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魔王と勇者 ~我、異世界転生した!~  作者: 珈琲ノミマス
第二章 ダンジョンへ行こう

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70/100

第70話 我、広さに驚く

一部設定を間違えていましたので修正しました。

 岩手山の近くにあるハンター訓練施設。


 その中にある訓練ダンジョンに足を踏み入れた瞬間――。


 我は、思わず立ち止まった。


「なんと!」


「不思議……」


 隣にいたユウも、我と同じように呆然と前を見ておる。


 無理もない。


 我らの目の前に広がっていたのは、これまでの訓練ダンジョンとは全く違う光景だった。


 草原。


 見渡す限りに緑が広がっておる。


 背の低い草が風に揺れ、その遥か先には濃い緑の塊。


 森林かの。


 左右に視線を向けても、石造りの壁など何処にもない。


 天井すら――。


 ない。


 いや。


 見えぬだけなのかもしれぬが。


 我が見上げた先にあるのは、どう見ても空。


 青い空に白い雲。


 そして――。


「太陽まであるぞ……」


「本物なのかな?」


「分からぬ」


 眩しさに目を細める。


 温かさも感じる。


 光も差しておる。


 これを偽物と言われても、我には見分けがつかぬぞ。


 入口を振り返れば、確かに我らが通ってきたダンジョンの門がある。


 その向こうは訓練施設。


 なのに、一歩こちらへ入れば、この広さ。


 …………。


 これぞ環境型。


 授業では習っていた。


 森林。


 荒野。


 砂漠。


 洞窟。


 ダンジョンの中に自然環境そのものが形成され、中には天候や昼夜まで存在する場所がある。


 知識としては知っておった。


 だが。


 実際に自分の目で見るのとでは、まるで違う。


「広いの……」


 思わず声が漏れる。


 流石――というべきなのか。


 我が元の世界で持っていたダンジョンマスターの力を思わせる光景よな。


 空間の中に、別の空間を作る。


 外の大きさなど関係なく、その内部に広大な世界を生み出す。


 …………。


 改めて見ると。


 我の元能力。


 相当おかしなことをしておったのでは?


 いや。


 今更か。


「マオ。どう進もうか?」


「む」


 ユウの声で、我は意識を探索に戻す。


「うむ。どうすべきか……」


 我は草原の先に視線を向ける。


 授業では、この環境型ダンジョンの最深部は北側にあると習っておる。


 まずは、このまま正面に数歩進む。


 そうすれば、今進んだ方向が疑似デジタルマッピングの北として設定される。


 最深部は北。


 ならば、後はマッピングに表示される北を見失わず進み続ければよい。


 うむ。


 これなら迷うこともあるまい。


 …………。


 言葉にすれば簡単よな。


 だが。


 環境型は、これまで潜った階層型とは勝手が違う。


 何より。


 広い。


 それに、この訓練ダンジョンについては、入る前に注意を受けておる。


 セーフスポットが極端に少ない。


 しかも、モンスターは多い。


 進むだけでも常に周囲に気を配らねばならぬし、休める場所を見つけられる保証もない。


 そして。


 この広さで方向を見失えば――。


 …………。


 考えたくないの。


 我は腕に着けたスマートウォッチに視線を落とす。


 一番確実なのは、これで定期的にルートを確認しながら進むこと。


 歩数。


 移動速度。


 曲がった方向。


 そうした情報を積み重ね、疑似的な地図を作ってくれる。


 GPSではない故、絶対ではない。


 長く歩けば誤差も溜まる。


 走ったり、足場を崩したり、急に方向を変えたりすれば、なおさらだ。


 それでも。


 何もないよりは遥かにまし。


 ただ――。


「バッテリーが問題よな」


「充電?」


「うむ」


 今回は事前に、モバイルバッテリーも持ってくるよう指示されておる。


 一週間近い探索を想定した予備電源。


 我らが持ち込んだ荷物の中にも、しっかり入っておる。


 しかし。


 本当に一週間近く潜ることになった場合、使い方次第では足りなくなる可能性もある。


 常に画面を点けたまま使うのは避けた方がよさそうだの。


 必要なところで確認。


 歩いた地形も、自分たちで覚える。


 目印になるものがあれば記録。


 機械だけに頼らぬ。


 以前の訓練で習ったことを思い出せば、それが一番よな。


 我は改めて前方を見る。


 広い草原。


 その先に森林。


 雲はゆっくりと流れておる。


 今は晴れている。


 だが。


 ここが本当に天候まで変化する環境型なのであれば、このままとは限らぬ。


「天候も変わるかもしれぬと思うと、この草原をただ真っ直ぐ進み続けるのは少し怖いの。見ての通り、身を隠せそうな場所もない」


「じゃあ、どうする?」


「まずはあの森林を目印に進むのがよいと思う」


 我は遠くに見える木々に視線を向ける。


「進みながらセーフスポットを探す。途中で地形やモンスターの出方も確認。その上で、改めて進むルートを決めるのがよかろう」


「う~~ん」


 ユウが草原を眺める。


 そして。


「走って真っ直ぐ突っ切るのは?」


 …………。


 おぬし。


 恐ろしいことを言うでない。


 我は思わずユウの後ろに視線を向けた。


 少し離れたところにいる千葉先生。


 …………。


 何も言っておらぬ。


 何も言っておらぬが。


 視線が鋭くなった気がするぞ。


 ユウよ。


 それを実行した瞬間、我ら二人まとめて説教される未来が見える。


「我らなら、出来るかもしれぬがの」


「でしょ?」


「だが、今はせぬ」


「何で?」


「それでは今回の訓練の意味がなくなってしまうではないか」


 我らの身体能力で、一気に駆け抜ける。


 モンスターが出れば倒す。


 障害があれば飛び越える。


 確かに。


 それだけなら簡単かもしれぬ。


 だが。


 今、我らが習わねばならぬのは、環境型の探索方法。


 地形を見て。


 ルートを考え。


 休憩場所を探し。


 食料と水。


 体力。


 装備。


 時間。


 それらを管理しながら攻略する。


 そこを全部無視して、力任せに最深部へ突っ込んだところで――。


 千葉先生に怒られるだけよな。


「そっか」


 ユウも納得したらしい。


「なら、まず進んでみて様子を見るのがいいかな」


「そうよな。まずはゆっくりと進む。途中で何度か立ち止まり、周囲と地図を確認。その都度、進むルートを決めていくのがよいと思う」


「分かった」


 結局。


 今の我らにできるのは、それくらいか。


 未知の場所で、最初から完璧な道など選べぬ。


 ならば。


 情報を集めながら進む。


 うむ。


 それでよい。


「行こうか」


「うむ。注意して行こう」


 我とユウは顔を見合わせ、歩き出す。


 その後ろから、千葉先生もついてくる。


 何も助言はない。


 恐らく、今回は我らがどう判断するのかを見るつもりなのであろう。


 ならば。


 なおさら気を抜けぬ。


 草を踏み分けながら進む。


 風が頬を撫でる。


 髪が僅かに揺れる。


 上を見れば雲が流れ、草原も風に合わせて波のように揺れておる。


 …………。


 すごいの。


 分かってはいたが。


 本当にダンジョンの中なのか?


 外を歩いていると言われても、我は信じてしまいそうだぞ。


 しかし。


 草原か。


 見通しはよい。


 その代わり――。


「身を隠す場所がないの」


 周囲を見渡しても、大きな岩すらほとんど見当たらぬ。


 何かが近づいてくればこちらからも見える。


 だが。


 同時に。


 向こうからも我らが丸見えということよな。


「マオ! モンスター!」


「む!」


 ユウの声。


 我は即座に視線を向ける。


 草原の向こう。


 大きな影が幾つか動いておる。


 一。


 二。


 三――。


「六体か」


 しかも。


 見覚えがある。


「あれは……幻獣目のミノバッファローか」


 確か、群れで行動するモンスターだったの。


 頭には、ミノタウロスを思わせる立派な角。


 その下に続くのは、バッファローのような大きく頑丈そうな身体。


 そして。


 こちらに気づいた。


 六体の頭が、ほぼ同時にこちらを向く。


 …………。


 来るな。


 地面を蹴り、こちらへ走り出す。


 草を押し倒しながら、六体の巨体が一斉に距離を詰めてくる。


 速い。


 あの身体で、あの速度か。


 まともに人が受ければ、ただでは済まぬな。


 だが――。


 我の胸には、僅かに別の感情も湧いておる。


「ユウ」


「何?」


「素材が取れるぞ」


「え?」


「革と角ぞ!」


 初めて。


 これまでの訓練ダンジョンで倒してきたモンスターには、持ち帰って金になるような素材がほとんどなかった。


 だが。


 こ奴らは違う。


 倒せば素材になる。


 我らがハンターとして初めて手にする、金になる戦利品!


「じゃあ、首を刎ねれば終わりだね」


 ユウがセイヴェリアの柄に手を掛ける。


「まあ、そうなのだがの」


 相変わらず判断が早い。


 だが。


 相手は一体ではない。


「群れで行動する上に、見ての通り速度もある。我が突進を止める故、ユウは止まった個体から一撃で仕留めよ」


「了解!」


 ユウの表情が変わる。


 先ほどまで不思議そうに景色を眺めていた少女ではない。


 セイヴェリアを扱う前衛。


 ならば。


 我も仕事ぞ。


 盾役として――。


 ここは決め時よ。


 我の周囲に浮かべていた六枚のシールドクローへ意識を向ける。


 一枚ずつ。


 別々に。


 迫ってくる六体に割り振る。


 右。


 左。


 中央。


 互いの盾が邪魔をせぬよう、高さと角度を僅かにずらす。


 そして。


 ユウが飛び込むための道も塞がぬ。


 六体。


 こちらも六枚。


 丁度よいではないか。


「我らの資金となるがよい」


 我が手を前に向ける。


 同時に。


 六枚のシールドクローが一斉に飛び出した。


 草原すれすれを滑るように進み、それぞれ別のミノバッファローの正面へ。


 迫る巨体。


 角を低く構えた頭。


 地面を削る脚。


 そして――。


 衝突。


 腕に装備しておらぬというのに、魔力を通して六枚それぞれが押される感覚が一気に伝わってくる。


 重い。


 だが。


 止められる!


 我はその重みを感じ取るまま、無意識に六枚のシールドクローを僅かに後方へ流す。


 真正面から全てを受けるのではない。


 押されながら勢いを殺し、突進の力を逃がす。


 六体。


 全て。


 止まった。


「おお!」


 流石。


 父上たちが作ってくれた盾。


 あれだけの勢いで突っ込んできたミノバッファローを、六枚とも耐え切った。


 一度止めてしまえば――。


 後は。


 ユウの時間ぞ。


「はぁーーーーっ!」


 ユウが駆ける。


 速い。


 止まったミノバッファローの横に一気に入り込み、セイヴェリアを抜き放つ。


 一閃。


 一体目の首が落ちる。


 だが、ユウの足は止まらぬ。


 そのまま次。


 さらに次。


 我がシールドクローで正面を塞いでいる間を縫うように駆け抜け、刃だけが次々と首元を通過していく。


 我も魔王を抜く。


 銃口はユウの進路から外したまま、いつでも援護できるよう構える。


 だが――。


「これは……いらぬか」


 撃つ隙がない。


 というより。


 撃つ必要がない。


 ユウが速すぎる。


「最後!」


 残る一体。


 ユウが身体を捻る。


 セイヴェリアの刃が横へ走った。


 あまりにも鮮やかな一振り。


 刃が通った軌跡だけが、そのまま目に残るよう。


 次の瞬間。


 最後のミノバッファローの首が、身体から離れて草の上に落ちた。


 …………。


 見事。


 流石、元勇者よな。


 六体。


 終了。


 だが。


 我はすぐにはシールドクローを戻さぬ。


 そのまま周囲へ広げ、草原の先を警戒する。


 こ奴らが六体だけとは限らぬ。


 ミノバッファローは群れで動く。


 他のモンスターが戦闘音に気づいて寄ってくる可能性もある。


 ユウも同じように考えておるらしい。


 セイヴェリアについた血を払いながら我の方へ戻ってくるが、その目は周囲を見ておる。


 左右。


 後方。


 森林側。


 うむ。


 油断しておらぬな。


 我も改めて気配を探る。


 …………。


 今のところ。


 他に動くものはなし。


「初めての解体作業か」


 我は倒れたミノバッファローに視線を戻す。


 六体。


 立派な角。


 そして革。


 これまでとは違う。


 倒して終わりではない。


 ここから素材を持ち帰るまでが、ハンターの仕事。


 何となく。


 ようやく本当にハンターらしいことをしておる気がしてきたぞ。


「お肉は?」


 …………。


 ユウよ。


 おぬし。


 最初に気になるのがそこか?


「食べられるかな?」


「止めておくがよい」


「何で?」


「流石に、まだ知識不足の我らでは正しい処理ができぬ」


 モンスターの肉。


 食えるもの。


 食えぬもの。


 食えるとしても、どう処理すべきか。


 その辺りを我らはまだ十分に学んでおらぬ。


 分からぬものを、食欲だけで持ち帰るのは危険ぞ。


「残念」


 ユウの肩が僅かに落ちる。


 …………。


 そんなに悲しそうな顔をするでない。


 先ほどまでサービスエリアやら焼肉やらで散々食っておったではないか。


 いや。


 それは昨日か。


 だとしても。


 食に対する執念。


 相変わらずよな。


「肉は諦めよ。今回は分かっておる素材だけぞ」


「革と角?」


「うむ」


 我は再び周囲を確認する。


 千葉先生も少し離れた場所に立ったまま、こちらを見ておる。


 手は出してこない。


 ということは。


 ここからも我らでやれということよな。


 戦闘。


 警戒。


 そして。


 素材の回収。


 初めての解体作業。


 …………。


 少し楽しみぞ。


「さて」


 我はミノバッファローの前にしゃがみ込み、その大きな角を見上げる。


「素材の回収といこうかの」

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