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魔王と勇者 ~我、異世界転生した!~  作者: 珈琲ノミマス
第二章 ダンジョンへ行こう

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第87話 我、否。我とユウのはじまり

 地下駐車場からエレベーターに乗り、一階へ。


 扉が開くと、そこには広いエントランスがあり、その奥に本免試験の受付が設けられておった。


 案内板。


 受付用の長机。


 そこに並んで手続きを待つ者たち。


 すでに受付を終え、案内を確認しておる者たちもいる。


 どうやら皆、我らと同じ本免試験の受験者らしい。


 …………。


 なんぞ、この視線。


 刺さる。


 エレベーターから降りて受付へ向かった途端、周囲にいた者たちの視線が一斉に我とユウに集まった。


 ちらりと見る者。


 露骨に振り返る者。


 隣の者と小声で何かを話しながら、こちらを見ておる者までいる。


 …………。


 まあ。


 気持ちは分からぬでもない。


 周囲を見渡してみても、我とユウのような年頃の受験者は一人もおらぬからな。


 正確な年齢までは分からぬが、見たところ若くても20代ほど。


 上は40代くらいであろうか。


 男の方が多いものの、女性の受験者も何人か混じっておる。


 そして。


 その誰もが程度の差こそあれ、我らを気にしておるように見える。


 …………。


 何ぞ?


 我ら。


 そんなに珍しいか?


 いや。


 珍しいのであろうな。


 15歳の少女が二人。


 しかも、大きな武器ケースまで持って本免試験の受付へ来ておるのだ。


 我が逆の立場でも、恐らく見る。


「受付いいですか?」


 …………。


 ユウ。


 おぬしは図太いの。


 これだけ周囲から視線を浴びているというのに、まるで気にしておらぬ。


 我より先に受付へ進み、普通に職員に声を掛けておるではないか。


「マオ。早く」


「うむ」


 しかも、我が遅いとでも言いたげに呼びおった。


 まあよい。


 見られておるだけで何かされているわけでもなし。


 さっさと受付を済ませるとしよう。


 我もユウの隣に並び、必要なものを取り出した。


 まずは本人確認。


 マイナンバーカード。


 続いて、事前に指定されていた資料を受付に提出する。


 職員は一つずつ内容を確認し、端末に何やら入力していく。


「はい。受け付けますね」


 うむ。


 問題なさそうだな。


 そう思った直後。


 職員の手が止まった。


「……え?」


「?」


 なんぞ、その驚きは?


 我は首を傾げる。


 職員は端末と提出した資料をもう一度見比べ、それから我とユウを交互に見た。


「あの、確認なんですが……」


 職員が僅かに声を落とす。


「お二人とも、アストラ該当可能性ありで登録されていますね?」


 ああ。


 そういうことか。


 それならば納得。


 そういえば、仮免試験を受ける際にも似たような反応をされたの。


 我とユウ。


 本当の正体は元魔王と元勇者。


 無論、そんなことをそのまま申告できるはずもない。


 そのため今のところ、公的にはアストラに該当する可能性が高い者として扱われておる。


 我らの異常な身体能力について説明するには、都合のよい隠れ蓑でもあるからな。


「そうなっています。駄目ですか?」


 ユウが何でもないことのように答える。


「いえ。少し驚いただけです。登録内容にも問題ありませんので、大丈夫ですよ」


「そうですか」


 ふむ。


 やはり。


 アストラというものは、それなりに珍しいらしい。


 学校におった時は我とユウが二人ともそういう扱いだったから、今ひとつ実感がなかったのだが。


 そして。


 先ほどの職員の声。


 周囲に配慮してか、かなり抑えておった。


 それでも――。


 …………。


 明らかに。


 周囲から向けられる視線が、さらに強くなったの。


『アストラ』


 その言葉が聞こえた者たちが、先ほどまで以上に我らを見ておる。


 中には驚いた顔をしている者までいた。


 うむ。


 居心地が悪い。


 我、早く受付を終えたい。


「では、こちらを」


 職員が小さな端末を操作し、二本のリストバンドを我らに差し出した。


「試験番号が記載されたリストバンドです。試験中は外さないようにしてください」


 我は渡されたものを確認する。


 軽い素材で作られたバンド。


 そこには番号と記号が表示されておる。


「それと、最初のペーパーテストではスマートウォッチの使用は禁止されています。装着したままの場合は、このリストバンドで画面を完全に覆うか、外して保管してください」


「わかりました」


 ユウが自分のリストバンドを確認する。


「マオ。私は15-A」


「我は15-Bぞ」


 番号は同じ。


 最後の記号だけが違う。


「はい。今回の本免試験は、パーティー単位で受けていただく部分があります。お二人はペアでの受験が認められていますので、15番組となります」


「15番組か」


 なるほど。


 AとBで同じ組ということなのだな。


 だが。


 一応、確認しておくか。


「他にはおらぬであろうな?」


 受付の職員が一瞬きょとんとした顔をする。


 いや。


 失礼なのは分かっておる。


 だが、ここは大事ぞ。


 千葉先生からも、大林先生からも、我とユウの二人で受けると聞いておる。


 ここへ来て突然。


『実は15番組には、あと三人います』


 などと言われては、色々と話が違ってくるからな。


「はい。大丈夫です。15番組は、お二人だけです」


「ならばよい。すまぬことを聞いた」


「いえ。確認は大切ですから」


 うむ。


 ならば問題なし。


 …………。


 と。


「くくっ……」


 何ぞ?


 後ろから、僅かに笑い声が聞こえた。


 我は振り返らず、その声に耳を澄ます。


 恐らく。


 今の我の喋り方で笑ったのであろうな。


 まあ。


 慣れておる。


 幼い頃から何度言われたことか。


 我としては普通に喋っているだけなのだが。


 だが。


 ユウ。


 おぬしは気にするな。


 我は横目で隣を見る。


 案の定。


 僅かに眉が動いておる。


 先ほどまで周囲の視線など一切気にしていなかったというのに、我が笑われた途端これぞ。


 しかも。


 今。


 ほんの少しだけ、周囲の空気が重くなった気がする。


 …………。


 ユウよ。


 怒るでない。


 ここは試験会場ぞ。


 おぬしも先ほどまでの図太さを思い出すのだ。


「ペーパーテストの試験会場は、三階の多目的ホールです。案内表示に従って移動してください」


「うむ。ありがとう」


「頑張ってください」


「ありがとうございます」


 よし。


 受付終了。


 我は受け取ったリストバンドを手首に巻き、ケースを持ち、少し離れた場所へ移動する。


「ユウ。行くぞ」


「……うん」


 うむ。


 まだ少し気にしておるな。


 ならば。


 我には切り札がある。


「そうそう」


 我はケースを置き、背負っていた鞄を一度床に下ろし、中に手を入れた。


 少し探る。


 タオル。


 飲み物。


 予備の物。


 そして――。


 あった。


「ほれ。おにぎりぞ」


「!」


 ユウの顔が一瞬で明るくなった。


「ありがとう、マオ!」


「うむ」


 母上が朝、持たせてくれたおにぎり。


 先ほど約束したからの。


 よし。


 元気が戻った。


 これならば問題――。


「ここは遠足じゃねぇっての」


 …………。


 我は足を止めた。


 声は、少し離れたところから。


 誰が言ったのかまでは確認せぬ。


 いや。


 確認する価値もない。


 言いたいことは分かるぞ。


 本免試験の会場。


 緊張した面持ちで試験を待つ大人たちの中。


 15歳の少女が二人で来て。


 その片方が今、おにぎりを受け取っておる。


 確かに。


 遠足に見えなくもない。


 だが。


 いちいち我らに突っかかるでない。


 全く。


 いい大人が。


 父上と母上を見習うがよい。


 我は何も言い返さず、鞄を背負い直しケースを持つ。


「行くぞ、ユウ」


「うん」


 隣を歩き出したユウを見る。


 …………。


 む?


 我はもう一度見る。


 右手。


 ない。


 ケースは持ってる。


 左手。


 ない。


 否、米粒が少し……食いおったな。


「…………」


 おにぎり。


 もうない。


 今。


 渡したばかりぞ?


 受付から数歩しか歩いておらぬぞ?


 あの僅かな間に食ったのか。


 ふふっ。


 流石よな。


 我は思わず口元を緩めながら、ユウと並んで三階へ向かう。


 さて。


 まずはペーパーテスト。


 本免試験。


 いよいよ始まりぞ。


 三階に上がり、案内表示に従って進んだ先にあったのは、多目的ホール。


 中に足を踏み入れてみれば、思っていた以上に広いの。


 一階の受付にいた時よりも明らかに多くの受験者がおり、等間隔に並べられた机の前では、それぞれ自分の試験番号を確認しながら指定された席に腰を下ろしておる。


 前方には大きなスクリーンと時計。


 壁際には試験監督らしき者たちが何人か立ち、出入口の近くにも職員が待機している。


 うむ。


 流石に本免試験。


 仮免の時よりも、空気が少し重く感じるの。


「15番……あった」


「うむ。ここぞ」


 我とユウもリストバンドに記された番号を確認し、指定された席へ向かう。


 ふむ。


 席を見て、我は少し首を傾げた。


 机そのものは一人ずつ分かれておるが、どうやら一つの組につき、あらかじめ五人分の場所がまとめて確保されているらしい。


 15番組にも横一列に五席。


 だが、我らは二人。


 故に、15-Aのユウと15-Bの我が座れば、残る三席はそのまま空席となる。


 なるほどの。


 試験はパーティー編成を前提としておるから、最大人数に合わせて最初から席を用意してあるのかもしれぬな。


「マオ。テストって何分だっけ?」


 隣に腰を下ろしたユウが、スマートウォッチを手首から外しながら尋ねてくる。


 確か。


「120分だったかの。時間内でも、出来た者は申告して答案を提出すれば退室してよい、となっておったはずぞ」


 念のため、我は鞄から受付でもらった資料を取り出し、注意事項に目を通す。


 うむ。


 間違いない。


「ただし、一度提出して外へ出れば、当然ながら見直しも訂正もできぬ。そこは自己責任ぞ」


「そっか」


 ユウは外したスマートウォッチを鞄に仕舞いながら、何でもないことのように頷く。


「なら、早めに終わらせて、後はのんびりしよ」


「…………」


 簡単に言うの。


 だが。


 こ奴なら本当にやりそうだから困る。


 ユウは昔から勉強が得意だ。


 中学に入ってからも座学で困っている姿などほとんど見たことがないし、ハンター関係の知識についてもかなり覚えておる。


 我も。


 まあ。


 頑張れば大丈夫であろう。


 …………。


 多分。


 いや。


 ここまで千葉先生に散々復習させられたのだ。


 大丈夫。


 そう思っておこう。


 一応我もスマートウォッチは外しておくかの。


 我らが話している間にも、ホールの席は次々と埋まっていく。


 一応、隣同士が近くなりすぎぬよう机の間隔は取られているものの、我ら15番組の位置は丁度ホールの中央付近。


 そのうえ、本来五人座る場所に我とユウしかおらぬ。


 空席が三つ並んでいるせいで、余計に目立つではないか。


 しかも。


 先ほど一階で我らがアストラに該当する可能性が高いと知られた影響もあるのであろうな。


 時折こちらに向けられる視線が、まだ痛い。


 …………。


 だが。


 もう気にせぬ。


 見たい者は好きなだけ見るがよい。


 我は試験を受けに来たのであって、周囲の者たちに愛想を振りまくために来たわけではないからの。


 やがて、ホール前方の扉が開いた。


「はい、時間です。私語はそこまで」


 その声が響いた途端。


 先ほどまで僅かに残っていた話し声が、一気に消える。


 入ってきたのは――。


 大林先生。


 その後ろには数名の試験監督らしき男女が続き、それぞれ問題用紙と解答用紙の束を手にしておった。


 …………。


 おお。


 空気が変わった。


 大林先生が前に立っただけで、先ほどまで周囲を見回していた者たちまで一斉に正面に向き直っておる。


 流石に知られておるのかの。


 S3級ハンター。


 しかも、千葉先生の話では、担当した試験では合格者が少ない御仁。


 受験者の間でも、かなり名が通っておるのかもしれぬ。


「今から問題用紙と解答用紙を配ります。受け取っても、開始の合図までは裏面を上にしたまま待機しておきなさい」


 大林先生の指示と同時に、試験監督たちが列ごとに分かれて問題用紙と解答用紙を配り始める。


 我のところまで来た試験監督から用紙を受け取り、机の上に置く。


 …………。


 ふむ。


 先ほど壁際に立っていた者たちもそうだが。


 この試験監督たち。


 恐らく、全員ハンターよな。


 歩き方。


 周囲への視線。


 ただ用紙を配っているだけなのに、受験者の手元や机の上まで自然に確認しておる。


 我がそう感じておるだけかもしれぬが、一般の職員とは少し雰囲気が違う。


 まあ。


 当然か。


 本免試験ともなれば、受験者も仮免を取得し、既にダンジョンで実地訓練を経験した者たち。


 身体能力に優れた者もおれば、アストラのような特殊な者も混じっておる。


 普通のカンニング対策だけでは足りぬのかもしれぬな。


 視力。


 聴力。


 能力。


 何を使う者がいるか分からぬ。


 故に、試験監督側もハンターを揃えておる。


 …………。


 恐らくだが。


「試験時間は120分」


 問題用紙と解答用紙が配られている間、大林先生が前方から注意事項を読み上げていく。


「途中退室は認めます。全て解き終わり、提出すると判断した場合は挙手。試験監督が答案を回収してから退室してください」


 うむ。


 先ほど資料で確認したとおりぞ。


「ただし、提出した時点でその答案は確定です。一度外へ出た後に『やっぱり間違えていました』『訂正したいです』は通用しません。早く出ること自体に加点はありませんから、そこは勘違いしないように」


 何人かが僅かに姿勢を正した。


 大林先生はホール全体を見渡し、そのまま続ける。


「スマートウォッチ、スマートグラス、通信機器その他、外部との通信や情報表示が可能な機器は使用禁止。指定された方法で収納するか、画面や操作部をリストバンドで覆ってください。不正行為が確認された場合、その場で失格とします」


 うむ。


 厳しい。


 だが。


 本免試験なら当然か。


 正式なハンターとなれば、武器を携行し、ダンジョンへ入り、自分だけでなく仲間の命まで預かることになる。


 知識が足りぬ者を、適当に通すわけにはいかぬからな。


「質問は試験内容に関するものには答えません。印刷不良や用紙不足などがあれば挙手してください」


 大林先生が話している間にも問題用紙と解答用紙は順番に配られ、やがて最後の列まで行き渡った。


 試験監督たちは壁際に戻り、一定の間隔を空けて配置につく。


 前。


 後ろ。


 左右。


 …………。


 うむ。


 見られておるな。


 カンニングなどするつもりは毛頭ないが、これだけ監視されておると妙に緊張するぞ。


「じゃあ、全員に行き渡ったわね」


 大林先生が壁の時計を確認する。


 我も机の上に置いた筆記用具に手を添えた。


 隣ではユウも背筋を伸ばし、裏返された問題用紙を見つめておる。


 先ほどまで『早く終わらせてのんびりしよう』などと言っておったが。


 流石に今は真面目な顔ぞ。


 …………。


 よし。


 我も集中。


 ここまで来たのだ。


 まずは一つ目。


 ペーパーテスト。


 きっちり突破してやろうではないか。


 大林先生が時計から我らに視線を戻す。


「それでは――」


 僅かな間。


 ホールの空気が張り詰める。


「始め!」


 一斉に問題用紙を裏返す音が広がった。


 我も問題用紙を裏返し、最初の設問に視線を落とす。


 さあ。


 我、テスト開始。

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