第99話 我、後押しする
「そういえば、本免試験の結果ってまだなんですか?」
「……まだよ。今日中には届くはずよ」
…………。
おお。
初めて見たの。
大林先生の驚いた顔。
まあ、そうもなるよな。
先ほどから網の上で焼かれては消えていく肉。
空になっては追加される大盛りご飯。
そして、食べ終わるより先に繰り返される追加注文。
ユウがよく食うとは千葉先生から聞いておったのであろうが、流石にここまでとは思っていなかったようだの。
大林先生は今もトングを手放さず、次々と肉を焼いておる。
「そうですか。受かってるといいな」
ユウよ。
そう言いながら肉を食うでない。
喋っておる間にも、また一枚消えたぞ。
まるで魔術師よな。
「追加でカルビお願いします」
「……凄いわね」
「遠慮というものを、少しは覚えた方がよいと思うがの」
我も一応食べてはおる。
先ほどから肉もご飯も、それなりの量は腹に収めておるが――。
ユウと比べれば全然少ない。
…………。
まあ。
恐らく我も、一般的な同年代の女性よりは食べておると思うがの。
「さて」
む?
大林先生が、そこで話を切った。
先ほどまでの驚いた様子から一転。
トングを置き、我とユウを見る。
…………。
本題かの?
「一つ、あなたたちにお願いがあるの」
「願いとな? 我らに?」
「そうよ」
ふむ?
何であろうな。
我にできることなら構わぬが。
「二年後、茂雄と組むそのパーティー。私も入れて」
「は?」
「え?」
…………。
なんと!
大林先生も?
我らとしては嬉しい。
S1級の千葉先生に、S3級の大林先生。
そこに我とユウ。
戦力として考えれば、これ以上ないほど心強いであろう。
だが――。
そうなると話は少し変わってくる。
二年後。
本当に同じパーティーを組み、共にダンジョンに潜ることになるのであれば。
我とユウのことも、いずれ話さねばならぬかもしれぬ。
我が元魔王であること。
ユウが元勇者であること。
そして、この世界に来る前のこと。
…………。
これは。
慎重に考えねば――。
「いいですよ」
…………。
ユウ!
おぬし、何を勝手に!
「良かったわ。天神さんはどう?」
「我は……」
どうすべきかの。
隣を見る。
ユウは肉を食べながら、こちらを見ておる。
その目。
『別にいいじゃない』
そう雄弁に語っておるな。
だがの。
少しは考えんか!
ユウ。
もしかして、おぬし。
危機感というものがない?
…………。
いや。
あり得るか。
ユウは元の世界の記憶がほとんどない。
我と違って、実感そのものが薄いのであろうな。
さて。
どうしたものか。
ここまで話が進んでしまえば、大林先生を受け入れるのが一番ではある。
だが。
千葉先生を放っておくわけにもいかぬよな。
二年後に我らとパーティーを組むかどうかを決めるのは、あくまで千葉先生なのだから。
…………。
………………。
…………………。
む。
そうぞ!
どうせなら、これもよい機会ではないか。
我、妙案。
「わかった。我としては構わぬぞ」
「良かったわ」
大林先生が嬉しそうに笑う。
ふふふっ。
大林先生よ。
まだぞ。
「ただし。一つ、条件を付けさせてもらってもよいかの?」
「そうね。内容によるわ。無理難題は駄目よ」
よし。
話に乗ったの。
「なに。簡単なことよ。我らも二年間、頑張って成長する。故に――大林先生も、千葉先生を射止めてみせよ」
「…………」
大林先生の動きが止まった。
「……そう来たのね」
「マオ! 恋のキューピットみたい!」
ユウよ。
それはちと違う気がするがの。
我は矢を射る役ではなく、条件を出しただけぞ。
「どうであろう。以前、我の家で宴会をした時も、我には千葉先生がまんざらでもないように見えたぞ。あれなら両想いなのであろう?」
「そうだったね。でも、なんで千葉先生は認めようとしないんだろう?」
「そうであるよな」
我もそこが不思議なのだ。
大林先生は明らかに千葉先生に好意を向けておる。
そして我が見た限り、千葉先生も本気で嫌がっておるようには思えぬ。
ならば。
何故、さっさとくっつかぬ?
…………。
ところでユウよ。
おぬし。
いつの間にビビンバを頼んだ?
先ほどまでご飯を食べておったよな?
何故、今は当然のようにビビンバまで食っておるのだ。
「それは……色々とあるの」
「もしや、漫画などでよくあるパターンかの?」
「パターン?」
ユウがビビンバを頬張りながら首を傾げる。
「あるであろう。例えば、両想いのスポーツ選手がおったとする」
「うん」
「だが、女性の方が強い。男の方も相手を好いてはおるが、このままでは男として立つ瀬がない。故に、いつか己が強くなり、その女性を超えた時に告白すると決めておる。そういうパターンぞ」
「う~~ん。恋愛漫画とか見ないからわかんない」
ええい。
そうであったな。
ユウが好んで読むのは、コメディやバトルものが多いからの。
ならば本人に聞くしかあるまい。
我は期待を込め、大林先生を見る。
「残念。違うわ」
「そう、で、あるか……」
「マオ。なんでがっかりしてるの?」
「いや。そうであると思っておったからの」
我の推理。
外れた。
ならば。
一体、何が理由なのだ?
「何故なのだ?」
「理由は教えられないわ」
むう。
そこは秘密か。
「でも、その条件は飲むわ」
「おお!」
ならば決まりではないか。
二年以内。
我らは千葉先生に認められるほどのハンターに成長する。
そして大林先生は――。
千葉先生を射止める。
…………。
ふむ。
そうなれば。
大林遥が、いずれ千葉遥になるのかの?
「二年以内に、私の一族になってもらうわ」
…………。
む?
そちら?
ということは。
千葉茂雄が、大林茂雄になるのか。
…………。
まあ。
どちらでもよいか。
二人が幸せであれば、それでよし。
「お互い頑張りましょう」
「うむ。了解した」
「はーい。あ、最後にデザートもお願いします」
…………。
ユウ。
「……予想以上ね」
「すまぬ」
我が謝っておこう。
大林先生。
先ほどまで余裕であったというのに、ついに少し引いておるではないか。
ユウよ。
せめて最後くらい。
少しは抑えような。




