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魔王と勇者 ~我、異世界転生した!~  作者: 珈琲ノミマス
第二章 ダンジョンへ行こう

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第64話 我、懐かしき技を放つ

 髪もある程度乾いたところで、我とユウは携帯食を少し腹に入れ、水分も取った。


 装備も確認。


 濡れていた箇所も問題なし。


 うむ。


 これ以上ここで休んでおる必要はないな。


「そろそろ行くぞ」


「うん」


 小休憩を終え、我らが向かうのは最深部。


 ここまで散々、悪戯のような罠に翻弄されてきた。


 水を浴びせられた。


 脛も叩かれた。


 見つけて避けた罠まで、ジャイアントガエルが勝手に起動させおった。


 …………。


 思い出すだけで腹が立つの。


 だが、それもここまで。


 最深部を攻略すれば終わりぞ。


 我らは木造の通路を進み、その突き当たりにある大きな扉の前で足を止めた。


 前回と同じ。


 いきなり開けるような真似はせぬ。


 我は扉に手を掛け、音を立てぬよう僅かに押す。


 ほんの少しだけできた隙間。


 そこから片目を覗かせ、内部を確認する。


 すると。


 我のすぐ下から、ユウも同じように顔を覗かせてきおった。


 …………。


 近いの。


 まあよい。


「カエルか」


「うん。ジャイアントガエルの群れ。しかも、オタマジャクシもいる」


 うむ。


 見えておる。


 広めの部屋の中に、これまで何度も相手にしてきたジャイアントガエルが何体もおる。


 その周囲には、さらに小さなオタマジャクシまで。


 小さいといっても、普通のオタマジャクシと比べれば十分に大きいがの。


 数は多い。


 だが。


「数だけなら押し切れようが……」


「罠、だね」


「うむ」


 やはり、ユウも同じことを考えたか。


 我は扉の隙間から、床。


 壁。


 天井。


 順番に視線を動かしていく。


 床板に不自然な段差はないか。


 壁に妙な切れ目はないか。


 天井に開閉しそうな箇所はないか。


 …………。


 見た限りでは、ない。


 ないようには見える。


 だが。


 我、もう騙されぬぞ。


 ここまで来る途中、何度「大丈夫そうだ」と思った後に酷い目に遭ったことか。


「挑む?」


 ユウが小さな声で尋ねてくる。


「うむ。周囲に注意しつつ、殲滅よ」


「了解」


 我らは一度だけ顔を見合わせ、頷いた。


 では。


 行くぞ。


 我は扉を一気に開く。


 その瞬間。


 ユウが床を蹴った。


 迷いなく最深部の中に飛び込み、腰のセイヴェリアを抜き放つ。


 速いの。


 だが、今回は我も遅れぬ。


 六枚のシールドクローを展開。


 そのうち二枚をユウの左右に配置し、残る四枚を我の周囲に展開する。


 前回の反省も生かしておる。


 ユウの視界を塞がぬ。


 剣筋にも入れぬ。


 それでいて、何かあればすぐに割って入れる位置。


 うむ。


 これでよし。


 では――。


 我も戦闘開始ぞ。


 ジャイアントガエルたちが一斉にこちらを向く。


 その直後。


 長い舌が伸びてきおった。


 一本。


 二本。


 いや。


 まだ来るな。


 我の身体を絡め取り、そのまま口元まで引き寄せるつもりか。


 だが。


「同じ手を何度も食らうと思うでない」


 四枚のシールドクローを一斉に動かす。


 左右。


 正面。


 僅かに上。


 伸びてきた舌を、それぞれのクローで挟み込んだ。


 次々と捕らえる。


 これまでなら、そのまま切断しておった。


 だが――。


 今回は切らぬ。


 我、少し考えたのだ。


 こ奴ら。


 舌を切り落としても動き回る。


 ならば。


「動けなくすればよいのだ」


 ふっ。


 我、名案。


 四枚のシールドクローを動かし、挟んだ舌を交差させる。


 こっちをこちらに。


 こちらを向こうに。


 さらに別の一本を潜らせ……。


 解けぬよう、きつく絡ませる。


 ジャイアントガエルたちが慌てたように舌を引こうとするが、もう遅い。


 互いの舌が絡み合い、引けば引くほど締まっていく。


「ふふふ」


 我。


 今、少し悪い顔をしておる気がする。


 だが、仕方あるまい。


 敵ぞ。


 それに、先ほどまで散々我らを罠に巻き込んできたカエルども。


 少しくらい意趣返ししても罰は当たるまい。


 その間にも、別のジャイアントガエルがこちらに迫ってくる。


 周囲のオタマジャクシまで我に狙いを定めたようだな。


 ならば。


 左胸のショルダーホルスターに手を伸ばす。


 我専用のリボルバー。


 魔王。


 重い銃身を抜き、狙いを定める。


 引き金を絞る。


 発砲。


 接近してきたジャイアントガエルの頭に弾丸が食い込み、その身体が大きく崩れた。


 次。


 今度はオタマジャクシ。


 照準。


 発砲。


 さらに、その後ろ。


 一体ずつ。


 確実に。


 近づいてくるものから撃ち抜いていく。


「今回は魔王の出番が多いの」


 前回は、持ってきておきながら使うことすら忘れておったからな。


 その反省もある。


 使うべき時には使う。


 近づいて斬る必要がない相手に、わざわざ接近する理由もない。


 装填していた弾を撃ち切ったところで、シリンダーを開く。


 空薬莢を排出。


 腰の専用ポーチからスピードローダーを取り出し、そのまま新しい弾を一気に装填する。


 空になったスピードローダーは、邪魔にならぬよう専用ポーチの空いた側に戻す。


 シリンダーを閉じる。


 うむ。


 準備完了。


 再び銃口を敵に向ける。


 以前に比べれば、随分と慣れたものよな。


 さて。


 我が舌を結んでやったカエルどもは――。


 ふっ。


 見事。


 実に見事ぞ。


 互いに逆方向へ動こうとしては舌を引っ張り合い、一体が跳べば別の一体が体勢を崩す。


 進もうとしても他の個体が邪魔になる。


 先ほどまでの勢いはどこへやら。


 動きが目に見えて悪くなっておる。


 これなら――。


「せっ!」


 短い声。


 次の瞬間。


 ユウのセイヴェリアが横一文字に走った。


 一体。


 そのまま踏み込み。


 もう一閃。


 二体目。


 舌が絡まり、満足に動けぬジャイアントガエルには避ける術もない。


 ユウは止まらぬ。


 左右に配置した我のシールドクローの間を抜け、剣を振るう。


 また一体。


 さらに一体。


 我が舌を絡ませたジャイアントガエルは、瞬く間にすべて討伐された。


 うむ。


 良い連携ではないか。


 我が動きを止め。


 ユウが斬る。


 前回よりも随分と噛み合っておる。


 残る敵は――。


 少し。


 そして。


 …………。


 罠は?


 我はもう一度、周囲を確認する。


 床。


 壁。


 天井。


 戦闘中に何かが動いた様子もない。


 敵も罠に引っ掛かっておらぬ。


 今のところ、本当にないようだな。


 ならば。


 遠慮はいらぬ。


 我は魔王をホルスターに戻し、左右のシールドクローを一枚ずつ両腕に重ねる。


 固定具など使わぬ。


 魔力で腕に沿わせれば、それだけで我の身体の一部のように動く。


「残りは我も近接で行くぞ」


「うん!」


 迫ってきた一体。


 右腕を突き出す。


 シールドクローの爪を開き、ジャイアントガエルの身体を左右から捉える。


 そのまま爪を閉じれば、鋭い先端が身体に食い込んだ。


 さらに左。


 いつの間にか足元まで迫っていたオタマジャクシを、クローの先端で突き刺して払い落とす。


 右。


 左。


 両腕の動きにシールドクローが追従する。


 やはりよい。


 盾。


 爪。


 打撃。


 刺突。


 一つで何役もこなせる。


 我の考えた武器ではないが、今では随分と手に馴染んだものだの。


「マオ!」


「うむ!」


 ユウの声。


 その近くに、ジャイアントガエルが一体。


 セイヴェリアが横一文字に走り、その身体を斬り飛ばす。


 だが、それで終わりではない。


 奥に、一体。


 最後のジャイアントガエル。


 …………。


 ふむ。


 ちょうどよい。


 今なら。


 我のシールド技の一つを試せそうではないか。


 この世界では、まだ一度も使っておらぬ。


 だが。


 昔はよく使ったものよ。


 我は両腕からシールドクローを外し、二枚を正面に浮かせる。


「マオ?」


「ユウ。少し離れておれ」


「え? うん」


 ユウが素直に距離を取る。


 我は二枚のシールドクローをぴたりと寄せ、前方に向けた。


 そして、それぞれのクローを展開。


 前へ。


 さらに前へ。


 二枚の盾。


 伸びた爪。


 それらを一つの塊として魔力で固定する。


 …………。


 懐かしい感覚が、ほんの一瞬だけ蘇る。


 これで何度、攻め込んできた敵の陣地や障害物を破壊したことか。


 我が初めてこれを見せた時など――。


『素晴らしい技でございます。その技をもってすれば、トンネルも容易に掘れますな。さっそく企画を立てましょう』


 …………。


 我。


 あの時は冗談だと思っておった。


 まさか、本当にトンネルを掘らされるとは思わなかったの。


 途中から兵士たちまで集まってきて、


『魔王様! もう少し右です!』


『そこです! その岩をお願いします!』


 などと言われ。


 気づけば我、掘削作業員。


 …………。


 魔王とは何なのだろうな。


 ――っと。


 今は昔を懐かしんでおる場合ではない。


 目の前のジャイアントガエルが、大きく口を開けた。


 ちょうどよい。


 我は二枚のシールドクローに流す魔力を増やした。


 回転。


 ゆっくりと。


 そして――。


 さらに速く。


 二枚のシールドクローが互いの位置を崩さぬまま高速で回転し、伸ばしたクローが前方を抉るように旋回する。


 うむ。


 できる。


 昔の我が使っていた技を、今の武器でも再現できるぞ。


「ドリルクロー!」


 我の声と共に、二枚のシールドクローが一気に飛び出した。


 高速回転したクローが、口を開けたジャイアントガエルの真正面から飛び込む。


 そのまま口内に。


 止まらぬ。


 回転しながら内部を一気に穿ち、その巨体を突き抜ける。


 二枚のシールドクローは背後へ抜けると、弧を描いて我の元に戻ってきた。


 …………。


 うむ。


 成功。


 ジャイアントガエルの巨体が、その場に崩れ落ちる。


「凄い、マオ!」


「ふっ」


 ユウよ。


 そう驚くでない。


「我の必殺技よ」


 なんせ我、魔王。


 この程度は朝飯前よな。


 …………。


 まあ。


 今の身体とシールドクローで再現できるか、少し不安ではあったが。


 そこは言わぬ。


 我は戻ってきた二枚を再び周囲に浮かせ、最深部全体を見回す。


 敵は?


 …………。


 おらぬ。


 倒れたジャイアントガエル。


 オタマジャクシ。


 どれも動いておらぬな。


 ならば、討伐完了。


 罠も――。


 発動しておらぬ。


 …………。


 よし。


 今度こそ何もない。


 そう思ったところで。


 部屋の奥。


 壁際に、妙なものが見えた。


 なんぞ、あれは?


 我は目を細める。


 壁から突き出している、小さな丸いもの。


 見た目は――。


 ボタン?


「上出来だ」


 後ろから千葉先生の声。


 振り返ると、千葉先生は扉の向こうに立ったまま我らを見ておる。


「最後に、あれを押せ」


 …………。


 押す?


 あれを?


 どう見てもボタンだよな?


 それも。


 このダンジョンの最深部。


 これまで散々、悪戯のような罠に遭わされ。


 その最後に。


 あからさまに押してくださいと言わんばかりのボタン。


 …………。


「ユウ。押してよいぞ」


「え~~。マオが押しなよ」


「我はユウに譲っておるのだ」


「私もマオに譲る」


 …………。


 うぬ。


 誰も押したくないの。


 当然よな。


 あれを見て素直に押せる者がおるなら、我は少し尊敬するぞ。


 いや。


 待て。


 手はある。


「ユウ。一度外に出るぞ」


「え?」


「よいから来い」


「う、うん」


 我とユウは、そそくさと最深部の外まで戻る。


 扉は開けたまま。


 その横にある壁へ、二人そろって身を隠す。


 千葉先生は何も言わず、そんな我らを見ておる。


 よし。


 扉の真正面からも外れた。


 ここなら、何か飛んできても多少はましであろう。


「マオ。どうするの?」


「ふっ。我が直接押す必要などあるまい」


 我は一枚のシールドクローを部屋の中へ進ませる。


 扉脇からそっと顔を覗かせ、ボタンの位置を確認。


 ゆっくり。


 慎重に。


 シールドクローを近づける。


 そして――。


「押すぞ」


「うん」


 クローの先端ではなく、盾の表面をボタンに当てる。


 軽く押し込む。


 かちり。


 …………。


 何か、動いた。


 我とユウは同時に身構える。


 来るか?


 水か?


 板か?


 それとも、まだ我らが知らぬ悪戯か?


 …………。


 天井が開いた。


「むっ!」


 我は咄嗟にシールドクローを戻そうとして――。


 止まる。


 上から降ってきたもの。


 水ではない。


 何かが、ひらひらと宙を舞っておる。


 赤。


 白。


 黄色。


 色とりどりの花弁。


 それが最深部いっぱいに降り注いでいく。


「…………」


「…………」


 我とユウ。


 沈黙。


 何ぞ、これ。


「おめでとうってことだな」


 千葉先生が後ろから、何とも言えぬ声で呟いた。


 …………。


 おめでとう。


 …………。


 そうか。


 最深部攻略、おめでとう。


 そのための花弁。


 …………。


 我は天井から舞い落ちる花弁を眺める。


 綺麗ではある。


 悪くはない。


 むしろ、ここまで来たことを祝われておると思えば、少し嬉しく――。


 …………。


 いや。


 待て。


 水。


 脛。


 カエル。


 罠。


 そして最後に花弁。


 …………。


 もし本当に、我の失った力がこのダンジョンに関係しておるのであれば。


 我の力よ。


 何故、こうなった?

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