第100話 我ら、進み続ける
【お休みのお知らせ】
いつも『魔王と勇者 ~我、異世界転生した!~』をお読みいただき、ありがとうございます。
今回のお話で、この章は一区切りとなります。
次章のお話を整理し、しっかりと準備するため、10月5日までお休みをいただきます。
『バハムート宇宙を行く』は引き続き更新いたしますので、そちらもよろしくお願いいたします。
少しお待たせしてしまいますが、再開後も『魔王と勇者 ~我、異世界転生した!~』をよろしくお願いいたします。
焼肉を腹いっぱい堪能した我らは、大林先生に家まで送ってもらった。
「じゃあね」
「ごちそうさまでした」
「ユウが申し訳ない。馳走になった」
「いいのよ。流石にちょっと驚いたけど、大丈夫よ。それじゃあね」
「うむ。またの」
我らが見送る中、大林先生のハイエースがゆっくりと走り出し、そのまま見えなくなっていく。
…………。
大林先生。
我は覚えておるぞ。
会計の時。
表示された金額を見て、一瞬だけ顔が引きつっておったのを。
食べ放題だけなら、まだよかったのであろう。
だが、途中から単品まで色々と頼んでおったからの。
ユウが食べることは聞いていても、その想定を遥かに超えておったのであろうな。
…………。
次があるのなら。
恐らく、食べ放題だけになるの。
我はそれで全く問題ないがな。
「おいしかった~」
隣では、その原因となったユウが実に満足そうな顔で腹を撫でておる。
「ユウ。おぬしは食い過ぎよ」
「だって、あんな高級なお肉を食べる機会なんて、そんなにないし」
「そうではあるがな」
「いいの、いいの」
よくないと思うがの。
まあ。
大林先生本人がよいと言っておったのだから、今更我が言っても仕方あるまい。
それよりも。
「…………」
我は玄関へ向かうユウの背中を見る。
何故、おぬしまで当然のようについてくる?
「ユウ。帰らぬのか?」
「え? 帰ってるけど」
…………。
やはり。
おぬしの中では、我の家も自分の家という扱いになっておるのだな。
ユウは何の迷いもなく玄関を開け、そのまま家の中へ入っていく。
「ただいま~」
「帰ったぞ」
「おや、おかえり」
む?
聞こえてきた声にリビングへ顔を向けると、そこには中村殿がおった。
「中村殿か。珍しいの。リビングで何をしておる?」
「いや~。石田の奴がまた倒れてね。頭を冷やすのに、少し氷を取りに来たんだよ」
…………。
また倒れたのか。
石田殿も大変よな。
「仕事場の冷蔵庫は?」
「…………壊した」
「誰が?」
「小野坂さん」
お~~~。
久々にやったのか。
「キレちゃったの?」
「うん。杉田と森田君の議論が白熱してね。もう少しで喧嘩になりそうだったんだけど、それにキレた小野坂さんが拳を振るって、後ろにあった冷蔵庫を壊しちゃって」
…………。
なるほど。
またであるか。
小野坂殿。
意外と力が強いからの。
普段はアシスタント諸君をまとめておる頼れる御仁なのだが、騒ぎを収めるために拳が飛ぶこともある。
今回も、杉田殿と森田殿を止めようとして――。
その拳を冷蔵庫に叩き込んでしまったわけか。
…………。
冷蔵庫にとっては災難よな。
「これで何台目であろうな」
「さあ?」
「母上も呆れておったであろう」
「いつものことだからね。先生も慣れたもので、『また?』って」
…………。
母上。
慣れてしまったか。
「それで罰として、小野坂さんは新しい冷蔵庫と、ストック用の栄養ドリンクを箱で買いに行かされてるよ」
「またであるか」
「またなんだね」
「まただよ」
中村殿は袋に詰めた氷を抱え直す。
「じゃあ、俺は仕事に戻るよ」
「うむ。石田殿にも無理をするでないと伝えておいてくれ」
「言って聞くかな~」
…………。
それは我にもわからぬ。
中村殿が仕事場へ戻っていくのを見送り、ユウが首を傾げた。
「これで何台目?」
「さあの。流石に我も覚えておらぬ」
数えることを諦める程度には壊れておる。
母上。
冷蔵庫だけは頑丈なものを買った方がよいのではなかろうか。
…………。
まあよい。
腹もいっぱい。
後はソファーにでも腰を下ろして、ゆっくり――。
む?
着信音。
我は足を止める。
今の音は。
ハンタースマホか?
どれ。
ポケットから取り出し、画面を確認する。
新着メッセージ。
送り主は――ハンター協会。
…………。
もしや。
「マオ!」
隣からユウの声。
そちらにも届いたか。
「ユウにもメッセージが来たか?」
「うん。本免試験の合否!」
おお。
ようやくか。
大林先生が今日中には届くと言っておったが、本当に届いたの。
さて。
結果はどうであろうな。
自信がないわけではない。
筆記。
実技。
素材採取。
我としては、どれも問題なく終えたと思っておる。
…………。
少々。
本当に少々。
ミノタウロス相手に遊びすぎた気はするが。
まあ、大丈夫であろう。
「マオ。せーので見よう」
「同時にか?」
「うん」
…………。
ふむ。
悪くない。
「そうするかの」
我とユウは互いにハンタースマホを構える。
まだ通知だけで、本文は開いておらぬ。
「せーの」
同時に画面を押す。
…………。
『おめでとうございます。今回、天神魔王様はハンター本免試験に合格いたしました。つきましては、以下の日時に――』
…………。
おお。
「合格だ!」
「合格だね!」
「うむ!」
思わずユウと抱き合う。
受かった。
本免試験。
合格。
ようやく。
ようやくぞ。
これで我らは、正式なハンターになれる。
後は指定された日に講義を受け、正式な免許を受け取ればよい。
そうなれば。
もう仮免ではない。
千葉先生の監督下でもない。
己の判断でダンジョンに入り、己の責任で行動する。
色々と。
ようやく動き出すことができるのだ。
「マオ! どうしよう、お祝いしなきゃ!」
「待て待て!」
我は抱きついたままはしゃぐユウを止める。
「先ほど焼肉を食べたばかりであろうが!」
「でも、お祝いだよ?」
「だからといって、また食う気か!?」
おぬしの腹は一体どうなっておるのだ。
…………。
む?
そこで、ふと思う。
今日。
大林先生は我らを焼肉に誘った。
しかも、大林先生は試験官。
本免試験の結果についても、今日中に届くと知っておった。
…………。
もしや。
あの焼肉。
最初から合格祝いも兼ねておったのでは?
…………。
あり得るの。
まあ。
今度聞けばよいか。
それよりも――。
「ユウ」
「ん?」
「まずは二年ぞ」
我がそう言うと、先ほどまではしゃいでいたユウの表情が少しだけ変わった。
そう。
合格は終わりではない。
むしろ。
ここから。
千葉先生が我らに与えた二年間。
その間、千葉先生に頼らず、自分たちでダンジョンに潜り。
考え。
戦い。
失敗し。
経験を積む。
そして二年後。
千葉先生に、我らがどこまで成長したのかを見てもらう。
「うん」
ユウが笑う。
「これからの二年。頑張ろう、マオ」
「うむ」
頑張ろうではないか。
我ら二人で。
そして二年後。
胸を張って千葉先生の前に立ってやろうぞ。




