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魔王と勇者 ~我、異世界転生した!~  作者: 珈琲ノミマス
第二章 ダンジョンへ行こう

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第67話 我、我から謎を授かる

『我? 聞こえるかの』


「聞こえるぞ。それに今回は、もう一人にも聞こえておる」


『なぬ?』


「マオ! 何、この声!」


 ユウが驚いたまま、きょろきょろと周囲を見回しておる。


 やはり。


 聞こえておる。


 我だけではない。


 元の世界の我の声が、ユウの頭の中にも直接届いておるのだ。


『む。この声は……勇者か? なんぞ、随分と若い気がするが』


「勇者って……やっぱり私?」


「うむ。おぬしのことぞ」


 そうか。


 元の世界の我が最後に見たユウは、勇者として我の前に現れた頃の姿。


 今の15歳のユウとは、声も随分違うのであろう。


 …………。


 いや。


 今はそのようなことを考えておる場合ではないな。


 まずは整理ぞ。


 我は机の上に置いたクリスタルへ目を向ける。


 …………。


 何も起きておらぬ。


 光ってもいない。


 魔力が動いている様子もない。


 先ほどユウが魔力を注いだ時とも変わらず、ただ机の上に置かれているだけ。


 我は意識を集中し、サーチ魔法でもう一度その内部を探る。


 …………。


 うむ。


 特に変化なし。


 ならば。


 前回はクリスタルを通じて交信したと思っておったが――。


 もしかして、クリスタルそのものは関係ないのか?


『勇者よ。久しいな。そちらの我が世話になっておる』


「えっ? あっ……魔王……でいいのかな。私こそ、マオにはいつもお世話になってます」


 …………。


 何をほのぼのと挨拶しておる。


 我と我。


 そして元勇者。


 普通に考えれば、何とも奇妙な光景ぞ。


『うむ。元気そうで何よりだ。まあ、おぬしの声を聞くと少し首が寒くなるがの』


「首?」


「そこは気にするでない」


 ユウよ。


 首を傾げるな。


 おぬしには記憶がないのであろうが、我らにはあるのだ。


 首。


 首。


 首。


 ひたすら首。


 …………。


 思い出したら、本当に少し寒くなってきたぞ。


『まあよい。それより、モロイの奴が文献を調べてくれた』


「おお!」


 流石、モロイ。


 こういう調べ物に関しては、本当に頼りになる。


 細かい奴だからの。


 我が見落とすような小さな記述まで拾い上げ、一つずつ確認していく。


 書類を溜めた時の小言は鬱陶しいが、仕事ができることについては認めざるを得ぬ。


『すまぬが、今回もいつ切れるか分からぬ。時間が惜しい。一方的になるが、先に報告するぞ』


「待って。首って何? それと、この声ってマオの前世でいいの?」


「前世というより、もう一人の我かの」


 我は元の世界に生きていた本人。


 そして向こうに残った我は、魂の複製によって生まれた存在。


 だが、元となった魂も記憶も同じ。


 どちらも我。


 だから、「前世」と呼ぶには少し違う気がするのよな。


『我、もう話してよいかの?』


 …………。


 すまぬ、我。


「よいぞ」


「なんか変な感じ……私、魔王と話してるんだよね」


 ユウ。


 それを言うなら、我も元の世界の我と話しておるのだから十分に変な状況ぞ。


 だが、今は静かに聞くのだ。


『まず、召喚魔法、送還魔法、それと魂の複製について。モロイと共に文献を漁ってみた』


 我は椅子から立ち上がり、ユウのいるベッドまで移動する。


 そして、その縁に腰を下ろした。


 自然と背筋が伸びる。


 こちらこそ、ずっと知りたかったこと。


 何故、我まで送還魔法に巻き込まれたのか。


 何故、我は消えずにこの世界へ転生したのか。


 何故、ユウに勇者だった頃の力や感覚が残っておるのか。


 そして。


 我が失ったダンジョンマスターの力。


 知りたいことは山ほどある。


『だが――残念ながら、召喚魔法と送還魔法については、今我らが知っておる以上のことは分からなんだ』


「そうか……」


「残念」


 我の肩から、僅かに力が抜ける。


 やはり。


 そう簡単にはいかぬか。


 禁忌魔法。


 しかも、世界を越えるほどの術式ぞ。


 そう都合よく詳しい記録が残っているはずもないか。


『魂の複製についても同じよ。あれ自体、使える者がほとんどおらぬからの。参考になる記録が少なすぎる』


「うむ……」


 そこも駄目か。


 だが。


『しかし、一つだけ面白いものを見つけた』


 む?


 我は思わず顔を上げた。


「なんぞ?」


『新たな魔法ぞ』


「新しい魔法?」


 ユウも興味を引かれたのか、ベッドから身を乗り出しておる。


『正確には、昔から存在していたらしいが、我らが知らなかっただけだの』


 なるほど。


 我とて全ての魔法を知っておるわけではない。


 珍しい術式や、使い道が限られた魔法であれば、知らぬものがあっても不思議ではない。


「それが、もしかして今のこれか?」


『恐らくな』


 おお!


 やはりそうなのか。


『文献によれば、同じ魂を持つ者同士が共振し、離れた場所にいても思念を直接やり取りできる魔法が存在するらしい』


 思念を直接。


 離れた場所にいる、同じ魂を持つ者同士。


 我と元の世界の我。


 少なくとも、そこまでは当てはまる。


『ただ、文献そのものがかなり古くての。欠けておる部分も多い。モロイが今も解読を続けておるが、詳しい発動条件や、どこまで離れていても届くのかまでは分かっておらぬ』


「なら、異なる世界でも使えるのかは?」


『それも分からぬ。今こうして繋がっておる以上、可能性はあると思うがの』


 なるほど。


 つまり。


 我らが今使っておるものと、文献に残された魔法が同じものなのか。


 そこからして、まだ完全に確定したわけではないということか。


『正式な名前も読み取れなんだ。故に、我はこれを――魂通話と名付けることにした』


 …………。


 我よ。


 そこは解読を待たずに勝手に名付けおったな。


 まあ。


 分かりやすいからよいか。


「魂通話……」


 ユウが小さく呟く。


 そして、すぐに眉を寄せた。


「でも、それなら何で私にも声が聞こえるの?」


 …………。


 そう。


 そこよ。


『うむ。我もそれが分からぬ』


「おぬしにも分からぬのか?」


『分からぬ。解読できた範囲だけを見るのであれば、同じ魂というものが重要らしい。だが、それなら何故、勇者にまで我の声が届いておるのか。その理由が分からぬ』


 我は思わずユウを見る。


 ユウも我を見ておる。


 同じ疑問。


 だが。


 今はそこに時間を使っておる場合ではない。


「その話は後ぞ。魂通話の条件はなんぞ?」


『まだ全ては分からぬ。だが、一つだけではないようだ。幾つかの条件が同時に重ならねば、繋がらぬらしい』


「おお」


 一歩前進ぞ。


 前回は、何故繋がったのかすら皆目分からなかった。


 それが今回は、少なくとも今回の交信によく似た魔法が文献に残されていることが分かった。


 しかも、その魔法には複数の発動条件があるらしい。


「分かっておる条件は?」


『まず一つ』


 元の世界の我の声が、僅かに強くなる。


『魂が同じであること』


 …………。


 我と元の世界の我。


 そこは分かる。


 魂の複製。


 元となった魂は我。


 もし今の交信が魂通話と同じものなのであれば、我らの間で繋がったことにも筋は通る。


 だが――。


 我はゆっくりとユウを見る。


「ならば……」


「マオ?」


「やはり、ユウの魂にも我の魂が何らかの影響を与えておる可能性があるのか」


 以前。


 海辺で千葉先生と話した時にも、一つの可能性として考えた。


 異常な送還。


 我まで巻き込まれたこと。


 ユウに勇者だった頃の力が残っていること。


 そして、失われるはずだった記憶が、夢や身体の感覚として僅かに残っていること。


 もしかすると、あの時。


 我の魂の一部がユウに何らかの影響を与えたのではないか。


 そう考えた。


 だが。


 あくまで推測だった。


 根拠などなかった。


 しかし今。


 同じ魂が重要だという魔法を通して、ユウにも元の世界の我の声が届いておる。


 ならば――。


 以前考えた可能性は、少し高くなったのかもしれぬ。


 我と同じ魂に由来する何かが、ユウにも存在しておるのかもしれない。


 少なくとも、今までよりはそう考える理由が増えた。


「そうなんだ」


 ユウが自分の胸元に手を置く。


 …………。


 何故ぞ。


 まだ可能性の話だというのに。


 何故、そんなに嬉しそうなのだ?


 口元、少し緩んでおるぞ。


「ユウよ。何故嬉しそうなのだ?」


「別に?」


 嘘をつけ。


 明らかに嬉しそうではないか。


『それで、二つ目だが――』


 おお。


 そうだった。


 今は、その可能性に驚いておる場合ではない。


 魂通話の条件。


 そちらも聞かねば。


「うむ。続けてくれ」


『二つ目は――――タルが――――になった瞬間に――――』


「む?」


 急に声が遠くなった。


 いや。


 遠いというより、途切れておる。


『――――短い――――だけ――――』


「我?」


 返事はない。


 雑音すら聞こえぬ。


 ただ、言葉の一部だけが不規則に頭の中へ届いてくる。


「魔王?」


 ユウも不安そうに周囲を見る。


『じか――――――』


「聞こえぬぞ! もう一度言ってくれ!」


『――――すま――――――』


 駄目だ。


 またか!


 前回もそうだった。


 肝心なところで声が途切れ始めた。


『――――数年――――』


「数年!?」


 待て!


 今、数年と言ったか?


「我! 数年が何ぞ!? もう一度言ってくれ!」


『――――――』


「我!」


 返事はない。


「おーい。魔王?」


 ユウも呼び掛ける。


 だが。


 それきり。


 頭の中は静かになった。


 先ほどまで確かに聞こえていた元の世界の我の声。


 その気配すら感じられぬ。


 …………。


 切れおった。


「…………」


「…………」


 我とユウは、しばらく顔を見合わせる。


 何故。


 何故、毎回。


 一番重要なところで切れる?


 条件の二つ目。


 聞こえなんだ。


 何かの「タル」がどうにかなった瞬間。


 そして、短い何か。


 最後には「数年」。


 …………。


 分からぬ!


 情報が虫食いすぎるわ!


「なんぞ、よく分からなかったの」


「しかも最後、『数年』って言ってたよね」


「うむ」


 ユウが少し考え込む。


「数年って、何のことだろうね」


「分からぬ」


 数年後。


 数年間。


 あるいは、何かに数年かかるという話だったのか。


 そもそも、魂通話について話していたのかすら分からぬ。


 前後が聞こえなんだからの。


 …………。


 情報が足りぬ。


「肝心なことが全く分からぬのは、前回と同じよ」


「でも、一つ分かったじゃん」


「む?」


「私にも、マオの魂が混ざってるかもしれないってこと」


 …………。


 また嬉しそうな顔をしおって。


「まだ可能性の話ぞ?」


「それでも、私には結構重要だけど?」


「何故ぞ?」


「何となく」


 何となくでその顔をするでない。


 …………。


 まあ。


 よい。


 確かに。


 今回の交信で何も分からなかったわけではない。


 我らが魂通話と名付けたものに似た魔法が、文献に残されていること。


 その魔法には、複数の発動条件が必要らしいこと。


 そして、その一つには同じ魂が関係しているらしいこと。


 さらに。


 ユウの魂にも、我と同じ魂に由来する何かが存在しておる可能性が出てきた。


 これは大きな前進ぞ。


 だが。


 それ以上は分からぬ。


 魂通話が何故今になって繋がったのか。


 クリスタルが関係しているのか。


 前回は眠っていたユウには聞こえず、今回は何故聞こえたのか。


 次にいつ繋がるのか。


 …………。


 また謎が増えたではないか。


 我、思案。


 さて。


 どうすべきかの。


「まあ、分からないなら、これ以上考えても仕方ないよ」


 ユウがあっさりと言う。


「いや、しかしの」


「考えて答えが出る?」


「…………」


 出ぬ。


 悔しいが。


 今ここで我一人が考え続けたところで、新しい情報など増えぬ。


 前回のように、クリスタルへサーチ魔法をかけ続けても、交信が再開する保証もない。


「それよりマオ」


「なんぞ?」


 ユウがにっこりと笑い、机を指差した。


「報告書」


 …………。


 我はゆっくりと振り返る。


 パソコン。


 画面。


 途中の報告書。


 …………。


 忘れておった。


「今、一番重要なのはそっちでしょ」


 …………。


 そうであるな。


 魂通話。


 元の世界の我。


 我とユウの魂。


 二世界を繋ぐ条件。


 どれも非常に重要。


 重大な謎。


 だが。


 今の我にとって、それより差し迫った問題が一つある。


 提出期限。


 …………。


 そう。


 今、一番重要なのは新しく判明した魂通話ではない。


 元の世界の我でもない。


 締め切りの迫った――。


 報告書が先よな。


「…………やるか」


「頑張って」


 くっ。


 何故、魔王たる我が異世界の謎より報告書に追われておるのだ。


 …………。


 いや。


 我が後回しにしたからか。


 我は重い腰を上げると、再び机に向かった。

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