表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【連載版】悪女の優雅で素晴らしい贅沢生活 〜過労死した私、社畜スキルで稼ぎます〜  作者: 海城あおの
第二章 悪女はお金を稼ぎます

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
19/28

18. 悪女の人材発掘

 

 後日。私は馬車で、サラが暮らす家へ向かった。

 街から離れた道を進み、やがて見えてきたのは、ぽつんと建つ古びた家だった。

 周囲には何もない。店はもちろん、人影すらない。聞こえるのは草木を揺らす風の音と、時折響く鳥の鳴き声だけだった。

 家も決して立派とは言えない。壁や屋根には長い年月を感じさせる傷みがあり、慎ましく手入れを重ねながら暮らしてきたことが分かる。

 サラは家を見上げながら説明した。


「人の多い場所ですと、姉は様々な匂いに耐えられず、気分が悪くなってしまうのです」

「……大変ね」


 思わずそう呟くと、サラは曖昧に微笑んだ。

 ミラはハーブを育て、それを売って生計を立てているらしい。

 町に出て売ったり、必要なものを買いに行ったりするのは、一緒に住むサラの役目だ。

 通販なんて便利なものはないこの世界で、街から遠く、人もいない場所で暮らすのは相当大変だろう。


 家の中に入ると、サラによく似た女性が出迎えてくれた。

 双子だというだけあって、顔立ちはよく似ている。

 けれどミラの方が肌は白く、体も細い。外に出る機会が少ないせいか、どこか儚げにも見えた。


「初めまして。ミラと申します」


 私も名乗ると、ミラは無表情のまま頭を下げた。

 サラとは似ているが、雰囲気はかなり違う。愛想がない、というより、感情を表に出すことに慣れていない印象だった。

 そのまま奥の部屋へ案内される。

 ミラは無言でティーポットを手に取り、カップへお茶を注いだ。私は勧められるままカップに口をつける。

 その瞬間、目を見張った。香りがとても良い。

 爽やかなハーブの香りがすっと鼻を抜け、遅れてぴりりとした刺激が舌先に残る。冷えていた体の内側にじんわりと熱が広がっていった。


「……おいしい」


 思わず零すと、ミラは淡々と言った。


「体が冷えているので、ジンジャーを混ぜたハーブティーにしました」

「なぜ分かったの?」

「体が冷えている人は、血流が悪いので匂いが薄いんです」


 嗅覚でそんなことまで分かるのか。私は驚きながら、もう一度カップの中を見つめた。

 その人に合わせたハーブティーを出すカフェなど、繁盛しそうだ。

 そんなことを考えていると、ミラは言葉を続けた。


「あと、お昼をスープだけで済ますのはよくありませんよ」

「え」

「生理中で食欲がないのは分かるのですが、栄養が不足すれば体の冷えはさらに──」

「ストップストップ!!」


 思わず制止の声を上げてしまった。サラが横で申し訳なさそうに顔を伏せる。

 私は咳払いをして、ひとまず浮かんだ疑問を一つずつぶつけることにした。


「その、私が食べたものも分かるの?」

「はい。トマトと野菜のスープでしょうか。体から、わずかに酸味のある香りがします」

「……正解よ」


 当たっている。そして、今が生理中なのも当たっている。

 恐ろしい精度だ。

 すごいのだが、あまりにも遠慮がない。このままカフェで接客させたら、客の体調と食生活を片っ端から暴いてしまうかもしれない。


(接客は難しそうね……)


 ちらりとサラを見ると、彼女はしゅんとした顔で立っていた。


「すみません。姉はほとんど人付き合いをしていなかったせいか、どこかずれたところがあって……」

「気にしないで。驚いただけよ」


 当事者であるミラはきょとんとしている。何が悪かったのか、本当に分かっていないらしい。

 サラも色々苦労してきたのだろう。

 同情するのと同時に、私の頭は急速に回り始めていた。

 人が食べたものや、体調まで匂いで判断できる嗅覚。

 一般の生活を送ることは難しいだろう。だが環境と使い方さえ整えれば、他の誰にも真似できない力になるはずだ。


(まずは安心して働ける場所が必要ね)

 

 私は顔を上げた。


「ねぇ、貴方たち。引っ越す気はない?」

「え?」


 サラが声を上げる。一方ミラは、淡々と答えた。


「はい。特に問題ないです」

「お姉ちゃん……!」


 サラは慌てたようにミラを見たあと、私に向き直る。


「ただ、お嬢様。ミラが暮らせるところは本当に限られていて……! この家も、やっとの思いで見つけたところなんです」

「自然が豊かで、人の気配がほとんどない。それでいて、サラが屋敷へ通える範囲でしょう?」

「え、えぇ……。ですが、そんな家は……」


 私はにんまりと笑った。

 そして告げる。


「ピッタリのところがあるわ」



 *



 数日後。ミラとサラは、目の前に建つ屋敷を唖然と見上げていた。

 淡いクリーム色した石造りの二階建ての屋敷。窓枠やバルコニー、柱の縁には細やかな装飾が施されている。ひと目で相当な金がかかっていると分かる建物だ。

 周囲には木々が生い茂り、人通りはほとんどない。静かで空気も澄んでいる。


「ここで暮らすのはどうかしら?」

「で、ですが、ここはお嬢様の別荘では?」


 サラが戸惑った声を上げる。

 そう、二人に提供したのはエスメラルダの別荘だった。

 かつてエスメラルダが「レオンハルト様と二人きりで過ごせる場所が欲しい!」と駄々をこね、広大な敷地の端に作らせたものだ。


 もちろん彼が来たことは一度もなかった。

 しかもレオンハルトが来ないと分かるや、エスメラルダ自身もほとんど使わなくなったらしい。

 私は、莫大な金と職人たちの労力をつぎ込んだ豪華な空き家を見上げる。


(貯金がゼロだと知った時は、この別荘を心底恨んだけど……役に立ってよかったわ!)


 私は気を取り直して説明を続ける。


「ここなら人通りはほとんどないし、自然も豊かよ。それに本邸までは歩いて十分ほど。サラも通いやすいでしょう?」

「お、お嬢様ぁ……」


 サラはうるっと目を潤ませた。

 普段は仏頂面に近いミラでさえ、言葉を失って屋敷を見つめている。

 二人は揃って深く頭を下げた。


「ありがとうございます、エスメラルダ様。このご恩は一生かけて返します!」

「ふふ。じゃあ、早速返してもらおうかしら」


 私がそう言うと、二人は不思議そうに顔を上げた。

 私は唇を上げる。


「新しい事業を始めるわ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ