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魔王と勇者 ~我、異世界転生した!~  作者: 珈琲ノミマス
第二章 ダンジョンへ行こう

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第84話 我、宴の時間

【お休みと更新回数変更のお知らせ】


いつも作品を読んでいただき、本当にありがとうございます。


来週の更新はお休みさせていただきます。


更新は8月31日より再開いたします。


それと、申し訳ございませんが、しばらく通院が必要となったため、再開後は更新回数を少し減らさせていただければと思います。


『バハムート宇宙を行く』

8時更新


『魔王と勇者 ~我、異世界転生した!~』

20時更新


しばらくはこちらのペースで進めていく予定です。


体調が良くなりましたら、また少しずつ更新回数を増やしていければと思っております。


楽しみにしてくださっている皆様には、何度も更新予定を変更することになってしまい、本当に申し訳ございません。


ご不便をおかけいたしますが、ご理解いただけますと幸いです。


これからも『バハムート宇宙を行く』『魔王と勇者 ~我、異世界転生した!~』をよろしくお願いいたします。

 最後の訓練ダンジョンを攻略したその日の夜。


 我が家には、ちょっとした祝いのために皆が集まっておった。


 何を祝っておるのかといえば、母上の『ハンターソウルズ』が連載一周年を迎えたからぞ。


 大々的なパーティーというほどではない。母上も身内だけで軽く祝えればよいと言っておったし、集まっているのも、ほとんどが普段から顔を合わせる者ばかり。


 我とユウ。


 父上と母上。


 愛殿と仁殿。


 そして、小野坂殿を筆頭とした母上のアシスタント諸君。


 ここまでは分かる。


 千葉先生も、『ハンターソウルズ』を監修しておるから分かる。


 だが。


「なんで遥がここにいるんだ?」


 うむ。


 我も同じことを思っておったぞ。


 千葉先生の隣。


 何故か当然のような顔で我が家のリビングに座っておるのは、大林先生。


 しかも。


「白崎さんに招待されたのよ」


 そう答えながら、実に楽しそうに笑っておる。


 白崎。


 我は隣にいるユウに視線を向ける。


「ユウ。呼んだのかの?」


「うん。なんか色々話したいって言うから。先生も皆が一緒な時がいいって言ってたし、今日ならみんないるからちょうどいいかなって」


「そうであるか」


 うむ。


 理由は分かった。


 分かったのだが。


 我、少し不安。


 ユウよ。


 おぬし、上手いこと使われておらぬか?


 ちらりと大林先生を見る。


 いつもの柔らかな笑み。


 その隣には千葉先生。


 …………。


 しかも。


 思い返せば、大林先生が来た時、父上がそれとなく千葉先生の隣の席を勧めておったよな?


「まあまあ、茂雄君」


 ほら。


 父上。


 何やら楽しそうぞ。


「大林君とは僕も以前に何度か一緒に仕事をしていてね。この前、久しぶりに会った時は驚いたよ。茂雄君とも知り合いだし、マオやユウちゃんとも知り合いだって聞いたから。それに……ね」


 父上はそこで言葉を切り、ちらりと大林先生を見る。


 大林先生も、それに気づいたのか小さく笑った。


 千葉先生だけが嫌そうな顔をしておる。


 …………。


 なるほど。


 父上まで加担しておるのか。


 最初から大林先生を千葉先生の隣に座らせたのも、偶然ではなさそうよな。


 少しずつ。


 気づかれぬように。


 周囲から。


 外堀を埋めてきておる。


 うむ。


 大林先生。


 恐ろしい御仁よ。


 だが。


 その魂胆。


 我、嫌いではないぞ。


「それに、私の刀も博士のおかげで随分といいものになったのよ。良質な玉鋼とダンジョン素材を使って打ってもらった一振りだから」


「いや。以前、仕事を通じて島根のたたら製鉄に関わっている方と知り合う機会があってね。少し紹介しただけだよ」


 ほう。


 大林先生の刀か。


 そういえば、初めて会った時から腰に下げておったよな。


 S3級のハンターが普段から携える武器。


 我も少し興味がある。


「見せてもらうことはできますか?」


 母上。


 早い。


 我が聞こうか迷っておったというのに、もう食いつきおった。


 しかも。


 母上だけではない。


「先生。俺も見たいです」


「本物ですよね?」


「資料にしてもいいですか?」


 小野坂殿を筆頭に、アシスタント諸君まで一斉に目を輝かせておる。


 先ほどまで漫画の連載一周年を祝っておったはずなのだが。


 今や全員の興味が、大林先生の傍らに置かれた刀に集中。


 まあ。


 気持ちは分かる。


 現代で本物の刀を、しかもガラス越しではなく間近で見る機会など、そうそうあるまい。


 我とて気になるからの。


「さすがに手に取らせることはできませんけど、見るだけなら」


 大林先生はそう言うと、座る際に腰から外していた刀を手に取り、ゆっくりとテーブルの上に置いた。


 …………。


 む?


 我は僅かに身を乗り出す。


 刀そのものより。


 まず目に入ったのは、鞘。


 何か。


 変ぞ。


 見た目だけなら、昔の武士が持っていそうな黒塗りの鞘。


 だが、よく見ると違う。


 表面には細い継ぎ目のような線が走り、ところどころに金属らしき部品が組み込まれておる。


 鍔に近い部分にも、普通の鞘には必要なさそうな機構があるな。


 しかも。


 少し太い。


 刀身を収めるだけにしては、どうにも厚みがあるように見える。


「これは……不思議な鞘ですね」


 母上が早くも手元のスケッチブックに線を走らせ始める。


 速い。


 もう描いておる。


「先生。この刀、かなり長めですよね」


 小野坂殿が刀を覗き込みながら顎に手を添えた。


「これ、抜くのにもかなり技量が要りますよね?」


「そうね。普通に腰に差したまま抜こうとしたら、慣れてない人には扱いづらいと思うわ」


 流石、小野坂殿。


 武器になると目の色が変わるの。


 シールドクローを設計してくれた時もそうであったが、この御仁。


 本当に武器が好きよな。


「でも、この鞘もただの鞘じゃないんです」


「ほう?」


 小野坂殿がさらに身を乗り出す。


 母上の鉛筆も止まった。


 我も気になる。


「鞘そのものも、武器として機能するようになってます」


「鞘が?」


「ええ。万が一、刀が手元から離れた時や、刀を使えない状況になった時の予備ですね。この鞘は中央で二つに分かれ、それぞれ小太刀として使えるようになっています」


「ほう!」


 小野坂殿。


 声が大きいぞ。


 だが。


 我も心の中では同じ反応。


 なるほど。


 だから太いのか。


 よく見れば、鞘の中央付近に真っ直ぐな継ぎ目がある。


 あそこから二つに分かれるのであろうな。


 刀を失ったとしても、残った鞘そのものを二本の武器として使える。


 予備武器を別に携行するのではなく、普段必ず持っている鞘そのものを予備武器として使う。


 中々に合理的ぞ。


「面白いですね……」


 母上。


 目が怖い。


 先ほどより鉛筆の動きが速くなっておる。


 小野坂殿も完全に仕事の顔になっておるし、後ろから覗いているアシスタント諸君まで何やら小声で相談を始めた。


 …………。


 これは。


 漫画に出す気よな?


「試しに抜きますが、少し離れてください」


 何!


 生で見られるのか!


「皆、少し下がるぞ」


 我が言うより早く、小野坂殿たちがテーブルから距離を取る。


 母上もスケッチブックを抱えたまま数歩下がった。


 我とユウも少し離れる。


 大林先生は周囲を確認してから、鞘を片手に持った。


 無駄のない動き。


 ゆっくり。


 本当にゆっくりと。


 鞘の中から、刀身が姿を現していく。


 おお……。


 我、感動。


 照明を受けた刀身に、細い光が滑る。


 刃は真っ直ぐな鏡のようではなく、僅かな揺らぎを持ちながら輝き、その中に浮かぶ刃文も実に美しい。


 武器である。


 人を、モンスターを斬るためのもの。


 それは分かっておる。


 それでも。


 美しい。


 元の世界でも剣は山ほど見てきたが、こちらの刀というものには独特の美しさがあるよな。


「おお……」


 誰かが声を漏らした。


 多分、石田殿か。


 いや。


 我も同じような声を出しておったかもしれぬ。


「あの」


 母上が恐る恐る手を上げた。


「その鞘の方を、もう少し詳しく見ることは?」


 母上。


 刀より鞘に興味が移ったのか?


 いや。


 両方か。


 目が完全に漫画家のそれぞ。


「ふふっ」


 大林先生が刀をゆっくりと鞘に戻す。


 刃が完全に収まったところで、金具が小さく噛み合った。


「今日はこの辺で。また次回にしましょう」


 …………。


 上手い!


 我は思わず大林先生を見る。


 これで。


 また我が家に来る口実ができた!


 しかも母上から見せてほしいと言わせたぞ。


 大林先生。


 やはり恐ろしい御仁。


 外堀。


 着実に埋めておるな。


 千葉先生を見る。


「…………」


 気づいておる。


 あの顔。


 絶対に気づいておるぞ。


 だが。


 もう遅いよな。


「パパ。ご飯は?」


 おっと。


 ユウよ。


 この空気の中で食事を優先するか。


 まあ、ユウらしいがの。


「もう少しだよ。待っててね」


 …………。


 む?


 仁殿の声。


 我はキッチンの方に顔を向けた。


 そういえば。


 先ほどから姿が見えぬと思っておったが。


 おった。


 仁殿。


 我が家のキッチンに。


 しかも、完全に料理を作っておる。


 鍋の中を確認し。


 隣では別の料理に火を入れ。


 空いた時間に使い終えた器具まで洗っておる。


 …………。


 何故。


 我が家なのに、仁殿が一番自然にキッチンを使いこなしておるのだ?


 いや。


 よくあることではあるのだが。


 よいのかの?


「仁さん。すいません。家なのに任せっぱなしで」


 父上が申し訳なさそうに声を掛ける。


「いえいえ。好きでしていることですので、気にしないでください」


 仁殿。


 強い。


 戦闘ではないぞ。


 家事力が。


 我やユウも手伝えればよいのだがな。


 少し申し訳ない。


 我ら二人。


 まだ料理が得意とは言えぬ。


 …………。


 いや。


 待て。


 出来ぬわけではないぞ?


 包丁くらい使える。


 簡単なものなら焼くこともできる。


 学校や家で多少は習っておるからの。


 ただ。


 はっきり言えば。


 普通より少し下。


 それだけ。


 そして、仁殿。


 あの御仁の腕前がおかしいのだ。


 家庭料理の範疇には入っておるのだろうが、その味は我からすれば一流。


 店で出されても何の疑問もなく金を払うぞ。


 そんな者が手際よく料理をしている横に、我とユウが入る。


 …………。


 邪魔になる未来しか見えぬ。


 うむ。


 今日は大人しく待っておこう。


 それもまた手伝い。


 多分。


 まあ、それはよい。


 それでだ。


「母上。その辺でもうよいかの?」


「そうね……」


 母上はスケッチブックに最後の線を加えると、少し離して出来を確認する。


「よし。とりあえずスケッチはできた。みんな、いい?」


「大丈夫です」


「俺も大体覚えました」


「次は、その鞘を二つに分けるところも見たいですね」


 小野坂殿。


 それは流石に欲張りではないか?


 大林先生が笑っておるぞ。


 だが、アシスタント諸君も満足したらしい。


 先ほどまで刀を取り囲んでいた者たちが、それぞれ元の席へ戻っていく。


 さて。


 ならば。


 我も聞いておきたいことがある。


 我は千葉先生に身体を向けた。


「それで、千葉先生。我らの今後の予定は、どうすべきかの?」


「あっ。そうだった」


 ユウも思い出したように千葉先生を見る。


「私たち、もう本免の試験を受けられるんですか?」


 そう。


 今日。


 我とユウは最後の訓練ダンジョンを攻略した。


 これまで千葉先生から言われていた条件。


 残る訓練ダンジョンを全て攻略すること。


 それは。


 今日で終わった。


 ならば。


 次に待つものは――。


 本免許。


 正式なダンジョンハンターになるための試験ぞ。


「受けられる」


「おお!」


 思わず声が出る。


 だが、千葉先生は続けて指を一本立てた。


「ただ、次の試験は8月だ」


「8月?」


「ああ。本免試験は年二回。8月と12月に行われる。その時期に、条件を満たした仮免の受験者がまとめて受ける」


「そうよ」


 何故か大林先生まで会話に加わった。


「だから、受けられる状態になったからといって、明日すぐ試験というわけじゃないわ」


「なるほどの」


 それならば。


 少し気になる。


 我は腕を組み、千葉先生を見る。


「では、何故ここまで早く訓練ダンジョンを攻略させたのだ?」


「そうだよね」


 ユウも同じことを思ったらしい。


「もう少し間を空けてもよかったんじゃない? 最後の方、けっこう続けて行ったよね」


「ああ。それはな」


 千葉先生がテーブルに肘をつきかけ――。


 母上を見る。


 そして。


 肘を引っ込めた。


 うむ。


 我が家のテーブルだからの。


「これから、もう一度詰め直すためだ」


「詰め直す?」


「ああ。今まで習った座学の復習。それから、これまでの訓練で記録した映像を全部見返す」


 映像。


 我とユウは顔を見合わせた。


 ヘッドギアカメラで撮り続けてきた記録か。


「お前ら、訓練の度に映像を残してただろ。あれを使う。どこで判断が遅れたか。何を見落としたか。逆に、どういう判断が良かったか。戦闘だけじゃないぞ。移動、休憩、食事、装備管理、罠、素材回収、全部だ」


「全部……」


 ユウが僅かに顔を引きつらせる。


 我も同じ気持ちぞ。


 何日分あると思っておるのだ。


 大山。


 富士。


 岩手。


 そして今回の高尾山近くのダンジョン。


 それ以外にも、細かな訓練記録が山ほど残っておる。


 …………。


 全部見るのか?


「先生。もしかして、最初からそのつもりだったのかの?」


「当たり前だ」


 千葉先生は即答。


「実地経験を積ませるだけなら、もっと間を空けてもいい。だが、お前らの場合、ただ経験の数だけ増やしても意味が薄い。最後まで一通り終わらせてから、まとめて見直した方が分かりやすい」


 なるほど。


 先に経験する。


 その後。


 最初の頃の我らと、今の我らを比べる。


 確かに。


 今なら、最初の訓練で自分たちが何を間違えていたのか、当時よりも多く気づけるかもしれぬ。


 同じ映像でも。


 見る者が成長すれば。


 見えるものも変わる。


 うむ。


 理に適っておる。


「それ、私もやるわよ」


 …………。


 ん?


 我は声のした方を見る。


 大林先生。


 今。


 何と?


「いや。何故、大林先生も?」


 我が尋ねると、大林先生は何でもないことのように微笑んだ。


「私も二人の映像を見て、気づいたところがあれば教えるわ。茂雄一人とは違う視点があった方がいいでしょう?」


「勝手に決めるな」


 千葉先生。


 即答。


 だが。


 我としては少し興味がある。


 千葉先生はS1級。


 大林先生はS3級。


 同じ上位ハンターでも、使う武器も戦い方も違うであろう。


 ならば。


 確かに、見る場所も違うやもしれぬ。


 それに。


「大林先生。すまぬが、学校の方はどうされたのだ?」


 あ。


 言ってから思った。


 少し踏み込みすぎたか?


 だが、大林先生は気にした様子もなく、あっさり答えた。


「辞めたわ」


「む?」


 辞めた?


「なんか私、追い出されちゃったのよ」


「……追い出された?」


 思わず聞き返す。


 大林先生は笑っておる。


 とても、職を失った者の顔には見えぬ。


 いや。


 我がそう思っておるだけかもしれぬが。


「私より級の低いハンターが、次の担任になるそうよ」


「…………」


 我は僅かに眉を寄せる。


 事情は分からぬ。


 学校側に何か考えがあったのか。


 それとも別の理由があるのか。


 我が知り得ることではない。


 ただ。


 先ほどの問い。


 少し不躾であったな。


「……不躾であった。申し訳ない」


「気にしないで」


 大林先生は片手を軽く振る。


 やはり。


 落ち込んでいるようには見えぬ。


 むしろ。


 少し楽しそうにすら見える。


「おかげで、金の卵をこの目で見られる時間ができたもの」


 金の卵。


 …………。


 我らか?


 我とユウが顔を見合わせる。


「茂雄と一緒にね」


 …………。


 あ。


 そちらも重要なのだな。


 大林先生の視線が千葉先生に向く。


 実に良い笑顔ぞ。


 千葉先生は。


 ものすごく嫌そうな顔。


「俺は認めてない」


 うむ。


 そう言うと思った。

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