第80話 我、難問に悩む
最後の訓練ダンジョン。
それがある場所は、意外にも都内であった。
「高尾山の近くとはの」
「もっと遠くに行くと思ってたよね」
「うむ」
鳥取。
岩手。
これまで県外のダンジョンに足を運んできただけに、最後が東京都内というのは少し意外ぞ。
とはいえ、都内だから近いというわけでもない。
高尾山の周辺まで来れば山も多く、我らが普段暮らしている場所とは随分と景色が違って見える。
それでも。
今回は平日で良かったの。
休日ともなれば、高尾山へ向かう者も多いと聞く。
もし休みの日であったなら、道も混んでおったやもしれぬ。
最後の訓練に向かう途中で渋滞に捕まり、着く前から疲れるなど、我は御免ぞ。
そして。
施設で受付を済ませ、装備を確認。
いつものように千葉先生と共にダンジョンに入り――。
…………。
いきなり。
難問が我らを襲っておる。
「何故、組み合わん!」
「マオ。そこ違わない? こっちに嵌めれば……」
「否。そこでは、この三角が入らぬ!」
「じゃあ、これを先に入れて……」
「それでは四角が余るぞ!」
「う~ん……」
我とユウ。
二人揃って、床に座り込んでおる。
何故か。
答えは簡単。
先へ進めぬからぞ!
今回のダンジョンも、内部そのものは石造り。
灰色の石壁。
石を組み上げた床。
そして、本来なら奥へ続いているはずの通路。
そこまでは、これまで見てきたダンジョンとそれほど変わらぬ。
問題は。
入って早々に辿り着いた少し広い空間。
その正面にある扉ぞ。
大きな石の扉。
その表面には、大きな四角い窪み。
そして床には、これ見よがしに置かれた石の板。
大きさの違う三角が五枚。
四角が一枚。
そして、斜めに傾いた平行四辺形が一枚。
全部で七枚。
…………。
どう見ても。
これを組み合わせて窪みに嵌めろ、ということであろうな。
ならば、ここは――。
機構型ダンジョン。
罠や仕掛け。
暗号。
謎解き。
そういったものを攻略しなければ、先へ進めぬタイプぞ。
しかも、最初からこれということは、今回のダンジョン。
謎解きが中心なのではなかろうか。
…………。
まあ、最初の部屋から一歩も先へ進めておらぬので、まだ分からぬが。
「これを、こう斜めに入れてみては……」
我は一枚の石板を持ち上げ、窪みに斜めに合わせてみる。
「マオ。それなら入るかも」
「うむ。ここに四角を置き……」
「今度は三角が入らないよ」
「…………」
入らぬ。
何故だ!
見た目だけなら、全て合わせれば綺麗な四角になるはずなのだ。
だというのに。
一つを入れれば、一つが余る。
別の場所に動かせば、今度はこちらが入らぬ。
ならば向きを変えれば。
…………。
駄目。
別の石板と入れ替えれば。
…………。
これも駄目。
「何故、こんなにも苦戦せねばならぬ!」
我、魔王ぞ!
かつて一国を治めておったのだぞ!
何故、石の図形相手に一時間近くも苦戦しておるのだ!
「お~い。もう一時間だぞ」
「分かっておる!」
後ろから飛んできた千葉先生の声に、我は振り返らず返す。
まったく。
千葉先生。
そんなところで寝転んでおらんで、少しくらい手伝えばよいではないか!
我ら二人がこれほど苦戦しておるというのに。
…………。
否。
それはできぬか。
これは我らの訓練。
千葉先生に答えを教えてもらって先へ進んでも、意味がない。
分かっておる。
分かってはおるのだ。
だが。
だがな!
「しかし、嵌まらぬのだ!」
「先生。これ、どうすればいいですか?」
ユウ。
聞くのか?
…………。
いや。
我も聞きたいけど。
物凄く聞きたいけど!
「いや、授業でもやっただろ。こういうパズルとか、文章やヒントから答えを読み解く謎解きとか」
「我、これは苦手なのだ」
「私も」
「お前ら、頭はいいのにな……」
笑っておるでない!
勉強ができるのと、謎解きが得意なのは別物ぞ!
くそ。
絶対に解いてやる。
我はもう一度、目の前に並んだ石板を見渡す。
「ここをこうして……」
違う。
ならば。
こっちを先に。
…………。
これも違う。
「いや、待てよ」
我は先ほどまで入れていた平行四辺形の石板を引き抜く。
これまで何度も向きを変えておった。
右に回し。
左に回し。
上下も入れ替えて。
それでも合わぬ。
だが。
…………。
待て。
回すのではなく。
「これ、裏返して……」
石板を反転させる。
すると、先ほどまでとは左右の傾きが逆になった。
「おお?」
そのまま窪みの端に寄せる。
横に四角。
さらに、小さな三角を――。
「おお!」
入る!
「ユウ!」
「うん!」
「後はこれをここに!」
「ああ! それなら最後にこれを嵌めれば!」
ユウが残った石板を持ち上げる。
窪みに押し込む。
ぴたり。
最後の一枚が収まり、全ての隙間が埋まった。
「…………」
「…………」
我とユウ。
揃って扉を見る。
嵌め込んだ石板の境目から、淡い光が走った。
次の瞬間。
それまで窪みを埋めていた石板が、まるで最初から一枚の石であったかのように扉に沈み込んでいく。
境目が消え。
完全に同化。
そして。
石同士が擦れ合う低い音と共に、重い扉がゆっくりと開き始めた。
「おお!」
「開いた!」
はぁ~~~~。
我は思わず肩を落とし、大きく息を吐く。
長かった。
たかが最初の扉。
されど最初の扉。
まさか、敵と一度も戦わぬうちからここまで疲れるとは思わなんだぞ。
「時間掛かっちゃったね」
「先が思いやられるの……」
「ほんとだな」
千葉先生よ。
追い打ちをかけるでない。
…………。
まあよい。
何はともあれ。
我ら自身で解けたのだ。
ならば、先へ進むぞ。




