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魔王と勇者 ~我、異世界転生した!~  作者: 珈琲ノミマス
第二章 ダンジョンへ行こう

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第95話 我、いじめる

「あれは……ミノタウロスで間違いないの」


「そうだね。でも、前に見た奴よりも強そう」


「……まあ、斧も二本持っておるしの」


 僅かに開けた扉の隙間から、中の様子を窺う。


 広い空間の中央。


 そこに立っておるのは、一体のミノタウロス。


 前に岩手の訓練ダンジョンで戦った個体よりも、さらにでかいか?


 太い腕。


 分厚い身体。


 そして、その両手には巨大な斧が一本ずつ。


 …………。


 一本でも厄介だったというのに、今度は二本か。


 しかも。


 頭から伸びる角も立派よな。


 太く、長い。


 あれは素材としても、なかなかよさそうだの。


「さて。前と同じようにするか」


「でも、前と違って斧が二つだよ。流石に危険すぎるよ」


「ふむ」


「私も今回は初めから参戦する」


「しかしの……」


 我はもう一度、扉の向こうにいるミノタウロスを見る。


 二本の斧。


 それを両方とも、あの太い腕で振るうのだろう。


 我一人で注意を引きつけること自体は、恐らく問題ない。


 だが。


 …………。


 いや。


 ここはユウの言うとおりか。


「そうすべきよな」


 恐らく我だけでも問題はない。


 それに、今のユウの力ならば、ユウだけでも十分に戦えるであろう。


 ならば。


 二人で確実に崩す。


 その方がよい。


「作戦はこうぞ」


「うん」


「前線は我が受け持つ。なるべく奴の注意を引きつける故、ユウは隙を見つけ次第、切り込むがよい」


 我は扉の向こうにいるミノタウロスの脚へ視線を落とす。


「まずは脚ぞ。ある程度動きが鈍ったところで、今度は斧を持つ手首を狙う。二本とも落とせれば、後はどうとでもなろう」


「マオ。大丈夫?」


「我なら心配いらぬ」


 そこは任せよ。


 前回も似たようなことはやっておるからな。


「ただし、今回は魔王は使わぬ。攻撃は任せた」


「わかった」


「見せてやろう。我のチマチマとした嫌がらせを」


「それ、威張ること?」


 何を言う。


 威張ることぞ。


 小さな嫌がらせ。


 一つ一つは大したことがなくとも。


 積み重なれば、やがて大きな隙になる。


 ユウも、それは知っておろう。


 要は。


 相手が嫌がることを、徹底してやればよいのだ。


 …………。


 まあ。


 言い方を変えれば、いじめに近い気もするがの。


「では、行くぞ」


「うん」


 我は扉を押し開き、一気に最深部へ踏み込む。


 そのままミノタウロスに向かって一直線。


 当然。


 こちらに気づく。


「ブモォォッ!」


 大きな身体が我に向き、両腕が持ち上がった。


 二本の斧。


 やはり、我を狙って振りかぶるか。


「すまぬが――いじめさせてもらうぞ」


 まずは。


 顔。


 我は走りながら片手を向け、炎魔法を放つ。


 一瞬だけ。


 火を顔の前で弾けさせる。


「ブモッ!?」


 ふふっ。


 驚いておる。


 突然視界を炎で塞がれれば、そうもなるよな。


 狙いを失った二本の斧が、我のいた場所とはずれた石床へ叩きつけられる。


 よし。


 次。


 脛ぞ。


 我はそのまま懐へ潜り込む。


 …………。


 太いの。


 右腕に装着したシールドクロー。


 その盾面を使い――。


 思い切り、脛を叩く。


「ブモッ!」


 ふむ。


 効いてはおるな。


 無論。


 一撃でどうこうなるほどのダメージではない。


 だが。


 痛いであろう?


 脛ぞ。


 大した傷にはならずとも、地味に嫌な攻撃。


 これぞ、我の嫌がらせ。


 ミノタウロスが怒ったように我に身体を向ける。


 おお。


 完全にこちらに意識が向いたな。


 そして。


 二本の斧が我を狙って動く。


 だが。


 よいのか?


 我ばかり見ておって。


「はぁっ!」


 背後からユウの声。


 ほれ。


 我に意識を向けすぎぞ。


 ユウが死角から一気に距離を詰め、セイヴェリアを振るう。


 狙いは、ミノタウロスの脚。


 その刃が太い脚に迫り――。


「むっ」


 金属同士がぶつかる音。


 ミノタウロスが片方の斧を素早く回し、セイヴェリアを受け止めおった。


「さすがに気づいておったか」


 あの体格で。


 しかも二本の斧を持ちながら、ユウの攻撃に反応するとはの。


「こいつ、なかなかやるね」


「うむ。これで決まってしまえば楽だったのだが、流石よな」


 だが。


 これでよい。


 むしろ、これで我の嫌がらせをさらに増やせる。


 六枚のシールドクロー。


 我の魔法。


 ユウのセイヴェリア。


 全てを同時に警戒せねばならぬ。


 さて。


 どこまで対応できるかの。


「ユウ。隙があれば切り込め」


「うん。私も走り回るよ」


「うむ」


 それでよい。


 我が正面から意識を奪う。


 ユウは周囲を動き、隙を狙う。


 そして我は――徹底して、嫌がらせぞ。


「踊れ。シールドクロー」


 我の意思に応じ、六枚のシールドクローが一斉に動き出す。


 ユウの護衛につけた二枚は、そのまま。


 両腕に装着していた二枚も外し、残る四枚をミノタウロスの周囲に散らす。


 そこからは、絶えず位置を変えながら旋回。


 右から一枚。


 左から一枚。


 背後へ回り込み。


 頭上を横切る。


 動きに規則性は持たせぬ。


 どこから来るかわからぬ。


 それだけで十分に鬱陶しかろう?


「ブモォッ!」


 ほれ。


 早速、一枚に斧を振りおった。


 だが、当てさせぬぞ。


 斧が迫る直前に横へ逃がし、代わりに反対側から別の一枚をぶつける。


 狙うのは斧そのもの。


 止める必要などない。


 振り下ろす途中で僅かに横から力を加え、軌道をずらす。


 それだけで狙いは外れ、巨体の重心まで崩れる。


 さらに。


 クローの一部を展開し、内側のソーを回す。


 腕。


 肩。


 脇腹。


 そして、狙いを定めた脚。


 深く切り裂く必要はない。


 脚への攻撃を重ねながら、あちらこちらを掠める程度に傷つけ、意識を散らしていく。


 右を警戒すれば左。


 左を見れば背後。


 我を狙えば、頭上から一枚。


 そして、顔の前にも一枚。


「ブモッ!」


 ふふっ。


 見えぬであろう?


 振り払おうとしても、すぐに逃がす。


 ならば、次はこちらぞ。


 耳元。


 ソーを回転させる。


 高速で回る刃が空気を震わせ、不快な音を耳元に響かせ続ける。


「ブモォォッ!」


 おお。


 嫌そう。


 よいぞ。


 戦いに集中できておらぬ。


 だが、我の嫌がらせはこれだけではない。


 今度は炎。


 小さく。


 弱く。


 だが、確実に熱い程度。


 ミノタウロスの腕に。


 肩に。


 腹に。


 次々と炎を走らせ、肌を焦がしていく。


 傷そのものは大したものではない。


 痛い。


 熱い。


 鬱陶しい。


 ただ、それだけ。


 だが。


 それが何度も続けば、平静でいられる者などそうそうおらぬ。


 そして最後に。


 腹。


 少し広い場所を使わせてもらおう。


 炎を細く操り、腹の表面を軽く焦がしながら――。


 ま。


 ぬ。


 け。


 …………。


 うむ。


 綺麗に書けたの。


「これぞ、いじめよな」


「マオ。やり過ぎだけど……まあ、良し!」


 で、あろう?


 見事な出来ぞ。


 しかし。


 ミノタウロス本人は、そう思ってはくれなかったらしい。


「ブモォォォォォォッ!!」


 怒号。


 先ほどまでとは明らかに違う。


 斧を振るうたび邪魔をされ。


 身体を細かく切られ。


 視界を塞がれ。


 耳元でソーを鳴らされ。


 挙げ句、腹には『まぬけ』。


 …………。


 うむ。


 キレたな。


 完全に。


 我を睨みつけたまま、ミノタウロスが片腕を大きく引く。


 もうユウを見ておらぬ。


 周囲を動くシールドクローへの警戒すら薄れておる。


 あるのは――我への怒りだけ。


 そして。


 手にしていた巨大な斧を、力任せに投げつけてきおった。


 …………。


 ふむ。


 やはりそう来たか。


 怒りで頭に血が上り、自ら武器を一本手放した。


 ここまで我だけを見てくれれば、嫌がらせを続けた甲斐もあるというものぞ。


 回転しながら迫る巨大な斧。


 速い。


 重い。


 空気を押し退ける圧まで、こちらへ届いてくる。


 普通ならば避けるところなのであろうな。


 シールドクローで逸らしてもよい。


 だが。


 …………。


 阿野殿も後ろで見ておる。


 これは試験。


 今の我にできることを、出し惜しみする必要もあるまい。


 何も我、魔法とシールドクローだけが取り柄ではない。


 一応。


 素でもかなり力は強いぞ。


 それに。


 この程度なら、我にも扱える。


 飛来する斧から目を離さぬ。


 刃。


 柄。


 回転。


 一回。


 二回。


 …………。


 今。


 真正面から止める必要はない。


 そんなことをすれば、斧の持つ勢いを全てこの身体で受けることになるからな。


 ならば。


 利用する。


 斧が回転し、柄が我の前を通る瞬間。


 両手を伸ばす。


「ふんっ!」


 柄を掴む。


 瞬間。


 両腕に強烈な力が伝わってきた。


 重い。


 流石は、あの巨体が全力で投げた斧。


 だが――。


 我はその場で踏ん張らぬ。


 斧に引かれるまま一歩。


 身体を回す。


 もう一歩。


 肩。


 腰。


 脚。


 斧が持つ回転を殺さず、我自身もその流れに乗る。


 掴んだ柄を軸に身体を半回転。


 そして、その回転と勢いに――我の力を上乗せする。


 うむ。


 いける。


 我、力持ち。


「我を舐めるなよ」


 足を踏み込み。


 腰を回し。


 最後に腕を振り抜く。


「ふんっ!」


 放す。


 巨大な斧が、今度は来た道を逆向きに飛んでいく。


 ただ返しただけではない。


 奴自身が与えた回転。


 奴自身が与えた勢い。


 そこへ、さらに我が一押し。


「ブモッ!?」


 おお。


 驚いておる。


 そりゃそうであろうな。


 己が全力で投げた斧が、そのまま返ってきたのだから。


 だが。


 そこで慌てるのは、さらに悪手ぞ。


 ミノタウロスは残った斧を慌てて身体の前へ構える。


 盾代わり。


 飛んでくる斧を受け止めるつもりなのであろう。


 しかし。


 その瞬間。


 我ではなく。


 飛んでくる斧でもなく。


 別の方向から足音が迫っておることに――。


 気づくのが遅れたな。


「ハッ!」


 ユウ。


 低く身体を沈め、一気にミノタウロスの右側へ潜り込む。


 振るわれるセイヴェリア。


 狙いは最初に決めたとおり。


 脚。


 一閃。


「ブモォォォォォォッ!!」


 太い右脚が切断される。


 片脚を失った巨体が大きく傾いた。


 当然、盾として構えていた斧も一緒に下がる。


 そこへ。


 我が投げ返した斧。


 防ぐはずだった斧の上を抜け、そのままミノタウロスの胴体に食い込んだ。


 深く。


 勢いを失わぬまま肉を裂き、その巨体をさらに大きく揺らす。


「…………」


 おお。


 静かになったの。


 右脚なし。


 胴体には巨大な斧。


 残った斧も、もうまともに構えられておらぬ。


 流石にこれで――。


「せい!」


 む?


 ユウが再び踏み込む。


 セイヴェリアが横薙ぎに走り。


 次の瞬間。


 ミノタウロスの首が落ちた。


 頭部が石床を転がり、遅れて巨体も崩れ落ちる。


 …………。


 ユウよ。


 そこまでの必要はなかったと思うのだが。


 まあ。


 確実ではあるかの。


「マオ。危ないことしないで!」


「む?」


 倒れたミノタウロスから顔を上げると、ユウがこちらを睨んでおった。


「今の斧! 何で掴むの!」


「ああ。あれか」


「あれか、じゃない!」


 怒っておる。


 かなり。


「我にとっては児戯よ。真正面から受け止めたわけでもないしの」


「そういう問題じゃないよ!」


 …………。


 ふむ。


 ユウが不安になるのであれば、仕方あるまい。


「わかった。なるべくせぬよ」


「なるべく?」


「…………」


「マオ?」


「うむ。なるべく、せぬ」


「そこは『もうしない』でしょ!」


 やれやれ。


 心配性よな。


 まあ。


 我を心配して怒っておるのだから、悪い気はせぬがの。

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