が、わずかに露わになった。


 三人が作ったすきだ。今度は、俺が応える番だった。


 ゆっくりと息を吐く。


 肉体。


 魔力。


 生命力。


 そして、精神。


 そのすべてを胸の奥で一つに練り上げ、全身へ巡らせる。心臓が強く脈打った。


 身体の奥から熱があふれ、淡い陽炎のような闘気が全身を覆う。足元の地面へ亀裂が走った。


 地竜の眼が、初めて俺を恐れた。


 遅い。


「ガルム!」


 ガルムが地竜を押さえたまま、壊れかけた大盾をわずかに傾ける。その表面へ足を掛けた。


 ガルムが大盾を振り上げ、俺は盾を蹴って宙へ飛び出した。


 地竜の身体が傾き、露わになった首元がわずかに遠ざかる。右脚へ闘気を集めた。


「《空踏(クウトウ)》」


 何もない空間を蹴る。足裏から放った闘気が空気をたたき、地竜の懐へ身体を加速させた。


 一瞬で、露わになった首元へたどり着く。右拳を引き、全身へ巡らせた闘気を拳の一点へ集めた。


 ただ硬いだけのうろこを、表面から壊す必要はない。外側を越え、衝撃を内側へ通す。


 狙うのは、うろこの下にある骨と、そのさらに奥。


「《破砕》!」


 拳を打ち込んだ。


 音が消えた。


 一瞬遅れて、地竜の首を覆ううろこが内側から浮き上がる。


 次の瞬間。


 轟音と共に、何十枚ものうろこが弾け飛んだ。衝撃は首の骨を砕き、そのまま頭蓋の奥まで駆け抜ける。地竜の巨体が地面からわずかに浮いた。


 ルナの血の鎖がすべて千切れ、ガルムの大盾が、ついに中央から折れた。アイゼンがルナの前へ戻り、飛んでくるうろこを剣で弾く。


 俺は宙で身体を捻り、地面へ着地した。闘気を止める。


 地竜は立っていた。残った三本の脚で巨体を支え、黄褐色の眼で俺を見下ろしている。


 一歩、前へ出ようとした。だが、脚は動かなかった。


 眼から光が消え、巨体がゆっくりと横へ傾いた。


「全員、離れろ!」


 俺たちは一斉に地竜から距離を取る。


 地竜が倒れた。大地が大きく揺れ、土煙が森を覆う。折れた木々が遅れて地面へ落ちていく。


 誰も動かない。土煙が晴れるのを待つ。


 倒れた地竜の胸は、もう動いていない。


「退治完了だ」


 俺の声が、静かになった森へ響いた。


 ◇


「本当に、死んでおるのじゃろうな?」


 ルナが地竜の眼をのぞき込みながら尋ねる。


「死んでいる」


「急に起き上がりはせぬか?」


「首の骨と頭蓋の中を砕いた。起きない」


「そうか」


 ルナがその場へ座り込んだ。


「疲れたのか?」


「誰のせいじゃと思うておる」


「地竜だろう」


「そなたでもある!」


 声を上げる元気は残っているらしい。アイゼンがすぐにルナの側へ膝をつく。


「姫様、おけがを拝見いたします」


「大きな傷はない。血と魔力を使いすぎただけじゃ」


「だからこそ、お休みください。すぐに食事もご用意します」


「分かった。じゃが、そなたも腕から血が出ておるぞ」


 アイゼンの左腕には、地竜の尾が巻き上げた石片で裂かれた傷があった。


「この程度、問題ございません」


「わらわがよいと言うまで座っておれ」


「ですが――」


「アイゼン」


「……承知いたしました」


 アイゼンがルナの隣へ座る。自分の傷より、ルナの顔色ばかりを見ていた。


 ガルムは折れた大盾を拾い上げている。中央から大きく割れ、縁も何か所か欠けていた。


「直せるか?」


「鍛冶師へ持ち込めば直せる。素材を足せば、以前より強くすることもできるだろう」


「そうか」


 ガルムが、わずかに安心した顔をする。長く使ってきた盾なのだろう。


「地竜のうろこも使える」


「硬い」


「ああ。お前の盾へ合わせれば、次はもう少し耐えられる」


「楽しみだ」


「今、直す」


「今?」


 ガルムが首を傾げた。


 俺は立ち上がり、地竜との戦いではがれ落ちたうろこの中から、厚く傷の少ないものを選んだ。


 戦いの間に日は大きく傾き、奥の森には夜の気配が満ち始めていた。


 自分の細胞へ再現した夜の強化が、その気配に呼応し、筋力と感覚を押し上げている。


 地竜に砕かれた骨も、裂かれた肉も、《超再生》ですでに治っている。武具を鍛え直すだけの魔力と再生力も、まだ十分に残っていた。


 これなら、三人の武具を鍛え直せる。


「ガルム。盾を地面へ置け」


「分かった」


 中央から割れた大盾の上へ、地竜のうろこを重ねる。


 俺が触れると、《超再生》が盾に刻まれた傷を読み取った。


 どこから亀裂が走ったのか。


 何に耐えられなかったのか。


 次に同じ攻撃を受けた時、何が足りないのか。


 激戦を潜り抜けた武具ほど、その答えを明確に残している。地竜の一撃で砕けたこの盾なら、次に必要な強さまで読み取れる。


「《超再生》」

新連載

『婚約破棄され、冒険者パーティも追放されたモブ貴族です~前世の知識と転生特典で借金を返して楽しく生きるつもりが、いつの間にか英雄になりそうです~』

https://ncode.syosetu.com/n9633mt/

もよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。