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魔王と勇者 ~我、異世界転生した!~  作者: 珈琲ノミマス
第二章 ダンジョンへ行こう

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第63話 我、憤慨!

 我が魔王であることを明かしてから、数日が経った。


 あれだけ長い間隠してきた秘密をユウと千葉先生にすべて話し、我としても随分と肩の荷が下りた。


 これで少しは穏やかに過ごせる。


 そう思っておったのだ。


 そして今、我が何をしているのかというと――。


「聞いておらんぞ!」


「なんでこんなことに!」


 我とユウの声が、木造の通路に響き渡る。


 ここは富士樹海にあるハンター訓練施設。


 我らは二度目の実地訓練として、施設が管理する訓練用ダンジョンに入っておる。


 そう。


 訓練用。


 前回と同じく、実際のダンジョン探索を学ぶための場所。


 危険度も管理され、命に関わるような罠はない。


 その説明は、我もきちんと聞いた。


 聞いたのだが――。


「なんぞ、あの罠! 我はきちんと見つけておったのに、あのカエルが起動部に触れたせいで動きおったぞ!」


「しかも罠も罠だよ! 命に関わる罠はないって聞いてたけど、悪戯みたいな罠って何なの!?」


 そう!


 それよ!


 我の言いたいことを、よくぞ言ってくれたユウ!


 命に関わらなければ、何をしてもよいというわけではなかろう!


 ダンジョンマスター。


 我が失った力。


 恐らく、この世界のダンジョンにも関係しておる力。


 だが――。


 なんぞ、このダンジョン。


 意地が悪いにも程がある!


 我、憤慨!


「いやいや。お前らは頑張ってるよ……くくっ」


 千葉先生。


 笑いながら言うでない!


 しかも、肩まで震わせておるではないか!


 我とユウがどれだけ酷い目に遭ったと思っておる!


 我らは今、最深部に近いセーフスポットで小休憩中。


 我は濡れた髪をタオルで挟み、水気を取るように何度も押さえておる。


 ユウも隣で同じように髪を拭いているが、こちらは我以上に不満そう。


 うむ。


 気持ちはよく分かるぞ。


 先ほど頭から水を浴びせられたばかりだからの。


 しかも、我ら二人とも罠の存在には気づいておった。


 避けた。


 きちんと避けたのだ。


 にもかかわらず――。


 カエルめ!


 今回のダンジョンは、前回の石造りとは大きく異なる。


 壁。


 床。


 天井。


 そのほとんどが木造。


 歩くたびに板が僅かに軋み、場所によっては木と木の隙間まで見える。


 通路と部屋が続き、階段を使って下に降りていく構造そのものは階層型。


 だが、それだけではない。


 ところどころに罠や仕掛けが組み込まれた、機構型としての特徴も持っておる。


 つまり――。


 階層型と機構型を組み合わせた複合型。


 そこまではよい。


 授業でも習った。


 実際のダンジョンには、複数の型を併せ持つものも珍しくない。


 だから、こうした場所を経験しておくことにも意味はあろう。


 問題は――。


 この機構型としての部分が、ほぼ罠。


 それも、ひたすら鬱陶しい罠ばかりなのだ!


 言っておくが、我とユウは前回の反省をきちんと生かしておるぞ。


 あの大山麓のダンジョンで、我らは色々と失敗した。


 周囲を十分に確認せず進んだこと。


 互いを頼りすぎたこと。


 休憩や見張り。


 荷物や食料の管理。


 数えれば色々とある。


 だから今回は、同じ失敗をせぬようかなり慎重に進んでおる。


 通路に違和感があれば、一度止まる。


 床板の高さが僅かに違えば確認する。


 壁に不自然な切れ目があれば近づきすぎずに観察。


 発見した罠の位置や起動部には目印を付け、帰りにも分かるようマーキングしておる。


 端末の記録にも残す。


 我ら、成長。


 前回より遥かに慎重。


 それなのに。


 何故、濡れておる?


 答えは簡単。


 今回のモンスターよ。


 カエル。


 無論、ただのカエルではない。


 力士ほどもある巨大な身体を持つジャイアントガエル。


 ずんぐりとした大きな胴体に、太く発達した後ろ脚。


 それだけでも十分に目立つのだが、何より厄介なのは長い舌。


 離れた場所から一気に伸ばし、ハンターの身体に巻きつけ、そのまま口元まで引き寄せて丸呑みにしようとする。


 …………。


 我。


 絶対に食われたくない。


 だが、モンスターそのものはそこまで強くない。


 少なくとも、我やユウにとってはな。


 飛んできた舌など、シールドクローで受け止めればよい。


 実際、向かってきた舌をクローで挟み、そのまま切り落としてやった。


 別の個体には魔王を使い、頭を撃ち抜いておる。


 ユウもセイヴェリアで胴体を切り裂き、別の個体には――。


 …………。


 あれを首と呼んでよいのか?


 頭と胴体の境目らしき場所に刃を滑らせ、そのまま切り落としておった。


 うむ。


 まあ、倒せたのだから首ということにしておこう。


 今回も素材を回収するようなモンスターではない。


 そのため、素材価値を気にして攻撃場所を選ぶ必要もない。


 そこだけを考えれば、楽な相手。


 そう。


 そこだけならな!


 こ奴ら。


 ひたすら罠に引っ掛かりおる!


 我らが避けた罠にも、平然と突っ込む。


 床の起動板を踏む。


 壁から飛び出している仕掛けに身体をぶつける。


 そして――。


 罠、発動。


 しかも。


 我らまで巻き込んでの!


 先ほどもそうだった。


 我は床板の一部が僅かに沈んでいることに気づいた。


 そこを踏めば何かが起きる。


 我とユウは避けて通った。


 完璧。


 我ら、成長。


 そう思った直後。


 後ろから飛び込んできたジャイアントガエルが、見事にその板を踏んだ。


 その瞬間――。


 天井の一部が開いた。


 次に、大量の水。


 頭上から、敵味方の区別なく容赦なく降り注いできおった。


 我。


 びしょ濡れ。


 ユウ。


 びしょ濡れ。


 カエル。


 びしょ濡れ。


 そして、少し後方におった千葉先生。


 …………。


 被害なし。


 何故ぞ!?


 他にもある。


 今度は壁際に分かりやすい仕掛け。


 これは板が跳ね上がる構造だと我らも事前に見抜いた。


 威力そのものは大したことがない。


 恐らく直撃しても、怪我と呼べるほどのものにはならぬ。


 だが。


 ジャイアントガエルが引っ掛かった。


 板、跳ね上がる。


 そして何故か我の脛に直撃。


 …………。


 痛い。


 地味に痛い!


 骨が折れるほどではない。


 血も出ぬ。


 だが、痛いものは痛い!


 こういう絶妙に痛いだけの罠というのが、余計に腹立たしいのだ。


 これ以外にも、命に関わりはせぬが、ただただ人を不快にさせるような罠があちらこちらに仕込まれておる。


 敵味方の区別など一切なし。


 人間が起動させようと。


 モンスターが起動させようと。


 条件を満たせば容赦なく発動する。


 …………。


 嫌がらせか!


「ここは世にも珍しい、罠が悪戯系メインのダンジョンだ」


 千葉先生がようやく笑いを収めながら説明する。


「モンスターは弱い。罠も見つけやすい。しかも、罠そのもので命を落とすようなことはまずない。それだけなら、楽なダンジョンなんだがな」


 千葉先生が口元を僅かに緩める。


 その顔。


 嫌な予感しかしないぞ。


「ただ、このダンジョンはモンスターまで罠に引っ掛かる。それで勝手に起動させて、周囲にいるハンターまで巻き込む」


「…………」


 うむ。


 既に身をもって知っておる。


 できれば知らずに終わりたかったがな。


「勘違いするなよ。普通のダンジョンでは、モンスターが罠に引っ掛かることはない。ここがおかしいんだ」


「なら、なおさら何故ここに連れてきた!」


「そうだよ! 普通じゃないんでしょ!」


「だから連れてきたんだよ」


 …………。


 千葉先生よ。


 何故そこで当然のような顔をする。


「実入りもほとんどない。訓練用として見ても、かなり性格の悪いダンジョンだ。だから一般のハンターも好んでは入らない」


「それを聞いて、ますます我らがここにおる理由が分からなくなったぞ」


「ここは、一度は経験しておくべきダンジョンだからだ」


 …………。


 我、疑問。


「何故?」


「罠ってものが、どういうふうに設置されて、どういう条件で反応して、実際に発動すれば周囲へ何が起きるのか。それを身をもって体感できる」


「だが、普通はモンスターが罠に引っ掛からぬのであろう?」


「ああ。だからそこを覚えろって話じゃない」


 む?


「自分が罠を見つけた。避けた。だから安全。それで思考を止めるなってことだ」


 …………。


「実際のダンジョンじゃ、モンスターが踏まなくても、仲間が踏むかもしれない。戦闘中に押し込まれるかもしれない。避けたつもりで別の起動条件を満たすことだってある」


 なるほど。


「ここは、それを嫌でも覚えられる」


「…………必要か?」


「知らないよりはいい」


 …………。


 くっ。


 そう言われてしまえば、反論できまい。


 確かに。


 我らは授業で罠について学んだ。


 今回も、かなりの数を事前に見つけることができておる。


 だが、見つけたから終わりではない。


 自分が踏まなければ安全とも限らぬ。


 仲間が気づかず起動させる。


 戦闘の最中に敵から押し込まれ、自分が踏んでしまうこともある。


 避けたつもりでも、別の起動条件を満たすこともあろう。


 そして、このダンジョンに限っては、モンスター自身まで勝手に起動させる。


 …………。


 確かに。


 知らぬまま実戦で経験するより、ここで体験しておく方がよい。


 理屈では分かる。


 分かるのだが。


 それと腹が立つことは別ぞ。


「しかし、我がサーチ魔法を使えれば、この程度の仕掛けなどもっと簡単に調べられように」


 怪しい床。


 不自然な壁。


 起動部らしきもの。


 視界に捉えておる範囲にサーチをかければ、それらの内側にある構造や性質まで読み取ることができる。


 何処と何処が繋がり、何が仕込まれておるのか。


 そこまで分かれば、罠がどう動くのかもある程度は予測できるはず。


 あの水の罠とて。


 天井の内側に大量の水が溜められておると分かっていれば、あのカエルが踏む前にもっと警戒できたかもしれぬ。


 なのに――。


「それは駄目だって話し合っただろ」


 千葉先生が即座に却下する。


 …………。


 そうなのだ。


 我が元の世界で魔王だったこと。


 そのことを完全に明かした相手は、今のところユウと千葉先生のみ。


 長年隠してきた正体を二人には話した。


 だが。


 だからといって、明日から突然、


『実は我、こんな魔法も使えるぞ』


『これも使えよう』


『ついでに、これもできるの』


 などと次々に披露すればどうなる?


 中学一年の時。


 我がこの世界で使えるとして見せた魔法は、炎、回復、操作。


 この三種類。


 それ以外の魔法は、これまで意図的に伏せてきた。


 しかも、実地訓練中はヘッドギアカメラで映像も音声も記録されておる。


 そこで突然、何十種類もの魔法を自在に使い始めれば、不自然どころの話ではない。


「お前自身の成長や、ハンターとしての級が上がるのに合わせて、少しずつ使える魔法を増やしていくって決めただろ」


「分かっておる」


「昔、夢で見た魔法を新しく使えるようになったって話なら、成長していく中で少しずつ増えても不自然じゃない。だが、サーチなんて便利なものをいきなり使い始めたら、『いつ覚えたんだ』って話になるからな」


「くっ!」


 正論。


 正論なのが腹立たしい。


 我とて理解しておるのだ。


 魔法を隠しておく理由も。


 徐々に公開していく必要があることも。


 炎。


 回復。


 操作。


 まずは今まで見せてきた範囲を基本にする。


 そして、我自身が成長し、ハンターとして経験を積み、級も上がっていけば、その時々に合わせて一つずつ使える魔法を増やしていく。


 昔、夢で見た魔法を新たに身につけた。


 そう説明すれば、周囲にも不自然には見えぬだろう。


 それが一番自然。


 我も納得した。


 納得したのだ。


 …………。


 数日前まではな!


「こんなことになるのであれば、サーチ魔法も使えると最初から公言しておけばよかった!」


「今さら言っても遅い」


「分かっておる。しかし悔しい」


 我は濡れた髪を拭いていたタオルを強く握る。


 くっ。


 まさか。


 己の正体を隠すために設けた制限によって、ダンジョンの悪戯にここまで翻弄されるとは。


 魔王たる我、一生の不覚。


 いや。


 まだ15年ほどしか生きておらぬ身体で一生と言うのも妙か。


 前世を含めれば長いがの。


 …………。


 まあ、よい。


 仕方あるまい。


 今さら悔やんだところで、表立って使える魔法が増えるわけでもない。


 それに、千葉先生の言うことにも一理ある。


 便利な力に頼らず、自分の目で罠を見つけ、仕組みを考え、回避する。


 ハンターとしては、その経験も必要なのであろう。


 うむ。


 ならばやってやろうではないか。


 サーチなど使わずとも、この程度の罠。


 我とユウの力で――。


 …………。


 いや。


 待て。


 敵が勝手に踏む罠は、どうすればよいのだ?


 我。


 再び憤慨。

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