第97話 我とユウ、誘われる
本免試験が終わり、後は合否を待つのみ。
そんな中。
我らは今、家のリビングで待ち人が来るまで、だらだらとアニメを見ておる。
我はソファーに身体を預けたまま、手元に置いてあるハンタースマホに視線を向ける。
…………。
未だ連絡なし。
まあ、よい。
試験が終わったばかりなのだ。
結果が出るまでは、今は休憩ぞ。
それに今日。
我、誘われておる。
まあ、我だけではなくユウもなのだがの。
今日はダンジョンへ行くわけでもなければ、訓練でもない。
故に、我らは丸腰。
大林先生から「迎えに行くから家で待っていて」と言われ、こうして我が家でのんびり待機しておるわけだ。
「マオ。何処に行くんだろ?」
「わからぬ。ただ、食事をしようとしか言われておらぬしの」
「まあ、楽しみではあるね」
「うむ」
我もそこは同意。
大林先生から食事に誘われるのは珍しいからな。
ただ。
少しだけ気になることもある。
大林先生は、先日の本免試験で試験官をしておった御仁。
そして我らは、未だ合否待ち。
その状態で、受験者である我らと食事などしてよいものなのかの?
…………。
まあ。
大林先生自身が誘ってきたのだ。
何か問題があるのなら、わざわざこの時期に誘いはせぬだろう。
…………。
恐らくの。
それよりも。
今はユウに一言、言っておかねばならぬ。
「奢ってくれるとはいえ、食べ過ぎるでないぞ」
「……わかってるよ」
…………。
なんぞ、その間は。
しかも。
何故、我を見ぬ?
テレビに視線を向けたまま答えおって。
おぬし。
さては、たくさん食べる気でおるな?
全く。
信用できぬではないか。
千葉先生が一度、痛い目を見ておるからな。
大林先生まで同じ目に遭わせるわけにはいくまい。
そうして二人でアニメを見ながら待っておると、外から車の音が聞こえてきた。
近づいてきた音が、我が家の駐車場辺りで止まる。
「む?」
大林先生か?
それから少しして、玄関のチャイムが鳴った。
「む。来られたかの」
我はソファーから立ち上がり、ドアホンの画面を確認する。
そこに映っていたのは、見慣れた女性。
大林先生だ。
「お待たせ」
「大林先生。今、外に出るぞ」
「はいはい。待ってるわ」
我はドアホンを切り、リビングにいるユウに顔を向ける。
すると。
…………。
目が輝いておる。
こ奴。
まだ何を食うのかすら決まっておらぬというのに。
「ユウ。来られたぞ」
「よし。行こう!」
言うが早いか、ユウが軽い足取りで玄関に向かう。
…………。
一応。
ここ、我の家なのだがの。
こ奴。
完全に自分の家とも思っておるよな?
まあ。
今更か。
幼い頃から何度も入り浸っておるし、我の部屋で勝手に漫画を読みながら寝るような奴だからな。
我も後を追って玄関に向かうと、すでにユウが扉を開け、大林先生を出迎えておった。
「先生。今日はご馳走になるぞ」
「ありがとうございます」
「いいのよ。私も二人と少し話したいと思ってたし」
「そうであるか」
話?
なんぞあったかの。
我が首を傾げていると、大林先生は特に説明する様子もなく、家の前に停めてある車に顔を向けた。
「じゃあ、乗って」
「うむ」
そして。
…………。
「おお」
我、びっくり。
いや。
勝手な想像ではあるのだぞ?
だが、大林先生なら、こう……。
真っ赤なスポーツカー。
そのような車で颯爽と現れるものだと思っておった。
何せ、あの容姿。
S3級ハンター。
腰には刀。
本人も余裕のある振る舞い。
我の中では何となく、そういう印象だったのだ。
だというのに。
目の前に停まっているのは――。
ハイエース。
しかも、かなり大きい。
…………。
真逆にもほどがあろう。
「でっかい」
ユウも同じことを思ったらしい。
「ハンターの道具を積み込んだり、持ち帰った素材を運んだりするのに色々と重宝するのよ」
「なるほどの」
言われてみれば納得。
見た目より実用性。
ハンターとして使うのであれば、確かにこちらの方が便利なのであろう。
「しかし、似合わぬの」
「そう?」
大林先生は気を悪くした様子もなく、むしろ楽しそうに笑った。
「私は気に入ってるけどね」
そう言いながら運転席に乗り込む。
「私は助手席!」
ユウ。
早い。
もう助手席を確保しおった。
ならば我は後ろか。
我はスライドドアを開け、後部座席に乗り込む。
…………。
おお。
やはり広いの。
足元にも余裕があるし、荷物を置ける場所もかなりある。
これなら装備一式を積んでも問題なさそうだな。
だが。
我が気になったのは、さらに後ろ。
荷室に置かれている――巨大なケース。
…………。
なんぞ、あれ?
形だけなら、我らが武器を収めておるケースにも似ている。
だが。
でかい。
確か、大林先生の武器はあの長い刀。
鞘にも特殊な仕掛けがあるとはいえ、刀を収めるだけにしては明らかに大きすぎるよな?
他にも何か持っておるのか?
「気になる?」
「うむ」
運転席から声を掛けられ、我は素直に頷く。
「刀のケースにしては大きいからの。他にも何か入っておるのかと思ってな」
「内緒」
…………。
内緒とな。
余計に気になるではないか。
大林先生は楽しそうに笑いながらエンジンを掛ける。
「さあ、行くわよ。シートベルトしてね」
「うむ」
「はーい」
仕方あるまい。
今聞いても教えてくれぬようだしの。
我もシートベルトを締める。
すると、助手席のユウが早速、大林先生に顔を向けた。
「何処に連れて行ってくれるんです?」
「そうね。一応、あなたたちに合わせて焼肉屋を考えてるんだけど」
「はい! 私はそれがいいです!」
…………。
即答。
少しは考えぬか?
いや。
ユウに焼肉と聞いた我が悪かった。
それよりも。
一応、伝えておくべきよな。
「大林先生」
「何?」
「食べ放題がよいと思うぞ」
「大丈夫よ」
大林先生が、何でもないことのように答える。
「茂雄には聞いてるから」
…………。
おお。
情報共有済み。
ならば安心ぞ。
千葉先生。
以前、ユウに普通の焼肉屋で散々食われたからの。
確か、あれ以来。
『次からは絶対に食い放題』
そう言っておったはず。
そこまで聞いているのであれば、大林先生も同じ失敗はすまい。
「じゃあ、行くわよ」
「しゅっぱーつ!」
車がゆっくりと動き出す。
我は後部座席から流れていく家々を眺め――。
…………。
ふむ。
今。
さりげなく。
『茂雄には聞いてる』
そう言っておったよな?
以前から知り合いではあったし、大林先生が千葉先生を狙っておることも知っておる。
それに最近は、我らのことについて千葉先生から色々聞いているとも言っておった。
つまり。
以前より話す機会は増えておる?
…………。
もしや。
仲は進展しておるのかの?
我。
興味津々ぞ。




