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魔王と勇者 ~我、異世界転生した!~  作者: 珈琲ノミマス
第二章 ダンジョンへ行こう

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第71話 我、欲張る

 まずは角からよ。


 倒したミノバッファローは六体。


 これだけの巨体が、首を落とされたまま草原に転がっておる。


 周囲には当然、血の匂いも広がり始めている。


 …………。


 あまり、のんびりしてはおれぬな。


 血の匂いにつられて、別のモンスターが寄ってくるやもしれぬ。


 ここは見通しのよい草原。


 こちらから見つけやすいということは、向こうからも我らを見つけやすいということ。


 素材を手に入れたところで、その最中に囲まれてしまっては意味がない。


「手早く済ませるぞ」


「うん」


 さて。


 角。


 我は腰からナイフを抜き、試しにミノバッファローの角の根元に刃を当ててみる。


 …………。


 硬い。


 少し力を込める。


 駄目。


 我の力なら無理矢理どうにかできるかもしれぬが、ナイフの方が先に駄目になりそうぞ。


「これはナイフでは歯が立たぬな」


「じゃあ、私がやろうか?」


「うむ。頼む」


 角はユウに任せるのがよかろう。


 セイヴェリアならば、これくらいの硬さは問題あるまい。


「ユウは角を。我は皮を剥ぐ」


「了解」


 ユウは早速、最初の一体の頭に近づいていく。


 では。


 我も始めるかの。


 まずは死体をそのまま地面に置いて作業するより、浮かせた方がよい。


 我は二枚のシールドクローをミノバッファローの後ろ脚へ向かわせる。


 左右から脚を挟み――。


「よいしょ」


 持ち上げる。


 巨大な身体が地面から離れ、逆さに吊り上がった。


 …………。


 うむ。


 こういう使い方もできるの。


 父上。


 シールドクロー。


 相変わらず便利ぞ。


 残る四枚は周囲に浮かせたまま。


 全部を解体に使ってしまえば、不意にモンスターが現れた時に対応が遅れる。


 我自身も時折顔を上げ、草原を確認する。


 今のところ。


 動くものはなし。


 ならば。


 続けよう。


 まずは前脚と後ろ脚の足首周りに、ぐるりと切れ込みを入れる。


 そこから腹の中央。


 さらに四肢に沿って、皮だけを切るように刃を走らせていく。


 …………。


 こんなところかの。


「よし」


 後は。


 剥がす。


 皮と肉の間にナイフを入れ、少しずつ切り離していく。


 だが。


 これだけ大きいと、ナイフだけでは時間が掛かる。


 血の匂いも、どんどん濃くなっておる。


 丁寧さは必要。


 しかし、悠長にやってもおれぬ。


 ならば――。


「躊躇してはいかん」


 切れ目に指を入れる。


 皮を掴み、力を込めて引く。


 …………。


 うむ。


 少し。


 いや。


 かなり見た目はよろしくない。


 肉から皮が離れていく様子。


 鼻につく血の匂い。


 手に伝わる、まだ温かさの残る感触。


 初めてやる作業としては、なかなか刺激が強いぞ。


 だが。


 ここで気持ち悪いなどと言っておっては、素材の回収などできぬ。


 我らはハンター。


 倒しただけで終わりではない。


 使えるものを回収するところまでが仕事よ。


 皮を引く。


 剥がれにくいところにはナイフを入れる。


 また引く。


 …………。


 これならば。


「シールドクローを二枚使うかの」


 周囲を警戒させていた四枚のうち、二枚をこちらへ戻す。


 左右から剥がれ始めた皮の端を掴ませ、ゆっくりと引かせる。


 ただ力任せに剥がすのではない。


 シールドクローで一定の張りを作り、肉や脂肪がついてきそうな場所だけ、我がナイフで切り離していく。


 引く。


 切る。


 また引く。


 うむ。


 先ほどよりやりやすい。


 そして――。


「よし!」


 最後の部分を切り離すと、大きな一枚の皮が身体から外れた。


「おお!」


 思ったより綺麗ぞ。


 我は広がった皮を持ち上げて確認する。


 所々に肉が残ってはおる。


 切り口も、完璧に整っているとは言い難い。


 初めてなのだから、こんなものであろう。


 多分。


 …………。


 大丈夫よな?


 我はちらりと後ろを見る。


 少し離れた場所で、千葉先生がこちらを見ておる。


 目が合った。


「…………」


「…………」


 何も言わぬ。


 ならば。


「先生。これでよいのか?」


「俺を見ても、今は何も言わないぞ」


「それは駄目ということなのかの?」


「自分で考えろ」


 …………。


 不安になるではないか。


 訓練。


 分かっておる。


 自分たちで考えてやれということなのであろう。


 だが。


 せめて素材として使える状態なのかくらい、教えてくれてもよくないか?


 我、少し不安。


 とはいえ。


 いつまでも一枚目を眺めているわけにもいかぬ。


「この調子で残りもやってしまうかの」


 二体目。


 吊るす。


 切り込み。


 剥がす。


 三体目。


 今度は先ほどより少し早い。


 四体目。


 ナイフを入れる位置も何となく分かってきた。


 五体目。


 …………。


 腕が少し疲れてきたぞ。


 そして。


 六体目。


「これで……最後!」


 皮を掴んだシールドクローを引かせる。


 我も同時に身体を後ろに引く。


 一気に剥がし切った。


 ふう。


「終わったの」


 六枚の皮を順番に確認する。


 一枚目。


 二枚目。


 三枚目。


 …………。


 途中。


 少し失敗して穴を広げてしまったところもある。


 切れ目が綺麗ではない部分もある。


 それでも。


「この程度なら……大丈夫よな?」


 我。


 もう一度だけ千葉先生を見る。


「だから、俺を見るな」


「むう」


 何も教えてくれぬ。


 まあよい。


 後で評価されるのであろう。


 その時に駄目なら、次に直せばよい。


 一方。


 ユウの方は――。


「もう終わったよ」


 …………。


 早いの。


 六体分の角。


 全て切り終わっておる。


 しかも今はセイヴェリアについた血を払い、我が作業をしている間も周囲を警戒してくれていたらしい。


 流石。


 角を切るだけなら、セイヴェリアを持つユウには容易かったようだの。


「ユウ。我も終わったぞ」


「分かった。これ、素材保存袋」


 ユウが荷物から折り畳まれた大きな袋を取り出し、こちらに差し出してくる。


「うむ。ありがとう」


 今回、千葉先生から持ってくるよう指示されていた物の一つ。


 ダンジョンで回収した素材を、持ち帰るまで一時的に保存するための専用袋ぞ。


 中の温度上昇を抑え、血や素材そのものの匂いも外へ漏れにくくしてくれる。


 とはいえ。


 これに入れれば何日でも放っておいてよいというわけではない。


 帰還した後には、洗浄や本格的な保存処理が必要。


 あくまで、ダンジョン内で持ち運ぶためのものよ。


 さて。


 まずは皮に残っている大きな肉片や脂肪を、ナイフで軽く削ぎ落としておく。


 今ここで完全に綺麗にする必要はない。


 血の匂いを撒き散らしながら、いつまでも解体を続ける方が危険ぞ。


 最低限の処理を終えた皮を折り畳み、素材保存袋に入れていく。


 六枚。


 …………。


 流石に嵩張るの。


「少し圧縮するぞ」


 二枚のシールドクローで袋の上下を挟む。


 ただし、素材そのものを傷めぬよう力は弱め。


 中に残る余分な空間を減らすよう、ゆっくりと押していく。


 ぺちゃんこにならぬよう、持ち運びやすい大きさに圧縮するためぞ。


 袋が十分に薄くなったところで封を閉じる。


 素材保存袋自体に液漏れと防臭の機能がある故、これでよい。


 角も別の素材保存袋にまとめておく。


 そして最後に。


 普段は小さく折り畳んで収納している、大型の素材運搬バッグを広げる。


 畳んでいる時は小さいが、広げれば大型のモンスター素材まで運べる大きさになる。


 そこに回収した素材を収めて――。


「よし」


 背負う。


 …………。


 重さはある。


 だが。


 我には問題なし。


 むしろ気になるのは嵩の方よな。


 これ以上増えるようなら、持ち帰る素材も選ばねばならぬかもしれぬ。


「我はいつでも行けるぞ」


「よーし。進んで行こう」


「うむ」


 我らは再び最深部を目指し、歩き始めた。


 もちろん。


 先ほどのようなモンスターがいないか警戒しながら。


 定期的にスマートウォッチで進んだルートを確認。


 時折、後ろも振り返る。


 草原の景色は似たものばかり故、感覚だけで進めば本当に方向が分からなくなりそうぞ。


 そして。


 しばらく進むと――。


「またいるね」


「うむ」


 ミノバッファロー。


 今度は先ほどとは少し離れた場所に群れ。


 こちらに気づく。


 向かってくる。


 ならば。


 迎え撃つ。


 我がシールドクローで突進を止める。


 ユウが仕留める。


 周囲を警戒。


 素材を採取。


 収納。


 そして。


 再び進む。


 …………。


 さらに進む。


 また遭遇。


 討伐。


 解体。


 素材回収。


 進む。


 また討伐。


 解体。


 回収。


 …………。


 ただし。


 流石に全部を持って帰るわけにはいかぬ。


 我にとって重さそのものは大した問題ではないが、皮も角も嵩張る。


 予備の素材保存袋や運搬バッグにも限りがある。


 故に。


 最初の六体以降は、状態のよい皮や角を優先して回収することにした。


 解体に失敗して大きく裂けたもの。


 戦闘で傷の入ったもの。


 そうした素材まで無理に持っていく必要はなかろう。


 …………。


 何ぞ。


 段々と、本当に仕事のようになってきたの。


 最初こそ、初めての素材だと喜んでおったのだが。


 回数を重ねるごとに、我の皮を剥ぐ手際も良くなってきた。


 最初に比べれば、切り込みを入れる場所にも迷わぬ。


 シールドクローで吊り上げる。


 皮に張りを作る。


 切る。


 剥がす。


 状態を確認。


 必要なら回収。


 ユウも同じ。


 角の根元にセイヴェリアの刃を入れる位置も分かってきたようで、切り落とす速度がさらに上がっておる。


 …………。


 訓練とは。


 こういうことなのかもしれぬな。


 繰り返して身体に覚えさせる。


 戦闘だけではない。


 倒した後も含めて、ハンターの仕事。


 そうやって進んでいるうちに――。


「む?」


 我は空を見上げた。


 いつの間にやら。


 太陽が随分と低い。


 青かった空も少しずつ赤みを帯び、雲の端が夕日に染まり始めておる。


「もう夕方か」


 我はスマートウォッチに視線を落とす。


 表示されている時刻。


「18時を過ぎておるな」


「もうそんな時間?」


「うむ」


 随分歩いたの。


 戦闘。


 解体。


 素材回収。


 そのたびに時間を使っておったから、思った以上に進めていない可能性もある。


 …………。


 少し、素材の回収に時間を掛けすぎたか?


 金になると思うと、つい欲が出てしまったの。


 我は空とスマートウォッチを交互に見る。


 …………。


 面白い。


「どうやら、この空も我らの時間経過に合わせて動いておるみたいだの」


 入った時より、太陽は明らかに低くなっておる。


 今は地平近くまで傾いているように見える。


 少なくとも、我らがここに入ってからの時間経過とは大きくずれていないようだ。


 環境型。


 本当に外の世界のようぞ。


 だが。


 感心してばかりもおれぬ。


「問題は……寝る場所よな」


 セーフスポット。


 未だに一つも見つけておらぬ。


 これは痛い。


 このまま暗くなれば、昼間より視界は悪くなる。


 草原であれば月明かりがあるかもしれぬが、それを期待するわけにもいかぬ。


 それに。


 夜になれば、昼とは違うモンスターが出てくる可能性もある。


 …………。


 そこはまだ分からぬが。


 少なくとも。


 明るいうちに野営場所を決めた方がよい。


 一応。


 セーフスポットが見つからなかった場合の野営についても、準備はしてきておる。


 マット。


 簡易毛布。


 食料。


 水。


 灯り。


 交代で見張れば、一晩くらいはどうにかできる。


 できるが――。


 できれば、やりたくない。


 モンスターが近づく可能性のある場所で眠る。


 しかも。


 ここは初めて入る環境型。


 何が起こるか分からぬ。


 セーフスポットがあるなら、そちらを使いたいよな。


「どうすべきかの……」


 我は進行方向を見る。


 遠くの森林。


 まだ少し距離がある。


 今からあそこまで進むか?


 それとも。


 明るいうちに草原の中で野営できそうな場所を探す?


 う~~む。


「マオ」


「なんぞ?」


 ユウが前方を指差しておる。


「あの木の近く」


「木?」


 草原の中。


 少し離れたところに一本だけ立っている大きな木。


 その根元。


 夕日を受け。


 何かが微かに光った。


「む?」


 我は目を凝らす。


 透明。


 僅かに色を帯びた光。


 あれは――。


「クリスタルか?」


「だよね?」


 うむ。


 見間違いではない。


 木の根元近くから、クリスタルが幾つか伸びておる。


 クリスタル。


 ダンジョンの中。


 そして。


 あの場所。


 …………。


 我とユウは顔を見合わせた。


 どうやら。


 今日は危険な場所で野営せずに済みそうだの。


「行って確認するぞ」


「うん」


 まだセーフスポットと決まったわけではない。


 だから。


 最後まで油断はせぬ。


 我はシールドクローを周囲に展開したまま、大きな木に視線を向ける。


 日が落ちきる前に。


 まずは、あそこまで行かねば。

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