↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王と勇者 ~我、異世界転生した!~  作者: 珈琲ノミマス
第二章 ダンジョンへ行こう

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
65/100

第65話 我、目標に近づく

「全く、変なダンジョンよ」


「ホント。地味に精神的に疲れたよ」


「うるさい。ダンジョン自体は日帰りで終わっただけでもありがたいと思え」


 むう。


 千葉先生よ。


 確かに、今回は一日で攻略を終えられた。


 鳥取まで行った前回に比べれば移動も楽だったし、ダンジョン内で一泊する必要もなかった。


 だが。


 疲れというものには、肉体的なものと精神的なものがあるのだぞ。


 我らは今、富士樹海の訓練施設から戻り、河口湖近くのホテルで夕食を取っておる。


 窓の外はすっかり暗くなっており、昼間に潜っていたダンジョンの木造通路とはまるで違う、落ち着いた明かりに満ちている。


 目の前には温かい料理。


 湯気。


 よい香り。


 そして。


 我の前にはサラダに肉と魚。


 うむ。


 旨いの。


 これよ。


 我が求めておったのは、こういう平穏ぞ。


 水を頭から浴びせられることもない。


 板で脛を叩かれることもない。


 カエルが勝手に罠を踏むこともない。


 何より、目の前の料理が突然ひっくり返るような仕掛けもない。


 …………。


 ないよな?


 我、少し警戒。


「あと二つだ」


 む?


 千葉先生が料理を口に運びながら、何気なく呟く。


「む。何がだ?」


「今のお前たちなら、あと二つ。残る訓練ダンジョンを攻略すれば、本免許の試験に挑める」


 …………。


 おお!


「そうなのか!」


「ああ」


 我、嬉しい!


 ついに本免許。


 仮免を取った時にも嬉しかったが、あれはあくまで仮。


 訓練や指導者の同行を前提に、ようやく本格的なダンジョンに入るための一歩を踏み出しただけ。


 だが、本免許となれば話は違う。


 正式なハンター。


 我がずっと目指してきたものが、いよいよ手の届くところまで来ておるということか。


「でも、こんなに早くていいんですか?」


 ユウが少し意外そうに尋ねる。


 む。


 確かに。


 言われてみれば、我も気になるの。


「白崎。お前たちは別格だ」


 千葉先生は箸を置き、我とユウを順番に見る。


「普通は何回も鳥取の訓練ダンジョンに挑んで、次の訓練へ進めるだけの経験を積む。歩き方、休み方、罠の見方、モンスターへの対処、装備の管理。そういうものを実地で身につけていくんだ」


「何回も?」


「ああ。一回入って、すぐ次へ進める方が珍しい」


 ほう。


「早い奴でも一年くらい。時間がかかる奴なら、学校を卒業するまで訓練を重ねて、ようやく必要なところまで届く。それが普通だ」


「そんなにかかるんだ……」


 ユウが目を丸くしておる。


 我も少し驚いた。


 前回の鳥取。


 我らにとっては初めての実地訓練。


 確かに失敗は多かった。


 時間感覚を失い。


 連携でぶつかり。


 休憩や見張りでも注意され。


 我に至っては、セーフスポットで別のことまでして怒られた。


 …………。


 うむ。


 思い返すと色々やらかしておるな。


 だが。


「お前たちは、それを一回で攻略した」


 千葉先生が続ける。


「しかも、今回もだ。途中で罠に振り回されてはいたが、探索そのものは問題ない。見つけた罠は記録してたし、帰路を考えてマーキングもしてた。戦闘でも前回の反省を生かしてた」


 …………。


 おお。


 褒められておる。


「なるほどの」


 要するに。


 一般の仮免ハンターや学生は、訓練ダンジョンに何度も入り、そこで経験を積む。


 罠。


 地形。


 モンスター。


 休憩。


 食料。


 装備。


 戦闘。


 そして撤退の判断。


 学校で習った知識を、頭で知っているだけではなく、身体に染み込ませていく。


 それが標準。


 ならば――。


 我らは、まあ。


 チート状態よな。


 我、魔王。


 ユウ、元勇者。


 今は二人とも人間の少女ではある。


 それでも、我らの身体能力は人並みを大きく上回っておる。


 さらに我には、魔王だった頃の知識と経験がある。


 ユウも記憶こそほとんど残っておらぬが、勇者だった頃の動きが身体に染みついている。


 剣を握らせれば、初めてとは思えぬ動きをする。


 危険が迫れば、考えるより先に身体が反応することもある。


 つまり。


 他の者が一から身につけていくものを、我らはいくつか最初から持っておる。


 スタート地点そのものが違うということか。


 …………。


 おお。


 これ。


 漫画でよくあるやつではないか?


 周囲が何年もかけて覚えることを、主人公だけ異常な速さで突破していく。


 我ら、今まさにそれ。


 我、少し興奮。


「まあ、足りないと感じるなら、何回でも訓練ダンジョンには入ればいい」


「入ってもよいのか?」


「当たり前だ。試験を受ける条件を満たした後だって、訓練しちゃ駄目になるわけじゃない」


 それはそうか。


「ただし、今のお前たちが同じ場所に何度も入っても、大した経験にはならんだろうな」


「何故だ?」


「もう構造を知ってるだろ」


 …………。


 ああ。


 確かに。


「何処に何がいるか。どういう罠があるか。どう進めばいいか。一度攻略して覚えちまえば、次からは初見じゃない。それに、お前らとモンスターの力の差も大きい」


「そうであるか」


「訓練ってのは、ただ数をこなせばいいってもんでもないからな」


 なるほどの。


 確かに、同じ場所を何度も歩けば慣れはする。


 だが。


 未知の場所で何が起きるか分からぬ状態で判断することとは、また違う。


 そう考えると、残る二つの訓練ダンジョンが少し楽しみになってきたぞ。


 次はどのような場所なのだろうな。


 …………。


 できれば、悪戯系はもういらぬ。


「マオ、魚食べて」


「む?」


 考え事をしていた我の前へ、ユウが自分の皿を差し出してくる。


「代わりに肉もらうね」


「……よいが」


 我は差し出された魚と、我の皿から当然のように持っていかれる肉を見る。


「おぬし、もう魚は食えるであろう」


「食べられるよ。まだ少し苦手だけど」


「なら何故、我に渡す?」


「肉は正義」


 …………。


 何ぞ、その理屈。


 中学に入った頃は、弁当の魚を見ただけであれほど嫌がっておったというのに。


 三年間で随分と慣れたものよな。


 今では普通に食えるし、美味いとも分かっておる。


 ただ、自分から進んで選ぶほど好きになったわけではないらしい。


 だからといって、我の肉を勝手に奪ってよい理由にはならぬがな。


 …………。


 まあ。


 ユウだしの。


 それに我、魚は好き。


 ならばよいか。


 我はユウから渡された魚を口へ運ぶ。


 うむ。


 こちらも旨い。


「白崎。少しはマナーを覚えろ」


 千葉先生が呆れたようにユウを見る。


「マナー、いります?」


 いるであろう。


 我でも分かるぞ。


「いる」


 千葉先生も即答。


「ハンターってのは、一応自由業ではある。協会を通して依頼を受けて、自分でダンジョンを選んで潜る奴も多い」


 うむ。


 我が想像しておったハンターも、それに近い。


 ダンジョンで回収したクリスタルや素材を卸す。


 依頼を受けてダンジョンに入り、求められた仕事をこなす。


 そうして、素材の代金や依頼の報酬を得る。


 ある程度、自分で働き方を決められる職業。


「ただ、今はそれだけじゃない」


 む?


「働く場所によって、ハンターの立場もかなり変わってきてる」


 働く場所?


 それはどういうことぞ?


 我は箸を止め、千葉先生を見る。


「お前たちはまだ年齢的に本格的なスカウトは来ないだろうが、今じゃ企業に所属するハンターも珍しくない」


「企業に?」


「ああ。例えば、ダンジョン素材を扱う会社が、自社で必要な素材を安定して確保するために専属ハンターを雇う」


 なるほど。


 欲しい素材があるたび、外部のハンターへ依頼する。


 それでもよい。


 だが、継続的に必要となるのであれば、自分たちでハンターを抱えてしまった方が都合がよい場合もあるということか。


「他にも大学や研究機関だな。研究に必要なクリスタルやモンスター素材を集めるため、専属でハンターを雇ったり、調査に同行してもらったりする」


「ほう」


 面白いの。


 我が思っていたより、ハンターという職業も随分と幅が広いようだ。


 ただダンジョンに潜り、素材を持ち帰るだけではない。


 企業。


 研究。


 教育。


 所属する場所や受ける仕事によって、求められるものも変わる。


「だからマナーも必要なんだよ。仕事相手がいつもハンターとは限らない。企業の人間や研究者と食事することだってある」


「なるほど……」


 ユウよ。


 何故、そこで少し残念そうな顔をする。


 食事の仕方くらい覚えればよかろう。


「かくいう俺にも、スカウトが来てる」


「おお」


「凄い! 何処からですか?」


 ユウがすぐに食いついた。


 千葉先生は何とも言えぬ顔で、そんなユウを見る。


「お前の母親だよ」


「ママ?」


「ダンソウアーマーの白崎さんから持ち掛けられてる。お前たちが独り立ちしたら、うちに来てほしいってな」


「ママが!」


「流石よ」


 我、感嘆。


 流石、愛殿。


 相変わらず抜け目がない。


 三年間、我が子の担任を務めた人物。


 現役のS1級ハンター。


 しかも、ダンジョン科で我らを鍛えてきた指導者。


 実戦経験も豊富。


 装備についても詳しい。


 さらにダンソウアーマーとは、千葉先生の装備を通して以前から接点がある。


 そんな人物との縁を、さらに太くしようとしておるわけか。


 うむ。


 実に愛殿らしい。


 以前、我にラッシュガードを渡した時もそうだった。


 さりげなく母上との仕事に繋げようとしておったからな。


 隙あらば商機。


 使える縁は太くする。


 流石よ。


 …………。


 もしや。


 そのうち、成長した我とユウにも声を掛けてくるのではなかろうか。


 何せ、今の装備もダンソウアーマー製。


 実際に使っておる我らが、そのまま専属ハンターにでもなれば――。


 …………。


 あり得る。


 非常にあり得るぞ。


 愛殿ならば、もう考えていても不思議ではない。


「まあ、俺も昔より知名度が上がったからな」


「知名度?」


「これも細崎先生の最新作のおかげだ」


 ああ。


 なるほど。


「そういえば、インタビューを受けておったの」


「単行本の巻末にも、先生のサイン付きコメントが載ってたよね」


「あれな……」


 千葉先生が僅かに視線を逸らした。


 我の母上。


 天神由紀。


 漫画家として使っておる名は、細崎由紀。


 その母上が新たに描き始めた作品。


『ハンターソウルズ』


 仲間を失い、一人でダンジョンへ潜り続けていた孤高のハンター。


 そんな主人公が様々な出会いを重ね、気づけば再び多くの仲間に囲まれながら前へ進んでいく。


 王道。


 実に王道。


 だが、それがよい。


 我も読んでおるが、なかなか面白いぞ。


 何より、ダンジョン内部の描写が妙に細かい。


 歩き方。


 周囲の警戒。


 モンスターとの距離。


 武器を抜くタイミング。


 負傷した時の判断。


 装備の扱い。


 そうした部分が、普通の漫画とは少し違う。


 理由は簡単。


 目の前におる、この御仁。


 千葉先生が監修しておるからだ。


 そして。


 主人公。


 …………。


 どう見ても、少し千葉先生に似ておるよな。


 本人は否定するかもしれぬが。


「おかげで、たまに街でも声を掛けられるようになった」


「おお。人気者ではないか」


「勘弁してくれ。仕事帰りに『ハンターソウルズの千葉さんですよね』って言われた時はどうしようかと思ったぞ」


 そう言いながら、千葉先生は小さく息を吐く。


 迷惑そう。


 実に迷惑そうな言い方。


 だが。


 …………。


 千葉先生よ。


 その顔。


 満更でもないのではないか?


 口元が僅かに緩んでおるぞ。


 我、見逃さぬ。


「重版もかかったと母上が言っておったの。これも先生のおかげよ」


「俺じゃないさ」


 千葉先生は首を横に振る。


「俺がやってるのは、変なところがないか確認してるくらいだ。話を作って、キャラクターを動かして、読ませる漫画にしてるのは細崎先生だろ」


「それでも、先生が監修しておるからこそ、あれだけ実戦に近い描写ができるのではないか?」


「それを漫画として面白く見せられるのが凄いんだよ」


 ふむ。


 そこは譲らぬか。


 千葉先生。


 母上のファンだからの。


 だが。


 まあ。


 我も同意ぞ。


 実際にハンターとして経験した千葉先生の知識。


 それを受け取り、漫画として誰でも楽しめる形にする母上。


 どちらか片方だけでは、今の『ハンターソウルズ』にはならなかったのであろう。


「まあ、そうでもあるの」


 何せ。


 我、自慢の母上だからの。


 …………。


 うむ。


 魚も旨い。


 母上の漫画も好調。


 本免許の試験に挑めるまで、あと二つ。


 今日は悪戯ダンジョンで散々な目に遭ったが――。


 終わってみれば。


 なかなか良い一日ではないか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。