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【連載版】悪女の優雅で素晴らしい贅沢生活 〜過労死した私、社畜スキルで稼ぎます〜  作者: 海城あおの
第二章 悪女はお金を稼ぎます

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20. 世界に一つだけの香水

 

「体温や肌質、あとは天候などでも変わる特別な香水ですわ」

「へぇ。その人だけの香りってことだ」


 そう言って、彼は自身の手首を鼻元へ近づけた。

 ふっと表情がほころぶ。


「ラベンダーの香りがする。だけど甘すぎないのがいいね」

「男性でもつけられるように、控えめに調整しました」

「へぇ。君もつけてるの?」

「はい、もちろん」


 私が頷くと、ベリルはじっとこちらを見つめた。深い夜のような濃紺の瞳に、胸が小さく跳ねる。


「どう、されたのですか」


 なるべく平静を装って尋ねると、彼は甘く笑った。


「手に触れても?」

「ど、どうしてですか」

「だって、人によって香りが変わるんだろう? 宣伝のためには、自分でも違いを知っておかないと」


 正論だった。ベリルの言っていることは正しい。そう分かっていても、心臓の音がうるさい。

 前世では残業とキーボードに溺愛されていた私。目の前の美男子はあまりにも刺激が強すぎた。


(焦るのは仕方ないのよ! 不可抗力よ!!)


 頭の中で必死に言い訳をしてから、私はそっと手首を差し出した。

 指先の温度が伝わる。そのまま彼が顔を近づけた瞬間、私は思わず息を止めた。

 心臓の音が聞こえませんように、そう祈ることしかできない。

 ベリルは私の手首から立つ香りを確かめたあと、ちらりとこちらを見上げる。目が合った瞬間、彼はにこりと笑った。


「君の香りは、僕のより少し甘いんだね」

「そ、そうですか」

「僕の香りも、確かめてみる?」

「け、結構です!」


 大声で拒否して、私は慌てて手を引っ込めた。ベリルは「残念」と言って、けらけらと愉快そうに笑う。

 これ以上は、私の心臓が破裂しかねない。

 私はバクバクと鳴る心臓を落ち着かせながら、目の前の男から視線を逸らした。



 *



 そして現在。

 ミラが作った香水は、貴族たちの注目を存分に浴びていた。


(いい感じだわ!)


 内心でほくそ笑む。

 ベリルは香水の効果を説明しながら、私が渡した瓶を使い、貴族たちの手元へ香水を吹きかけていく。


「本当ですわ。少し違う香りがします」

「不思議……同じ香水とは思えません」


 令嬢たちの間から、次々と驚きの声が上がる。


「そうでしょう?」


 ベリルが微笑むと、令嬢たちは見惚れたように彼を見つめた。ハートマークが大量に飛んでいるのが見える。

 顔や振る舞いが完璧なのはもちろん、弁も立つ。


(これ以上ない広告塔ね)


 商品を渡して正解だったと満足していると、一人の令嬢がうっとりと頬を染めた。


「こんな香水を作られるなんて、流石ベリル様ですわ」

「いえ」


 ベリルは穏やかに微笑み、私へ視線を向けた。


「この香水を作ったのは、エスメラルダ様ですよ」

「えっ?」


 令嬢たちが一斉にこちらを見る。

 驚きと困惑の入り混じった視線を受けながら、私は背筋を伸ばした。


「このたび、新しく香水事業を立ち上げましたの。今日は皆様に商品を知っていただきたくて、参加いたしました」

「エ、エスメラルダ様が事業を?」

「えぇ。優秀な仲間と共に作り上げていますわ」


 できるだけ落ち着いた声で告げる。彼女たちの表情がわずかに変わった。

 おそらく、彼女たちが思い描いていた悪女の姿と違って見えたのだろう。


「香りが変わる仕組みも、エスメラルダ様が?」

「発案は私ですが、香料の調合は専門の職人が行っていますの」


 そう答えると、今度は別の令嬢から質問が飛んできた。一つ一つ、落ち着いて答えていく。すると質問は途切れるどころか、次々と増えていった。

 周囲の表情からは警戒が薄れ、代わりに香水への好奇心を覗かせている。

 手首の香りを確かめ合う者や、購入方法を尋ねる者まで現れ、輪の中は次第に熱を帯びていった。

 その時、人垣の外から低い声が響く。


「いくら香り方が変わるとはいえ、結局は同じ香水だろう」


 その時、私たちの輪にずかずかと入ってくる人物がいた。

 レオンハルトだ。

 私は眉をひそめそうになるのをどうにか堪える。彼は私とベリルを交互に見たあと、香水瓶を見下ろして鼻を鳴らした。


「同じ香水が、誰にでも似合うとは限らない。甘い香りが苦手な者もいるだろう」


 言い方は気に入らないが、指摘そのものは間違っていなかった。

 どれほど香り方が変わろうと、元になる香料は同じである。全ての人の好みに合うわけではない。

 だが、それはすでに考えていた。むしろいい振りをしてくれたとすら思う。

 私は唇の端を持ち上げた。


「えぇ。おっしゃる通りですわ」


 素直に認めると、レオンハルトは意外そうに眉を動かした。


「ですので、新しい商品を準備しておりますの」

「新しい商品?」


 レオンハルトが訝しげに復唱する。

 私は少し声を大きくして、周囲にも聞こえるように宣言した。


「オーダーメイド香水ですわ!」


 その瞬間、貴族たちの間にざわめきが広がった。


「注文に合わせて作るということ?」

「一人ずつ違う香水を?」


 期待通りの反応に、私は笑みを深める。


「お好みの香りはもちろん、その方の雰囲気や、普段お召しになる色、過ごされる場所なども伺います」


 令嬢たちの顔を見回しながら、ゆっくりと言葉を続けた。


「そして、その方に最もよく似合う、世界に一つだけの香水をお作りしますの」

「世界に一つだけ……」


 一人の令嬢が、うっとりと呟く。特別であることを好む貴族に、この言葉が響かないはずがない。

 周囲の反応に手応えを感じていると、レオンハルトは鼻で笑った。


「そんなものが作れるわけがないだろう!」

「信頼している職人がいますもの」


 落ち着いて答えたものの、レオンハルトは納得しなかった。


「一人一人に合わせて香りを変えるなど、現実的ではない」

「ですが──」

「そもそも、そんな技術が本当にあるのか?」


 こちらの言葉を遮り、できるはずがないと繰り返してくる。


(めんどくさいわね!)


 火魔法をぶっ放して黙らせてやろうかと一瞬考えた。だが相手は王太子だ。できるはずもない。

 どうやってこの場を収めようかと悩んだ時、隣から楽しげな声が響いた。


「へぇ」


 レオンハルトの言葉を遮るように、ベリルの相槌が響いた。

 彼は私の手を取り、興味深そうに目を細める。


「では、最初の客は僕ということで」

「ベリル様が?」

「うん」


 ベリルは指先を軽く包み込むと、甘く微笑む。


「僕に似合う香りを作ってほしいな」


 周囲の令嬢たちから、悲鳴のような歓声が上がった。

 私は一瞬だけ言葉に詰まる。ただ香水を注文されただけなのに、美しい笑顔と甘い声を向けられた途端、思考が完全に停止してしまう。


「……もちろんですわ」


 動揺を悟られないよう、私は堂々と顎を上げる。


「必ず、ベリル様にふさわしい香りをお作りします」

「楽しみにしているよ」


 ベリルが満足そうに笑った途端、周囲から次々と声が上がった。


「わ、私もお願いしたいですわ!」

「わたくしにも作っていただけますか?」

「予約はどこで受け付けていますの?」

「夫への贈り物にもできますかしら?」


 質問と注文が一斉に押し寄せる。

 私は笑みを崩さないまま、一人ずつ丁寧に答えていった。


(宣伝、大成功ね!)


 ふと横へ目を向ける。

 先ほどまで商品を否定していたレオンハルトは、注文を求める貴族たちの輪から押し出され、苦々しい顔で立ち尽くしていた。

 散々好き勝手に言われたものの、彼のおかげでオーダーメイド香水まで宣伝できた。


(意外と役に立つじゃない!)


 私は上機嫌で、次の予約希望者へ笑顔を向けた。




レオンハルトくん・・・



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レオンハルト君そんなたいどのままじ、仲直りできないぞw
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