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【連載版】悪女の優雅で素晴らしい贅沢生活 〜過労死した私、社畜スキルで稼ぎます〜  作者: 海城あおの
第二章 悪女はお金を稼ぎます

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11. これはお金になりますか?

 


 目が覚めたとき、視界いっぱいに広がっていたのは白い天井だった。

 見慣れない天井に、ぼんやりと何度か瞬きをする。視界はまだ少し霞んでいて、体は水の底に沈んでいるみたいに重かった。

 薬草のような匂いと、清潔な香りがする。

 ここはどこだろうと考えたところで、すぐ近くから声がした。


「目が覚めた?」


 顔だけをそちらへ向ける。そこにいた人物を見て、私は思わず目を見張った。


「……ベリル様?」


 なぜここに。

 そう言おうとするより早く、彼は肩をすくめた。


「急に倒れて驚いたよ。王太子サマは呆然と立ち尽くしてたから、僕が運んだんだけど。迷惑だった?」

「いえ……」


 どうやらここは学園の医務室らしい。そして私は、ベリルにここまで運ばれたようだ。

 できれば他の生徒か教師に運んでほしかったと思わなくもないが、そんな失礼なことは言えない。

 私は曖昧に視線を逸らし、話題を変えるように尋ねた。


「ベリル様は、なぜ私が倒れた場所にいらしたのですか?」

「知らないの? 君と僕、同じクラスだよ」

「え」


 間抜けな声が出た。

 同じクラスと言われても、朝から教室で彼を見かけた覚えがない。

 私の困惑が顔に出ていたのだろう。ベリルはけらけらと軽く笑った。


「今日は寝坊しちゃって。遅刻してきたんだ」


 屋外での実技授業は今日最後の授業だ。


(それはもう遅刻というより、ほぼ欠席では?)


 色々と言いたいことはあったが、黙っておいた。

 すると、ベリルは少し身を乗り出した。濃紺の瞳が、興味深そうに細められる。


「それにしても驚いた。魔法の百連発を成功させちゃうなんて」

「あ……あれは偶然ですわ」

「ふうん、偶然ねぇ」


 ベリルは片頬だけで笑う。まるで信じていない顔だった。誤魔化せている気が全くしない。

 深い海のような瞳に見つめられると、こちらの考えていることまで見透かされそうになる。私は慌てて視線を逸らした。


「……本当に、偶然です」


 そう重ねると、ベリルはそれ以上追及しなかった。

 ただ楽しそうに笑い、椅子から立ち上がる。


「そういうことにしておくよ。じゃあ、無理しないようにね」


 ひらりと手を振ると、そのまま医務室を出ていった。扉が閉まる。

 途端に、部屋の中が静かになった。

 一人になったベッドの上で、私はゆっくり息を吐いた。


(白魔法は、黒薔薇病に効かなかった)


 あの白い光に、私は一瞬だけ期待した。聖女の力なら、もしかしたらこの病を消せるのではないかと。

 けれど、痛みは少しも引かなかった。

 ということは、やはり治すにはブランジェムが必要なのだ。


(つまり、私に残された道はお金を稼ぐことだけ)


 期限は三年以内。金額は一千億ゴールド。

 改めて考えても、ふざけた金額である。前世の私なら、宝くじを何回当てても足りないと泣いていただろう。

 その時、ふとベリルの言葉が頭をよぎった。


『魔法の百連発を成功させちゃうなんて』


 あれには、私自身も驚いた。

 まさか魔法陣とプログラミングコードが、あれほど似ているとは思わなかった。

 魔法陣の改良や効率化。そして連続発動。

 もしそれが、この世界ではまだ一般的でない技術なら。

 ぼんやりしていた思考が、少しずつ金策の方向へ動き始める。

 だが考えをまとめる前に、強い眠気が瞼を引き下ろした。体は発作の余韻なのか、ひどく重い。


(……少しだけ、眠ろう)


 私は掛け布を引き寄せた。

 清潔な布の匂いに包まれながら、再び夢の中へ沈んでいった。



 *



「魔法の連発を成功させたんですってね」


 倒れてから数日後。

 体調が落ち着いたのを見計らい、私は再び情報ギルドを訪れていた。顔を合わせるなり、オーナーは開口一番こう言った。

 さすがは情報ギルドのマスターである。学園内の出来事まで、もう耳に入っているらしい。

 だが、彼がその事実を知っているなら話は早い。


「この技術をお金にできない?」

「できますよ」


 あまりにもあっさりと返ってきた答えに、私は思わず瞬きをした。


「あっさり言うのね」

「エスメラルダ様はお気づきでないかもしれませんが、魔法の百連発は凄まじいことですよ」

「そうなの?」

「えぇ。どれほど魔力が多い者でも、二十連発が関の山です。しかもおそらく、エスメラルダ様は一回の魔法起動で成功させたのでしょう?」


 ぎくりとした。

 オーナーはあの場にいなかったはずだ。それなのに、噂を聞いただけでそこまで見抜いてしまうらしい。

 やはり油断ならない男である。とはいえ、どうやって成功させたのかまで話すつもりはない。

 私は曖昧に頷いた。


「まぁ、そうね」

「もし魔法陣の改良という形で成功させたなら、とんでもないことです」

「とんでもないって……魔法陣の改良なんて、いくらでもされているでしょう?」

「そんなことはありません」


 オーナーの声が、少しだけ強くなった。

 彼は手のひらを掲げる。淡い光が集まり、小さな魔法陣が空中に展開された。


「この国に伝わる魔法陣はすべて、女神リュミエラが授けたものとされています。つまり魔法陣は"神聖な完成形"なんです。そこに人の手で改良を加えるなど、もってのほかだと考えられています」

「そうなの……」


 私はそれだけ返すのがやっとだった。

 魔法陣に対する考え方は、前世で慣れ親しんだエンジニアの世界とは正反対だった。


 前世では、誰かが作った仕組みを土台にして、別の誰かが手を加えるのは当たり前だった。もっと使いやすく、もっと効率よく、もっと便利にするために改良を重ねる。そうしてシステムは育っていく。

 そのため「完成されているから触ってはいけない」という考え方は、私にはひどく不思議に思えた。


「ですが、魔法陣の改良が全く認められないわけではありません」


 オーナーは魔法陣を消し、にこりと笑った。


「エスメラルダ様の改良が正式に認められれば、使用料を得られる可能性があります」

「私が改良した魔法陣を使うたびに、使用料が発生するということ?」

「えぇ」


 その言葉に、胸の奥がわずかに跳ねた。

 継続収入。なんて甘美な響きだろう。

 けれど、すぐに別の問題に気づく。


「でも、それだと私の魔法陣が見えてしまうのよね? 勝手に真似されたりしないのかしら」

「そこに気づかれるとは」


 オーナーは少しだけ驚いたような顔をして、説明を加えた。


「登録すれば、エスメラルダ様が考案者であることは公的に認められます。無断使用が発覚すれば、使用料や賠償金を請求することもできますよ」

「発覚すれば?」

「魔法陣は、魔力さえあれば人目につかない場所でも再現できますからね」


 オーナーは肩をすくめた。

 その言葉からして、悪用された事例があるのだろう。私はじとりと睨む。


「そういうことは最初から言いなさいよ」

「ふふ、失礼」


 涼しい顔で受け流された。

 前世でも流行ったものを少しだけ変えて出すサービスや、某有名ゲームに似た偽ゲームなど、いくらでも見てきた。

 魔法陣を丸ごと見られれば、それを模倣し、無料で使う輩が出てもおかしくない。


(それじゃあ一銭も私に入らないじゃない!)


 今の私にとって一番大事なのは、お金だ。文字通り命がかかっているのだから。

 魔法陣の構築を盗まれずに、継続的にお金を稼ぐ方法。そう考えた瞬間、頭の中でひとつの案が浮かぶ。

 私は顔を上げて、口を開いた。



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