第79話 我、過去を語り、呆れる
環境型ダンジョンから戻ってきた我らは、暫くの休暇。
その間に、もちろん報告書も作ったの。
…………。
うむ。
ユウの監視の下でな。
だが!
今回は、すでに提出済みぞ!
ふふふ。
我、成長。
前のように提出期限ぎりぎりまで放置などしておらぬ。
…………。
まあ、ユウが隣で何度も確認してきたからというのもあるが。
それでも提出したことに変わりはない!
「マオ。聞きたいことがあるんだけど?」
「なんぞ?」
そんな我らは今、我の部屋でゲームをしておる。
昔のゲームを作り直したリメイク作品らしいが、元が古くとも今なお人気があるというのだから、名作というものは凄いよな。
我もすでに一度クリアしておる。
今日はユウが進めるのを横から眺めているところぞ。
「マオの前の世界って、モンスターはいたの?」
「モンスターか。こちらの世界でそう呼ばれておるものとは少し違うが、魔獣ならおったの」
「モンスターと何が違うの?」
「う~む……」
そうよな。
なんと説明したものか。
我にとっては当たり前だったものを、こちらの世界の言葉で説明するとなると少し難しいの。
「簡単に言えば、この世界でいう動物と同じようなものぞ」
「そうなの?」
「うむ。そうなのだ」
魔獣だからといって、何でもかんでも人を襲うわけではない。
危険な種もおれば、大人しい種もおる。
家畜として飼われるものもおったからの。
…………。
お。
ユウ。
それより、回復魔法を使った方がよいのではないか?
僧侶が瀕死ぞ。
「魔王国には牧場もあったし、畑を耕して暮らしておる者も普通におったぞ」
「へえ。そうなんだ」
うむ。
…………。
ユウよ。
何故、回復させぬ?
僧侶。
死んだぞ。
「じゃあ、授業で習ったようなモンスターはいた?」
「似ておる者ならおったな。例えば、ミノタウロスは牛魔族に少し似ておるし、スライムは水魔族に似ておる」
「同じなの?」
「全く違うぞ。牛魔族も水魔族も人型であったし、授業で見たミノタウロスやスライムとは姿も随分と違うからの」
「そうなんだ。じゃあ、マオのいた世界って、こういう世界じゃないんだね」
「こういう?」
ユウが画面を指差す。
そこでは魔王軍とやらが街を破壊し、人々が逃げ回っておる。
…………。
「このような世界ではないぞ。普通に街もあったし、法律もある。国があり、そこで皆が暮らしておった」
「じゃあ、マオから見て、この魔王ってどうなの?」
「う~む」
それについて考えるのはよいが。
ユウよ。
何故、誰も回復させぬ?
もしかして、負けることが前提の戦いなのかの?
戦士も魔法使いも瀕死になっておるぞ。
「あり得ぬな」
「そうなの?」
「何故、わざわざ街を破壊するのだ? まるで意味のない行為ぞ。まず我なら自国を整備し、争いが起きぬよう手を打つかの」
「魔王の仕事って、こいつみたいに世界を破壊することじゃないの?」
「否」
何を言っておる。
そんなことをして何になる。
「我の仕事は、書類を確認してサインすることぞ」
「…………」
「しかも適当に見ておったら、モロイに怒られておったの」
「何それ?」
笑うでない!
事実ぞ!
国を治めるというのは、戦っておればよいものではない。
税。
予算。
外交。
食料。
道路。
治安。
軍。
祭り。
よく分からぬ陳情まで、次から次へと書類になって我の机に積まれていく。
…………。
懐かしいの。
向こうの我。
頑張っておるかの。
「母上には申し訳ないが、所詮これはゲームや漫画の世界ぞ。無論、何処かにはこのような世界もあるのやもしれぬが……我からすれば、こんなことを続けておれば最後に待っておるのは滅びだけよ」
「そっか」
「うむ。で、ユウよ」
「何?」
我は画面を指差す。
全員。
倒れておる。
「何故、全滅しておる?」
「ああ、これ?」
「先ほど回復や蘇生を使えば、まだ戦えたであろう?」
「ああ。マオはまだ甘いな」
…………。
なにが?
一応、我はこのゲームをクリア済みぞ。
しかも、ここもそれほど苦戦せず突破したはず。
「マオ。もしかして、ちゃんと話を聞いてないの?」
「話とは?」
なんぞ、その顔。
含み笑いをしおって。
…………。
待て。
もしかして我。
何か見逃しておるのか?
「色々ヒントがあったよ。港のクエストでこのボスの話が出てたし、街のNPCもそれっぽいことを言ってたよ」
「…………いや。一応、確認はしておったが?」
あったかの?
そんな話。
「ここのボスね。一度挑んで全滅するでしょ?」
「うむ」
「それでもう一度挑んで、二回目も全滅するの」
「…………」
待て。
「今から、もう一度全滅するのか?」
「うん」
「わざと?」
「わざと」
「…………」
何という攻略法ぞ。
我なら一度負けただけでも、装備や戦い方を見直して次こそ勝とうとするところだというのに。
それを二度も負けろと?
分かるか、そのようなもの!
だが、ユウは気にした様子もなく再びボスに挑み。
回復も蘇生も使わず。
…………。
また全員倒れた。
「本当に全滅しおった……」
「これで二回目」
「なんとも複雑な気分ぞ」
「でも、ここからだよ」
ユウがそのまま三度目の戦闘を選ぶ。
すると、今度は戦闘が始まる前に画面が止まり、ボスがこちらに問いかけてきた。
『なぜ、そこまでして挑むのか』
「おお……」
「二度全滅すると、三度目にこれを聞いてくるんだよ」
「こんなもの、我の時にはなかったぞ!」
「マオ、全滅してないんでしょ?」
「…………うむ」
ならば出るはずもないか。
…………。
我、混乱。
「それで、正しい選択肢を選ぶと……」
ユウがコントローラーを操作する。
画面が切り替わり。
先ほどまで我らのパーティを全滅させていたボスが――。
「…………」
おる。
我らの側に。
「仲間になっておる!?」
「うん」
我、驚愕!
なんということぞ!
しかも。
強い!
先ほどまでこちらを壊滅させていただけはある。
敵に与えるダメージが、我の使っていた仲間より明らかに高いではないか。
「まあ、途中のイベントで離脱するんだけどね」
「離脱するのか」
「でも、このボスを一度仲間にしておかないと、伝説の剣が手に入らないんだよね」
「…………」
伝説の剣?
「そんな武器、あったかの?」
「うん。裏ルートに」
「…………」
知らぬ。
我、何も知らぬ。
一応、隅々まで探索しておったつもりだったのだが。
…………。
話を聞く。
ヒントを集める。
思い込みで判断せず、得た情報をきちんと確認する。
これからは徹底した方がよいよな。
ゲームだけではない。
ダンジョン探索でも、情報を見落としたり、思い込みで判断したりすれば痛い目を見ることはある。
今回など、まさにそうではないか。
…………。
我、学習。
「まあ、攻略サイトで見ただけだけどね」
「…………」
おい。
「ズルぞ!」
「何が?」
「我が今、少し感心しておった時間を返せ!」
何が「ヒントがあったよ」ぞ!
自力で全部見つけたような顔をしおって!
「だって、二回もわざと全滅するなんて普通わからないもん」
「ならば我も攻略サイトを見る!」
「マオ。自力で攻略するんじゃなかったの?」
「…………」
くっ。
痛いところを。
…………。
まあよい。
我は我の道で攻略ぞ。
どうしても分からなくなったら。
その時だけ。
ほんの少しだけ見る。
…………。
それくらいなら、自力攻略と言ってもよかろう。
多分。
そうして今日は、ユウとのんびりゲームを進めていった。
ダンジョンに潜っていた時とは違い、命の危険もなければ見張りもいらぬ。
途中で菓子を食べ。
飲み物を取り。
ボスに負ければ笑い。
時には攻略方法で言い争う。
うむ。
こういう休日も悪くないの。
そして。
残る訓練ダンジョンは、あと一つ。
それを終えれば――。
本免許の試験に挑めるぞ。
もう少し。
我らが正式なダンジョンハンターになる日が、いよいよ近づいておる。




